「example.comってドメイン名、誰が管理しているんだろう?」
「インターネットって、誰かが全体を管理してるの?」
私たちが毎日使っているインターネット。実は、その裏側で重要な役割を果たしている組織があります。それがICANN(アイキャン)です。
ICANNは、ドメイン名やIPアドレスなど、インターネットの「住所システム」を管理している国際的な非営利組織。あまり知られていませんが、インターネットが正常に機能するために欠かせない存在なんです。
この記事では、ICANNの役割から実際の影響まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます!
ICANNとは?基本を理解しよう
一言で説明すると
ICANN(アイキャン)は、インターネットのドメイン名とIPアドレスを管理する国際的な非営利組織です。
正式名称は「Internet Corporation for Assigned Names and Numbers(インターネット名前番号割当機関)」といいます。
身近な例で理解しよう
郵便システムをイメージしてください。
郵便番号の管理(IPアドレス管理):
- 日本郵便が全国の郵便番号を決めている
- 重複しないように管理
- 新しい住所には新しい番号を割り当て
住所の登録(ドメイン名管理):
- 「東京都新宿区〇〇」という住所を記録
- 誰が使っているか管理
- 同じ住所が二重登録されないようにする
ICANNは、インターネット版の「郵便システム管理者」のような役割を果たしているんです。
設立の背景
1998年設立:
アメリカ・カリフォルニア州に本部を置く非営利法人として誕生しました。
設立理由:
- インターネットの商業化
- 国際的な管理体制の必要性
- アメリカ政府からの独立
それ以前は、アメリカ政府が主導していましたが、インターネットの世界的な普及に伴い、国際的で民間主導の組織が必要になったんです。
ICANNの主な役割
1. ドメイン名の管理
最も重要な役割の一つです。
ドメイン名とは:
https://www.example.com
↑
この部分(example.com)
管理内容:
- 新しいドメイン名の登録ルール策定
- トップレベルドメイン(TLD)の承認
- ドメイン名の紛争解決
- WHOISデータベースの管理
具体例:
「.com」「.jp」「.net」などのルールを決めているのがICANNです。
2. IPアドレスの管理
インターネット上の「住所」を管理します。
IPアドレスとは:
192.168.1.1(IPv4)
2001:db8::1(IPv6)
コンピュータやサーバーに割り当てられる数字の住所です。
管理方法:
- 地域ごとにIPアドレスを割り当て
- 枯渇対策(IPv6への移行)
- 使用状況の監視
ICANNは直接割り当てるのではなく、地域インターネットレジストリ(RIR)を通じて管理しています。
3. ルートサーバーの監督
DNSの頂点にあるルートサーバーを監督します。
ルートサーバーとは:
インターネットの「住所録の大元」となるサーバー。世界に13個のルートサーバーシステムがあります。
役割:
- 全てのドメイン名検索の起点
- インターネットの安定性の要
- 24時間365日の稼働が必須
4. プロトコルパラメータの管理
インターネットの通信ルールに関する番号を管理します。
管理対象:
- ポート番号
- プロトコル番号
- 文字コード
例:
HTTP:ポート80
HTTPS:ポート443
これらの番号が重複しないよう管理しています。
ドメイン名の仕組み
ドメイン名の構造
ドメイン名は階層構造になっています。
www.example.co.jp
│ │ │ │
│ │ │ └─ トップレベルドメイン(TLD)
│ │ └──── セカンドレベルドメイン
│ └─────────── サードレベルドメイン
└──────────────── ホスト名
右から左へ読む:
- jp:日本の国別TLD
- co:企業(commercial)
- example:企業名や団体名
- www:サーバー名
トップレベルドメイン(TLD)の種類
ICANNが承認・管理する最上位のドメインです。
gTLD(Generic TLD – 分野別TLD):
特定の国に限定されないドメイン
.com:商業用(最も人気)
.net:ネットワーク関連
.org:非営利組織
.edu:教育機関
.gov:アメリカ政府機関
.info:情報提供
.biz:ビジネス
ccTLD(Country Code TLD – 国別TLD):
各国に割り当てられたドメイン
.jp:日本
.us:アメリカ
.uk:イギリス
.cn:中国
.de:ドイツ
.kr:韓国
新gTLD:
2013年以降、ICANNが新たに承認した多様なTLD
.tokyo:東京
.shop:ショップ
.app:アプリケーション
.blog:ブログ
.xyz:汎用
現在、1,000種類以上のTLDが存在します。
レジストリとレジストラ
ドメイン名管理には、重要な2つの役割があります。
レジストリ(登録管理組織)
役割:
各TLDのデータベースを管理する大元の組織
例:
- .com / .net:Verisign(ベリサイン)
- .jp:JPRS(日本レジストリサービス)
- .org:Public Interest Registry
仕事内容:
- ドメイン名のデータベース管理
- DNSルートサーバーへの情報提供
- レジストラへのサービス提供
レジストラ(登録事業者)
役割:
一般ユーザーからドメイン名の登録申請を受け付ける事業者
例:
- お名前.com
- ムームードメイン
- GoDaddy
- Google Domains(現在はSquarespaceに移管)
仕事内容:
- 個人や企業からのドメイン登録受付
- 更新手続きの管理
- カスタマーサポート
階層構造
ICANN(ルール策定)
↓
レジストリ(データベース管理)
↓
レジストラ(窓口)
↓
ユーザー(あなた)
私たちがドメインを取得する時は、レジストラを通じて申請しているんです。
WHOISデータベース
WHOISとは
ドメイン名の登録者情報を公開するデータベースシステムです。
公開される情報:
- 登録者名
- 登録者の連絡先(メール、電話、住所)
- ドメイン登録日
- 有効期限
- ネームサーバー情報
WHOISの検索方法
Webサイトから:
多くのドメイン管理会社が検索サービスを提供しています。
https://whois.icann.org/
ICANNの公式WHOISページで検索できます。
コマンドラインから:
whois example.com
プライバシー保護
WHOIS情報の公開は義務:
ドメイン登録時、正確な情報提供が求められます。
個人情報保護サービス:
多くのレジストラが「WHOISプライバシー保護」サービスを提供しています。
仕組み:
- 個人情報の代わりにレジストラの情報を表示
- 実際の連絡先は隠される
- メールは転送される
GDPR(EU一般データ保護規則)の影響:
2018年以降、ヨーロッパのプライバシー法により、WHOISの公開情報が制限されるようになりました。
ICANNの組織構造
マルチステークホルダーモデル
ICANNの特徴は、様々な利害関係者が意思決定に参加する点です。
参加者:
- 政府代表
- 企業
- 技術者コミュニティ
- 市民団体
- 個人ユーザー
一つの国や企業が独占するのではなく、国際的な協力体制で運営されています。
主要な組織
理事会(Board of Directors):
最終的な意思決定機関
GNSO(Generic Names Supporting Organization):
gTLDに関する政策を議論
ccNSO(Country Code Names Supporting Organization):
ccTLDに関する政策を議論
ALAC(At-Large Advisory Committee):
個人インターネットユーザーの代表
GAC(Governmental Advisory Committee):
各国政府の代表による助言組織
日本との関わり
JPNIC(Japan Network Information Center):
日本のIPアドレスやAS番号の管理を担当
JPRS(株式会社日本レジストリサービス):
.jpドメインのレジストリ
日本からもICANNの会議や政策決定に参加しています。
ドメイン名紛争解決
UDRP(統一ドメイン名紛争処理方針)
商標権などを侵害するドメイン名の問題を解決する制度です。
対象となる問題:
サイバースクワッティング:
有名企業や商標を悪用したドメイン取得
例:
- 「nike-shoes.com」を第三者が登録
- 「apple-support.com」で詐欺サイト運営
解決の流れ:
- 商標権者が申立て
- 仲裁機関が審査
- 判断(移転、削除、維持)
日本の仲裁機関:
- 日本知的財産仲裁センター
実際のケース
有名な事例:
- microsoft.com:初期に第三者が登録していたが、Microsoftが取り戻した
- 多数の企業が、自社商標を含むドメインを回収
ICANNとインターネットガバナンス
IANAの役割
IANA(Internet Assigned Numbers Authority):
ICANNの一部門で、実際の技術的管理を担当
管理内容:
- ルートゾーンファイルの管理
- IPアドレス空間の割り当て
- プロトコルパラメータの登録
アメリカ政府からの独立
2016年:歴史的な転換点
それまでアメリカ商務省が監督していたIANA機能が、国際的なマルチステークホルダーコミュニティに移管されました。
意義:
- インターネットの真の国際化
- 単一国家の影響力排除
- グローバルガバナンスの実現
新gTLDプログラム
2012年の大規模拡大
ICANNは2012年、新しいgTLDを大量に認可しました。
背景:
- 既存のTLD(.com、.netなど)の不足
- 多様性の要求
- ビジネス機会の創出
申請プロセス
費用:
- 申請料:約185,000ドル(約2,000万円)
- 高額なため、主に大企業や自治体が申請
審査基準:
- 技術的能力
- 財政的安定性
- 運営計画
日本の例:
- .tokyo(東京都)
- .nagoya(名古屋市)
- .yokohama(横浜市)
人気の新gTLD
.xyz:最も人気の新gTLD
.top:中国で人気
.online:オンラインビジネス向け
.site:汎用
.app:Googleが運営、アプリ開発者向け
ICANNとセキュリティ
DNSSEC(DNS Security Extensions)
DNSの通信を保護する技術で、ICANNが推進しています。
目的:
- DNSキャッシュポイズニング攻撃の防止
- なりすましサイトへの誘導防止
仕組み:
DNS応答にデジタル署名を付けて、改ざんを検知します。
ルートサーバーの保護
Anycast技術:
13個の論理的なルートサーバーは、実際には世界中に数百のサーバーが分散配置されています。
目的:
- DDoS攻撃への耐性
- 災害時の冗長性
- 地理的に近いサーバーへのアクセス
ドメイン名の取得方法
実際にドメインを取得する流れを見てみましょう。
ステップ1:ドメイン名を考える
ポイント:
- 短くて覚えやすい
- ブランド名やサービス名
- スペルミスされにくい
ステップ2:レジストラを選ぶ
日本の主要レジストラ:
- お名前.com
- ムームードメイン
- さくらインターネット
- Value Domain
海外の主要レジストラ:
- GoDaddy
- Namecheap
- Cloudflare Registrar
ステップ3:空き状況を確認
レジストラのサイトで、希望するドメイン名が利用可能か検索します。
ステップ4:登録
必要情報:
- 氏名または組織名
- メールアドレス
- 住所
- 電話番号
料金:
.com:年間1,000〜2,000円程度
.jp:年間3,000〜4,000円程度
.tokyo:年間1,500円程度
価格はレジストラによって異なります。
ステップ5:ネームサーバー設定
ドメイン名をウェブサイトやメールサーバーに紐付けます。
DNS設定:
Aレコード:example.com → 192.0.2.1
MXレコード:メールサーバーの指定
CNAMEレコード:www.example.com → example.com
ICANNの課題と未来
現在の課題
1. プライバシーとセキュリティのバランス
- WHOIS情報の公開範囲
- GDPRなどの法規制との調整
2. gTLDの乱立
- 新gTLDが増えすぎて混乱
- フィッシング詐欺の増加
3. 国際的な利害調整
- 各国政府の意見対立
- 検閲と表現の自由
IPv6への移行
IPv4の枯渇:
約43億個のアドレスが不足
IPv6の普及:
- 340澗(かん)個のアドレス
- 実質無限
ICANNは、IPv6への円滑な移行を支援しています。
IDN(国際化ドメイン名)
多言語ドメイン:
日本語、中国語、アラビア語などでのドメイン名
例:
日本語.jp
مثال.السعودية(アラビア語)
中文.中国(中国語)
インターネットの真の国際化を実現する取り組みです。
よくある質問
Q1. ICANNにドメインを申請するの?
いいえ、直接ICANNには申請しません。
お名前.comやGoDaddyなどのレジストラを通じて申請します。ICANNは、その大元のルールを決める組織です。
Q2. ICANNはインターネットの内容も管理してる?
いいえ、管理していません。
ICANNが管理するのは、ドメイン名やIPアドレスなどの「住所システム」だけです。ウェブサイトの内容やメールの中身には関与しません。
Q3. ドメイン名は買い取り?
いいえ、レンタルです。
ドメイン名は「登録」であり「購入」ではありません。年間契約で、更新しないと失効します。
Q4. .comと.jpの違いは?
管理組織の違い:
- .com:Verisignが管理(国際的)
- .jp:JPRSが管理(日本のみ)
信頼性:
.jpは日本国内の住所確認が必要なため、信頼性が高いとされています。
Q5. ICANNの会議は見学できる?
はい、可能です。
ICANNは年に3回、世界各地で会議を開催しており、一般参加も歓迎しています。リモート参加も可能です。
まとめ:ICANNはインターネットの縁の下の力持ち
ICANNについて、基礎から実際の影響まで解説してきました。
重要ポイントのおさらい:
- インターネットの住所を管理する組織
ドメイン名とIPアドレスの管理が主な役割 - 国際的な非営利組織
特定の国や企業に支配されない運営 - マルチステークホルダーモデル
様々な立場の人々が参加して意思決定 - TLDの承認と管理
.comや.jpなどの最上位ドメインを監督 - 私たちの日常に影響
ウェブサイトへのアクセスを支えている
ICANNは、普段意識することは少ないですが、インターネットが正常に機能するために欠かせない組織です。私たちが毎日使うウェブサイトのアドレスも、ICANNの管理システムがあって初めて成り立っているんですね。
この記事を通じて、インターネットの裏側で働く仕組みへの理解が深まれば嬉しいです!
コメント