「Webサイトが遅い」
「接続が不安定」
「どこでネットワークが止まっているのか知りたい」
―― そんなときに役立つのが、Windowsに標準搭載されているコマンド tracert
(トレースルート) です。
このコマンドを使えば、通信相手までのネットワーク経路(ルーターの通過点)をすべて可視化できます。
この記事では、初心者にもわかりやすく「tracert
の使い方」「出力の読み方」「よくある活用パターン」までを丁寧に解説します。
tracertとは?基本の役割

tracert
は、通信先までに経由するルーターのリストと応答時間(ms)を表示するコマンドです。
このコマンドにより以下のことがわかります:
- 通信がどこまで届いているのか
- どこで止まっているのか
- どの区間で遅延が起きているのか
インターネット通信は多くの「中継地点」を経由しています
。例えば、あなたのパソコンからGoogleのサーバーまでは、家のルーター→プロバイダの設備→いくつかの中継点→Googleのサーバーという経路をたどります。
tracert
はこの経路を順番に表示してくれます。
LinuxやmacOSでは traceroute
というコマンド名で同様の機能があります。
tracertコマンドの実行方法

コマンドプロンプトの起動
- スタートメニューを開く
- 「cmd」または「コマンドプロンプト」と入力
- 表示された「コマンドプロンプト」アプリを選択
または、Windows+Rキーを押して「ファイル名を指定して実行」を開き、「cmd」と入力してEnterキーを押します。
tracertコマンドの実行
基本構文:
tracert [ホスト名 or IPアドレス]
例えば、Googleに対して実行するには:
tracert www.google.com
また、IPアドレスを指定することもできます:
tracert 8.8.8.8
コマンドプロンプトにこれを入力してEnterキーを押すと、通信経路の一覧が表示され始めます。
一般的に30秒〜2分程度で完了します。
追加オプション
より詳細な情報を得るために、いくつかの追加オプションがあります:
-d
: ホスト名解決をしない(IPアドレスのみ表示)tracert -d www.google.com
-h 最大ホップ数
: 最大ホップ数を指定(デフォルトは30)tracert -h 15 www.google.com
-w タイムアウト
: タイムアウト時間をミリ秒単位で指定tracert -w 1000 www.google.com
出力結果の見方(IP・応答時間)

実行後、以下のような出力が表示されます:
www.google.com [142.250.196.132] へのルートをトレースしています
経由するホップ数は最大 30 です:
1 <1 ms <1 ms <1 ms 192.168.1.1
2 3 ms 2 ms 2 ms 10.0.0.1
3 18 ms 20 ms 19 ms example.com [93.184.216.34]
4 22 ms 21 ms 22 ms 203.0.113.10
5 25 ms 24 ms 25 ms 108.170.245.65
6 26 ms 25 ms 26 ms 142.250.233.27
7 27 ms 26 ms 27 ms www.google.com [142.250.196.132]
トレースを完了しました。
各項目の意味
表示内容 | 意味 |
---|---|
1, 2, 3… | 通過したルーターの順番(ホップ) |
<1ms など | 応答時間(同じホップに対して3回測定) |
192.168... やドメイン名 | 各ホップのIPアドレスまたはホスト名 |
応答時間について
<1 ms
– 非常に高速な応答(通常は家庭内やオフィス内のルーター)1〜20 ms
– 比較的高速な応答(同じ地域内)20〜100 ms
– 一般的な距離での応答(国内の遠距離など)100〜300 ms
– 遠距離通信(国際通信など)300 ms以上
– 非常に長い応答時間(通信混雑や経路問題の可能性)
注意すべき表示パターン
* * * 要求がタイムアウトしました。
→ そのルーターが応答を返さない設定になっている(セキュリティ対策の場合もあり)- 途中までは応答があり、その後すべてタイムアウト → その地点で通信が途切れている可能性
- 応答時間が突然大きく増加 → その区間でネットワーク遅延が発生している
通信トラブルの特定に使えるケース

ケース1:サイトにアクセスできない・遅い
tracert www.example.com
正常なケース: 最終ホップまで到達し、応答時間も安定している
異常ケース1:途中で止まる
1 <1 ms <1 ms <1 ms 192.168.1.1
2 3 ms 2 ms 3 ms 10.0.0.1
3 * * * 要求がタイムアウトしました。
4 * * * 要求がタイムアウトしました。
→ 3番目のホップで通信が止まっている。プロバイダの障害や経路の問題がある可能性
異常ケース2:応答時間の急増
3 20 ms 19 ms 20 ms 203.0.113.10
4 350 ms 380 ms 360 ms 203.0.113.20
5 25 ms 26 ms 25 ms 108.170.245.65
→ 4番目のホップで極端な遅延が発生。そのルーターに負荷がかかっている可能性
ケース2:自分のネットワーク確認
tracert 8.8.8.8
Google DNSサーバー(8.8.8.8)に対してtracertを実行することで、インターネット接続の基本的な経路を確認できます。
最初の1〜3ホップが自分のルーターやプロバイダの設備であることが多いため、ネットワーク設定の確認に役立ちます。
ケース3:経路比較による問題切り分け
複数のサイトに対してtracertを実行し、共通する区間でタイムアウトするかを確認。
プロバイダの問題か、特定のサイトへの経路の問題かを判断できます。
tracertでよくあるエラーと対処法

エラーや症状 | 原因 | 対処方法 |
---|---|---|
要求がタイムアウトしました。 | ルーターがICMP(ping)を拒否している | 特に問題なし。次のホップが応答していればOK。セキュリティ対策として一般的 |
最初からすべてタイムアウト | ネットワーク接続そのものに問題 | ping 127.0.0.1 で自己診断→ipconfig でIPとゲートウェイ確認→ケーブル接続チェック |
ホスト名が解決できない | DNSエラーの可能性 | nslookup ドメイン名 で確認し、DNSサーバー設定を見直す |
続行するにはキーを押してください… | 標準の動作(30ホップ以上ある場合) | キーを押して続行するか、初めから-h オプションで最大ホップ数を増やす |
最終目的地に到達できない | ルーティング問題またはファイアウォール | 複数回試す・他の宛先と比較・ping で疎通確認 |
まとめ
tracert
コマンドを使えば、通信のルートが”見える化”でき、ネットワークトラブルの切り分けや改善のヒントが得られます。
ポイント:
tracert [ドメイン名]
で通信経路と応答時間を確認できる- 応答時間の変化やタイムアウトの位置で問題点を特定可能
- タイムアウトが続いても、最終的に目的地に到達していれば通常問題ない
ping
やnslookup
と組み合わせると、より詳細な診断が可能
実践的な使い方:
- 接続に問題を感じたら、まず
tracert
で経路を確認 - 経路上のどこに問題があるかを特定
- 自分のネットワーク内の問題か、プロバイダ側の問題か、目的地側の問題かを判断
- 適切な対処(再起動、設定変更、プロバイダへの問い合わせなど)を実施
ネットワークに関する知識がなくても、tracertを実行するだけで「今どこで止まっているのか」がわかるようになります。
ぜひ、通信に不安を感じたときに活用してみてください。
コメント