「私たちの宇宙には、目に見えない次元が存在する」
こう聞いて、あなたはどう感じますか。
カラビ・ヤウ多様体は、超弦理論において「余剰次元」の形を記述する特別な幾何学的図形です。
私たちが認識できる3次元空間に加えて、ミクロスケールで丸まった6次元空間が存在するという理論の中心的な概念です。
この記事では、カラビ・ヤウ多様体とは何か、その発見の歴史、超弦理論との関係、そして現代物理学における重要性について、中学3年生でも理解できるようにわかりやすく解説します。
カラビ・ヤウ多様体とは
カラビ・ヤウ多様体は、数学と理論物理学において極めて重要な、特殊な性質を持つ幾何学的空間です。
基本的な定義
カラビ・ヤウ多様体とは、以下の条件を満たす複素多様体(complex manifold)の一種です。
- ケーラー多様体(Kähler manifold)である
- リッチ曲率(Ricci curvature)がゼロである(リッチ平坦)
- 第一チャーン類(first Chern class)が消えている
- ホロノミー群がSU(n)という特殊な群に制限される
- コンパクト(有限の体積に収まる)である
これらの条件は専門的ですが、簡単に言えば「特別な対称性を持った、内在的な曲がりのない閉じた空間」ということです。
名前の由来
カラビ・ヤウ多様体という名前は、2人の数学者にちなんでいます。
- エウジェニオ・カラビ(Eugenio Calabi, 1923-2023):イタリア出身のアメリカの数学者
- シン=トゥン・ヤウ(Shing-Tung Yau, 丘成桐, 1949-):中国出身のアメリカの数学者
カラビが予想し、ヤウが証明した特別な幾何学的性質を持つ空間を、物理学者たちが「カラビ・ヤウ多様体」と名付けたのです。
カラビ・ヤウ多様体の発見の歴史
カラビ予想(1954年)
1954年、数学者エウジェニオ・カラビは、複素幾何学における大胆な予想を提示しました。
カラビは、特定の条件を満たす複素多様体(第一チャーン類が消える多様体)には、リッチ曲率がゼロになる特別な計量(距離の測り方)が存在するはずだと考えました。
この「カラビ予想」は、幾何学と物理学の深い関係を示唆するものでしたが、20年以上もの間、誰も証明できませんでした。
多くの数学者は、カラビの予想が正しいとは考えていませんでした。
実際、シン=トゥン・ヤウも最初はカラビの予想が間違っていることを証明しようとしたのです。
ヤウによる証明(1976年)
1976年、若き数学者シン=トゥン・ヤウは、カラビ予想に挑戦しました。
ヤウは当初、カラビが間違っていることを示そうとしていましたが、研究を進めるうちに、カラビの予想が正しいことに気づきました。
そして3年間の研究の末、1976年のクリスマスに、カラビ予想の完全な証明を完成させました。
この画期的な証明により、リッチ平坦な計量を持つ特別な複素多様体の存在が数学的に保証されました。
これらの多様体は、2人の数学者の名にちなんで「カラビ・ヤウ多様体」と呼ばれるようになりました。
フィールズ賞受賞(1982年)
ヤウによるカラビ予想の証明は、20世紀数学における最も重要な業績の一つとされています。
1982年、シン=トゥン・ヤウは、この業績により数学界最高の栄誉であるフィールズ賞を受賞しました。
フィールズ賞は「数学のノーベル賞」とも呼ばれ、40歳以下の優れた数学者に贈られる賞です。
ヤウの証明は、純粋数学における偉大な成果であると同時に、その後の物理学の発展にも大きな影響を与えることになりました。
カラビ・ヤウ多様体と超弦理論
超弦理論とは
超弦理論(superstring theory)は、物質の最小単位を「点」ではなく「ひも(弦)」と考える理論です。
従来の素粒子論では、電子やクォークなどの素粒子は、大きさのない「点」として扱われていました。
しかし、超弦理論では、これらの粒子は極めて小さな「ひも」の振動パターンとして理解されます。
超弦理論の最も驚くべき予言の一つが、「時空は10次元である」というものです。
私たちが認識できる時空は4次元(空間3次元+時間1次元)ですが、超弦理論では、さらに6次元の空間次元が必要とされるのです。
余剰次元のコンパクト化
「残りの6次元はどこにあるのか?」という疑問が生じます。
超弦理論の答えは、「6次元は極めて小さく丸まっている(コンパクト化されている)ため、観測できない」というものです。
この考え方を理解するために、例えを使って説明しましょう。
綱渡りをするピエロを遠くから見ると、綱は1次元の線に見えます。
しかし、近づいて見ると、綱には太さがあり、実際には2次元の表面を持っていることがわかります。
同様に、私たちの宇宙も、大きなスケールでは3次元に見えますが、極めて小さなスケール(約10⁻³³センチメートル)では、6次元の構造を持っているかもしれないのです。
カラビ・ヤウ多様体の役割(1985年)
1985年、物理学者のフィリップ・カンデラス(Philip Candelas)、ゲイリー・ホロウィッツ(Gary Horowitz)、アンドリュー・ストロミンジャー(Andrew Strominger)、エドワード・ウィッテン(Edward Witten)は、画期的な発見をしました。
彼らは、超弦理論の余剰6次元が、カラビ・ヤウ多様体の形をしていると考えると、理論が美しく整合することを示したのです。
この発見により、カラビ・ヤウ多様体は純粋数学の対象から、物理学における宇宙の構造を記述する重要な概念へと転換しました。
1985年の出来事は「第一次超弦理論革命」と呼ばれ、弦理論研究の大きな転換点となりました。
カラビ・ヤウ多様体の性質
リッチ平坦性
カラビ・ヤウ多様体の最も重要な性質の一つが、「リッチ平坦」であることです。
リッチ曲率とは、アインシュタインの一般相対性理論で重要な役割を果たす曲率の一種です。
アインシュタイン方程式によれば、物質やエネルギーがない真空の空間では、リッチ曲率はゼロになります。
カラビ・ヤウ多様体は、まさにこのリッチ曲率がゼロという性質を持っています。
これが、カラビ・ヤウ多様体が真空の余剰次元の形として適している理由の一つです。
超対称性の保存
カラビ・ヤウ多様体は、超対称性(supersymmetry)を保存する性質があります。
超対称性とは、物質粒子(フェルミオン)と力を媒介する粒子(ボソン)の間の対称性です。
超弦理論では、超対称性が理論の整合性にとって極めて重要です。
カラビ・ヤウ多様体で余剰次元をコンパクト化すると、4次元の有効理論でも超対称性の一部が保たれます。
これにより、素粒子の標準模型に似た理論を導出できる可能性が生まれるのです。
ホロノミー群SU(n)
カラビ・ヤウ多様体のもう一つの重要な性質が、ホロノミー群がSU(n)に制限されることです。
ホロノミーとは、曲がった空間上でベクトルを平行移動させたときに、どのように回転するかを表す概念です。
カラビ・ヤウ多様体では、このホロノミーが特殊ユニタリー群SU(n)という特別な群になります。
この性質により、カラビ・ヤウ多様体上の場の理論は特別な対称性を持つことになります。
カラビ・ヤウ多様体と素粒子の性質
素粒子の世代数
カラビ・ヤウ多様体の形状は、観測される素粒子の性質を決定します。
素粒子の標準模型では、物質を構成する基本粒子(クォークとレプトン)は3世代存在します。
興味深いことに、カラビ・ヤウ多様体が3つの「穴」(より正確には、3つの特定のトポロジカルな特徴)を持つ場合、弦理論から3世代の粒子が導かれることが示されています。
これは、カラビ・ヤウ多様体のオイラー標数と呼ばれる位相不変量と関係しています。
素粒子の質量
アンドリュー・ストロミンジャーとエドワード・ウィッテンは、素粒子の質量がカラビ・ヤウ空間内の様々な「穴」の交差のしかたに依存することを示しました。
つまり、カラビ・ヤウ多様体の幾何学的構造が、観測される粒子の質量を決める可能性があるのです。
力の種類と強さ
カラビ・ヤウ多様体の形状は、4次元の有効理論におけるゲージ対称性(力の種類)にも影響を与えます。
異なるカラビ・ヤウ多様体を選ぶと、異なる力や相互作用を持つ4次元理論が得られます。
カラビ・ヤウ多様体の分類問題
膨大な数の可能性
超弦理論の大きな課題の一つが、カラビ・ヤウ多様体の種類があまりにも多いことです。
6次元のカラビ・ヤウ多様体には、少なくとも数万種類、場合によっては数百万種類、あるいは無限種類が存在する可能性があります。
1984年の時点で、ヤウは少なくとも10,000種類の異なる6次元カラビ・ヤウ多様体を構成できることを示していました。
2002年までには、トーリック埋め込みの手法により、約4億7300万のカラビ・ヤウ3次元複素多様体が構成されています。
どの多様体が「正しい」のか
これほど多くの可能性があると、「私たちの宇宙に対応するカラビ・ヤウ多様体はどれか」という問題が生じます。
現在のところ、超弦理論は特定のカラビ・ヤウ多様体を選び出す明確な原理を提供していません。
これは、超弦理論の予言能力に関する議論の中心的な問題点の一つとなっています。
一方で、この膨大な可能性は「弦理論ランドスケープ」として知られ、それぞれ異なる物理法則を持つ多数の宇宙の可能性を示唆するものとして、マルチバース理論との関連で議論されています。
機械学習による探索
近年、機械学習を用いてカラビ・ヤウ多様体の性質を研究する試みが進んでいます。
バージニア工科大学のララ・アンダーソン(Lara Anderson)らは、カラビ・ヤウ多様体の形状を近似する機械学習アルゴリズムの開発に貢献しました。
また、オックスフォード大学のアンドレイ・コンスタンティン(Andrei Constantin)らは、カラビ・ヤウ多様体の計算を数カ月から数秒に短縮する数式を発見しています。
カラビ・ヤウ多様体の具体例
K3曲面
最も基本的なカラビ・ヤウ多様体の例が、K3曲面です。
K3曲面は、複素2次元(実次元では4次元)のカラビ・ヤウ多様体です。
K3曲面は、カラビ・ヤウ多様体の性質を理解するための重要な研究対象となっています。
K3曲面の「K3」という名前は、エルンスト・カマー(Ernst Kummer)、エーリヒ・ケーラー(Erich Kähler)、小平邦彦(Kunihiko Kodaira)の3人の数学者、そして標高8,611メートルの山K2にちなんでいます。
クインティック(quintic)
最も有名なカラビ・ヤウ3次元複素多様体(実次元6次元)の例が、「クインティック」と呼ばれるものです。
クインティックは、5次の斉次多項式で定義される4次元複素射影空間内の3次元複素部分多様体です。
数式で表すと、以下のような方程式で定義されます(専門的な内容なので、理解できなくても問題ありません)。
この多様体は、ミラー対称性の研究において中心的な役割を果たしてきました。
トーラス(複素1次元)
最も単純なカラビ・ヤウ多様体は、複素1次元(実次元2次元)のトーラス(ドーナツの表面)です。
トーラスは、平坦な計量を持ち、カラビ・ヤウ多様体の定義を満たします。
これは、カラビ・ヤウ多様体の最も基本的な例として、理解の出発点となります。
ミラー対称性
ミラー対称性とは
カラビ・ヤウ多様体の研究から生まれた最も驚くべき発見の一つが、「ミラー対称性」です。
ミラー対称性とは、すべてのカラビ・ヤウ多様体には「ミラー」となる別のカラビ・ヤウ多様体が存在し、この2つの多様体は物理学的に等価であるという性質です。
あるカラビ・ヤウ多様体上の弦理論と、そのミラー多様体上の弦理論は、同じ物理を記述します。
しかし、数学的には、2つの多様体の幾何学的性質は大きく異なる場合があります。
ミラー対称性の応用
ミラー対称性は、純粋数学にも大きな影響を与えました。
1991年、オックスフォード大学のフィリップ・カンデラス(Philip Candelas)らは、ミラー対称性を用いて、カラビ・ヤウ多様体に曲線を埋め込む方法の数を計算する公式を導きました。
この問題は、数学では「グロモフ・ウィッテン不変量」として知られ、極めて難解な計算を要するものでした。
しかし、ミラー対称性を用いることで、数学者が何年もかけて計算していた値を、物理学者は数時間で導出できたのです。
この成功により、物理学の手法が数学の未解決問題を解くという、驚くべき展開が生まれました。
カラビ・ヤウ多様体のサイズ
プランクスケール
超弦理論によれば、カラビ・ヤウ多様体の典型的なサイズは、約10⁻³³センチメートル(10⁻³¹メートル)です。
これは「プランク長」と呼ばれる、物理学で意味を持つ最小の長さのスケールです。
比較のために、様々なスケールを見てみましょう。
- 水素原子のサイズ:約10⁻⁸センチメートル
- 原子核のサイズ:約10⁻¹³センチメートル
- 陽子のサイズ:約10⁻¹³センチメートル
- 電子の古典半径:約10⁻¹⁷センチメートル
- カラビ・ヤウ多様体:約10⁻³³センチメートル
カラビ・ヤウ多様体は、原子よりも10²⁵倍(1兆の1兆倍以上)も小さいのです。
なぜ観測できないのか
このような極小のスケールでは、現在の実験技術で直接観測することは不可能です。
現在最高エネルギーの加速器である大型ハドロン衝突型加速器(LHC)でも、到達できるエネルギーは約10テラ電子ボルト(10¹³電子ボルト)です。
プランクスケールのエネルギーは約10¹⁹ギガ電子ボルト(10²⁸電子ボルト)なので、LHCの約10¹⁵倍のエネルギーが必要になります。
これは、人類の現在の技術では到底実現不可能な規模です。
カラビ・ヤウ多様体の可視化
3次元投影
6次元のカラビ・ヤウ多様体を、私たちが直接視覚化することはできません。
しかし、数学者や物理学者は、カラビ・ヤウ多様体を3次元空間に「投影」することで、その一部の構造を可視化しています。
よく見られるカラビ・ヤウ多様体の画像は、複雑に入り組んだ、ヘチマのような形をしています。
これらの画像は、6次元空間の構造を3次元に圧縮したもので、真の姿ではありませんが、その複雑さを感じ取ることができます。
コンピュータグラフィックス
現代では、コンピュータグラフィックスを用いて、カラビ・ヤウ多様体をインタラクティブに可視化することが可能です。
Three.jsなどのWebGL技術を使って、ブラウザ上でカラビ・ヤウ多様体の3次元投影を回転させながら観察できるツールも開発されています。
カラビ・ヤウ多様体と現代数学
代数幾何学との関係
カラビ・ヤウ多様体は、代数幾何学の重要な研究対象です。
代数幾何学とは、多項式方程式で定義される図形(代数多様体)を研究する数学の分野です。
多くのカラビ・ヤウ多様体は、複素射影空間内の代数多様体として実現できます。
例えば、前述のクインティックは、5次の斉次多項式の零点集合として定義される代数多様体です。
ホッジ理論
カラビ・ヤウ多様体の分類には、ホッジ理論が重要な役割を果たします。
ホッジ数(Hodge numbers)と呼ばれる数値的不変量により、カラビ・ヤウ多様体を分類できます。
カラビ・ヤウ3次元複素多様体の場合、ホッジ数h^(1,1)とh^(2,1)が重要な分類指標となります。
興味深いことに、ミラー対称性により、カラビ・ヤウ多様体とそのミラーのホッジ数は入れ替わります。
モジュライ空間
カラビ・ヤウ多様体の「変形」を記述する空間を、モジュライ空間と呼びます。
一つのカラビ・ヤウ多様体から、その形を連続的に変形させて得られる多様体の族を考えることができます。
このような変形の空間を研究することで、カラビ・ヤウ多様体の構造をより深く理解できます。
モジュライ空間には、「複素構造モジュライ」と「ケーラーモジュライ」の2種類があり、ミラー対称性によってこれらが入れ替わります。
カラビ・ヤウ多様体の応用と影響
理論物理学への影響
カラビ・ヤウ多様体は、超弦理論以外の物理理論にも応用されています。
- F理論:12次元理論の枠組みで、カラビ・ヤウ4次元複素多様体(実次元8次元)が使われる
- M理論:11次元超重力理論で、カラビ・ヤウ多様体の7次元版が研究されている
- トポロジカル弦理論:カラビ・ヤウ多様体上の弦理論の簡略化されたバージョン
純粋数学への影響
物理学からのアイデアが、純粋数学の発展にも貢献しています。
- 弦双対性の数学的研究
- 導来圏(derived category)の理論
- ドナルドソン・トーマス不変量
- グロモフ・ウィッテン理論
教育・啓蒙活動
カラビ・ヤウ多様体は、高度な数学と物理学の融合を示す象徴的な例として、科学教育にも利用されています。
日本科学未来館では、カラビ・ヤウ多様体をデザインしたTシャツが販売されるなど、一般向けの科学啓蒙活動にも用いられています。
カラビ・ヤウ多様体の未解決問題
分類の完全性
すべてのカラビ・ヤウ多様体を完全に分類することは、現在でも未解決の問題です。
特に、カラビ・ヤウ3次元複素多様体(超弦理論で最も重要なもの)が有限個なのか無限個なのかさえ、まだわかっていません。
最適なカラビ・ヤウ多様体
「私たちの宇宙を記述する正しいカラビ・ヤウ多様体はどれか」という問題も未解決です。
超弦理論は、特定のカラビ・ヤウ多様体を選び出す原理を現時点では提供していません。
これは、超弦理論の予言能力に関する重要な課題となっています。
リッチ平坦計量の具体的構成
ヤウの定理により、カラビ・ヤウ多様体上にリッチ平坦計量が存在することは証明されていますが、その計量を具体的に構成することは極めて難しい問題です。
近年、サイモン・ドナルドソン(Simon Donaldson)らにより、数値的にリッチ平坦計量を近似するアルゴリズムが開発されています。
カラビ・ヤウ多様体を理解するためのヒント
次元の考え方
高次元空間を理解するには、低次元の類推が役立ちます。
- 1次元:線(前後)
- 2次元:平面(前後・左右)
- 3次元:空間(前後・左右・上下)
- 4次元以上:直接視覚化はできないが、数学的には定義可能
カラビ・ヤウ多様体は6次元(実次元)ですが、これは「複素3次元」でもあります。
複素数を使うことで、実次元の半分の次元で記述できるのです。
コンパクト化のイメージ
余剰次元のコンパクト化を理解するには、次のイメージが役立ちます。
紙を丸めて筒にすると、遠くから見れば1次元の線に見えますが、実際には2次元の構造があります。
同様に、私たちの3次元空間も、極小スケールでは6次元の構造を持っているかもしれません。
抽象的な数学と具体的な物理
カラビ・ヤウ多様体は、抽象的な数学の対象ですが、物理学では具体的な意味を持ちます。
数学では「リッチ平坦なケーラー多様体」という抽象的な性質として定義されますが、物理学では「余剰次元の形」という具体的な解釈がなされます。
まとめ
カラビ・ヤウ多様体は、数学と物理学の境界で生まれた、極めて重要な概念です。
1954年にエウジェニオ・カラビが予想し、1976年にシン=トゥン・ヤウが証明したこの特別な幾何学的空間は、1985年以降、超弦理論における余剰次元の形として、理論物理学の中心的な研究対象となっています。
カラビ・ヤウ多様体の主な特徴は以下の通りです。
- リッチ平坦な計量を持つコンパクト・ケーラー多様体
- 超弦理論の余剰6次元の形として機能
- 素粒子の性質(質量、世代数など)を決定する可能性
- 数万~数百万の異なる形状が存在
- ミラー対称性という驚くべき双対性を持つ
- サイズは約10⁻³³センチメートル(観測不可能)
カラビ・ヤウ多様体は、現在も数学と物理学の両分野で活発に研究されており、宇宙の根本的な構造を理解する鍵となる可能性を秘めています。
私たちの目には見えない、極小の6次元空間。
その形が、観測されるすべての素粒子の性質を決めているかもしれない——。
カラビ・ヤウ多様体は、そんな壮大な可能性を秘めた、数学と物理学の美しい融合なのです。
参考情報
- Wikipedia – カラビ・ヤウ多様体 [https://ja.wikipedia.org/wiki/カラビ・ヤウ多様体]
- Wikipedia – Calabi–Yau manifold [https://en.wikipedia.org/wiki/Calabi–Yau_manifold]
- Kavli IPMU – 超弦理論:宇宙の遺伝情報
Kavli IPMU-カブリ数物連携宇宙研究機構
- Quanta Magazine – The Mathematician Who Shaped String Theory
The Mathematician Who Shaped String Theory | Quanta MagazineEugenio Calabi, who died on September 25, conceived of novel geometric objects that later became fundamental to string t...
- Oxford Mathematical Institute – C is for Calabi-Yau Manifolds
C is for Calabi-Yau Manifolds | Mathematical Institute
- Scholarpedia – Calabi-Yau manifold
Calabi-Yau manifold - Scholarpedia
- WIRED Japan – 弦理論は本当に世界を説明できるのか?
弦理論は本当に世界を説明できるのか? AIなら答えられるかもしれない機械学習を活用し、弦理論研究者たちはついに余剰次元の微視的構造が素粒子の集合へと変換される仕組みを示し始めた。ただし、まだわたしたちの宇宙に対応するものではないようだ。 - JBPress – 9次元の世界へようこそ、「超弦理論」が映像に
JBpress (ジェイビープレス) | リアルな知性で世界に勝つ経営者層やマネジメント層など、日本の未来を創るビジネスリーダーのための総合メディア。国際情勢、最新ビジネス動向、イノベーションなどに関する深く本質的な論考を毎日更新。 - Greene, B. “The Elegant Universe” (1999)
- Yau, S.-T. & Nadis, S. “The Shape of Inner Space” (2010) – 『見えざる宇宙のかたち』




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