家にあるWi-Fiルーター、実は通訳のような仕事をしているって知っていましたか?
スマホ、パソコン、ゲーム機、スマートTV…家の中の機器が同時にインターネットを使えるのは、**NAT(ナット)**という技術のおかげなんです。
「オンラインゲームで『NATタイプが…』って表示を見たことがある」 「ポート開放がうまくいかない」 「IPv4とかIPv6とか聞くけど、よく分からない」
こんな経験がある方も多いはず。
この記事では、NATの仕組みを身近な例えで分かりやすく解説し、日常生活でどう関わっているのか、トラブルの解決方法まで詳しく説明していきます。
NATを一言で説明すると

NAT = Network Address Translation(ネットワーク・アドレス・トランスレーション)
日本語にすると「ネットワークアドレス変換」です。
もっと簡単に言うと: 「家の中の機器のプライベートな住所を、インターネット用の公開住所に変換する技術」
マンションの例えで理解する
NATの仕組みは、マンションの郵便受けによく似ています。
インターネット = 外の世界
マンション = あなたの家
マンションの住所 = グローバルIPアドレス(公開住所)
部屋番号 = プライベートIPアドレス(内部住所)
管理人 = ルーター(NAT機能)
郵便物(データ)の流れ:
- 外から郵便物が「○○マンション」宛に届く
- 管理人が「部屋番号」を確認して各部屋に配達
- 住人が郵便を出すときは、管理人が「○○マンション発」として外に出す
これがまさにNATがやっていることなんです!
なぜNATが必要なのか:IPアドレス不足問題
IPアドレスって何?
IPアドレスは、インターネット上の住所です。 世界中のすべての機器が通信するには、それぞれ固有の住所が必要です。
例:
192.168.1.1(プライベートIPアドレス)
203.0.113.1(グローバルIPアドレス)
深刻な住所不足
IPv4アドレスの限界:
- 総数:約43億個(2^32)
- 世界人口:約80億人
- スマホ、PC、IoT機器…一人で複数台
明らかに足りません!
NATが問題を解決
外の世界(インターネット)
↑
グローバルIP: 203.0.113.1(1つだけ)
↑
[ルーター]
↑
家の中(プライベートネットワーク)
├─ PC: 192.168.1.2
├─ スマホ: 192.168.1.3
├─ ゲーム機: 192.168.1.4
└─ タブレット: 192.168.1.5
1つのグローバルIPを家族全員でシェア!
NATの仕組み:どうやって変換しているの?
基本的な動作
1. 内部から外部への通信(アウトバウンド)
[変換前]
送信元: 192.168.1.2:5000(PC)
宛先: 93.184.216.34:80(Webサイト)
↓
[NATによる変換]
↓
[変換後]
送信元: 203.0.113.1:30000(ルーターが割り当て)
宛先: 93.184.216.34:80(そのまま)
2. 外部から内部への返信(インバウンド)
[返信データ]
送信元: 93.184.216.34:80(Webサイト)
宛先: 203.0.113.1:30000
↓
[NATテーブルを確認]
30000番 → 192.168.1.2:5000 へ転送
↓
[変換後]
送信元: 93.184.216.34:80
宛先: 192.168.1.2:5000(PC)
NATテーブルの役割
ルーターは「NATテーブル」という対応表を持っています。
外部ポート | 内部IP:ポート | 状態 | タイムアウト |
---|---|---|---|
30000 | 192.168.1.2:5000 | 有効 | 300秒 |
30001 | 192.168.1.3:8080 | 有効 | 300秒 |
30002 | 192.168.1.4:3074 | 有効 | 120秒 |
この表を使って、どのデータをどの機器に送るか判断します。
NATの種類と特徴

1. スタティックNAT(1対1 NAT)
特徴:
- 1つの内部IPを1つの外部IPに固定マッピング
- 常に同じ変換ルール
使用例:
192.168.1.10 ←→ 203.0.113.10(常に固定)
用途:
- Webサーバーの公開
- 企業の特定機器への外部アクセス
2. ダイナミックNAT
特徴:
- 複数の外部IPアドレスをプール
- 使用時に動的に割り当て
使用例:
IPプール: 203.0.113.1 〜 203.0.113.10
内部機器が通信開始時に空いているIPを割り当て
3. NAPT/PAT(最も一般的)
NAPT = Network Address Port Translation PAT = Port Address Translation
特徴:
- 1つの外部IPを複数の内部機器で共有
- ポート番号で識別
家庭用ルーターはほぼこれ!
外部IP:ポート ←→ 内部IP:ポート
203.0.113.1:30000 ←→ 192.168.1.2:5000
203.0.113.1:30001 ←→ 192.168.1.3:8080
203.0.113.1:30002 ←→ 192.168.1.4:3074
NATタイプ:ゲームで重要な3つの分類
オンラインゲームでよく見る「NATタイプ」
PlayStationやXbox、Nintendo Switchでオンラインプレイをする時、こんな表示を見たことはありませんか?
NATタイプ: タイプ2
NATタイプ: モデレート
NATタイプ: B
これは通信のしやすさを表しています。
3つのNATタイプ
タイプ1 / オープン / A
特徴:
- 最も制限が少ない
- すべてのユーザーと接続可能
- 直接インターネットに接続またはDMZ設定
メリット: ✅ マッチングが早い ✅ ボイスチャットが安定 ✅ ホストになれる
デメリット: ❌ セキュリティリスクが高い
タイプ2 / モデレート / B
特徴:
- 適度な制限
- ほとんどのユーザーと接続可能
- 一般的な家庭用ルーター設定
メリット: ✅ バランスが良い ✅ セキュリティも確保 ✅ 多くのゲームで問題なし
デメリット: ❌ タイプ3のユーザーとは接続困難な場合も
タイプ3 / ストリクト / C
特徴:
- 最も制限が厳しい
- 接続できるユーザーが限定的
- ポート開放されていない
メリット: ✅ セキュリティは最も高い
デメリット: ❌ マッチングに時間がかかる ❌ ボイスチャットが不安定 ❌ ホストになれない
実生活でのNATの影響
オンラインゲーム
影響を受ける要素:
- マッチングの速度
- 接続の安定性
- ボイスチャット品質
- ホストプレイヤーになれるか
改善方法:
1. UPnP を有効化
2. 必要なポートを開放
3. DMZ設定(最終手段)
リモートワーク
VPN接続:
- NATが厳しいと接続できない場合がある
- IPsec、PPTP、L2TPなど方式により影響度が違う
リモートデスクトップ:
- 外部から自宅PCへの接続にはポート転送が必要
- TeamViewerなどはNATを回避する仕組みあり
防犯カメラ・スマートホーム
外出先からの確認:
- 専用アプリはクラウド経由でNATを回避
- 直接接続にはポート転送設定が必要
P2Pファイル共有
BitTorrent等:
- NATが厳しいと速度低下
- ポート開放で改善
NATのメリット・デメリット

メリット
1. IPアドレスの節約
1つのグローバルIP → 数百台の機器で共有可能
月額料金の節約(プロバイダーのIPアドレス追加料金不要)
2. セキュリティの向上
外部から内部機器への直接アクセスを防ぐ
ファイアウォールのような役割
プライベートIPは外部から見えない
3. ネットワーク構成の柔軟性
内部ネットワークの変更が外部に影響しない
機器の追加・削除が簡単
デメリット
1. エンドツーエンド通信の制限
P2P通信が困難
ビデオ通話の品質低下
オンラインゲームの制限
2. 設定の複雑さ
ポート転送の設定が必要
トラブルシューティングが難しい
3. パフォーマンスへの影響
変換処理による遅延(通常は数ミリ秒)
ルーターの負荷増大
トラブルシューティング:よくある問題と解決法
問題1:オンラインゲームでNATタイプが「厳しい」
解決法1:UPnPを有効化
ルーター管理画面 → 詳細設定 → UPnP → 有効
解決法2:ポート転送設定
PlayStation:
TCP: 80, 443, 3478, 3479, 3480
UDP: 3478, 3479
Xbox:
TCP: 3074
UDP: 88, 500, 3074, 3544, 4500
Nintendo Switch:
TCP: 6667, 12400, 28910
UDP: 1-65535(推奨範囲)
解決法3:DMZ設定(最終手段)
ゲーム機のIPアドレスをDMZに設定
※セキュリティリスクあり
問題2:外部から自宅サーバーにアクセスできない
解決法:ポート転送設定
例:Webサーバー(ポート80)を公開
外部ポート: 80 → 内部IP: 192.168.1.10:80
問題3:VPN接続ができない
解決法:パススルー設定
PPTPパススルー: 有効
IPSecパススルー: 有効
L2TPパススルー: 有効
問題4:複数のゲーム機で同時にオンラインプレイできない
解決法:
- 各ゲーム機に固定IPを割り当て
- それぞれ異なるポート範囲を転送
- またはUPnPで自動設定
ルーター設定ガイド
基本的な設定手順
1. ルーター管理画面にアクセス
一般的なアドレス:
・192.168.1.1
・192.168.0.1
・192.168.11.1
ブラウザのアドレスバーに入力
2. ログイン
初期設定の例:
ユーザー名: admin
パスワード: admin または password
※必ず変更しましょう
3. NAT関連の設定場所
一般的な場所:
・詳細設定 → NAT
・セキュリティ → ポート転送
・ゲーム&アプリケーション
・仮想サーバー
メーカー別設定例
Buffalo(バッファロー):
Internet → ポート変換
ゲーム&アプリ → ポート変換
NEC Aterm:
詳細設定 → ポートマッピング
ELECOM(エレコム):
WAN&LAN設定 → ポート転送
IPv6時代のNAT

IPv6でNATは不要?
IPv6の特徴:
- アドレス数:約340澗個(実質無限)
- すべての機器にグローバルIPを割り当て可能
でも実際は…
- セキュリティのためNATを使う場合も
- IPv4との共存期間はまだ続く
- 当面はIPv4とIPv6の併用(デュアルスタック)
IPv6でのNAT(NAT64/DNS64)
IPv6のみの機器 → NAT64 → IPv4のWebサイト
IPv4とIPv6の橋渡し役として活躍しています。
実践:NATタイプを改善する手順
ステップ1:現状確認
# Windows
ipconfig /all
# 確認項目
・デフォルトゲートウェイ(ルーターのIP)
・自分のプライベートIP
ステップ2:ゲーム機に固定IP割り当て
例:PS5に192.168.1.50を割り当て
1. PS5のMACアドレスを確認
2. ルーターでDHCP予約設定
3. 常に同じIPが割り当てられる
ステップ3:必要なポートを転送
ルーター設定例:
名前: PS5_TCP
プロトコル: TCP
外部ポート: 80,443,3478-3480
内部IP: 192.168.1.50
内部ポート: 80,443,3478-3480
ステップ4:動作確認
ゲーム機のネットワーク診断
NATタイプの確認
接続テスト実施
セキュリティを保ちながらNATを緩和する
推奨設定の優先順位
- UPnP(最も安全)
- 必要な時だけポートを開く
- 自動で管理
- 個別ポート転送(やや安全)
- 必要最小限のポートのみ
- 特定の機器のみ
- DMZ(危険)
- 最終手段
- ゲーム専用機のみ
セキュリティ対策
✅ ファームウェアを最新に保つ
✅ 管理画面のパスワードを強固に
✅ 不要なポートは閉じる
✅ ログを定期的に確認
✅ ゲスト用と家庭用でネットワークを分離
まとめ:NATと上手に付き合う方法
NATは、限られたIPアドレスを有効活用し、セキュリティも提供する重要な技術です。
押さえておくべきポイント:
✅ NATの基本
- 内部IPと外部IPを変換
- 1つのグローバルIPを複数機器で共有
- セキュリティの向上にも貢献
✅ 日常生活への影響
- オンラインゲームのマッチング
- リモートワークの接続
- スマートホーム機器の外部アクセス
✅ トラブル解決の基本
- UPnPを試す
- 必要なポートを開放
- それでもダメならDMZ(要注意)
✅ 将来の展望
- IPv6普及でNATの役割は変化
- しばらくは共存が続く
- セキュリティ面でのNATは残る
NATを理解することで、ネットワークトラブルの多くが解決できるようになります。
この知識を活かして、快適なインターネット生活を楽しんでください!
Happy Networking! 🌐
用語集:
- NAT: Network Address Translation
- IP: Internet Protocol
- UPnP: Universal Plug and Play
- DMZ: DeMilitarized Zone(非武装地帯)
- DHCP: Dynamic Host Configuration Protocol
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