「エジプト神話に興味があるけど、どの本から読めばいいかわからない」と悩んでいませんか。
ラーやオシリス、アヌビスといった神々の名前は知っていても、いざ本を選ぼうとすると種類が多くて迷いますよね。
この記事では、入門書から深掘りできる解説書まで、目的別に厳選した8冊を紹介します。
読む順序の提案もあるので、自分に合った1冊がきっと見つかるはずです。
エジプト神話の本の選び方 — 「聖典がない」神話の読み進め方

このジャンルの本を選ぶとき、最初に知っておきたいことがあります。
エジプト神話には、ギリシャ神話の『イリアス』や北欧神話の『エッダ』のような、1冊にまとまった代表的古典が存在しません。
神話の素材自体は大量にあります。
ピラミッドの内壁に刻まれた「ピラミッド・テキスト」、棺に書かれた「コフィン・テキスト」、パピルスに記された「死者の書」、各地の神殿の壁面碑文、そして「ホルスとセトの争い」のような個別の物語テキスト。
これらが数千年にわたって断片的に残されているのが、エジプト神話の「原典」にあたるものです。
つまり「原典を1冊読めばOK」とはいかないのが、古代エジプトの信仰体系の特殊なところ。
だからこそ、どんな目的で読むかによって、最適な本が変わってきます。
おすすめの読み進め方は、以下の3ステップです。
- ステップ1(入門書): まずは神々の名前と関係、物語のあらすじを把握する
- ステップ2(解説書): 個々の神々を体系的に知り、調べもの用の事典を手元に置く
- ステップ3(深掘り): 原資料の翻訳や、文明・宗教の背景まで踏み込む
また、古代エジプトの神々の世界には注意点がもう1つあります。
同じ神でも、地域や時代によって役割や性格が違うことがあるんです。
たとえばセトは、元来は砂漠や嵐の神として崇拝されていましたが、後にオシリス神話の確立とともに兄殺しの悪神として語られるようになりました。
1冊だけ読むと「あれ、さっきと話が違う?」と混乱しやすいので、複数の本を読み比べる価値があります。
なお、この記事ではエジプト神話を扱った漫画は対象外としています。
漫画は作品数が多く選び方の基準も異なるため、解説書・読みものに絞って紹介します。
入門書 — まずはここから読みたい3冊

『ゼロからわかるエジプト神話』かみゆ歴史編集部 編(イースト・プレス)
こんな人に向いている: 古代エジプトの神々にまったく触れたことがなく、最初の1冊を探している人
特徴: イラストや図解を交えながら、神話の全体像を短時間で把握できる
このジャンルの最初の1冊として、現在もっとも手に取りやすい本です。
オシリス神話を中心に、創世神話や神々の系譜、死者の審判まで幅広くカバーしています。
図解で各神のビジュアルイメージがつかめるので、名前と姿がなかなか一致しない初心者にはありがたい構成になっています。
歴史専門の編集プロダクションが手がけているだけあって、情報の整理が丁寧。
ファラオや英雄についても章を割いているので、歴史的な文脈も自然と頭に入ります。
ただし1冊で広く浅くカバーする性質上、個々の神の掘り下げは控えめ。
「まず全体像をつかんで、気になった部分を別の本で深掘りする」という使い方が最適です。
『エジプトの神話 兄弟神のあらそい』矢島文夫 著(ちくま文庫)
こんな人におすすめ: 神話を「物語」として楽しみたい、読みもの派の人
特徴: オリエント学の第一人者が、古代エジプトの神々の物語を平易な語り口で再構成した1冊
矢島文夫はオリエント学・古代文字研究の第一人者として知られる研究者です。
本書は、断片的に散らばる神話テキストを、1つの読みものとしてまとめ直した良書。
オシリスとセトの兄弟の争いを軸に、創世から冥界の審判まで、物語として通読できる構成になっています。
文庫本なので手軽に持ち歩けるのも嬉しいポイント。
学術的な裏付けがしっかりしていながら、語り口は柔らかく読みやすい。
原著は1983年刊で、長く読み継がれてきたロングセラーです。
「エジプト神話って結局どんな話なの?」という疑問に、最もストレートに答えてくれる本だといえます。
『古代エジプト解剖図鑑』近藤二郎 著(エクスナレッジ)
こんな人に向いている: 神々だけでなく、ピラミッドやミイラなど古代エジプト文明全体に興味がある人
特徴: 神話・歴史・文化・建築を網羅したビジュアル図鑑。エクスナレッジの「解剖図鑑」シリーズの1冊
近藤二郎は早稲田大学エジプト学研究所の所長を務めた、エジプト学・考古学の専門家です。
本書は神話に特化した本ではなく、古代エジプト文明を丸ごとビジュアルで解説する図鑑。
神々の紹介はもちろん、ピラミッドの構造、ミイラの製法、ヒエログリフの仕組みまで幅広く網羅しています。
「解剖図鑑」シリーズが好きな人なら、このフォーマットの読みやすさは折り紙つき。
神話だけを深く知りたい人には物足りないかもしれませんが、「神話が生まれた文明の全体像」を視覚的に把握するには最適の1冊です。
最初の1冊で神話のあらすじを知った後に読むと、背景の理解がぐっと深まります。
神々を体系的に知る解説書 — 2冊

『エジプトの神々』池上正太 著(新紀元社・Truth in Fantasy)
こんな人におすすめ: 入門書を読み終えて、個々の神を歴史的背景とともに体系的に理解したい人
特徴: 神話の概要+歴史的背景+個別の神々紹介を1冊に凝縮した中級者向けの定番
新紀元社のTruth in Fantasyシリーズの1冊で、個人的にはこのジャンルの本の中で一番好きな本です。
最初の1冊から一歩踏み込んで、古代エジプト文明の歴史的変遷と、その中で神々がどう位置づけられていたかを解説しています。
第1章で古代エジプト文明の成立から創世神話、王権と太陽の神話、オシリス神話までを概観。
第2章以降で太陽と王権の神々、ヘリオポリスの神々、諸神と人間たちを個別に紹介していきます。
基礎的な本が「物語のあらすじ」を教えてくれるのに対して、この本は「なぜその神話が生まれたのか」という背景まで踏み込んでくれる。
神話を読んで「で、なんでこうなるの?」と思った人が次に手に取るべき1冊です。
『図説 エジプトの神々事典』ステファヌ・ロッシーニ、リュト・シュマン=アンテルム 著、矢島文夫・吉田春美 訳(河出書房新社)
こんな人におすすめ: 特定の神について調べたいとき、すぐに引ける事典がほしい人
特徴: 古代エジプトの主要な神々と精霊79柱を精密な図版付きで解説した事典
もっと早く買えばよかった、と思った本です。
通読するタイプの本ではなく、「あの神って何だっけ?」と思ったときに引く辞書のような使い方が向いています。
79柱それぞれについて、外観の特徴、信仰の歴史、他の神との関係、関連する神話が丁寧にまとめられています。
精密な図版が全柱に付いているので、ビジュアルでの確認にも便利。
海外の著者による本なので、国内の概説書とは少し異なる視点や文章構成になっている点も新鮮です。
基本を押さえた後に手元に置いておくと、他の本を読む際の理解が格段に深まります。
もっと深く知りたい人のための3冊

『神々と人間のエジプト神話 魔法・冒険・復讐の物語』大城道則 著(吉川弘文館)
こんな人におすすめ: 古代エジプト人が実際に書き残したテキストを、解説付きで読みたい人
特徴: パピルスに残された6つの物語を日本語に訳し、登場する事物・風習・文化を解説
大城道則は駒澤大学文学部歴史学科教授で、バーミンガム大学大学院でエジプト学を専攻した研究者です。
本書は吉川弘文館の「歴史文化ライブラリー」シリーズの1冊で、学術的な裏付けと読みやすさを両立しています。
魔法の書を探す王子、神官の波乱に満ちた航海記、権力に立ち向かう農夫——。
古代エジプトで語り継がれた物語を日本語に訳し、そこに登場する事物や風習の文化的背景まで解説してくれます。
基礎的な本が「神話の概要」を教えてくれるのに対して、この本は「原典テキストに近い形」で物語を体験させてくれるのが大きな違いです。
旧約聖書やイソップ寓話の題材がエジプト神話に遡る、という指摘も興味深い。
『エジプト神話集成』杉勇・屋形禎亮 訳(ちくま学芸文庫)
こんな人におすすめ: 「ホルスとセトの争い」など、古代エジプトの原資料を日本語で直接読みたい人
特徴: ピラミッド・テキストや神話テキスト約30篇を原典から直接訳出した、日本語で読める貴重な集成
この神話体系には体系的にまとまった古典がない、と冒頭で書きました。
その「散在する原資料」を日本語で直接読めるようにした、極めて貴重な1冊がこれです。
訳者の杉勇は東京教育大学名誉教授、屋形禎亮は信州大学教授でエジプト学を専攻した研究者。
原著は1978年の「筑摩世界文学大系1 古代オリエント集」のエジプト部分で、2016年にちくま学芸文庫として単独刊行されました。
「ホルスとセトの争い」「メンフィスの神学」などの神話に加え、ピラミッド・テキスト、神々への讃歌、処世訓、「シヌへの物語」などの文学作品まで幅広く収録しています。
正直なところ、いきなり読むにはハードルが高い本です。
基礎を固め、解説書で個々の神の知識を蓄えてから挑むのが賢い読み方です。
古代エジプト人が実際に書き残した言葉に触れるという体験は、他の本では得られません。
『古代エジプトの神々: その誕生と発展』三笠宮崇仁 著(NHK出版)
こんな人におすすめ: 神話そのものだけでなく、なぜその神話が生まれたのか、地理や歴史の背景から理解したい人
特徴: 古代オリエント史研究の権威が、神々の系譜から文明の変遷を考察した名講義の書籍化
三笠宮崇仁は古代オリエント史研究の権威として知られ、本書はNHK市民大学での講義を書籍化したものです。
1988年刊行で現在は絶版、中古でのみ入手可能ですが、代替の効かない1冊として紹介します。
ラーとオシリスという2つの大きな柱を中心に、神々の系譜がどのように発展していったかをたどります。
ただし神話の物語を語る本というより、エジプトの地理的条件や歴史的変遷が、どのように神話の形成に影響したかを考察する内容が中心です。
ナイルの恵み、太陽信仰の変遷、アメン=ラーの出現、アテン一神教への挑戦——。
「なぜエジプトではこの神が崇拝されたのか?」という根本的な疑問に答えてくれます。
読書メーターのレビューでは「神の変遷からエジプトの歴史を見るのは初めてで面白かった」という声もあり、他の概説書とは切り口がまったく異なる1冊です。
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よくある疑問と回答
Q. エジプト神話の入門に最適な1冊はどれ?
まったくの初心者なら『ゼロからわかるエジプト神話』がおすすめです。
イラスト付きで神々の名前と関係を把握できるので、最初の全体像をつかむのに最適。
物語として楽しみたいなら『エジプトの神話』矢島文夫もよい選択です。
Q. ギリシャ神話のような「原典」はないの?
1冊にまとまった代表的古典はありませんが、原資料は存在します。
ピラミッド・テキスト、コフィン・テキスト、死者の書、各地の神殿碑文やパピルス文書が「原典」にあたるものです。
日本語で読むなら『エジプト神話集成』が最も原資料に近い内容を収録しています。
Q. 同じ神なのに本によって説明が違うのはなぜ?
古代エジプトの信仰は3000年以上の歴史の中で形成されたため、地域や時代によって同じ神の役割や性格が異なります。
たとえばセトは、元来は砂漠や嵐の神として崇拝されていましたが、後にオシリス神話の確立とともに兄殺しの悪神とされました。
これは「どちらかが間違い」ではなく、時代ごとの変遷として理解するのがポイントです。
Q. 子ども向けの本はないの?
この記事では中学生以上を想定した解説書・読みものに絞って紹介しています。
小学生向けには別の児童書シリーズがありますが、本記事の対象外としました。
まとめ
エジプト神話は体系的にまとまった古典がないからこそ、本の選び方が重要になります。
まず全体像をつかむなら、『ゼロからわかるエジプト神話』か『エジプトの神話』矢島文夫から始めるのがおすすめです。
文明全体を見渡したい人には『古代エジプト解剖図鑑』が向いています。
神々を体系的に理解するなら『エジプトの神々』池上正太、調べもの用の事典なら『図説 エジプトの神々事典』を手元に置くと便利です。
さらに深掘りしたい人は、原典テキストに触れられる『神々と人間のエジプト神話』大城道則や『エジプト神話集成』、文明の背景から理解できる『古代エジプトの神々: その誕生と発展』三笠宮崇仁に進んでみてください。
気になった本があれば、まず1冊手に取ってみるところから始めましょう。
紹介した書籍一覧
入門書
神々を体系的に知る解説書
- 『エジプトの神々』池上正太 著(新紀元社・Truth in Fantasy)
- 『図説 エジプトの神々事典』ステファヌ・ロッシーニ、リュト・シュマン=アンテルム 著、矢島文夫・吉田春美 訳(河出書房新社)
もっと深く知りたい人のための3冊

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