Windows 11にアップグレードしようとしたら、「このPCではWindows 11を実行できません。TPM 2.0が必要です」というメッセージが表示された。
こんな経験をした人も多いのではないでしょうか。
「TPMって何?」「自分のPCにあるの?」「どうやって有効にするの?」
突然出てきた専門用語に、戸惑ってしまいますよね。
実はTPM(Trusted Platform Module)は、PCのセキュリティを根本から守る重要なハードウェアなんです。
この記事では、セキュリティの基盤となるTPMについて、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。安全なPC環境を作る知識をお届けしますよ。
TPMとは?PCの「金庫」

TPM(Trusted Platform Module)は、PCのセキュリティ機能を強化するための専用チップです。
日本語では「信頼されたプラットフォームモジュール」と訳されます。
金庫のような存在
TPMは、暗号化キーやパスワードなどの重要な情報を安全に保管する「金庫」のような役割を果たします。
通常のストレージやメモリとは別の、独立した安全な場所に情報を保存するんです。
ソフトウェアだけでは真似できない、ハードウェアレベルのセキュリティを提供してくれます。
TPMの主な役割
暗号化キーの保管
ディスク暗号化に使われる鍵を、安全に保存します。
デバイスの認証
そのPCが本物であることを証明します。
システムの整合性チェック
起動時に、OSやファームウェアが改ざんされていないか確認します。
デジタル署名
文書やプログラムに電子署名を付けることができます。
なぜTPMが重要なのか
TPMがないと、どんな問題があるのでしょうか。
ソフトウェアだけでは守れない
通常のパスワードや暗号化は、ソフトウェアで実装されています。
しかし、ソフトウェアは攻撃者によって解析されたり、メモリから読み取られたりする可能性があるんです。
TPMは物理的に独立したチップなので、こうした攻撃から守りやすくなります。
ディスク暗号化の強化
BitLocker(Windows)やLUKS(Linux)などのディスク暗号化機能は、TPMと連携することで、より強固になります。
暗号化キーをTPMに保存することで、ハードディスクを取り出しても解読できなくなるんです。
マルウェアからの保護
TPMは起動時に、OSが改ざんされていないかをチェックできます。
セキュアブートと組み合わせることで、マルウェアが起動前に侵入することを防げるんですよ。
企業でのコンプライアンス
多くの企業や組織では、セキュリティ基準としてTPMの使用を義務付けています。
機密情報を扱う業務では、TPMは必須といえるでしょう。
TPMの種類:ハードウェアとファームウェア
TPMには、大きく分けて2つの実装方法があります。
ディスクリートTPM(dTPM)
ディスクリートTPMは、マザーボード上に独立したチップとして搭載されているものです。
物理的なチップが見えるので、「本物のTPM」という感じですね。
メリット:
- 最も強固なセキュリティ
- 独立しているため攻撃されにくい
- 業界標準に完全準拠
デメリット:
- コストが高い
- 物理的なスペースが必要
高級なビジネス向けPCや、エンタープライズ向けのサーバーに搭載されていることが多いです。
ファームウェアTPM(fTPM)
ファームウェアTPMは、CPUのファームウェア内で実装されるTPMです。
IntelのPTT(Platform Trust Technology)や、AMDのfTPMがこれに当たります。
メリット:
- 追加コストなし
- 多くの最近のCPUに標準搭載
- BIOSで有効にするだけで使える
デメリット:
- ディスクリートTPMよりはセキュリティがやや劣る
- CPUの脆弱性の影響を受ける可能性
一般的な家庭用PCや、コンシューマー向けのノートPCでは、ファームウェアTPMが使われることが多いです。
ソフトウェアTPM
仮想マシンなどで使われる、完全にソフトウェアで実装されたTPMもあります。
ただし、これは物理的な保護がないため、セキュリティは限定的です。
テストや開発目的で使われることが多いですね。
TPMのバージョン:1.2と2.0
TPMには、主に2つのバージョンがあります。
TPM 1.2
2011年頃までの標準規格です。
基本的なセキュリティ機能は提供しますが、現在では古い規格になっています。
特徴:
- SHA-1ハッシュアルゴリズムを使用
- RSA暗号化(2048ビットまで)
- 限定的なアルゴリズムサポート
Windows 11では、TPM 1.2はサポートされていません。
TPM 2.0
2014年に発表された、現在の標準規格です。
特徴:
- SHA-256など、より強力なハッシュアルゴリズム
- 楕円曲線暗号(ECC)のサポート
- アルゴリズムの柔軟性が向上
- より強固なセキュリティ
Windows 11では、TPM 2.0が必須要件となっています。
最近のPCであれば、ほとんどがTPM 2.0に対応しているはずです。
自分のPCにTPMがあるか確認する方法
実際に、自分のPCにTPMが搭載されているか確認してみましょう。
Windows 10/11での確認方法
方法1:デバイスマネージャー
- 「スタート」を右クリック
- 「デバイスマネージャー」を選択
- 「セキュリティデバイス」を展開
- 「トラステッド プラットフォーム モジュール」があるか確認
表示されていれば、TPMが有効になっています。
方法2:tpm.mscコマンド
- 「Win + R」キーを押す
- 「tpm.msc」と入力してEnter
- TPM管理画面が開く
- 仕様バージョンを確認
ここでTPMのバージョンや状態を詳しく確認できます。
方法3:PowerShellコマンド
PowerShellを管理者権限で開き、以下を実行:
Get-Tpm
TPMの有効/無効状態や、バージョン情報が表示されます。
見つからない場合
TPMが見つからない場合、以下の可能性があります:
- TPMが搭載されていない(古いPC)
- BIOSで無効になっている
- ドライバがインストールされていない
BIOSでTPMを有効にする方法
TPMが搭載されていても、BIOSで無効になっていることがあります。
Intel系PCの場合
一般的な手順:
- PCを再起動
- 起動時に「F2」「Del」「F10」などを連打してBIOSに入る
- 「Security」または「Advanced」タブを探す
- 「Intel PTT」または「TPM Device」を見つける
- 「Enabled」に設定
- 設定を保存して再起動
メーカーによって、表示名や場所が異なる場合があります。
AMD系PCの場合
一般的な手順:
- BIOSに入る
- 「Advanced」→「AMD fTPM configuration」
- 「AMD fTPM」を「Enabled」に設定
- 保存して再起動
注意点
TPMを有効にすると、BitLockerなどの暗号化機能が自動的に起動することがあります。
重要なデータは、事前にバックアップしておきましょう。
TPMとBitLocker
Windowsのディスクフルボリューム暗号化機能であるBitLockerは、TPMと深く連携しています。
BitLockerの仕組み
BitLockerは、ドライブ全体を暗号化して、データを保護します。
TPMと組み合わせると、以下のような利点があるんです:
自動的なロック解除
正しいPCで起動すれば、パスワード入力なしで自動的にロックが解除されます。
ハードウェア盗難対策
ハードディスクを別のPCに接続しても、解読できません。
起動前の改ざん検知
システムファイルが変更されていると、起動がブロックされます。
TPMなしでもBitLockerは使える?
実は、TPMなしでもBitLockerは使えます。
ただし、その場合は起動時に毎回パスワードやUSBキーが必要になります。
TPMがあれば、より便利で透過的なセキュリティが実現できるんです。
TPMと測定ブート
TPMの重要な機能の一つが、測定ブート(Measured Boot)です。
測定ブートとは
起動プロセスの各段階で、コンポーネント(ファームウェア、ブートローダー、OSなど)のハッシュ値を計算して、TPMに記録する仕組みです。
「測定」という言葉の通り、各コンポーネントを「測って記録する」んですね。
PCR(Platform Configuration Register)
TPMには、PCRという特殊なレジスタがあります。
測定値は、このPCRに保存されます。
起動プロセスが正常であれば、PCRの値も予測可能な状態になります。
逆に、マルウェアが侵入していると、PCRの値が異なってしまうんです。
アテステーション(証明)
測定された値を使って、そのPCが信頼できる状態であることを外部に証明できます。
企業のネットワークに接続する際、「このPCは安全です」と証明するのに使われるんですよ。
TPMのセキュリティ機能
TPMが提供する具体的なセキュリティ機能を見てみましょう。
暗号鍵の生成と保管
TPMは、暗号化に使う鍵を内部で生成し、安全に保管します。
鍵は外部に取り出せないので、盗まれる心配がありません。
シーリング(封印)
データをTPMに「封印」することで、特定の状態でのみ解除できるようにします。
例えば、「OSが改ざんされていない状態でのみ、暗号化キーを使える」といった制御が可能です。
バインディング(結び付け)
特定のTPMを搭載したPCでのみ使えるように、データを暗号化できます。
そのPCでしか復号化できないので、ハードウェア盗難対策になるんです。
デジタル署名
TPMを使って、文書やプログラムにデジタル署名を付けられます。
本人性の証明や、改ざん検知に役立ちます。
TPMのデメリットと制約
万能に見えるTPMですが、いくつか注意点もあります。
マザーボード交換時の問題
TPMはハードウェアに紐付いているため、マザーボードを交換すると、暗号化されたデータにアクセスできなくなる可能性があります。
ハードウェア変更前には、必ずBitLockerの回復キーをバックアップしておきましょう。
パフォーマンスへの影響
暗号化処理により、わずかにパフォーマンスが低下することがあります。
ただし、最近のCPUには暗号化支援機能があるので、ほとんど気にならないレベルです。
リセットすると全データが失われる
TPMをリセットすると、保存されていた鍵も消えます。
BitLockerで暗号化されたドライブには、アクセスできなくなってしまうんです。
回復キーがないと、データを永遠に失うことになるので注意が必要です。
脆弱性の報告
過去には、TPMの実装に脆弱性が見つかったこともあります。
ファームウェアやソフトウェアを常に最新に保つことが重要ですね。
LinuxでのTPM活用
Windowsだけでなく、LinuxでもTPMを活用できます。
LUKSとTPM
Linuxのディスクフルボリューム暗号化であるLUKS(Linux Unified Key Setup)も、TPMと連携できます。
systemd-cryptenrollを使えば、TPMに暗号化キーを保存できるんです。
sudo systemd-cryptenroll --tpm2-device=auto /dev/sda3
これで、起動時のパスワード入力が不要になります。
tpm2-toolsパッケージ
Linuxでは、tpm2-toolsというパッケージでTPMを操作できます。
sudo apt install tpm2-tools
tpm2_getcap properties-fixed
TPMの情報を確認したり、各種操作を行えます。
IMA(Integrity Measurement Architecture)
Linuxカーネルには、IMAという測定機能があります。
実行されるプログラムやファイルを測定して、TPMに記録できるんですよ。
Windows 11とTPM要件
Windows 11では、TPM 2.0が必須要件になりました。
なぜ必須にしたのか
Microsoftは、セキュリティの底上げを目指しています。
すべてのWindows 11デバイスがTPMを持つことで、より安全なエコシステムが実現できるんです。
対応していないPCはどうする?
選択肢1:TPMを有効にする
BIOSでTPM(Intel PTTやAMD fTPM)を有効にすれば、対応できることがあります。
選択肢2:外付けTPMモジュールを追加
一部のデスクトップPCでは、TPMモジュールを追加できます。
選択肢3:Windows 10を使い続ける
Windows 10は2025年10月までサポートされています。
選択肢4:Linuxに移行
LinuxならTPMなしでも動作します(ただし、セキュリティ向上のためにはあった方が良いです)。
TPMの未来
TPMは、今後さらに重要性が増していくでしょう。
モバイルデバイスへの普及
スマートフォンやタブレットにも、TPMに類似した機能が搭載され始めています。
AppleのSecure Enclave、AndroidのTrustZoneなどがその例です。
IoTデバイスのセキュリティ
IoTデバイスの増加に伴い、組み込み機器でもTPMの採用が進んでいます。
スマート家電やネットワークカメラなど、様々なデバイスで使われるようになるでしょう。
ゼロトラストセキュリティ
企業のセキュリティモデルは、「ゼロトラスト」に移行しつつあります。
TPMは、デバイスの信頼性を証明する重要な要素になっていくんです。
まとめ:TPMでPCのセキュリティを強化しよう
TPMは、現代のPCセキュリティに欠かせない基盤技術です。
この記事のポイント:
- TPMは暗号化キーを安全に保管する専用チップ
- ディスクリートTPM(物理チップ)とファームウェアTPM(CPU内蔵)がある
- TPM 2.0がWindows 11の必須要件
- BitLockerなどのディスク暗号化と連携
- 測定ブートで起動プロセスの整合性を確認
- BIOSでTPMを有効化できる(Intel PTT、AMD fTPM)
- LinuxでもLUKSやIMAと連携可能
- マザーボード交換時は回復キーのバックアップが重要
「難しそう」と思うかもしれませんが、最近のPCなら、BIOSで有効にするだけで使えることがほとんどです。
Windows 11へのアップグレードを機に、TPMを有効化して、より安全なPC環境を作りましょう。
大切なデータを守るため、TPMというセキュリティの基盤をしっかり活用してくださいね。

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