「ゲームをもっと快適にプレイしたい」「動画編集の処理を速くしたい」「でも新しいパーツを買うお金はない…」
そんな時に選択肢の1つとなるのが「オーバークロック」です。CPUやGPUの性能を、お金をかけずに引き上げる技術として、PCの自作やカスタマイズが好きな人たちの間で人気があります。
ただし、オーバークロックにはメリットだけでなく、リスクもあります。間違った設定をすると、パソコンが壊れてしまう可能性もあるんです。
今回は、オーバークロックとは何か、どうやって設定するのか、そして安全に行うためのポイントまで、初心者の方にも分かるように詳しく解説していきます。
重要な注意
この記事はオーバークロックの技術を理解するための情報提供です。実際に行う場合は完全に自己責任となります。メーカー保証も対象外になることを理解した上で、慎重に判断してください。
オーバークロックとは?基本を理解しよう

オーバークロックの定義
オーバークロックとは、CPUやGPUなどのパーツを、メーカーが定めた標準の動作周波数よりも高い周波数で動作させることです。
たとえば、定格で3.5GHzのCPUを4.0GHzで動かすことを「オーバークロック」と言います。
クロック周波数って何?
クロック周波数は、CPUが1秒間に何回処理を実行できるかを表す数値です。
単位は「Hz(ヘルツ)」で、現代のCPUでは「GHz(ギガヘルツ)」で表されます。
分かりやすい例え
CPUを「工場の作業員」に例えると、クロック周波数は「1秒間に何個の製品を作れるか」のようなものです。
- 3.5GHz = 1秒間に35億回の処理
- 4.0GHz = 1秒間に40億回の処理
つまり、クロック周波数が高いほど、より多くの処理を短時間でこなせるわけです。
なぜ性能が上がるのか
同じ時間でより多くの処理ができるようになるため、クロック周波数を10%上げれば、理論上は処理速度も10%ほど向上します。
多くのCPUは、安全性を重視して控えめな設定で出荷されているため、オーバークロックによって本来の性能を引き出せる余地があるんです。
オーバークロックのメリット
1. 性能向上
最も大きなメリットは、パソコンの処理速度が向上することです。
特に効果が大きい作業
- 3Dゲーム
- 動画編集・エンコード
- 3Dレンダリング
- 配信(ゲーム実況など)
- マルチタスク
これらのCPU負荷が高い作業で、顕著な効果を発揮します。
2. コストパフォーマンスの向上
新しい高性能CPUを買うには数万円かかりますが、オーバークロックなら無料で性能を引き上げられます。
古いCPUを使い続けながら、もう少し性能を伸ばしたい時に有効な手段です。
3. カスタマイズの楽しさ
自分のパソコンを自分好みに調整できる点も、オーバークロックの魅力です。
- 高負荷作業時はフルパワー
- 日常作業時は省電力モード
このように、使用目的に応じた最適な設定を見つける過程も、PCカスタマイズの醍醐味と言えます。
4. 古いパーツの再活用
買い替えまでの繋ぎとして、古いCPUをオーバークロックして延命させることもできます。
オーバークロックのデメリットとリスク
メリットがある一方で、オーバークロックには重大なリスクもあります。
1. 発熱の増加
クロック周波数を上げると、CPUの発熱量が大幅に増加します。
適切な冷却ができていないと、CPUが熱で壊れたり、性能が低下したりします。
2. 消費電力の増加
高い周波数で動作させるには、より多くの電力が必要です。
電気代が上がるだけでなく、電源ユニット(PSU)の容量が足りないとシステムが不安定になります。
3. システムの不安定化
設定が適切でないと、以下のような問題が発生します。
- フリーズ(固まる)
- ブルースクリーン
- 突然の再起動
- データの破損
4. パーツの寿命が縮む
オーバークロックは、パーツに通常以上の負荷をかけるため、製品寿命を縮める可能性があります。
限界に近い設定で長期間使用すると、CPUが早く劣化してしまいます。
5. メーカー保証対象外
最も重要なポイント
オーバークロックを実施すると、メーカーの製品保証が無効になります。
故障しても修理や交換を受けられなくなるため、完全に自己責任となります。
オーバークロックに必要なハードウェア
オーバークロックを行うには、対応したハードウェアが必要です。
Intel CPUの場合
対応CPU
製品名の末尾に以下の文字が付いているモデルが、オーバークロック対応です。
- K:倍率ロック解除済み(例:Core i7-14700K)
- KF:倍率ロック解除+内蔵GPU非搭載(例:Core i5-13600KF)
- KS:特別版の高クロックモデル(例:Core i9-14900KS)
- Extreme Edition:ハイエンドモデル(例:Core i9-14900X)
通常モデル(末尾にK等がないもの)は、基本的にオーバークロック非対応です。
対応マザーボード
チップセットに「Z」が付いているモデルが必要です。
- オーバークロック可能:Z790、Z690、Z590、X299など
- オーバークロック不可:B760、B660、H610、H670など
BシリーズやHシリーズでは、オーバークロック機能が制限されています。
AMD CPUの場合
対応CPU
AMD Ryzenシリーズは、全モデルが倍率ロック解除済みです。
APU(内蔵GPU搭載モデル)も含めて、すべてオーバークロックが可能です。
対応マザーボード
- オーバークロック推奨:X670、X570、B550、B450など
- 基本的には:AMD Ryzenに対応したマザーボードならオーバークロック可能
IntelのようなZシリーズ限定という制限はありませんが、高性能なマザーボードの方が電源回路が優れていて、より安定したオーバークロックができます。
冷却システムは必須
オーバークロックを行うなら、高性能なCPUクーラーが必須です。
CPUクーラーの種類
- 空冷クーラー:ファンで冷やす。比較的安価
- 簡易水冷クーラー:水で冷やす。高い冷却性能
- 本格水冷:上級者向け。最高の冷却性能
付属のリテールクーラー(標準クーラー)では、オーバークロック時の発熱に対応できないことが多いです。
電源ユニット(PSU)
オーバークロックすると消費電力が増えるため、余裕のある容量の電源が必要です。
80 PLUS認証(Gold以上推奨)の高品質な電源を使いましょう。
オーバークロックの方法

オーバークロックには、大きく分けて3つの方法があります。
方法1:BIOS/UEFI設定で手動オーバークロック
最も本格的で、細かい調整ができる方法です。
BIOSとは
パソコンの基本的な設定を管理するプログラムで、マザーボードに搭載されています。
Windowsが起動する前に動作し、ハードウェアの設定を行います。
BIOSの起動方法
- パソコンの電源を入れる
- メーカーロゴが表示されている間に、特定のキーを連打
- ASUSマザー:「F2」または「Delete」
- MSIマザー:「Delete」
- GIGABYTE:「Delete」
- ASRock:「F2」または「Delete」
画面に「Press F2 to enter SETUP」のような表示が出ることもあります。
メリット
- 最も細かい調整が可能
- システムが安定しやすい
- 上級者向けの設定もできる
デメリット
- 初心者には難しい
- 設定変更のたびに再起動が必要
- 間違えるとPCが起動しなくなる可能性がある
方法2:Windows上でソフトウェアを使う
Windows上で動作するソフトウェアを使って、簡単にオーバークロックできます。
Intel向けツール
Intel Extreme Tuning Utility(Intel XTU)
Intel公式のオーバークロックツールです。
- グラフィカルな画面で直感的に操作できる
- システムの監視機能も搭載
- ベンチマークツールも内蔵
- Windows上で動作
最新のIntel CPU(第14世代など)では、AIが自動で最適な設定を見つけてくれる「AI Assist」機能もあります。
AMD向けツール
AMD Ryzen Master
AMD公式のオーバークロックツールです。
- Windows上で動作
- リアルタイムで設定変更可能
- 温度や電圧の監視機能あり
- プロファイルの保存が可能
マザーボードメーカー製ツール
各メーカーが独自のツールを提供しています。
- ASUS:「AI Suite 3」「Turbo V」
- MSI:「Afterburner」「Dragon Center」
- GIGABYTE:「Easy Tune 6」「GIGABYTE Control Center」
- ASRock:「OC Tuner」
メリット
- 初心者でも使いやすい
- 再起動不要で設定変更できる
- 自動オーバークロック機能がある
- リアルタイムで結果を確認できる
デメリット
- BIOS設定より細かい調整はできない
- マザーボードによっては対応していない
方法3:自動オーバークロック機能を使う
CPUやマザーボードに搭載されている、自動オーバークロック機能を利用する方法です。
Intel Turbo Boost Technology(ターボ・ブースト)
Intelの自動オーバークロック機能です。
- CPUが自動的に負荷を判断
- 必要な時だけクロックアップ
- 温度や電力を監視しながら動作
- デフォルトで有効になっている
AMD Precision Boost(プレシジョン・ブースト)
AMDの自動オーバークロック機能です。
- Intel Turbo Boostと同様の機能
- 全コアまたは一部のコアを自動でブースト
- 温度が低い時により高くブーストする
メリット
- 完全自動で安全
- 設定不要
- 状況に応じて最適化される
デメリット
- 手動ほど高い性能は出ない
- 細かい調整はできない
BIOS/UEFIでのオーバークロック手順
ここでは、BIOS/UEFIを使った手動オーバークロックの基本的な手順を説明します。
ステップ1:現在の性能を測定する
オーバークロック前に、必ず現在の性能を記録しておきましょう。
ベンチマークソフト
- Cinebench R23:CPU性能測定
- CPU-Z:CPU情報とベンチマーク
- 3DMark:ゲーム性能測定
温度監視ソフト
- HWMonitor:温度や電圧を表示
- CoreTemp:CPU温度に特化
- HWiNFO:詳細なシステム情報
ストック設定(デフォルト)でのスコアと温度を記録しておいてください。
ステップ2:BIOSに入る
パソコンを再起動して、BIOSに入ります。
メーカーロゴが表示されている間に、F2キーかDeleteキーを連打してください。
ステップ3:詳細設定モードに切り替え
多くのマザーボードでは、起動時に「イージーモード」が表示されます。
F7キーやF6キーを押して、「詳細設定モード」または「アドバンスドモード」に切り替えましょう。
ステップ4:オーバークロック設定を見つける
マザーボードによって場所は異なりますが、以下のような名前のメニューを探します。
- 「OC」「Overclocking」
- 「AI Tweaker」(ASUS)
- 「OC Settings」(MSI)
- 「M.I.T.」(GIGABYTE)
- 「OC Tweaker」(ASRock)
ステップ5:CPU倍率(マルチプライヤー)を変更する
CPUクロックの計算式
CPU周波数 = ベースクロック(BCLK) × CPU倍率
ほとんどのCPUは、ベースクロックが100MHzです。
例
- デフォルト倍率:36倍 → 100MHz × 36 = 3.6GHz
- 変更後倍率:40倍 → 100MHz × 40 = 4.0GHz
重要なポイント
倍率は1ずつ上げる
いきなり大きく上げると、システムが起動しなくなったり、CPUが壊れたりする可能性があります。
まずは1倍だけ上げて(例:36→37)、安定性を確認しましょう。
ステップ6:電圧の調整(Vcore)
クロックを上げると、より多くの電圧が必要になる場合があります。
CPU Core Voltage(Vcore)
CPUに供給する電圧のことです。
- デフォルト:自動(Auto)
- 手動設定:1.200V~1.350V程度
安全な範囲
- 初心者は1.350V以下を推奨
- 1.400Vを超えると危険度が高まる
- 1.500V前後が限界
電圧を上げすぎると、発熱が急激に増加し、CPUの寿命が大幅に縮みます。
最初は電圧を変更しない
まずは倍率だけ変更して、電圧はAutoのままで試しましょう。
不安定な場合のみ、少しずつ電圧を上げていきます。
ステップ7:設定を保存して再起動
設定を変更したら、必ず保存してください。
- F10キーを押す
- 「Save & Exit」を選択
- 変更を保存して再起動
ステップ8:安定性テストを実行
Windowsが起動したら、安定性テストを行います。
ストレステストソフト
Prime95
CPUに高負荷をかけて、安定性を確認するソフトです。
- 「Blend」モード:CPU全体をテスト
- 最低30分~1時間は実行
フリーズやエラーが出なければ、安定していると判断できます。
OCCT
総合的なストレステストソフトです。
- CPU、メモリ、電源などをテスト
- エラー検出機能が優秀
Cinebench R23
ベンチマークソフトですが、ストレステストとしても使えます。
- 10分間のマルチコアテスト
- スコアの向上も確認できる
ステップ9:温度を確認
ストレステスト中の温度を必ず確認してください。
安全な温度の目安
- アイドル時:30~40℃
- 高負荷時:70℃以下が理想
- 80℃を超えたら危険信号
- 90℃以上は即座に設定を戻す
温度が高すぎる場合は、倍率を下げるか、より高性能なクーラーに交換しましょう。
ステップ10:段階的に引き上げる
テストで問題がなければ、さらに倍率を1ずつ上げていきます。
- 倍率を+1する
- 保存して再起動
- ストレステスト実行
- 温度確認
- 問題なければステップ1に戻る
この手順を繰り返し、限界を探します。
限界に達したら1段階戻す
フリーズやエラーが出たら、それが限界です。
1つ前の安定した設定に戻して、そこを最終設定としましょう。
安全にオーバークロックするための重要ポイント

1. 少しずつ調整する
一度に大きく変更しないこと。倍率は必ず1ずつ上げましょう。
2. 温度管理を徹底する
常に温度を監視し、80℃を超えないように気をつけてください。
3. 長時間のストレステストを行う
数分動いただけでは安定性は分かりません。最低30分以上はテストしましょう。
4. バックアップを取る
オーバークロック中は、システムが不安定になることがあります。
重要なデータは必ずバックアップを取っておいてください。
5. BIOS設定のリセット方法を知っておく
設定に失敗してPCが起動しなくなった場合の対処法を事前に確認しておきましょう。
CMOSクリア
マザーボードのボタン電池を外すか、CMOSクリア用のジャンパーを使うと、BIOS設定が初期化されます。
6. 電源を切って待つ
起動しなくなった場合、電源を完全に切って数分待つと、復旧することがあります。
7. 無理をしない
限界に挑戦しすぎると、パーツを壊してしまいます。
安全マージンを持って、余裕のある設定にしておきましょう。
新しいCPUはオーバークロックの恩恵が小さい
重要な注意点として、最新世代のCPU(第13・14世代Intel、第5世代Ryzenなど)は、オーバークロックの効果が小さいことを知っておいてください。
なぜ効果が小さいのか
最近のCPUは、出荷時点ですでに性能の限界近くまで調整されています。
ターボブーストなどの自動機能で、すでに高いクロックで動作しているため、手動でオーバークロックしても1~2%程度しかスコアが上がらないことが多いです。
電力制限の解除の方が効果的
新しいCPUでは、オーバークロックよりも電力制限(PBP/MTP)の解除の方が、パフォーマンスへの影響が大きいです。
よくある質問
Q: 初心者でもオーバークロックできますか?
A: 技術的には可能ですが、リスクを理解した上で慎重に行う必要があります。まずは自動オーバークロック機能やソフトウェアツールから始めることをおすすめします。
Q: ノートパソコンでもオーバークロックできますか?
A: 一部の高性能ゲーミングノートでは可能ですが、冷却性能が限られているため、デスクトップよりもリスクが高いです。推奨しません。
Q: オーバークロックしたらどのくらい性能が上がりますか?
A: CPUや設定によりますが、10~20%程度の向上が一般的です。ただし、新しいCPUでは効果が小さい場合があります。
Q: メモリやGPUもオーバークロックできますか?
A: はい、メモリ(RAM)やグラフィックボード(GPU)もオーバークロックできます。それぞれ設定方法が異なります。
Q: オーバークロックして故障したら直せますか?
A: メーカー保証は対象外になります。修理費用は全額自己負担となるため、予備のパーツを用意するか、壊れても良いと思える範囲で行いましょう。
まとめ:オーバークロックは自己責任で慎重に
オーバークロックについて、基本から具体的な設定方法まで解説してきました。
オーバークロックの重要ポイント
- 定義
- CPUを定格以上の周波数で動作させる技術
- クロック周波数を上げて処理速度を向上させる
- メリット
- 無料で性能向上
- コストパフォーマンス良好
- カスタマイズの楽しさ
- デメリット・リスク
- 発熱増加
- 消費電力増加
- システム不安定化の可能性
- パーツ寿命が縮む
- メーカー保証対象外
- 必要なハードウェア
- Intel:K/KF/KS付きCPU+Zシリーズマザー
- AMD:全Ryzenで可能(マザーはX/Bシリーズ推奨)
- 高性能CPUクーラー必須
- 3つの方法
- BIOS/UEFIで手動設定(上級者向け)
- ソフトウェアツール(初心者向け)
- 自動オーバークロック機能(最も安全)
- 安全なオーバークロックの鉄則
- 少しずつ調整(倍率は1ずつ)
- 温度管理を徹底(80℃以下)
- 長時間のストレステスト
- バックアップを取る
- 無理をしない
初心者へのアドバイス
オーバークロックは、正しく行えば非常に魅力的な技術です。しかし、リスクも伴います。
まずは以下の順序で進めることをおすすめします。
- この記事をしっかり読んで理解する
- 自動オーバークロック機能から試す
- Intel XTUやRyzen Masterなどのソフトウェアツールを使う
- 慣れてきたらBIOSでの手動設定に挑戦
最も重要なのは、自分のスキルとリスクを正しく理解することです。不安がある場合は、無理にオーバークロックせず、標準設定で使う方が安全です。
パーツを壊してしまっても、すべて自己責任となることを忘れずに、慎重に判断してください。
オーバークロックを楽しむなら、安全第一で!


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