スマホの充電は電気を化学エネルギーに変換していますが、 電気分解は逆に、電気の力で化学反応を強制的に起こす技術なんです。
水に電気を流すと、酸素と水素に分解される。 塩水に電気を流すと、塩素ガスが発生する。
これって、まるで魔法みたいですよね。
でも実は、アルミ缶、金メッキ、水素エネルギーまで、 私たちの生活は電気分解なしには成り立たないんです。
この記事では、電気分解の仕組みから計算問題まで、 イラストと実例たっぷりで完全解説します。
読み終わる頃には、電池と電気分解の違いも バッチリ理解できているはずです!
電気分解とは?最もシンプルな説明

電気分解の基本定義
電気分解(electrolysis)とは: 外部から電気エネルギーを加えて、強制的に化学反応を起こすこと
普通の化学反応との違い:
自然に起こる反応:鉄がさびる(酸化)
電気分解:さびを鉄に戻す(還元)← 電気が必要!
電池との決定的な違い
項目 | 電池 | 電気分解 |
---|---|---|
エネルギーの流れ | 化学→電気 | 電気→化学 |
反応の自発性 | 自然に進む | 強制的に進める |
電極の呼び方 | 正極・負極 | 陽極・陰極 |
例 | 乾電池 | 電気メッキ |
覚え方:
- 電池:化学反応で電気を「作る」
- 電気分解:電気で化学反応を「起こす」
電気分解の仕組み:陽極と陰極で何が起きる?
電極での反応の基本ルール
陰極(-極):還元反応
電子を受け取る
M⁺ + e⁻ → M
例:Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu(銅が析出)
陽極(+極):酸化反応
電子を放出する
X⁻ → X + e⁻
例:2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻(塩素ガス発生)
覚えやすい語呂合わせ
陰極(いんきょく): 「いんきょく → えん(e⁻)をもらう → 還元」
陽極(ようきょく): 「ようきょく → よこす(電子を) → 酸化」
イオンの移動方向
陽極(+) ←──── 陰イオン(-)
│ │
[電解液]
│ │
陰極(-) ←──── 陽イオン(+)
覚え方: 異なる電荷は引き合う!
代表的な電気分解の例
1. 水の電気分解(最も基本的)
反応式:
2H₂O → 2H₂ + O₂
電極反応:
- 陰極:2H⁺ + 2e⁻ → H₂(水素発生)
- 陽極:4OH⁻ → 2H₂O + O₂ + 4e⁻(酸素発生)
体積比: 水素:酸素 = 2:1(覚えておこう!)
実用例:
- 水素エネルギーの製造
- 潜水艦の酸素供給
2. 塩化ナトリウム水溶液(食塩水)
陰極:
2H₂O + 2e⁻ → H₂ + 2OH⁻
水素ガス発生 + アルカリ性に
陽極:
2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻
塩素ガス発生(プールの消毒臭!)
工業的重要性:
- 塩素(漂白剤)の製造
- 水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の製造
- 「塩電解工業」の基礎
3. 硫酸銅(II)水溶液
陰極:
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu
赤褐色の銅が析出(きれい!)
陽極(炭素電極):
2H₂O → O₂ + 4H⁺ + 4e⁻
酸素ガス発生
陽極(銅電極):
Cu → Cu²⁺ + 2e⁻
銅電極が溶ける!
応用:
- 銅の精錬(純度99.99%に)
- 銅メッキ
ファラデーの法則:電気量と物質量の関係
ファラデーの第1法則
内容: 析出・発生する物質の量は、流れた電気量に比例する
式:
物質量(mol) = 電気量(C) / (96500 × 電子数)
96500 C/mol:ファラデー定数 (1モルの電子がもつ電気量)
ファラデーの第2法則
内容: 同じ電気量で析出する物質の量は、イオンの価数に反比例
例: 96500 Cで析出する量
- Ag⁺:1モル(108 g)
- Cu²⁺:0.5モル(32 g)
- Al³⁺:0.33モル(9 g)
計算のコツ
基本の流れ:
- 電流(A) × 時間(s) = 電気量(C)
- 電気量 ÷ 96500 = 電子のモル数
- 反応式から物質量を計算
- 物質量 × 分子量 = 質量
電気分解の計算問題マスター
例題1:基本問題
問題: 2.0 Aの電流を30分間流したとき、銅は何g析出する? (Cu = 63.5)
解答:
電気量 = 2.0 A × 1800 s = 3600 C
電子 = 3600 ÷ 96500 = 0.0373 mol
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu より
Cu = 0.0373 ÷ 2 = 0.0187 mol
質量 = 0.0187 × 63.5 = 1.19 g
例題2:水の電気分解
問題: 水を電気分解して水素2.24 L(標準状態)を得るのに必要な電気量は?
解答:
H₂ = 2.24 L ÷ 22.4 L/mol = 0.1 mol
2H⁺ + 2e⁻ → H₂ より
電子 = 0.1 × 2 = 0.2 mol
電気量 = 0.2 × 96500 = 19300 C
例題3:実用問題
問題: スプーンに銀メッキ(0.1 mm厚)をしたい。 表面積50 cm²、銀の密度10.5 g/cm³のとき、 1.0 Aで何分必要?
解答:
体積 = 50 × 0.01 = 0.5 cm³
質量 = 0.5 × 10.5 = 5.25 g
Ag = 5.25 ÷ 108 = 0.0486 mol
電子 = 0.0486 mol(Ag⁺ + e⁻ → Ag)
電気量 = 0.0486 × 96500 = 4690 C
時間 = 4690 ÷ 1.0 = 4690 s = 78分
電気分解の工業的応用

1. アルミニウムの製造(ホール・エルー法)
原料: ボーキサイト(Al₂O₃)
反応:
2Al₂O₃ → 4Al + 3O₂
すごいところ:
- 1トンのアルミに15000 kWhの電力
- だからアルミ缶のリサイクルが重要!
- 電気代の安い国で生産
2. 電気メッキ
用途:
- 装飾(金メッキ、銀メッキ)
- 防錆(亜鉛メッキ)
- 機能性(クロムメッキで硬く)
原理:
- メッキしたい物を陰極に
- メッキ金属を陽極に
- 金属イオンを含む電解液
3. 電解精錬
銅の精錬:
- 純度99%→99.99%に
- 不純物の金・銀も回収
- 日本は銅精錬大国
4. 水素製造
グリーン水素:
- 再生可能エネルギーで水を電気分解
- CO₂を出さない水素
- 未来のエネルギー源
よくある間違いと対策
間違い1:電極の呼び方
混乱しやすい点:
- 電池:正極(+)、負極(-)
- 電気分解:陽極(+)、陰極(-)
覚え方: 電源の+につながる方が陽極!
間違い2:イオンの移動方向
よくある誤解: 「陽イオンは陽極に行く」→ ✗
正解: 「陽イオンは陰極に行く」→ ○ (異なる電荷が引き合う)
間違い3:水素と酸素の体積比
間違い: 1:1 正解: 2:1(H₂:O₂)
化学式 2H₂O → 2H₂ + O₂ を思い出そう!
間違い4:反応の優先順位
イオン化傾向を忘れがち:
K > Ca > Na > Mg > Al > Zn > Fe > Ni > Sn > Pb > H > Cu > Hg > Ag > Pt > Au
右側ほど析出しやすい(陰極)
電気分解装置の種類
ホフマン電気分解装置
特徴:
- H型のガラス管
- 気体の体積測定が可能
- 水の電気分解の定番
ダニエル電池の逆操作
通常(電池): Zn → Zn²⁺ + 2e⁻(自発的)
電気分解: Zn²⁺ + 2e⁻ → Zn(強制的)
溶融塩電解
特徴:
- 水溶液ではなく溶融状態
- Na、K、Mgなど活性金属の製造
- 高温が必要(NaCl:801℃)
電気分解の面白い実験
家でできる簡単実験
鉛筆の芯で電気分解:
- 食塩水を用意
- 鉛筆の芯2本を電極に
- 9V電池をつなぐ
- 泡が出てくる!
安全注意:
- 換気を良くする(塩素ガス)
- 目を保護する
- 大人と一緒に
色が変わる電気分解
ヨウ化カリウム溶液:
- 陽極:ヨウ素で褐色に
- デンプンを入れると青紫色!
まとめ:電気分解は現代文明の基礎技術
電気分解の世界、奥が深くて面白かったですね!
絶対に覚えておきたい5つのポイント:
- 電気で化学反応を強制的に起こす
- 電池の逆
- エネルギーを入れる
- 陰極で還元、陽極で酸化
- 陰極(-):電子をもらう
- 陽極(+):電子を出す
- ファラデーの法則が基本
- 96500 C = 1モルの電子
- 電気量と物質量は比例
- 工業的に超重要
- アルミニウム製造
- メッキ、精錬
- 水素エネルギー
- 計算は順序立てて
- 電気量 → 電子 → 物質量 → 質量
- 単位に注意
電気分解を理解すると、 なぜアルミ缶のリサイクルが大切なのか、 水素社会がどう実現するのか、 科学的に理解できるようになります。
電気と化学の融合が生み出す、 素晴らしい技術の世界を楽しんでください!
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