囲碁の世界には「名人」「棋聖」といったタイトルがあることは知っていても、全部でいくつあるのか、どれが一番すごいのか、よくわからない……という人も多いのではないでしょうか。
実は囲碁のタイトルは序列が決まっていて、賞金額によってランク付けされているんです。
しかも2024年に大きな変動があり、長年「三大タイトル」と呼ばれていた本因坊戦の序列が下がるという衝撃的な出来事がありました。
この記事では、囲碁の七大タイトルを中心に、女流タイトルや一般棋戦まで、日本の主要な囲碁タイトルを一覧で紹介します。
囲碁のタイトルとは?

囲碁のタイトル戦とは、年間を通じてトーナメントやリーグ戦を勝ち抜いた挑戦者が、現タイトル保持者と番勝負を行い、勝者がタイトルを獲得する仕組みの棋戦のことです。
タイトルを獲得した棋士は「〇〇九段」ではなく「〇〇棋聖」「〇〇名人」のように、タイトル名を名乗ることができます。
複数のタイトルを持っている場合は「二冠」「三冠」と呼ばれ、2016年には井山裕太が史上初の「七冠」を達成して大きな話題になりました。
現在、日本の囲碁界で最も格式が高いとされるのが「七大タイトル」です。
その序列は賞金額によって決まっています。
七大タイトル一覧
七大タイトルは、囲碁界で最も権威のある7つの棋戦です。
2024年に本因坊戦の賞金額が大幅に減額されたことで、長年続いた「三大タイトル」という概念がなくなり、序列に大きな変動がありました。
現在の序列は以下のとおりです。
1位:棋聖戦(きせいせん)
囲碁界の最高峰に位置するタイトルです。
「棋聖」とはもともと「卓越した技術を持つ棋士」を指す言葉で、歴史上では本因坊道策、本因坊丈和、そして「昭和の棋聖」と呼ばれた呉清源などがその称号で知られています。
タイトル戦としての棋聖戦は1977年に創設され、読売新聞社が主催しています。
挑戦者はSリーグを含む複数段階のリーグ戦で決定され、挑戦手合は2日制の七番勝負。
賞金額は4300万円と、七大タイトルの中で最高額です。
5連覇または通算10期獲得で「名誉棋聖」の称号が与えられます。
現在までに藤沢秀行、小林光一、井山裕太の3人が名誉棋聖の資格を獲得しています。
2位:名人戦(めいじんせん)
「名人」という言葉の発祥は、実は囲碁なんです。
織田信長が本因坊算砂の打ち筋を見て「そちはまことの名人なり」と言ったことが由来とされています。
今では料理の名人、落語の名人など様々な分野で使われていますが、元をたどれば囲碁から生まれた言葉なんですね。
名人戦は1962年に創設され、現在は朝日新聞社が主催。
9人によるリーグ戦で挑戦者を決め、2日制七番勝負で争われます。
賞金額は3000万円です。
名誉称号の条件は棋聖戦と同じく5連覇または通算10期。
趙治勲と小林光一が名誉名人の資格を持っています。
3位:王座戦(おうざせん)
1953年に創設された、七大タイトルの中で2番目に古い歴史を持つ棋戦です。
日本経済新聞社が主催しています。
本因坊戦の序列が下がったことで、2024年から3位に浮上しました。
挑戦者はトーナメント戦で決定され、1日制の五番勝負で争われます。
賞金額は1400万円です。
4位:天元戦(てんげんせん)
「天元」とは碁盤の中央の点のことで、宇宙の中心を意味する言葉です。
1975年に創設され、新聞三社連合(北海道新聞・中日新聞・西日本新聞など)が主催しています。
挑戦者はトーナメント戦で決定され、1日制の五番勝負。
賞金額は1300万円です。
林海峰が名誉天元の称号を持っています。
5位:本因坊戦(ほんいんぼうせん)
1941年創設と、七大タイトルの中で最も古い歴史を誇る棋戦です。
「本因坊」は江戸時代の囲碁の名門家系の名前。
織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の三英傑に仕えた本因坊算砂から始まり、21代にわたって受け継がれてきました。
1938年に最後の本因坊・秀哉が名跡を日本棋院に譲渡し、タイトル戦として生まれ変わったのです。
かつては棋聖・名人と並ぶ「三大タイトル」の一角でしたが、2024年にスポンサーの毎日新聞社の資金難からリーグ戦を廃止。
賞金額も850万円に減額され、序列は5位に下がりました。
ファンからは惜しむ声も多く聞かれます。
名誉本因坊の資格者は趙治勲、井山裕太など。
タイトル獲得者は「本因坊〇〇」という雅号を名乗る伝統があり、井山裕太は「本因坊文裕」を称しています。
6位:碁聖戦(ごせいせん)
1976年に創設された棋戦で、新聞囲碁連盟が主催しています。
「碁聖」とは「囲碁の聖人」を意味し、歴史上では本因坊道策と本因坊秀策がその称号で呼ばれてきました。
賞金額は800万円で、トーナメント方式で挑戦者を決定し、1日制の五番勝負で争われます。
大竹英雄、井山裕太が名誉碁聖の資格を持っています。
7位:十段戦(じゅうだんせん)
1962年に創設され、産経新聞社が主催しています。
「十段」という名称は、通常の最高位である九段のさらに上という意味。
序列こそ7位ですが、60期以上続く伝統ある棋戦です。
賞金額は700万円で、トーナメント方式、1日制の五番勝負となっています。
加藤正夫が名誉十段の称号を持っています。
七大タイトル一覧表
| 序列 | タイトル | 賞金額 | 主催 | 創設年 | 番勝負 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 棋聖 | 4300万円 | 読売新聞社 | 1977年 | 七番勝負(2日制) |
| 2 | 名人 | 3000万円 | 朝日新聞社 | 1962年 | 七番勝負(2日制) |
| 3 | 王座 | 1400万円 | 日本経済新聞社 | 1953年 | 五番勝負 |
| 4 | 天元 | 1300万円 | 新聞三社連合 | 1975年 | 五番勝負 |
| 5 | 本因坊 | 850万円 | 毎日新聞社 | 1941年 | 五番勝負 |
| 6 | 碁聖 | 800万円 | 新聞囲碁連盟 | 1976年 | 五番勝負 |
| 7 | 十段 | 700万円 | 産経新聞社 | 1962年 | 五番勝負 |
名誉称号について
七大タイトルでは、一定の条件を満たした棋士に「名誉〇〇」という称号が与えられます。
基本的な条件は「同一タイトル5連覇」または「通算10期獲得」で、60歳に達したとき、または引退時に名乗ることができます。
ただし、9連覇以上を達成した場合は現役のまま名乗ることが可能です。
井山裕太は棋聖9連覇、本因坊11連覇などを達成し、名誉棋聖・名誉王座・名誉天元・名誉碁聖の4つの資格を持っています。
一般棋戦(主要なもの)
七大タイトル以外にも、注目度の高い棋戦があります。
これらは「一般棋戦」と呼ばれ、優勝者には「〇〇杯優勝者」という肩書きが与えられます。
NHK杯テレビ囲碁トーナメント
1954年創設の、最も知名度の高い一般棋戦です。
毎週日曜日にNHK Eテレで放送されており、囲碁を知るきっかけになった人も多いのではないでしょうか。
持ち時間は1手30秒の秒読みと短く、スピーディーな展開が魅力。
通算10回優勝で「名誉NHK杯」の称号が贈られますが、達成者は坂田栄男ただ一人です。
阿含・桐山杯全日本早碁オープン戦
1994年創設の早碁棋戦で、阿含宗が主催しています。
日本の優勝者は中国の優勝者と日中決戦を行うのが特徴です。
竜星戦
1991年創設、囲碁・将棋チャンネル主催のテレビ棋戦です。
全棋士に参加資格があり、若手からベテランまで幅広い棋士が出場します。
新人王戦
1976年創設、しんぶん赤旗主催の若手棋戦です。
25歳以下・六段以下の棋士が出場でき、若手の登竜門として知られています。
過去の新人王戦優勝者には、後に七大タイトルを獲得した棋士が多数います。
主要一般棋戦一覧表
| 棋戦名 | 主催 | 創設年 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| NHK杯 | NHK | 1954年 | テレビ放送、早碁 |
| 阿含・桐山杯 | 阿含宗 | 1994年 | 日中決戦あり |
| 竜星戦 | 囲碁・将棋チャンネル | 1991年 | 全棋士参加可能 |
| 新人王戦 | しんぶん赤旗 | 1976年 | 25歳以下限定 |
| 若鯉戦 | 広島アルミ | 2010年 | 30歳以下限定 |
| 俊英戦 | テイケイグループ | 2022年 | 若手トップ棋戦 |
| 中庸戦 | SGW | 2021年 | 31〜60歳限定 |
| レジェンド戦 | テイケイグループ | 2021年 | 60歳以上限定 |
女流タイトル一覧
囲碁界では男女の区別なく同じ棋戦に出場できますが、女流棋士のみが参加できる棋戦も5つあります。
女流名人戦
1988年創設の女流タイトル戦で、賞金額は510万円。
5連覇で「名誉女流名人」の称号が与えられます。
藤沢里菜が6期獲得し、名誉称号の資格を得ています。
扇興杯女流囲碁最強戦
2015年創設の比較的新しい棋戦ですが、女流棋戦の中では最高額となる700万円の賞金が設定されています。
女流立葵杯
2016年創設。
挑戦手合形式で、勝者には「女流立葵」の称号が与えられます。
女流本因坊戦
1982年創設。
七大タイトルの本因坊戦とは別の棋戦ですが、その名を冠した伝統ある女流タイトルです。
藤沢里菜が9期獲得し、名誉女流本因坊の資格を持っています。
女流棋聖戦
1998年創設。
2024年に仲邑菫が史上最年少でタイトルを獲得したことで話題になりました。
女流タイトル一覧表
| タイトル | 創設年 | 賞金額 | 番勝負 |
|---|---|---|---|
| 女流名人 | 1988年 | 510万円 | 三番勝負 |
| 扇興杯 | 2015年 | 700万円 | 決勝一番勝負 |
| 女流立葵杯 | 2016年 | 500万円 | 三番勝負 |
| 女流本因坊 | 1982年 | 550万円 | 五番勝負 |
| 女流棋聖 | 1998年 | 500万円 | 三番勝負 |
七冠達成者と現在のタイトルホルダー
七大タイトルを同時に独占する「七冠」を達成したのは、囲碁史上ただ一人、井山裕太だけです。
2016年に26歳で初めて達成し、2017年にも再び七冠となりました。
この偉業により、2018年に国民栄誉賞を受賞しています。
また、七大タイトルすべてを一度でも獲得する「グランドスラム」は、井山裕太、趙治勲、張栩の3人が達成しています。
2025年1月現在のタイトル保持者は以下のとおりです。
| タイトル | 保持者 |
|---|---|
| 棋聖 | 一力遼 |
| 名人 | 一力遼 |
| 王座 | 一力遼 |
| 天元 | 一力遼 |
| 本因坊 | 一力遼 |
| 碁聖 | 井山裕太 |
| 十段 | 芝野虎丸 |
一力遼は五冠を保持しており、これは張栩、井山裕太に次いで史上3人目の快挙です。
まとめ
囲碁のタイトルについて、ポイントを整理しておきましょう。
- 七大タイトルの序列は賞金額で決まり、1位は棋聖(4300万円)
- 2024年に本因坊戦が序列5位に降格し、「三大タイトル」は事実上消滅
- 現在は棋聖・名人が「二大タイトル」とされる
- 5連覇または通算10期で「名誉称号」の資格を得られる
- 七大タイトル以外にもNHK杯などの一般棋戦がある
- 女流タイトルは5つあり、藤沢里菜が複数の名誉称号資格を持つ
囲碁のタイトル戦は、プロ棋士たちが最高の舞台で技を競い合う場所です。
それぞれのタイトルには長い歴史と物語があり、知れば知るほど観戦が楽しくなりますよ。


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