アニメやゲームで「ホーラー」「ホーライ」という名前を聞いたことはありませんか?
これらはギリシャ神話に登場する、季節と時間を司る女神たちの名前です。
実は私たちが毎日使っている「Hour(時間)」という英語の語源が、この女神たちの名前なんです。
「季節の女神って何をする神様なの?」「どんな神話があるの?」という疑問を持つ方も多いでしょう。
この記事では、ギリシャ神話のホーラー(ホーライ)について、その起源や役割、複数存在する女神たちの違いまで、わかりやすく解説します。
ホーラー(ホーライ)とは?

基本情報
ホーラーは、ギリシャ神話に登場する季節と時間、秩序を司る女神たちです。
「ホーラー(Hora)」は単数形で、複数形では「ホーライ(Horai)」と呼ばれます。
どちらも古代ギリシャ語で「時間」や「季節」を意味する言葉から来ています。
主な特徴
- 主神ゼウスと法の女神テミスの娘
- 運命の三女神モイライの姉妹
- オリンポス山の門の番人
- 季節の移り変わりと自然の秩序を司る
名前の由来と語源
「ホーラ」という言葉は、古代ギリシャ語で「正しい時」「適切な瞬間」を意味しました。
この言葉が変化して、現代英語の「Hour(時間)」の語源となっています。
つまり、私たちが日常的に使う「時間」という概念は、この女神たちの名前に由来しているんです。
古代ギリシャの学者カール・ケレーニイは、ホーラについて「自然と生命の周期性という確固たる法則に従って来ては去る存在」と述べています。
ホーラーの誕生と家族関係
両親について
ホーラーは、最高神ゼウスと、法と正義を司るティタン神族の女神テミスの間に生まれました。
テミスは秩序と正義を体現する女神であり、その娘たちであるホーラーも同様の性質を受け継いでいます。
姉妹との関係
ホーラーの姉妹には、有名な運命の三女神モイライ(クロートー、ラケシス、アトロポス)がいます。
モイライが人間の運命の糸を紡ぎ、測り、断ち切るのに対し、ホーラーは季節の巡りと時間の秩序を守る役割を担っています。
両者とも「時の流れ」に関わる女神であり、密接な関係にあると考えられていました。
ホーラーの主な役割と能力
1. 季節の管理
ホーラーの最も重要な役割は、季節の正しい移り変わりを司ることです。
雨を降らせて花を開花させ、果実を実らせる力を持っていました。
古代ギリシャ人にとって、季節の巡りは農業に直結する重要な問題でした。
そのため、ホーラーは農民たちから特に熱心に崇拝されていたのです。
2. オリンポスの門番
ホメロスの『イリアス』では、ホーラーは天界と地上を結ぶ雲の門の番人として描かれています。
神々がオリンポス山から戦車に乗って外出する際には、ホーラーたちが天界の門の雲を掻き分けて開けていました。
女神ヘラが戦車で出かける際には、馬を準備したり、帰還時に馬車から馬を外したりする場面も描かれています。
3. 神々への奉仕
ホーラーは様々な神々に仕える存在でもありました。
主な奉仕の例
- アフロディーテがキプロス島に上陸した際、美しく着飾らせてオリンポスへ案内した
- パンドラが地上に送られる時、花飾りのついた冠で頭を縁どった
- 幼いヘルメスやディオニュソスの養育を担当した
- 女王ヘラの養育も行った
神々の宴会では、美の女神カリスたちとともに踊ることもあったそうです。
ホーラーの種類:複数の説

ホーラーの人数や名前は、時代や地域、文献によって異なります。
ここでは代表的な3つのグループを紹介します。
第1の三女神:秩序を司るホーラー
ヘシオドスの『神統記』による分類
| 女神名 | ギリシャ語 | 司る分野 |
|---|---|---|
| エウノミア | Εὐνομία | 秩序・法・良き統治 |
| ディケ | Δίκη | 正義・公正 |
| エイレネ | Εἰρήνη | 平和・富 |
この三女神は、人間社会の秩序を司る存在として崇拝されました。
母であるテミスの性質を強く受け継いでおり、法と正義を重んじる古代ギリシャ社会の価値観を反映しています。
エウノミアは「良き秩序」を意味し、国家の内的安定や法律の遵守を象徴します。
ディケは「正義」の擬人化であり、不正を行う者を罰する存在です。
一説によると、ゼウスは彼女を地上に置いて人類を正しく導こうとしましたが、うまくいかなかったため、乙女座としてオリンポスに上げたとも言われています。
エイレネは「平和」の女神で、豊穣の角(コルヌコピア)を持つ姿で表現されることが多いです。
ローマ神話では「パクス」と呼ばれ、「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」の語源にもなっています。
第2の三女神:自然を司るホーラー
アッティカ地方(アテネ周辺)での分類
| 女神名 | ギリシャ語 | 司る分野 | 季節 |
|---|---|---|---|
| タロー | Θαλλώ | 芽生え・開花 | 春 |
| アウクソー | Αὐξώ | 成長・肥大 | 夏 |
| カルポー | Καρπώ | 結実・収穫 | 秋 |
この三女神は、植物の成長サイクルを象徴しています。
古代ギリシャでは、一年を春・夏・秋の三季節で考えていたため、冬を司る女神はいませんでした(冬は農閑期として別扱いだったのです)。
タローは「芽生え」を意味し、春の新緑と若者の守護を担当しました。
アウクソーは「成長」を意味し、夏の間に植物が大きく育つ力を司りました。
カルポーは「果実」を意味し、秋の収穫と実りをもたらしました。
また、カルポーはオリンポスへの道を雲で覆い隠し、神々だけが通れるようにする役割も持っていたとされています。
第3のグループ:四季を司るホーラー
ヘレニズム時代以降の分類
時代が下ると、ギリシャ人も四季を認識するようになりました。
詩人ノンノスの『ディオニュソス譚』では、太陽神ヘリオスと月の女神セレネの娘として四季のホーラーが登場します。
| 女神名 | 司る季節 |
|---|---|
| エイアル | 春 |
| テロス | 夏 |
| プティノポロン | 秋 |
| ケイモン | 冬 |
美術作品では、それぞれの季節を象徴する持ち物とともに描かれました。
春のエイアルは花の冠をかぶり、芽吹く木のそばに立つ姿で表現されています。
秋のプティノポロンは、ブドウや果物のかごを持つ姿で描かれました。
第4のグループ:時刻を司る12人のホーラー
さらに発展すると、ホーラーは1日の時刻を司る12人の女神としても認識されるようになりました。
| 女神名 | 司る時刻 |
|---|---|
| アウゲー | 最初の光 |
| アナトレー | 日の出 |
| ムーシカ | 朝の音楽の時間 |
| ギュムナシア | 運動の時間 |
| ニュムペー | 沐浴の時間 |
| メセムブリア | 正午 |
| スポンデー | 供物を捧げる時間 |
| エレテー | 祈りの時間 |
| アクテー | 食事の時間 |
| ヘスペリス | 夕暮れ |
| デュシス | 日没 |
| アルクトス | 夜の訪れ |
古代ギリシャでは、昼間の時間を12等分していました。
そのため、夏は「1時間」が長く、冬は短くなるという考え方でした。
この12人のホーラーは太陽神ヘリオスの馬車を準備し、太陽が世界を照らす旅を助けていたとされています。
ホーラーが登場する神話エピソード

アフロディーテの誕生
愛と美の女神アフロディーテが海の泡から生まれ、キプロス島に上陸した時、最初に出迎えたのがホーラーたちでした。
彼女たちはアフロディーテを美しく着飾らせ、不死の衣装を纏わせて、オリンポスの神々のもとへ案内しました。
この場面は、ボッティチェリの名画『ヴィーナスの誕生』でも描かれています。
パンドラの物語
ゼウスが人間を罰するためにパンドラを地上へ送る際、ホーラーたちは彼女の頭を花飾りの冠で美しく縁どりました。
パンドラが持つ「禍々しい贈り物」を隠すかのような、美しい装飾を担当したのです。
ヘラの戦争への出発
『イリアス』では、女神ヘラがトロイア戦争に介入するため戦車で出かける場面があります。
ホーラーたちは天界の門を開き、ヘラの帰還時には馬車から馬を外すなど、女王の侍女として仕えました。
ディオニュソスの養育
酒神ディオニュソスがゼウスの太股から生まれた時、彼を引き受けて養育したのはホーラーたちでした。
幼神の世話を任されるほど、彼女たちは信頼された存在だったのです。
ホーラーの崇拝と祭礼
主な崇拝地
ホーラーは古代ギリシャ各地で崇拝されていました。
主要な崇拝地
- アテネ:タローとカルポーの神殿があり、ディオニュソス・オルトスの祭壇も併設されていた
- アルゴス:二柱のホーラー(アウクセシアとダミア)が崇拝された
- コリントス:ホーラーの聖域が存在した
- オリンピア:ホーラーに捧げられた祭壇があった
ホーラエア祭
アテネでは、ホーラーに捧げる年に一度の祭り「ホーラエア」が行われていました。
この祭りでは、季節の恵みに感謝し、豊作を祈願したと考えられています。
農業が生活の基盤だった古代ギリシャにおいて、季節の女神への崇拝は非常に重要な意味を持っていました。
ホーラーの美術表現
古代の表現
美術作品において、ホーラーは花や植物を手にした優美な乙女の姿で描かれました。
三人組で描かれることが多く、それぞれが季節を象徴する持ち物を持っています。
最古の美術表現の一つは、フランソワの壺(紀元前570年頃)で、ペレウスとテティスの結婚式に参列するホーラーの姿が描かれています。
後世の表現
ヘレニズム時代やローマ時代になると、四季を表すホーラーとして、それぞれ特徴的な姿で描かれるようになりました。
| 季節 | 持ち物・特徴 |
|---|---|
| 春 | 花の冠、緑の衣、芽吹く木 |
| 夏 | 麦の穂、黄金の衣、鎌 |
| 秋 | ブドウ、紫の衣、果物のかご |
| 冬 | 厚い外套、枯れ木、暖炉 |
しばしば太陽神アポロンを取り囲む形で四季のホーラーが配置され、時間の循環を象徴する構図が好まれました。
他の女神たちとの関係
カリス(美の三女神)との関係
ホーラーは、カリス(優雅の三女神) と密接な関係にありました。
両者とも三人組の女神であり、神々の宴会では一緒に踊る姿が描かれています。
カリスが「美」を、ホーラーが「時」を司り、両者が揃うことで「美しい時」が生まれると考えられていました。
モイライ(運命の三女神)との関係
ホーラーとモイライは姉妹関係にあります。
どちらも「時の流れ」に関わる女神であり、以下のような役割分担がありました。
- モイライ:個人の寿命と運命を管理
- ホーラー:季節や社会の秩序を管理
両者の存在は、古代ギリシャ人が「時間」を多面的に理解していたことを示しています。
ローマ神話での対応
ホーラーはローマ神話にも取り入れられ、以下のような名前で呼ばれました。
| ギリシャ名 | ローマ名 | 意味 |
|---|---|---|
| エイレネ | パクス | 平和 |
| ディケ | ユースティティア | 正義 |
| エウノミア | ディスキプリナ | 規律 |
特に「パクス」は、ローマ帝国の繁栄期を表す「パクス・ロマーナ」という言葉に使われ、現代でも「平和」を意味する言葉として残っています。
現代文化への影響
言語への影響
ホーラーの最も大きな遺産は、「Hour(時間)」 という言葉です。
古代ギリシャ語の「ホーラ」がラテン語を経て、英語やフランス語の「時間」を表す言葉になりました。
私たちが毎日使う「時間」という概念の背後には、この女神たちの存在があるのです。
ゲーム・アニメでの登場
現代のエンターテイメント作品でも、ホーラーは様々な形で登場しています。
- ペルソナシリーズ:ペルソナとして登場
- Fate/Grand Order:神霊系のサーヴァントの背景設定に登場
- Hades:ギリシャ神話を題材としたゲームで言及
季節や時間を司る女神という設定は、ゲームの世界観構築に使いやすい要素となっています。
ホーラー一覧表
第1の三女神(秩序系)
| 名前 | 読み方 | 司る分野 | ローマ名 |
|---|---|---|---|
| Εὐνομία | エウノミア | 秩序・法 | ディスキプリナ |
| Δίκη | ディケ | 正義 | ユースティティア |
| Εἰρήνη | エイレネ | 平和 | パクス |
第2の三女神(季節系)
| 名前 | 読み方 | 司る分野 | 季節 |
|---|---|---|---|
| Θαλλώ | タロー | 芽生え | 春 |
| Αὐξώ | アウクソー | 成長 | 夏 |
| Καρπώ | カルポー | 結実 | 秋 |
四季のホーラー
| 名前 | 読み方 | 司る季節 | 親 |
|---|---|---|---|
| Εἴαρ | エイアル | 春 | ヘリオス&セレネ |
| Θέρος | テロス | 夏 | ヘリオス&セレネ |
| Φθινόπωρον | プティノポロン | 秋 | ヘリオス&セレネ |
| Χειμών | ケイモン | 冬 | ヘリオス&セレネ |
第3の三女神(豊穣系)
| 名前 | 読み方 | 司る分野 |
|---|---|---|
| Φέρουσα | ペルーサ | 物質・豊かさ |
| Εὐπορία | エウポリア | 富裕・豊穣 |
| Ὀρθωσία | オルトシア | 繁栄 |
まとめ
ホーラー(ホーライ)は、ギリシャ神話において季節と時間、秩序を司る女神たちです。
重要なポイント
- ゼウスとテミスの娘で、モイライ(運命の三女神)の姉妹
- オリンポスの門番として神々に仕えた
- 季節の移り変わりを司り、農民から特に崇拝された
- 秩序を司る三女神(エウノミア・ディケ・エイレネ)と、季節を司る三女神(タロー・アウクソー・カルポー)の二系統がある
- 後の時代には四季の女神や、12の時刻の女神としても認識された
- 「Hour(時間)」の語源となった
一見地味な存在に思えるかもしれませんが、ホーラーは古代ギリシャ人の生活と密接に結びついた重要な女神たちでした。
季節の恵みに感謝し、時間の流れを大切にした古代の人々の想いが、この女神たちの神話に込められています。
興味を持った方は、ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』を見てみてください。
アフロディーテを迎えるホーラーの姿を、美しい絵画で確認することができます。


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