「オフィスのネットワークが混雑して遅い…」
「ゲスト用Wi-Fiから社内データが見えちゃってる?」
「ネットワークセグメントって何?なんで必要なの?」
ネットワークを管理していると、こんな悩みに出会うことがあります。
実は、ネットワークを適切に「区切る」ことで、セキュリティや速度の問題を一気に解決できるんです。この記事では、ネットワークセグメントの基本から実践的な設計方法まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。
読み終わる頃には、あなたもネットワーク設計の基本が理解できますよ!
ネットワークセグメントとは?ネットワークを「部屋」に分ける技術

ネットワークセグメントとは、一つの大きなネットワークを、複数の小さなネットワークに分割すること。
マンションの一つのフロアを、いくつかの部屋に区切るイメージです。
分割しないとどうなる?
すべてのデバイスが一つの大きなネットワークにいる状態を想像してください。
問題点:
- 社員のパソコンもゲストのスマホも同じネットワーク
- 誰でも他の人のデバイスにアクセスできてしまう
- ネットワーク全体のトラフィック(通信量)が増えて遅くなる
- ウイルスが一気に広がるリスクがある
実例:
100人のオフィスで、全員が同じネットワークにいると、誰かが大容量ファイルを転送しただけで、全員の通信が遅くなってしまいます。
なぜネットワークセグメント化が必要なのか?5つの理由
1. セキュリティの向上
異なるセグメント間の通信を制御できるため、セキュリティが大幅に向上します。
実例:
- ゲストWi-Fiセグメント:インターネットのみアクセス可能
- 社内セグメント:社内サーバーやファイル共有にアクセス可能
- サーバーセグメント:管理者のみアクセス可能
こうすれば、来客がゲストWi-Fiを使っても、社内の機密情報にはアクセスできません。
2. ネットワーク性能の改善
ブロードキャスト(全体への一斉送信)が各セグメント内に限定されるため、無駄な通信が減ります。
ブロードキャストって何?
ネットワーク上の全員に向けて送られる通信のこと。デバイスが増えると、このブロードキャストも増えて、ネットワーク全体が混雑します。
実例:
500台のデバイスが一つのネットワークにいると、ブロードキャストが大量に発生。これを5つのセグメント(各100台)に分けると、ブロードキャストは各セグメント内だけになり、通信量が劇的に減少します。
3. トラブルの影響範囲を限定
問題が発生しても、影響を一つのセグメントに封じ込められます。
実例:
製造部門のネットワークでウイルスが発生しても、営業部門や経理部門のセグメントには影響が及びません。
4. 管理のしやすさ
部門ごとやデバイスタイプごとにセグメントを分けると、管理やトラブルシューティングが楽になります。
実例:
- 管理部門:192.168.10.0/24
- 営業部門:192.168.20.0/24
- 製造部門:192.168.30.0/24
このように整理すると、どのIPアドレスがどの部門か一目瞭然です。
5. 帯域幅の最適化
重要な通信に帯域(通信路の幅)を優先的に割り当てられます。
実例:
- 業務システムセグメント:高優先度
- ゲストWi-Fiセグメント:低優先度
こうすれば、来客がYouTubeを見ていても、業務システムの通信速度は確保されます。
ネットワークセグメント化の方法
セグメント化には、主に2つのアプローチがあります。
方法1:物理的なセグメント化
複数のスイッチやルーターを使って、物理的にネットワークを分離する方法です。
構成例:
インターネット
|
ルーター
|
├─ スイッチA(営業部門)
├─ スイッチB(管理部門)
└─ スイッチC(製造部門)
メリット:
- シンプルで分かりやすい
- 完全な物理的分離でセキュリティが高い
デメリット:
- コストがかかる(機器が複数必要)
- 柔軟性に欠ける(レイアウト変更が大変)
- 配線が複雑になる
方法2:論理的なセグメント化(VLAN)
一つのスイッチ上で、論理的に複数のネットワークを作る方法です。
VLAN(Virtual LAN)とは:
物理的には同じスイッチに接続されていても、論理的には別々のネットワークとして扱う技術。
実例:
同じフロアの同じスイッチに接続されていても:
- ポート1-10:営業部門VLAN(VLAN 10)
- ポート11-20:管理部門VLAN(VLAN 20)
- ポート21-30:ゲストVLAN(VLAN 30)
このように分けられます。
メリット:
- 柔軟性が高い(設定変更だけで対応可能)
- コストを抑えられる
- 配線がシンプル
デメリット:
- 設定がやや複雑
- VLANに対応したスイッチが必要
サブネットとセグメントの関係
「サブネット」と「セグメント」、似ている言葉ですが、少し違います。
サブネット
IPアドレスの範囲を論理的に分割したもの。
実例:
192.168.1.0/24
192.168.2.0/24
192.168.3.0/24
これらは異なるサブネットです。
セグメント
物理的または論理的に分離されたネットワークの区画。
関係性
通常、一つのセグメント = 一つのサブネットという対応関係になります。
実例:
営業部門セグメント = 192.168.10.0/24
管理部門セグメント = 192.168.20.0/24
ただし、一つのセグメントに複数のサブネットを割り当てることも技術的には可能です。
実践的なセグメント設計例

実際のビジネス環境で、どのようにセグメント化するか見てみましょう。
例1:中小企業オフィス(50名規模)
セグメント構成:
管理用セグメント(VLAN 10)
- IPレンジ:192.168.10.0/24
- 対象:サーバー、ネットワーク機器、管理者PC
- アクセス:管理者のみ
業務用セグメント(VLAN 20)
- IPレンジ:192.168.20.0/24
- 対象:社員のPC、業務用デバイス
- アクセス:インターネット、社内サーバー
IoTデバイスセグメント(VLAN 30)
- IPレンジ:192.168.30.0/24
- 対象:プリンター、IPカメラ、スマート照明
- アクセス:必要最小限の通信のみ
ゲストセグメント(VLAN 40)
- IPレンジ:192.168.40.0/24
- 対象:来客のスマホ、ノートPC
- アクセス:インターネットのみ
例2:家庭ネットワーク
メインネットワーク
- 家族のスマホ、PC、タブレット
- 192.168.1.0/24
IoTネットワーク
- スマートスピーカー、スマート家電、防犯カメラ
- 192.168.2.0/24
- 理由:IoT機器はセキュリティが弱いことが多いため分離
ゲストネットワーク
- 来客用Wi-Fi
- 192.168.3.0/24
- 理由:家族のデバイスやNASに触れられないように
例3:学校・教育機関
教職員ネットワーク
- 先生のPC、成績管理システム
- 高いセキュリティレベル
生徒用ネットワーク
- 生徒のタブレット、PC
- フィルタリング機能あり
管理用ネットワーク
- サーバー、ネットワーク機器
- 管理者のみアクセス可能
セグメント間通信の制御
異なるセグメント間で通信させたい場合、どうすればいいのでしょうか?
ルーティングの役割
セグメント間の通信は、ルーターまたはL3スイッチ(レイヤー3スイッチ)が仲介します。
仕組み:
セグメントA(192.168.10.0/24)
↓
ルーター(通信を許可するか判断)
↓
セグメントB(192.168.20.0/24)
ACL(Access Control List)
ACLとは、通信の許可・拒否を細かく設定できるルールのこと。
実例:
ゲストセグメントからの通信:
- インターネットへの通信 → 許可
- 社内セグメントへの通信 → 拒否
- プリンターへの通信 → 許可
このように、必要な通信だけを許可できます。
ファイアウォール
各セグメント間にファイアウォールを設置すれば、より高度なセキュリティ制御が可能です。
機能:
- ポート番号による制御
- プロトコルによる制御
- アプリケーションレベルの制御
- 侵入検知・防御(IDS/IPS)
VLAN設定の基本
実際にVLANを設定してみましょう。スイッチの設定例を紹介します。
Cisco スイッチでの設定例
VLAN作成:
Switch(config)# vlan 10
Switch(config-vlan)# name Sales
Switch(config-vlan)# exit
Switch(config)# vlan 20
Switch(config-vlan)# name Admin
Switch(config-vlan)# exit
ポートへのVLAN割り当て:
Switch(config)# interface FastEthernet 0/1
Switch(config-if)# switchport mode access
Switch(config-if)# switchport access vlan 10
Switch(config-if)# exit
これで、ポート1が営業部門VLAN(VLAN 10)に所属します。
トランクポート設定(複数VLANを通す):
Switch(config)# interface GigabitEthernet 0/1
Switch(config-if)# switchport mode trunk
Switch(config-if)# switchport trunk allowed vlan 10,20
スイッチ間やルーターとの接続に使います。
セグメント化のベストプラクティス
効果的なセグメント設計のためのポイントをまとめます。
1. 目的を明確にする
なぜセグメント化するのか、目的を最初に決めましょう。
目的例:
- セキュリティ強化
- パフォーマンス改善
- 管理の簡素化
- コンプライアンス対応
2. 適切な粒度で分割
細かく分けすぎると管理が複雑になります。適度なバランスが重要です。
推奨:
- 小規模オフィス(50名以下):3-5セグメント
- 中規模オフィス(50-200名):5-10セグメント
- 大規模オフィス(200名以上):10-20セグメント
3. 命名規則を統一
VLANやセグメントの名前を分かりやすく統一しましょう。
良い例:
- VLAN 10:MGT(Management)
- VLAN 20:SALES(営業)
- VLAN 30:ADMIN(管理)
- VLAN 99:GUEST(ゲスト)
4. 文書化を徹底
ネットワーク構成図や設定情報を文書化しておきましょう。
記録すべき情報:
- VLAN番号と名前
- IPアドレス範囲
- 用途と所属デバイス
- アクセス制御ルール
- 変更履歴
5. 定期的な見直し
組織の成長や変化に応じて、セグメント構成を見直しましょう。
見直しのタイミング:
- 従業員数が倍増したとき
- 新しい部門ができたとき
- セキュリティインシデント発生後
- 年1回の定期メンテナンス
トラブルシューティング
セグメント化後によくある問題と解決方法です。
問題1:異なるセグメント間で通信できない
症状:
VLAN 10のPCから、VLAN 20のサーバーにアクセスできない。
原因:
- ルーティングが設定されていない
- ファイアウォールやACLでブロックされている
解決方法:
- ルーターまたはL3スイッチでルーティングを有効化
- 各VLANのゲートウェイアドレスを設定
- ACLで必要な通信を許可
問題2:トランクポートが正常に動作しない
症状:
スイッチ間で複数のVLANが通信できない。
原因:
- トランクポートの設定が正しくない
- VLANの許可リストに含まれていない
解決方法:
トランクポートの設定を確認:
Switch# show interfaces trunk
必要なVLANが許可リストに入っているか確認します。
問題3:VLANホッピング攻撃
症状:
セキュリティが破られて、本来アクセスできないVLANに侵入される。
対策:
- 未使用ポートを無効化または未使用VLANに割り当て
- ネイティブVLAN(タグなしVLAN)を変更
- DTP(Dynamic Trunking Protocol)を無効化
よくある質問
Q1. 家庭用ルーターでもセグメント化できる?
多くの家庭用ルーターには、ゲストネットワーク機能があります。これが簡易的なセグメント化です。本格的なVLANを使いたい場合は、ビジネス向けルーターが必要です。
Q2. Wi-FiでもVLANは使える?
はい。ほとんどのビジネス向けWi-Fiアクセスポイントは、SSID(Wi-Fiネットワーク名)ごとに異なるVLANを割り当てられます。
実例:
- 「CompanyWiFi」→ VLAN 20(社員用)
- 「GuestWiFi」→ VLAN 40(ゲスト用)
Q3. セグメント化すると設定が複雑になる?
最初は複雑に感じるかもしれませんが、適切に設計すれば、長期的には管理が楽になります。また、トラブル発生時の影響範囲も限定できます。
Q4. どのスイッチを買えばいい?
小規模オフィスなら、管理型スイッチ(マネージドスイッチ)でVLAN機能があるものを選びましょう。TP-Link、Netgear、Cisco(高価)などが選択肢です。
まとめ:セグメント化で安全で快適なネットワークを
ネットワークセグメント化は、セキュリティと性能を向上させる重要な技術です。
ネットワークセグメントの重要ポイント:
- 一つの大きなネットワークを複数の小さなネットワークに分割
- 物理的分離またはVLANによる論理的分離
- 一つのセグメント = 一つのサブネットが基本
セグメント化の5つのメリット:
- セキュリティの向上
- ネットワーク性能の改善
- トラブルの影響範囲を限定
- 管理のしやすさ
- 帯域幅の最適化
実装方法:
- 物理的セグメント化:複数のスイッチ使用
- 論理的セグメント化:VLAN使用(推奨)
セグメント設計例:
- 管理用セグメント
- 業務用セグメント
- IoTデバイスセグメント
- ゲストセグメント
ベストプラクティス:
- 目的を明確にする
- 適切な粒度で分割
- 命名規則を統一
- 文書化を徹底
- 定期的な見直し
小規模なオフィスでも、ゲストWi-Fiだけは別セグメントにするなど、できることから始めてみましょう。適切なセグメント化で、安全で快適なネットワーク環境を実現できますよ!
セキュアで高速なネットワークライフを!


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