【どんな鎧も切り裂く魔剣】フラガラッハとは?ケルト神話の「応える剣」

神話・歴史・伝承

もしあなたが、主人の意思に応えて勝手に戦ってくれる剣があったら、欲しいと思いませんか?

ケルト神話には、まさにそんな夢のような武器が存在します。その名はフラガラッハ。光の神ルーが持つ、どんな鎧も切り裂く恐るべき魔剣です。

この記事では、ケルト神話最強クラスの魔剣「フラガラッハ」について、その神秘的な力や伝承をわかりやすくご紹介します。

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概要

フラガラッハ(Fragarach/Freagarthach)は、ケルト神話に登場する伝説の魔剣です。

もともとは海の神マナナン・マクリルが所有していた剣で、後に光の神ルーの手に渡りました。

この剣の名前は「応える者(The Answerer)」や「報復者(The Retaliator)」という意味を持ち、日本語では「応答丸」「応酬丸」などと訳されることもあります。

アイルランドの伝承『トゥレンの子らの最期』に登場する謎の剣です。

特徴

フラガラッハには、次のような特徴がありました。

  • 傷を負った者は生き延びられない
  • 立ちむかう者は産婦ほどの強さになる

伝承

マナナンからの贈り物

フラガラッハはもともと、海と異界を司る神マナナン・マクリルの所有物でした。

マナナンは魔法の達人で、多くの魔法のアイテムを持っていました。

  • 魔法の船(波を越えて進む)
  • 魔法の馬エンバル(陸海を駆ける)
  • そして、フラガラッハ

マナナンがなぜこの貴重な剣をルーに譲ったのか、その理由は明確には記されていません。

バロール討伐との関係

面白いことに、ルーが祖父でもある邪眼のバロール(フォモール族の王)を倒した時、フラガラッハは使われませんでした。

代わりに、ルーは投石器槍のブリューナクを使ったとされています。

これは、フラガラッハがあまりにも強力すぎて、使う必要がなかったのか、それとも別の理由があったのか、今となっては謎です。

起源

フラガラッハという名前の由来には、深い意味が込められています。

名前の意味と由来

アイルランド語の解釈

  • 「Fragarach/Freagarthach」=「応える」「答える」という意味
  • 英語では「The Answerer(応答者)」「The Retaliator(報復者)」
  • 日本語訳では「応答丸」「応酬丸」「応えるもの」など

鍛冶の神との関係

ケルト神話では、神々の武器の多くは鍛冶の神ゴブニュが作ったとされています。

しかし、フラガラッハについては、誰が作ったのか明確な記述がありません。
マナナン自身が作ったという説が有力です。

ルー自身も万能の神で、音楽、医療、そして鍛冶の技術も持っていました。

そのため、フラガラッハを自在に扱えたのかもしれません。

まとめ

フラガラッハは、ケルト神話における最強クラスの魔剣であり、神々の運命を左右する力を持った武器でした。

重要なポイント

  • 海の神マナナンから光の神ルーへ受け継がれた魔剣
  • 色んな部分が謎に包まれた剣

残念ながら、フラガラッハの伝承は他のケルト神話の武器(槍のブリューナクなど)に比べて少なく、その全貌は謎に包まれています。

しかし、だからこそ、この「応える剣」は私たちの想像力をかき立て、今なお神秘的な魅力を放ち続けているのかもしれませんね。

コメント

  1. D より:

    フラガラッハが自動で攻撃するという設定は日本の書籍で生じた根拠不明の話であり、原典にはありません。(勝利の剣と関連づけているのも同じ著者・監修者)
    「どんな鎧も切り裂く」という切れ味設定も、1900年代の概説書で書かれたのが最初期と思われ、これも根拠が不明です。
    フラガラッハという名前が「答えるもの」あるいは「報復者」だとする英訳については、それぞれの編者の解釈によるものですが、なぜこんな名前がつけられているのか、原典には書かれていないため不明瞭です。そのため、いったい何に対して応える剣なのか。そもそも何かに応えるという解釈が正しいのかも定かではありません。
    また、フラガラッハが言及される一次資料「トゥレンの子らの最期」は、マグ・トゥレドの戦いの前日譚にあたり、「フラガラッハがマグ・トゥレドの戦いで使われた」というのは正しくはありません。(物語「マグ・トゥレドの戦い」のほうには出てきません)
    本記事の書き方からするにディレイニーの「ケルト」や新紀元社の「聖剣伝説」あたりの系譜を参照されているように見られますが、一次資料がWeb上で閲覧可能になってくる2010年代後半より前に出版された書籍の記述は、特にフラガラッハのようなマイナーゆえに情報の正確性が気にされないものは、日本のみならず海外資料でも不正確な記述が孫引きに孫引きを重ねているというのが実情です。

    • choge choge より:

      コメントありがとうございます。
      確かに、現代ファンタジー風に盛った設定が多くなっていました。
      できるだけ情報を削り、修正しました。
      今後は、使用しているケルト関係の参考書籍を見直そうと考えています。
      校正後の記事に問題があった場合は教えてください。

      • D より:

        修正おつかれさまです。早急な対応、痛み入ります。
        修正後の記事内容確認いたしました。強いて挙げれば、剣の制作者について、マナナンその他によるという説は、寡聞にして海外資料で見たおぼえがありません。
        (ゴヴニュやルーが作ったとするのは、海外のファンタジー小説の独自設定による影響が強いです)
        一次資料にある「傷を負った者は生き延びられない」「立ち向かう者は女の強さになる(=弱くなる)」といった記述まで削除されてしまったようで、こちらは戻して大丈夫だと思います。急ぎ対応していただいた余波と思われ、大変申し訳ございません。

        急ぎ書き込んだため、資料名等を上げ忘れてしまいました。参考までに追記したいと思います。
        以下、ざっくりとした情報です。

        ・佐藤 俊之『聖剣伝説』新紀元社(1997):
        フラガラッハを自動で攻撃する剣とした最初の書で、これ以降、日本でのみ自律設定が広まることになります。同著者が監修している『伝説の「武器・防具」がよくわかる本』PHP(2012)でも同様に書かれ、さらに「勝利の剣」とも比較しています。

        ・T.W.Rolleston『Myths & Legends of the Celtic Race』(1911)
        フラガラッハを「どんな鎧も切り裂く(貫く)剣」とした最初期の書で、世界的に出版されたため、一次資料の「傷を負った者は生き延びられず、立ち向かう者は女の強さになった」よりも有名になってしまいます。しかし著者Rollestonは出典を明らかにしていない上、参考文献として挙げられている書のいずれにも書かれていないため、著者による創作の可能性があります。
        ※ただし本当に創作なのか確証がなく、断定まではできません。

        他、「女のように弱くなる」を「官能的な女に見つめられたように」とする例もよく見かけますが、これは健部伸明『虚空の神々』(1997)が元で、誤訳あるいは底本における脚色ではないかと思われます。

        日本の書籍のうち、一次資料であるO’Curryらの著作について触れているのは、新紀元社の『図解ケルト辞典』(2014)や『幻想由来辞典』(2016)で、この年代からようやく日本でも原典に沿った記述が見られるようになりました。

        長々と失礼いたしました。何かしらのご参考になれば幸いです。

        余談:なお名前について、海外でも作家たちが19~20世紀中にかけて様々な解釈をしましたが、おおむね「敵に(死で)応える」といった描写が見られます。日本の「持ち主の意思に応える」というのは、上記の『聖剣伝説』での記述がやはり元凶かと思われます。
        いずれにせよ神話研究の書では由来について触れたものはまったく見かけず、かろうじて一次資料でO’Curryが「敵の攻撃に返報する剣」で「Retaliator(復讐者)」と英訳しているくらいです。
        最初にAnswerer(回答者)としたP.W.Joyceは英訳の理由を書いていません。こちらはFreagarthachという語の一般的な英訳をそのまま用いたのかもしれません。

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