Yandex Browser(ヤンデックス ブラウザー)は、ロシア最大の検索エンジン・ポータルサイトであるYandexが開発したWebブラウザです。
Google ChromeやMicrosoft Edgeと同じChromiumベースのブラウザで、独自の機能やセキュリティシステムを搭載しています。
この記事では、Yandex Browserの基本的な特徴から、セキュリティ機能、プライバシーに関する懸念、実際の使い方まで包括的に解説します。
Yandex Browserの基本情報
Yandex Browserは、ロシアのテクノロジー企業Yandexが提供する無料のWebブラウザです。
2012年にリリースされ、ロシアを中心に東ヨーロッパや中東で利用者を増やしています。
Yandex Browserの基本的な情報は以下の通りです。
- 開発元: Yandex(ロシア)
- 初版リリース: 2012年
- ベース: Chromium(Blinkエンジン)
- 対応OS: Windows、macOS、Linux、Android、iOS
- ライセンス: フリーウェア
Yandexとは
Yandexは1997年に設立されたロシア最大のIT企業です。
検索エンジンを中心に、地図、翻訳、音声認識、広告配信、クラウドサービスなど多様なサービスを展開しています。
ロシア国内では、Googleに対抗する形で圧倒的なシェアを誇っています。
Yandex Browserは、自社の検索エンジンを組み込むことで、検索市場でのシェア拡大を図る戦略的な製品です。
ロシアでのシェア
2022年6月時点で、Yandex Browserはロシア国内で約16.47%のシェアを持っています。
これはロシアで2番目に人気のあるデスクトップブラウザです(モバイルでは3番目)。
一方、日本を含む多くの国では、Yandex Browserのシェアは非常に低く、ほとんど知られていません。
例えば、ウクライナでは約4.45%のシェアで4位、世界全体ではInternet Explorer(約0.64%)よりも低いシェアとなっています。
Chromiumベースの特徴
Yandex BrowserはChromiumをベースにしているため、Google ChromeやMicrosoft Edgeと基本的な操作感は同じです。
Chromiumベースであることのメリットは以下の通りです。
- Chrome拡張機能が利用可能
- 高速なレンダリング性能
- 最新のWeb標準への対応
- セキュリティアップデートの迅速な適用
ただし、Yandex Browserは独自のチューニングや追加機能を実装しており、単なるChromeのクローンではありません。
Yandex Browserの主な機能
Yandex Browserは、Chromiumベースでありながら、独自の機能をいくつか搭載しています。
Turboモード(データ圧縮機能)
Turboモードは、低速なインターネット環境で特に有用な機能です。
Turboモードの仕組みは以下の通りです。
- ページを読み込む前にYandexのサーバーでデータを圧縮
- 圧縮されたデータをブラウザに送信
- ブラウザ側で展開して表示
この機能により、通信量を最大70%削減できます。
Opera Softwareの技術を使用しており、ADSL回線や通信制限中のモバイル回線を使用している場合に効果的です。
光回線などの高速通信環境では不要ですが、いつでもオン・オフを切り替えられます。
Tableau(タブロー)機能
Tableauは、タイル形式のショートカットマネージャー機能です。
Windows 8のスタート画面に似たデザインで、よく訪れるサイトへのショートカットをタイル状に配置できます。
Tableau機能の特徴は以下の通りです。
- 新しいタブを開くと自動的に表示
- ドラッグ&ドロップで配置を変更可能
- サイトやフォルダーを自由に追加
- 視覚的にわかりやすいインターフェース
スマートボックス
スマートボックスは、検索バーとアドレスバーが統合された機能です。
スマートボックスの特徴は以下の通りです。
- URLと検索キーワードの両方を入力可能
- 入力中に候補を自動表示
- オートコレクト機能で入力ミスを修正
- デフォルトの検索エンジンはYandex Search
検索エンジンは、インストール時やブラウザの設定から変更できます。
動く背景(アニメーション壁紙)
新しいタブページには、背景として動くアニメーションを設定できます。
大自然が広がるかのような臨場感のある背景により、ブラウザに個性を持たせられます。
背景は右クリックから簡単に変更でき、多数のギャラリーから選択できます。
シンプルで開放的なデザイン
Yandex Browserは、画面を最大限活用するデザインが特徴です。
デザインの特徴は以下の通りです。
- タイトルバーが透明で画面が広く使える
- タブが画面下部に配置される(独特の配置)
- モダンでスタイリッシュなUI
- 開いているサイトに応じてタブに色が付く
タブの下部配置は、スマートフォンやタブレットのアプリに近い感覚で使用できます。
セキュリティ機能:Protect
Yandex Browserの最大の特徴の一つが、Protectと呼ばれる統合セキュリティシステムです。
これは、複数のセキュリティ機能を組み合わせた包括的な保護システムです。
Protectの主な機能
Protectには以下の機能が含まれています。
ダウンロードファイルのウイルスチェック:
- Kasperskyのウイルス対策技術を使用
- 実行ファイルとアーカイブファイルをスキャン
- 感染ファイルを検出してブロック
危険なWebサイトのブロック:
- Yandexが毎日数千万のサイトをチェック
- マルウェアを含むサイトのデータベースを構築
- 数十万のリンクをブロック
- 安全なキャッシュコピーがあれば表示
フィッシングサイトの検出:
- ニューラルネットワークを使用した検出
- Softlineの研究によると、他のブラウザの7倍高精度
- 詐欺的なWebサイトから保護
パスワードと銀行カード情報の保護:
- 入力されたパスワードと銀行カード情報を暗号化
- オンライン決済の安全性を確保
- 盗難から保護
Protected Mode(保護モード)
オンラインバンキングや決済サイトにアクセスすると、自動的にProtected Modeが有効になります。
Protected Modeの特徴は以下の通りです。
- ブラウザ拡張機能を無効化(LastPassなど一部は除く)
- サイトのセキュリティ証明書を厳格にチェック
- 無効な証明書のサイトでは保護モードが作動しない
- アドレスバーにアイコンで状態を表示
手動でオフにすることもできますが、セキュリティのため有効にしておくことが推奨されます。
DNSCryptサポート
Yandex Browserは、世界で初めてDNSCrypt技術を実装したブラウザです。
DNSCryptの利点は以下の通りです。
- DNS(ドメインネームシステム)トラフィックを暗号化
- DNSChangerトロイの木馬から保護
- インターネットプロバイダーによる追跡を防止
- ハッカーからの攻撃を防ぐ
この機能はブラウザの設定で有効にする必要があります。
安全なWi-Fi接続
公共Wi-Fiネットワークに接続する際、Yandex Browserは自動的にデータを暗号化します。
安全なWi-Fi接続の仕組みは以下の通りです。
- オープンネットワークやWEP保護の弱いネットワークを検出
- HTTPサイトへのトラフィックをYandexのサーバー経由で暗号化
- Yandexサーバーがブラウザとサイトの間のチャネルとして機能
- 自動的にオン・オフが切り替わる
HTTPS接続のサイトでは、すでに暗号化されているため、この機能は不要です。
リーダーモード
リーダーモードは、記事を読みやすくする機能です。
リーダーモードの特徴は以下の通りです。
- 広告、メニュー、ボタンなどを非表示
- テキストと画像のみを画面に表示
- 読みやすいフォントと背景色
- 集中して記事を読める環境を提供
プライバシーに関する懸念
Yandex Browserは多くの便利な機能を提供していますが、プライバシーとセキュリティに関する懸念も指摘されています。
データ収集の範囲
アイルランドのトリニティ・カレッジのDouglas J. Leith教授による研究では、Yandex Browserが広範囲なデータを収集していることが明らかになりました。
収集されるデータは以下の通りです。
- ハードウェアIDのハッシュ値
- アドレスバーに入力されたすべての文字
- ユーザーが訪問したすべてのURL
- 検索履歴
- 位置情報
- デバイスの識別情報
- IPアドレス
この研究では、Yandex BrowserとMicrosoft Edgeが、テストされたブラウザの中で最もプライバシー保護が弱いと評価されています。
ロシア政府との関係
Yandexはロシア政府との関係が指摘されており、これがプライバシー懸念の主な理由の一つです。
指摘されている問題点は以下の通りです。
- ロシアの法律下でデータが管理される
- 情報提供義務のあるプラットフォームとされている
- 欧米諸国から「国家による監視ツールの可能性」として警戒されている
- データへの政府アクセスの可能性
クローズドソース
Yandex Browserはクローズドソース(非公開ソースコード)のプロジェクトです。
クローズドソースの問題点は以下の通りです。
- ソースコードを確認できない
- バックグラウンドで何が行われているか検証不可能
- オープンソースブラウザに比べて透明性が低い
ToS;DRによる評価
ToS;DR(Terms of Service; Didn’t Read)というサービスは、Yandexの利用規約について以下の点を指摘しています。
- ブラウザ履歴を閲覧できる
- ユーザーは識別可能な情報を提供する必要がある
- アプリが広範な権限を要求する
- サービス運営に関与しない第三者と個人データを共有
- 理由なく、または通知なしにアカウントを削除できる
2023年のデータ漏洩
2023年には、Yandexの食品配達アプリ「Yandex.Eda」のセキュリティ侵害により、58,000人のユーザーデータが漏洩しました。
この事件は、Yandexサービス全体のセキュリティに対する懸念を高めました。
安全に使用するための対策
Yandex Browserを使用する場合、以下の対策を講じることでリスクを軽減できます。
プライバシー設定の調整
ブラウザの設定から、以下の項目を確認・調整しましょう。
- アクティビティ履歴の制御
- 検索履歴の管理
- 位置情報アクセスの制限
- 興味ベース広告のオフ
- アプリとサービスの権限管理
シークレットモードの活用
シークレットモード(インコグニートモード)を使用すると、以下のデータが記録されません。
- パスワード
- 検索クエリ
- 閲覧履歴
機密性の高い情報を扱う場合は、シークレットモードを活用しましょう。
アカウントにログインしない
Yandexアカウントにログインすると、履歴や関心分野が個人に紐づいて保存されます。
匿名性を保つには、ログインを避けることが効果的です。
VPNの併用
VPN(仮想プライベートネットワーク)を併用することで、以下の利点があります。
- 実際のIPアドレスを隠せる
- トラフィックが暗号化される
- 追跡が困難になる
- 地域制限を回避できる
検索エンジンとしてのみ使用
リスクを最小限に抑えるには、Yandex Browserではなく、ChromeやFirefoxなどの信頼性の高いブラウザで、検索エンジンとしてのみYandexを使用する方法があります。
Cookie�とサイトデータの定期的な削除
定期的にCookieとサイトデータを削除することで、追跡を減らせます。
また、以下の設定も検討しましょう。
- サードパーティCookieをブロック
- トラッキング保護を有効化
プライバシー重視のツールの併用
以下のような拡張機能を併用することで、プライバシーを強化できます。
- uBlock Origin(広告ブロック)
- Privacy Badger(トラッキング保護)
- HTTPS Everywhere(HTTPS接続の強制)
Yandex Browserが適している用途
プライバシーへの懸念はありますが、Yandex Browserが適している用途もあります。
ロシア語圏のコンテンツ検索
Yandex Browserは、ロシア語圏のコンテンツを検索する際に優れた性能を発揮します。
以下のような場合に有用です。
- ロシア語のWebサイトを検索する
- ロシア語の情報を正確に見つける
- キリル文字での検索を行う
Googleでは見つからないロシア語の情報を見つけられる場合があります。
画像検索
Yandexの画像検索機能は、精度が高いと評価されています。
特に以下のような用途に適しています。
- 類似画像の検索
- 画像の出典調査
- Googleでは見つからない画像の検索
低速回線での使用
Turboモード機能により、低速なインターネット環境でも快適にブラウジングできます。
以下のような状況で有用です。
- ADSL回線を使用している
- モバイルデータ通信量を節約したい
- 通信制限中のWiMAXを使用している
ロシアや非西側諸国への渡航時
ロシアやその他の非西側諸国に渡航する際、Yandex Browserは重要なツールとなります。
理由は以下の通りです。
- Yandex Mapsがロシアでは正確
- スマートフォンとの同期が可能
- 現地のサービスに最適化されている
- Google依存を避けられる
仕事でこれらの地域に行く場合、Yandex Browserがあると便利です。
インストール方法と基本的な使い方
Yandex Browserのインストールと基本的な使い方を説明します。
ダウンロードとインストール
- 公式サイトにアクセス
- 「Download」ボタンをクリック
- ダウンロードしたセットアップファイル(Yandex.exe)を実行
- インストール時にバンドルソフトの提示がある場合は、チェックを外す
- 検索エンジンの選択画面で希望の検索エンジンを選択
- インストール完了
システム要件
Windows版:
- Windows 7以降
macOS版:
- macOS 10.12以降
Android版:
- Android 5.0以上
- RAM 1GB以上
- ストレージ 100MB以上
iOS版:
- iOS 11.0以降
基本的な設定
インストール後、以下の設定を確認・変更できます。
- 既存ブラウザからのブックマークインポート
- デフォルト検索エンジンの変更
- Turboモードのオン・オフ
- プライバシー設定の調整
- 背景の変更
Chrome拡張機能のインストール
Yandex BrowserはChrome拡張機能に対応しています。
インストール手順は以下の通りです。
- Chrome Web Storeにアクセス
- 希望の拡張機能を検索
- 「Chromeに追加」をクリック
- 確認画面で「拡張機能を追加」をクリック
他のブラウザとの比較
Yandex Browserと他の主要ブラウザを比較します。
Google Chromeとの比較
共通点:
- Chromiumベース
- 同じレンダリングエンジン
- Chrome拡張機能が使用可能
相違点:
| 項目 | Yandex Browser | Google Chrome |
|---|---|---|
| メモリ消費 | 軽量 | 重い |
| デフォルト検索 | Yandex | |
| Turboモード | あり | なし |
| プライバシー | 懸念あり | 懸念あり(異なる種類) |
| 市場シェア | 限定的 | 世界最大 |
Microsoft Edgeとの比較
共通点:
- Chromiumベース
- セキュリティ機能を強調
相違点:
- トリニティ・カレッジの研究では、両ブラウザとも最もプライバシー保護が弱いと評価
- Edgeは Windows統合が強い
- Yandex Browserは Turboモードがある
Operaとの比較
共通点:
- Turbo技術を使用(OperaからYandexがライセンス)
- VPN機能(Operaは内蔵、Yandexは別途必要)
相違点:
- Operaはよりプライバシー重視
- Operaは広告ブロック内蔵
- Yandex Browserはロシア語圏に最適化
ユーザーの評判
Yandex Browserに対するユーザーの評価は分かれています。
肯定的な評価
- Chromeより軽量で高速
- デザインがモダンでおしゃれ
- Turboモードが便利
- 低スペックPCでも快適に動作
- Chrome拡張機能が使える
否定的な評価
- 日本語対応が不完全(翻訳がおかしい箇所がある)
- プライバシーへの懸念
- ロシアとの通信が不安
- 更新頻度が低い
- セキュリティに不安がある
Reddit上の意見
Reddit上では、以下のような意見が見られます。
- 画像検索や非機密コンテンツの閲覧には安全
- 機密データや個人情報の扱いには他のサービスを推奨
- ロシア政府との関係に懸念
- 電話番号不要でメール登録できる点は評価
Yandex Browserの今後
2024年時点で、Yandex Browserは大きなアップデートを実施しています。
ニューラルネットワーク統合
公式サイトによると、Yandex Browserは「ニューラルブラウザ」として生まれ変わりました。
新機能は以下の通りです。
- 魅力的なテキストの作成支援
- 画像生成
- 多言語理解
- テキスト読み上げ
- 動画サマリー生成
- AI翻訳(動画の音声と口調を保持)
これらの機能は無料で利用できます。
起動速度の改善
Telecom Dailyの独立調査によると、Yandex Browserは平均3秒で起動し、検索クエリを1.6秒で処理します。
フィッシング検出の強化
Softlineの研究によると、ニューラルネットワークを使用したフィッシングサイト検出により、他のブラウザの7倍高精度で検出できるようになりました。
まとめ
Yandex Browserは、Chromiumベースの機能豊富なWebブラウザです。
主要なポイントをまとめると以下の通りです。
長所:
- Chromiumベースで高速
- Turboモードでデータ通信量を削減
- Kasperskyと連携したセキュリティ機能
- Chrome拡張機能が使用可能
- ロシア語圏のコンテンツ検索に強い
- 軽量でメモリ消費が少ない
- ニューラルネットワークによるAI機能
短所:
- プライバシーへの重大な懸念
- ロシア政府との関係が指摘されている
- 広範囲なデータ収集
- クローズドソース
- 日本語対応が不完全
- グローバルでのシェアが低い
使用を検討すべき場合:
- ロシア語圏のコンテンツを検索する
- 低速回線でブラウジングする
- ロシアや非西側諸国に渡航する
- 画像検索の精度を重視する
使用を避けるべき場合:
- プライバシーを最優先する
- 機密情報や個人情報を扱う
- オンラインバンキングや決済を行う
- 透明性の高いブラウザを求める
Yandex Browserは、特定の用途では便利なブラウザですが、プライバシーとセキュリティに関する懸念を理解した上で使用することが重要です。
機密性の高い情報を扱う場合は、より信頼性の高いブラウザの使用を検討してください。
また、使用する場合でも、VPNの併用、プライバシー設定の調整、シークレットモードの活用など、追加の保護措置を講じることを強くお勧めします。
ブラウザ選びは個人のニーズと優先事項によって異なりますが、情報リテラシーを持ち、各ブラウザの特性を理解した上で選択することが大切です。
参考情報
本記事は以下の情報源を参照して作成しました。


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