Webブラウザの歴史を語る上で欠かせない存在の一つが「OmniWeb(オムニウェブ)」です。
1995年にNeXTSTEPプラットフォーム向けに誕生し、macOSの進化とともに歩んできたこのブラウザは、独自の機能と洗練されたインターフェースで、macOSユーザーに長年愛されてきました。
この記事では、OmniWebの30年近い歴史、独特な機能、WebKit採用の経緯、そして現在の状況まで詳しく解説します。
OmniWebとは

OmniWeb(オムニウェブ)は、The Omni GroupがmacOS(旧Mac OS X)向けに開発してきたWebブラウザです。
現在は公式な開発が終了していますが、無料でダウンロード可能であり、テストビルドの更新も続けられています。
基本情報
正式名称: OmniWeb
読み方: オムニウェブ
開発元: The Omni Group
初版リリース: 1995年3月17日(NeXTSTEP版)
最終安定版: 5.11.2(2012年7月20日)
対応OS: macOS(10.4.8以降、最新テストビルドはmacOS 11以降)
ライセンス: フリーウェア(2009年以降)
レンダリングエンジン: WebKit
名前の由来
「Omni」はラテン語で「全て」を意味する接頭辞です。
「OmniWeb」は「全方位的なWeb体験」を提供するという開発者の意図が込められた名前と考えられます。
OmniWebの歴史
NeXTSTEP時代の誕生(1995年)
OmniWebの開発は、1994年にThe Omni GroupがNeXTSTEPオペレーティングシステム向けのWebブラウザを作ることから始まりました。
開発の背景:
NeXTSTEPは、スティーブ・ジョブズが設立したNeXT社が開発したUnixベースのオペレーティングシステムでした。
当時、World Wide Webが誕生したばかりで、NeXTユーザー向けのネイティブブラウザが必要とされていました。
歴史的意義:
Tim Berners-LeeがWorld Wide Webを発明したのは、まさにNeXTコンピュータ上でした。
しかし、彼の最初のブラウザは非常に限定的なプラットフォームでしか動作しなかったため、より広く使えるブラウザが求められていました。
初版リリース:
1995年3月17日:
OmniWeb 1.0がLighthouse Designからリリースされました。
驚くべきことに、開発期間はわずか1ヶ月でした。
価格設定:
- 個人ユーザー: 無料
- 組織向け: 1シートあたり120ドル
主な機能:
- HTML 2.0標準のサポート
- インライン画像表示
- NeXTSTEPのDisplay PostScriptとの統合
- 印刷ドキュメント機能
プラットフォームの進化とともに(1995年〜2001年)
NeXTSTEPは、OPENSTEP、そしてMac OS Xへと進化していきました。
OmniWebも、これらのプラットフォームの変化に対応しながら進化を続けました。
Mac OS X Server v1.xの標準ブラウザ:
OmniWeb 3.0.xは、初期のMac OS X Serverに標準Webブラウザとしてバンドルされていました。
Windows版の存在:
一時期、OmniWebはWindows上でYellow BoxまたはOpenStepフレームワークを通じて動作していました。
しかし、これは短命に終わりました。
所有権の変遷:
- Lighthouse DesignがSun Microsystemsに買収された後、バージョン2.5以降はThe Omni Group自身が販売を開始しました。
- バージョン4.0以降は、macOS専用として開発されるようになりました。
WebCore/WebKitの採用(2003年)
2003年2月:
OmniWebは、それまで使用していた独自のHTMLレンダリングエンジンから、AppleがSafariのために開発したAppleWebCore(後のWebKit)に切り替えました。
切り替えの理由:
独自エンジンには問題がありました。
- CSSなどの最新Web標準との互換性が不十分
- 保守とアップデートのコストが高い
WebKitの採用により、最新のWeb標準への対応が大幅に向上しました。
OmniWeb 5.0の革新(2004年)
2004年8月11日:
The Omni Groupは、多くの新機能を搭載したバージョン5.0をリリースしました。
最も特徴的な新機能 – 垂直タブドロワー:
OmniWeb 5.0は、独特のタブブラウジング実装を導入しました。
通常のブラウザが水平にタブを配置するのに対し、OmniWebはウィンドウの側面にあるドロワー(引き出し)に垂直にタブを表示しました。
垂直タブの利点:
- 多数のタブを開いても、タイトルが切れない
- サムネイル表示により、視覚的にタブを識別できる
- ドラッグ&ドロップで簡単に整理できる
賛否両論:
この垂直タブ機能は、ユーザーの間で賛否両論がありました。
画面スペースを取るという批判もありましたが、最終バージョンまで維持されました。
OmniWeb 5.5とWebKitへの完全移行(2006年)
2006年9月7日:
バージョン5.5がリリースされました。
主な新機能:
- WebCoreからWebKitのカスタムバージョンへの移行
- ユニバーサルバイナリ対応(PowerPC/Intel両対応)
- Web Archive形式での保存
- ユーザー定義スタイルシート対応
- 「Select Next Link」機能
- FTPフォルダー表示
- 広告ブロック機能の改善
- ローカライゼーションの更新
無料化への道(2009年)
OmniWebは当初、商用ソフトウェアとして販売されていました。
価格の変遷:
- 初期: 商用ライセンス
- 中期: 39.95ドル
- 後期: 14.95ドル
無料化の決定:
2009年2月24日:
The Omni Groupは、OmniWebを無料化すると発表しました。
無料化の背景:
- SafariやFirefoxなど、高機能な無料ブラウザが一般化
- バージョンアップの頻度が低下
- Omni GroupがOmniGraffle、OmniOutlinerなどの他製品で成功
- ブラウザ市場での競争力維持が困難
同時に、OmniDazzle、OmniDiskSweeper、OmniObjectMeterなども無料化されました。
開発の終了と現在(2012年〜現在)
2012年7月20日:
バージョン5.11.2がリリースされました。
これがMac OS X 10.4.8(Tiger)からOS X 10.11(El Capitan)までをサポートする最後の安定版となりました。
開発終了の発表:
Omni Groupは、OmniWebの積極的な開発を終了すると発表しました。
テストビルドの継続:
2013年以降:
macOSの64ビットアーキテクチャへの移行に対応するため、非公式の64ビットテストビルド「OmniWeb 6」の提供を開始しました。
最新の状況(2025年現在):
- 最新テストビルド: バージョン636.0.7
- 対応OS: macOS 11(Big Sur)以降、macOS 15(Sequoia)を含む
- アーキテクチャ: IntelとApple Siliconの両対応(Universal Binary)
- 更新頻度: 数時間ごと(主にWebKitエンジンの更新を反映)
これらのテストビルドは、Omni Groupのステージングサイトで公開されています。
OmniWebの特徴的な機能
ワークスペース機能
OmniWebの最も優れた機能の一つが「ワークスペース」です。
ワークスペースとは:
複数のウィンドウとタブをグループ化し、異なるWebリサーチトピックごとに整理できる機能です。
主な機能:
- 開いているウィンドウとタブを自動保存
- ウィンドウのサイズと位置も記憶
- キーショートカットやメニューで素早く切り替え
- スナップショット機能で作業状態を保存・復元
- ワークスペースファイルを他のOmniWebユーザーと共有可能
使用例:
- 仕事用のワークスペース(メール、プロジェクト管理、技術ドキュメント)
- 趣味用のワークスペース(ニュースサイト、ブログ、SNS)
- 研究用のワークスペース(論文、参考サイト、データベース)
サイト固有の設定
OmniWebは、Webサイトごとに個別の設定を保存できます。
設定できる項目:
- フォントサイズ
- スタイルシート
- Cookie設定
- ポップアップ許可
- その他の表示設定
例:
あるニュースサイトでフォントサイズを大きくすると、そのサイトの全ページで同じフォントサイズが自動的に適用されます。
強力な広告ブロック機能
OmniWebは、早期から広告ブロック機能を搭載していました。
ブロック方法:
- パターンマッチングによる広告サーバーのブロック
- 一般的な広告サイズに合致する画像のブロック
- 現在のサーバー以外から配信される画像のブロック
- 全Flashコンテンツのブロック
- ポップアップのオンデマンド表示
ショートカット機能
キーワードやフレーズを入力するだけで、特定のWebサイトを開いたり、Web検索を開始できます。
例:
- 「wiki apple」と入力 → Appleについてのウィキペディアを開く
- 「g ruby」と入力 → Googleでrubyを検索
ビューリンク機能
ツールバーのボタンをクリックするだけで、ページ内の全リンクを一覧表示できます。
リンクの多いページで、目的のリンクを素早く見つけるのに便利です。
ソース編集機能
OmniWebには、WebページのHTMLソースを表示し、その場で編集してプレビューできる機能がありました。
機能:
- HTMLソースの表示と編集
- 編集内容のリアルタイムプレビュー
- PUTメソッドによる直接アップロード(サーバー側の対応が必要)
この機能は、Webデベロッパーにとって便利なツールでした。
OmniWebの技術的特徴

Cocoaフレームワークの活用
OmniWebは、macOSのCocoaフレームワークを最大限に活用して開発されています。
Cocoaの利点:
- Quartzによる鮮明な画像と滑らかなテキスト表示
- ドロワー、シート、カスタマイズ可能なツールバー
- macOS標準のUI要素との統合
macOSネイティブ体験:
OmniWebは、「真のmacOSアプリケーション」として設計されており、OSの機能を深く統合していました。
WebKitレンダリングエンジン
2003年以降、OmniWebはAppleのWebKitレンダリングエンジンを使用しています。
WebKitの利点:
- 最新のWeb標準への準拠
- 高速なページレンダリング
- JavaScriptの高速実行
- 継続的なセキュリティアップデート
OmniWebは、WebKitのカスタムバージョンを使用しており、独自の最適化を施していました。
OmniWebの全盛期と衰退
全盛期(2000年代初頭)
OmniWebが輝いていた時代:
2000年代初頭、OmniWebはmacOSで最も優れたブラウザの一つでした。
優位性の理由:
- Omni GroupのOpenStep(Mac OS Xの基礎)開発経験による技術的優位
- 他のブラウザ(Mozilla Firefox、Internet Explorer for Mac)よりも優れたmacOS技術のサポート
- 洗練されたインターフェース
- ユニークな機能
評価:
技術ジャーナリストJohn Siracusa(Ars Technica)は、OmniWebについて次のように評しました。
「尊敬される開発者による、実績のあるmacOS専用アプリケーションでこれほどの機能を見つけることは、クラッカージャックの箱の中に完璧な1/10,000スケールのエッフェル塔のレプリカを見つけるようなものだ」
Safari登場の影響(2003年〜)
2003年:
AppleがSafariブラウザをリリースしました。
OmniWebへの影響:
Safariの登場は、OmniWebにとって大きな転機となりました。
Safariの優位性:
- macOSに標準搭載
- 無料
- Appleによる継続的な開発とサポート
- 同じWebKitエンジンを使用
OmniWebの独自性は徐々に薄れていきました。
競争の激化と開発停滞
2000年代後半になると、ブラウザ市場の競争が激化しました。
主要な競合:
- Safari(macOS標準、無料)
- Firefox(オープンソース、無料、クロスプラットフォーム)
- Chrome(2008年登場、高速、無料)
OmniWebは、これらの無料で高機能なブラウザに対抗することが困難になりました。
開発リソースの転用:
Omni Groupは、OmniGraffl、OmniOutliner、OmniPlanなどの生産性アプリケーションで成功を収めていました。
これらの製品に開発リソースを集中させることで、OmniWebの開発は徐々に停滞しました。
OmniWebを使用していた著名人・組織
OmniWebは、特にNeXTSTEPとMac OS Xの初期時代、多くの技術愛好家やデベロッパーに愛用されていました。
主な使用例:
- Mac OS X Server 1.x: 標準ブラウザとして採用
- NeXTSTEPユーザー: 数少ないグラフィカルブラウザとして重宝
- macOS早期採用者: Safariが登場する前の主要ブラウザ
OmniWebと他のブラウザの比較
OmniWeb vs Safari
共通点:
- 両方ともWebKitを使用
- macOSネイティブアプリケーション
- 優れたmacOS統合
OmniWebの優位性:
- ワークスペース機能
- サイト固有の設定
- 垂直タブドロワー
- より細かいカスタマイズ
Safariの優位性:
- macOS標準ブラウザ
- Appleによる継続的なサポート
- iCloudとの統合
- より高速(最適化)
OmniWeb vs Firefox
共通点:
- 高度なカスタマイズ性
- パワーユーザー向け機能
OmniWebの優位性:
- macOSネイティブUI
- より洗練されたインターフェース
- WebKit(高速)
Firefoxの優位性:
- クロスプラットフォーム
- 豊富な拡張機能
- 継続的な開発
OmniWebが失敗した理由
技術ブログ「Plagiarism Today」のJonathan Baileyは、「Why OmniWeb Failed(なぜOmniWebは失敗したのか)」という記事で、以下の理由を挙げています。
主な失敗要因:
1. 無料化の遅れ:
競合が無料になった後も、長期間有料であり続けました。
2. 独自機能の優位性不足:
垂直タブなどの独自機能は、万人受けするものではありませんでした。
3. Safari の登場:
Appleが標準ブラウザとして Safariを提供したことで、存在意義が薄れました。
4. 開発リソースの不足:
Omni Groupが他の製品に注力したため、ブラウザ開発が停滞しました。
5. エコシステムの欠如:
Chrome、Firefoxのような拡張機能エコシステムがありませんでした。
現在のOmniWeb
入手方法
安定版(5.11.2):
Mac OS X 10.4.8(Tiger)からOS X 10.11(El Capitan)向け。
Omni Groupの公式サイトから無料でダウンロード可能です。
テストビルド(6.0系):
macOS 10.12(Sierra)以降向け。
Omni Groupのステージングサイトから入手可能です。
使用上の注意
現在のOmniWebは:
- 積極的にメンテナンスされていない
- 最新のWeb標準に完全対応していない可能性がある
- セキュリティアップデートが保証されていない
- 一部のWebサイトで互換性問題が発生する可能性がある
推奨される使用方法:
- メインブラウザとしてではなく、サブブラウザとして使用
- 歴史的興味や特定の機能のために使用
- 最新のmacOS環境では、Safari、Chrome、Firefoxなどを主に使用することを推奨
まとめ
OmniWebは、1995年にNeXTSTEPプラットフォーム向けに誕生し、macOSの進化とともに30年近く歩んできた歴史的なWebブラウザです。
OmniWebの主な特徴:
- The Omni Groupによる開発
- NeXTSTEP → OPENSTEP → macOSへと進化
- WebKitレンダリングエンジンの採用
- 独特の垂直タブドロワー機能
- ワークスペース、サイト固有設定などの革新的機能
- 2009年に無料化
- 2012年に公式開発終了、テストビルドは継続中
歴史的意義:
- macOS初期の主要ブラウザの一つ
- Mac OS X Serverの標準ブラウザとして採用
- macOSネイティブアプリケーションの模範
- WebKit採用の先駆者の一つ
現在の位置づけ:
公式な開発は終了していますが、歴史的な価値と独自の機能により、今でも一部のmacOSユーザーに愛用されています。
OmniWebは、商業的には成功しませんでしたが、macOSブラウザの歴史において重要な役割を果たしました。
その革新的な機能の多くは、後の現代的なブラウザに影響を与えています。
参考情報
この記事は以下の情報源を参考に作成しました。
- Wikipedia「OmniWeb」(日本語版・英語版)
- The Omni Group公式サイト「Omni Labs」
- マイナビニュース「現役Webブラウザでは最古参の『OmniWeb』がフリーウェアに」(2009年)
- Ars Technica レビュー記事
- Low End Mac「Is OmniWeb the Best Surviving Free Browser for Mac OS X 10.4 Tiger?」(2011年)
- Macworld「The web at 30: Apple’s place in history」
ブラウザの比較については、Webブラウザ一覧完全ガイド、Chromiumベースとは、Android標準ブラウザ完全ガイドの記事も参考にしてください。
また、レンダリングエンジンについて詳しく知りたい方は、Gecko(レンダリングエンジン)の記事もご覧ください。

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