もし「あなたは父を殺し、母と結婚する運命だ」と予言されたら、どう思いますか?
古代ギリシャの王子オイディプスは、まさにこの恐ろしい予言を受け、それを避けようと必死に生きました。でも結局、運命からは逃れられなかったんです。
オイディプスの物語は、約2500年前から語り継がれ、今でも「エディプスコンプレックス」という心理学用語として残っているほど、人々の心に深く刻まれています。
この記事では、ギリシャ神話最大の悲劇といわれる英雄オイディプスについて、その波乱万丈な人生と深い教訓を分かりやすくご紹介します。
概要
オイディプスは、古代ギリシャ神話に登場するテーバイ(テーベ)王国の王子です。
父はテーバイ王ライオス(ラーイオス)、母は王妃イオカステー(ヨカスタ)。生まれる前から「父を殺し、母と結婚する」という恐ろしい神託(神のお告げ)を受けていた、運命に翻弄された悲劇の人物なんです。
オイディプスの物語が特別なのは、どんなに運命から逃れようとしても、結局はその通りになってしまうという点。つまり、人間の力では運命を変えられないという、古代ギリシャ人の考え方が詰まった物語なんですね。
紀元前5世紀の劇作家ソポクレスが書いた『オイディプス王』という悲劇作品で特に有名になり、西洋文学の最高傑作の一つとして、今も世界中で上演されています。
姿・見た目
オイディプスは、普通の人間の姿をしています。妖怪や怪物ではありません。
ただし、彼には身体的な特徴がありました。
オイディプスの名前の由来
- 「オイディプス」=「腫れた足」という意味
- 赤ん坊の時に足首をピンで刺されて山に捨てられた
- そのため足が腫れ上がっていた
外見の特徴
古代の絵画や彫刻では、オイディプスはこんな姿で描かれます。
- たくましい体格の青年または中年男性
- ギリシャの王族らしい立派な衣装
- 王になった後は王冠をかぶった姿
- 最後は目をえぐって盲目になり、杖をついた老人の姿
つまり、見た目は立派な王様だったんですが、名前が示すように、生まれた時から運命の傷跡を足に持っていたわけです。
特徴
オイディプスには、英雄としての素晴らしい能力と、悲劇的な運命の両方がありました。
オイディプスの能力・性格
優れた知恵
- スフィンクスの謎を解いた唯一の人物
- 論理的思考と推理力に優れている
- 真実を追求する探究心が強い
勇敢な性格
- 怪物スフィンクスに立ち向かう勇気
- 国民のために疫病の原因を突き止めようとする責任感
- 真実から逃げない強い意志
激しい気性
- プライドが高く、侮辱を許さない
- 怒りやすく、衝動的な面もある
- この性格が父殺しにつながってしまう
悲劇的な宿命
オイディプスの最大の特徴は、どんなに努力しても運命から逃れられないという点です。
予言を避けようと故郷を離れたのに、結果的に予言通りになってしまう。これを「オイディプス的運命」と呼ぶこともあるんです。知らないうちに、避けようとした運命に向かって進んでしまうという、なんとも皮肉な状況ですね。
伝承
オイディプスの物語は、まさに波乱万丈。順番に見ていきましょう。
恐ろしい神託と誕生
テーバイ王ライオスは、デルポイの神託所で恐ろしい予言を受けました。
「もし息子が生まれたら、その子に殺されるだろう」
でも、酔った勢いで妻イオカステーと関係を持ち、男の子が生まれてしまいます。神託を恐れた王は、赤ん坊の足首をピンで貫いて、キタイローン山に捨てさせたんです。
育ての親との出会い
ところが、羊飼いが赤ん坊を見つけて、隣国コリントスの王ポリュボスに渡しました。子供のいなかった王夫妻は、この子を「オイディプス(腫れた足)」と名付けて、大切に育てたんです。
運命からの逃走
成長したオイディプスは、ある日「お前は拾い子だ」とからかわれます。不安になった彼は、デルポイの神託所へ。そこで聞いた予言は衝撃的でした。
「お前は父を殺し、母と結婚するだろう」
育ての親を実の親と信じていたオイディプスは、コリントスには二度と戻らないと決心し、旅に出ます。
三叉路での悲劇
旅の途中、狭い三叉路で、馬車に乗った老人と出会いました。「道を譲れ!」と命令する横暴な老人と口論になり、カッとなったオイディプスは老人を殴り殺してしまいます。
この老人こそ、実の父ライオスだったんです。でも、お互いに親子だとは知りませんでした。
スフィンクスとの対決
テーバイに着いたオイディプスは、街を苦しめている怪物スフィンクスの話を聞きます。
スフィンクスの謎
「朝は四つ足、昼は二本足、夜は三つ足で歩くものは何か?」
多くの人が答えられずに食べられていましたが、オイディプスは見事に答えました。
「答えは人間だ。赤ん坊は四つん這い、大人は二本足、老人は杖をついて三本足で歩く」
謎を解かれたスフィンクスは崖から身を投げて死にました。
母との結婚
スフィンクスを倒したオイディプスは、約束通りテーバイの王となり、前王の妻イオカステーと結婚します。まさか実の母だとは知らずに。二人の間には、2人の息子と2人の娘が生まれました。
真実の発覚
その後、テーバイに疫病と飢饉が襲います。神託によると「ライオス王殺しの犯人を追放せよ」とのこと。
オイディプスは犯人探しを始めますが、調査を進めるうちに恐ろしい真実が明らかに。三叉路で殺した老人がライオス王で、自分こそが犯人だったんです。
さらに、コリントスから来た使者の話で、自分が拾われた子供だったことも判明。すべての真実を知ったイオカステーは首を吊って自殺し、オイディプスは母の服のピンで自分の両目をえぐり、盲目となってテーバイを去りました。
放浪と最期
娘のアンティゴネーに手を引かれ、諸国を放浪したオイディプス。最後はアテナイ近くのコローノスという場所で、テーセウス王に守られながら、神秘的な死を迎えたといわれています。
起源
オイディプス伝説の起源は、とても古いんです。
古代ギリシャの口承伝統
オイディプスの物語は、紀元前8世紀頃のホメロスの叙事詩にも断片的に登場します。つまり、少なくとも2800年前から語り継がれている物語なんですね。
ソポクレスによる完成
紀元前5世紀、アテナイの劇作家ソポクレスが、この伝説を基に三つの悲劇を書きました。
テーバイ三部作
- 『オイディプス王』- 真実が明らかになる物語
- 『コローノスのオイディプス』- 放浪と最期
- 『アンティゴネー』- 娘の悲劇
特に『オイディプス王』は、アリストテレスが「悲劇の理想的な作品」と絶賛したほどの傑作です。
心理学への影響
20世紀になって、精神分析学の創始者フロイトが、男の子が母親に愛情を向け、父親に敵対心を持つ心理を「エディプスコンプレックス」と名付けました。
これにより、オイディプスの名前は心理学用語として、現代にも生き続けているんです。
まとめ
オイディプスは、ギリシャ神話最大の悲劇的英雄です。
重要なポイント
- テーバイの王子として生まれるが、予言を恐れた父に捨てられる
- 「腫れた足」という名前の由来を持つ
- スフィンクスの謎を解いた知恵と勇気の持ち主
- 運命から逃れようとして、かえって運命通りになってしまう
- 父殺しと母との結婚という究極のタブーを犯す
- 真実を知って自ら目をえぐり、放浪の旅に出る
- ソポクレスの悲劇で完成された物語
- エディプスコンプレックスという心理学用語の由来
オイディプスの物語は、「人間はどんなに努力しても、運命には逆らえない」という古代ギリシャの世界観を表しています。
でも同時に、真実を追求し続けたオイディプスの姿は、たとえ苦しい結果になっても真実と向き合う勇気の大切さも教えてくれます。
2500年以上たった今でも、この物語が世界中で読まれ、上演されているのは、きっと私たちの心の奥底にある「運命」や「真実」への問いかけに、今も答え続けているからかもしれませんね。
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