北欧神話のヴァルキリー(ワルキューレ)一覧|戦乙女たちの名前と意味を徹底解説

神話・歴史・伝承

ゲームやアニメで「ヴァルキリー」という名前を聞いたことはありませんか?

『ヴァルキリープロファイル』や『終末のワルキューレ』など、多くの作品に登場するこのキャラクターは、北欧神話に由来する存在なんです。

「名前は知ってるけど、どんな存在なの?」「全部で何人いるの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

この記事では、北欧神話に登場するヴァルキリー(ワルキューレ)を、名前の意味やエピソードとともに一覧形式で詳しくご紹介します。


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ヴァルキリー(ワルキューレ)とは?

「戦死者を選ぶ者」という意味

ヴァルキリーは古ノルド語で「valkyrja(ヴァルキュリャ)」と呼ばれています。

これは「valr(戦場の死者)」と「kjósa(選ぶ)」を組み合わせた言葉で、「戦死者を選ぶ者」 という意味を持ちます。

呼び方はいくつかあって、言語によって変わります。

言語表記読み方
古ノルド語valkyrjaヴァルキュリャ
ドイツ語Walküreワルキューレ、ヴァルキューレ
英語Valkyrieヴァルキリー

日本では「戦乙女」や「戦女神」と訳されることもあります。

ヴァルキリーの役割

主神オーディンに仕えるヴァルキリーたちには、大きく3つの役割がありました。

1. 戦場で死者を選ぶ

ヴァルキリーは戦場を飛び回り、勇敢に戦った戦士の中から「誰が死に、誰が生き残るか」を決定します。

2. 英雄をヴァルハラへ導く

選ばれた戦士たちは「エインヘリャル」と呼ばれ、オーディンの館「ヴァルハラ」へと連れていかれます。

ちなみに、戦死者の半分はヴァルハラへ、残り半分は女神フレイヤの館「フォールクヴァング」へ行くとされています。

3. ヴァルハラでの給仕

エインヘリャルたちが世界の終末「ラグナロク」に備えて訓練する間、ヴァルキリーたちは彼らに蜜酒(ミード)を注いでもてなします。

ヴァルキリーの姿

ヴァルキリーといえば、甲冑に身を包み、槍と盾を持ち、天馬に乗って空を駆ける姿をイメージする方が多いでしょう。

実際の伝承では、以下のような特徴が語られています。

  • 羽飾りのついた兜と鎧を装備している
  • 天馬を駆って空を飛ぶ
  • ワタリガラスを伴っていることがある
  • 白鳥と結びつけられることもある

白鳥との関連は「白鳥乙女」という別の伝承と混ざり合った結果と考えられています。


ヴァルキリーは全部で何人いるの?

伝承によって異なる人数

ヴァルキリーの人数は、資料によって異なります。

一般的には9人または13人とされることが多いですが、北欧神話の原典資料を調べると、30人以上の名前が確認できるんです。

研究者によっては39人の名前を数える場合もあります。

主な出典資料

ヴァルキリーの名前が記されている主な資料は以下の通りです。

資料名成立時期特徴
巫女の予言(Völuspá)10世紀頃古エッダの詩。6人のヴァルキリーの名前を記載
グリームニルの言葉(Grímnismál)10世紀頃古エッダの詩。13人の名前を記載
ナヴナスルル(Nafnaþulur)13世紀頃スノッリのエッダに含まれる名前一覧
ダラズの歌(Darraðarljóð)11世紀頃12人のヴァルキリーが機織りをする場面を描写

有名なヴァルキリー一覧【主要キャラクター編】

まずは、北欧神話の中でも特に有名なヴァルキリーたちをご紹介します。

ブリュンヒルデ(Brynhildr)

最も有名なヴァルキリーといえば、やはりブリュンヒルデでしょう。

項目内容
名前の意味「輝く戦い」または「鎧の戦い」
別名ブリュンヒルト、ブルンヒルデ
主な出典ヴォルスンガ・サガ、古エッダ

ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』でヒロインに抜擢されたことで、世界的に知られるようになりました。

有名なエピソード:シグルズとの悲恋

ブリュンヒルデはオーディンの命令に背いたため、罰として眠りの呪いをかけられてしまいます。

炎に囲まれた館で眠る彼女を救い出したのが、竜殺しの英雄シグルズでした。

二人は愛し合い、結婚の約束を交わします。

ところが、シグルズは別の王国で忘れ薬を飲まされ、ブリュンヒルデとの約束を忘れて他の女性と結婚してしまったのです。

真実を知ったブリュンヒルデは怒り狂い、シグルズを暗殺させます。

そして彼の死を知ると、シグルズと同じ火で火葬されることを望み、自ら命を絶ちました。

この悲恋物語は、グリム童話の『眠れる森の美女』の原型になったとも言われています。

シグルーン(Sigrún)

項目内容
名前の意味「勝利のルーン」
主な出典フンディング殺しのヘルギの歌

シグルーンは、英雄ヘルギ・フンディングスバニと結ばれたヴァルキリーです。

彼女の物語は「転生を繰り返す悲恋」として知られています。

シグルーンとヘルギは運命に翻弄され、何度生まれ変わっても出会い、愛し合い、そして引き裂かれてしまうのです。

二人の関係は、手塚治虫の『火の鳥』にも似た、永遠に続く悲しい恋の物語として語り継がれています。

スヴァーヴァ(Sváva)

項目内容
名前の意味「スウェーデンの女」
主な出典ヒョルヴァルズの子ヘルギの歌

スヴァーヴァは英雄ヘルギ・ヒョルヴァルズソンの恋人となったヴァルキリーです。

伝承によれば、シグルーンはスヴァーヴァの生まれ変わりだとされています。

シグルドリーヴァ(Sigrdrífa)

項目内容
名前の意味「勝利をもたらす者」
主な出典シグルドリーヴァの言葉

シグルドリーヴァは、ブリュンヒルデと同一人物ではないかと考えられているヴァルキリーです。

オーディンの命令に背いて眠りにつかされ、シグルズによって目覚めさせられるという点で、二人の物語は非常に似ています。

彼女はシグルズにルーン文字の知識や魔術を教えたとされ、知恵深いヴァルキリーとして描かれています。


ヴァルキリー名前一覧【グリームニルの言葉に登場する13人】

古エッダの『グリームニルの言葉』には、13人のヴァルキリーの名前が記されています。

オーディン自身がこの詩の中で、エインヘリャルに蜜酒を運ぶヴァルキリーたちの名を挙げているのです。

名前読み方意味
Hristフリスト「震える者」「動揺させる者」
Mistミスト「霧」「雲」
Skeggjöldスケッギョルド「斧の時代」
Skögulスコグル「戦い」「高く掲げる者」
Hildrヒルド「戦い」
Þrúðrスルーズ「力」「強さ」
Hlökkフロック「騒音」「戦いの喧騒」
Herfjöturヘルフィヨトゥル「軍勢を縛る者」
Göllゴッル「叫び」「轟音」
Geirahöðゲイラホズ「槍の戦い」
Randgríðランドグリーズ「盾を破壊する者」
Ráðgríðラーズグリーズ「計画を破壊する者」
Reginleifレギンレイヴ「神々の娘」

これらの名前の多くは「戦い」や「武器」に関連しています。

研究者によると、ヴァルキリーの名前は個々のキャラクターを表すというより、戦の女神としての性質や役割を説明するために作られたものだと考えられています。


ヴァルキリー名前一覧【巫女の予言に登場する6人】

『巫女の予言(ヴォルスパ)』には、6人のヴァルキリーの名が登場します。

この詩では、巫女がオーディンに向かって「遥か彼方からやってくるヴァルキリーたち」の姿を語っています。

名前読み方意味
Skuldスクルド「負債」「未来」
Skögulスコグル「戦い」「高く掲げる者」
Gunnrグン「戦争」「戦闘」
Hildrヒルド「戦い」
Göndulゴンドゥル「杖を持つ者」「魔法の杖」
Geirskögulゲイルスコグル「槍の戦い」

スクルドについての補足

スクルドは興味深いことに、運命の女神「ノルン」の一人としても知られています。

ノルンは過去・現在・未来を司る三姉妹の女神で、スクルドは「未来」を担当しています。

ヴァルキリーとノルンは、どちらも人間の運命を左右する存在という点で共通しており、伝承の中で混同されることもあったようです。


ヴァルキリー名前一覧【その他の伝承に登場する者たち】

上記以外にも、様々な資料に登場するヴァルキリーがいます。

ナヴナスルルに記載されたヴァルキリー

スノッリのエッダに含まれる「ナヴナスルル(名前の一覧)」には、多くのヴァルキリーの名前が記されています。

名前読み方意味
Geirdrifulゲイルドリヴル「槍を投げる者」
Geiravörゲイラヴォル「槍の女神」
Geirönulゲイロヌル「槍を振るう者」
Geirskögulゲイルスコグル「槍の戦い」
Sanngríðrサンングリーズ「非常に残忍な者」
Svipulスヴィプル「移り変わる者」
Þögnソグン「沈黙」
Þrimaスリーマ「戦い」
Hjörþrimulヒョルスリムル「剣の戦士」
Hjalmþrimulヒャルムスリムル「兜の戦士」

英雄譚に登場するヴァルキリー

英雄たちの物語に登場するヴァルキリーもいます。

名前読み方意味関連する物語
Káraカーラ「荒れ狂う者」「巻き毛」シグルーンの生まれ変わり
Ölrúnオルルーン「ビールのルーンに通じる者」ヴォルンドの歌
Hervör alvitrヘルヴォル・アルヴィトル「すべてを知る異形の者」ヴォルンドの歌
Hlaðguðr svanhvítフラズグズ・スヴァンフヴィート「白鳥の白」ヴォルンドの歌

ダラズの歌に登場する12人

『ダラズの歌』では、12人のヴァルキリーが人間の臓物を使って運命を織り込む恐ろしい場面が描かれています。

この詩は、ヴァルキリーの「戦いを決定する」という役割をより暗く、恐ろしいものとして表現しています。

名前読み方意味
Hildrヒルド「戦い」
Hjörþrimulヒョルスリムル「剣の戦士」
Sanngríðrサンングリーズ「非常に残忍な者」
Svipulスヴィプル「移り変わる者」
Guðrグズル「戦い」
Göndulゴンドゥル「杖を持つ者」

ヴァルキリーの名前の特徴

「戦い」に関連する名前が多い

ヴァルキリーの名前を見ると、多くが戦いや武器に関連していることがわかります。

「戦い」を意味する名前

  • ヒルド(Hildr):戦い
  • グン(Gunnr):戦争、戦闘
  • スコグル(Skögul):戦い

「槍」に関連する名前

  • ゲイラホズ(Geirahöð):槍の戦い
  • ゲイルドリヴル(Geirdriful):槍を投げる者
  • ゲイラヴォル(Geiravör):槍の女神

槍が多く登場するのは、オーディン自身が槍(グングニル)を象徴的な武器としているからだと考えられています。

個性よりも「役割」を表す名前

北欧神話研究者のルドルフ・ジメックやヒルダ・エリス・デイヴィッドソンによると、ヴァルキリーの名前は個々のキャラクターの個性を表すものではないとされています。

むしろ、「戦の女神」としての性質や能力を説明するために、スカルド(北欧の伝統的な詩人)によって創作されたものではないかと考えられているのです。

名前から読み取れる能力

一部の名前は、ヴァルキリーの特殊な能力を示唆しています。

  • ヘルフィヨトゥル(軍勢を縛る者):敵を金縛りにする能力
  • スヴィプル(移り変わる者):運命を操る能力
  • ヘリア(Herja):ゲルマンの女神ハリアサとの関連

ヴァルキリーの起源と変遷

古代ゲルマンの「イディス」との関係

ヴァルキリーのルーツは、古代ゲルマン民族が信仰していた「イディス(Idisi)」という女性の霊的存在にあると考えられています。

イディスは戦場で戦士たちを縛る能力を持つとされ、これはヴァルキリーの名前「ヘルフィヨトゥル(軍勢を縛る者)」とも関連しています。

時代とともに変化したイメージ

ヴァルキリーのイメージは、時代とともに大きく変化しました。

初期のイメージ(暗黒時代)

古い時代のヴァルキリーは、現在のような「美しい戦乙女」とは程遠い存在でした。

  • 戦死者の屍肉を貪る獰猛な女霊
  • カラスや狼と関連付けられる死神的存在
  • 戦場で死体の間を徘徊する恐ろしい姿

後期のイメージ(中世以降)

時代が進むにつれ、ヴァルキリーはより人間らしく、ロマンチックな存在として描かれるようになりました。

  • 美しい武装した乙女
  • 英雄たちの恋人や妻
  • 王族の娘として描かれることも

研究者のルドルフ・ジメックは、この変化について「ヴァルキリーが英雄譚に登場するようになるにつれ、悪魔的な特徴が薄れ、人間に近い存在となった」と述べています。


現代文化におけるヴァルキリー

ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』

ヴァルキリーを世界的に有名にしたのは、19世紀ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーです。

彼の楽劇『ニーベルングの指環』、特にその中の「ワルキューレの騎行」は、映画『地獄の黙示録』でも使用され、誰もが一度は聴いたことがある名曲となっています。

ワーグナーは9人のヴァルキリー姉妹という設定を作り、ブリュンヒルデを長女としました。

この設定は、その後の多くの創作作品に影響を与えています。

ゲーム・アニメ・漫画での登場

現代の日本では、ヴァルキリーは様々な作品に登場しています。

  • ヴァルキリープロファイル:スクウェア・エニックスのRPG
  • 終末のワルキューレ:人類と神々が戦う漫画
  • Fate/Grand Order:ブリュンヒルデがサーヴァントとして登場
  • オーディンスフィア:主人公グウェンドリンがヴァルキリー
  • 戦場のヴァルキュリア:セガのシミュレーションRPG

これらの作品では、北欧神話のヴァルキリーをベースにしつつ、独自のアレンジが加えられています。


ヴァルキリー完全一覧【30柱以上】

最後に、北欧神話の原典資料で確認できるヴァルキリーの名前を網羅的にまとめました。

グリームニルの言葉に登場

名前読み方意味
Hristフリスト震える者
Mistミスト霧、雲
Skeggjöldスケッギョルド斧の時代
Skögulスコグル戦い
Hildrヒルド戦い
Þrúðrスルーズ力、強さ
Hlökkフロック騒音
Herfjöturヘルフィヨトゥル軍勢を縛る者
Göllゴッル叫び
Geirahöðゲイラホズ槍の戦い
Randgríðランドグリーズ盾を破壊する者
Ráðgríðラーズグリーズ計画を破壊する者
Reginleifレギンレイヴ神々の娘

巫女の予言に登場

名前読み方意味
Skuldスクルド負債、未来
Skögulスコグル戦い
Gunnrグン戦争
Hildrヒルド戦い
Göndulゴンドゥル杖を持つ者
Geirskögulゲイルスコグル槍の戦い

ナヴナスルルに登場

名前読み方意味
Geirdrifulゲイルドリヴル槍を投げる者
Geiravörゲイラヴォル槍の女神
Geirönulゲイロヌル槍を振るう者
Sanngríðrサンングリーズ非常に残忍な者
Svipulスヴィプル移り変わる者
Þögnソグン沈黙
Þrimaスリーマ戦い
Hjörþrimulヒョルスリムル剣の戦士
Hjalmþrimulヒャルムスリムル兜の戦士
Hrundフルンド突き刺す者
Rótaロータ嵐、混乱
Herfjoturヘルフィヨトゥル軍勢を縛る者
Herjaヘリア軍勢
Skeggöldスケッゴルド斧の時代
Sváfaスヴァーファ眠り

英雄譚に登場

名前読み方意味
Brynhildrブリュンヒルデ輝く戦い
Sigrúnシグルーン勝利のルーン
Sigrdrífaシグルドリーヴァ勝利をもたらす者
Svávaスヴァーヴァスウェーデンの女
Káraカーラ荒れ狂う者
Ölrúnオルルーンビールのルーンに通じる者
Hervör alvitrヘルヴォル・アルヴィトルすべてを知る異形の者
Hlaðguðr svanhvítフラズグズ・スヴァンフヴィート白鳥の白

まとめ

北欧神話のヴァルキリー(ワルキューレ)は、単なる「美しい戦乙女」ではありません。

彼女たちが象徴するものは深く、多面的です。

ヴァルキリーが象徴するもの

  • 戦場における運命の決定者:誰が生き、誰が死ぬかを選ぶ
  • 英雄たちの導き手:勇敢な戦士をヴァルハラへ連れていく
  • ラグナロクへの備え:終末戦争に向けた兵士の養成

そして、ブリュンヒルデとシグルズの物語に見られるように、愛と悲劇を体現する存在でもあります。

ゲームやアニメでヴァルキリーに興味を持った方は、ぜひ原典の北欧神話にも触れてみてください。

現代の創作作品とはまた違った、荒々しくも神秘的なヴァルキリーたちの姿を発見できるはずです。

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