ネットワークプリンターにアクセスしようとしたら、「あれ?IPアドレスが変わってる!」という経験はありませんか?
サーバーやNASのIPアドレスがコロコロ変わると、設定し直すのが面倒ですよね。
そんな悩みを解決してくれるのが静的リース(せいてきリース)です。今回は、この便利な機能について、初心者の方でも分かりやすく解説していきますよ!
DHCPの基本:まずは仕組みを理解しよう

静的リースを理解するには、まずDHCPの基本を知っておく必要があります。
DHCPって何?
DHCPは「Dynamic Host Configuration Protocol」の略で、ネットワークに接続した機器に自動的にIPアドレスを割り当てる仕組みです。
DHCPがないと:
- パソコンをネットワークに接続
- 手動でIPアドレスを設定(例:192.168.1.10)
- サブネットマスクを設定(例:255.255.255.0)
- デフォルトゲートウェイを設定(例:192.168.1.1)
- DNSサーバーを設定(例:8.8.8.8)
すべて手作業で設定するのは大変ですよね。
DHCPがあると:
- パソコンをネットワークに接続
- 自動的にすべて設定される
たったこれだけ!便利な仕組みなんです。
動的割り当ての仕組み
通常のDHCPは、利用可能なIPアドレスのプール(範囲)から、空いているものを順番に割り当てていきます。
例:
- プール:192.168.1.100〜192.168.1.200
- パソコンA:192.168.1.100(最初に接続)
- パソコンB:192.168.1.101(次に接続)
- パソコンC:192.168.1.102(さらに次に接続)
接続した順に、空いているIPアドレスが割り当てられるんですね。
リース時間とは
DHCPで割り当てられたIPアドレスには、リース時間(有効期限)があります。
典型的なリース時間:
- 家庭用ルーター:24時間
- 企業ネットワーク:8〜12時間
- 公共Wi-Fi:1〜2時間
リース時間が切れる前に更新(リニュー)されるので、通常は意識する必要がありませんよ。
静的リースとは?DHCPの便利な拡張機能
静的リースは、特定の機器に対して、いつも同じIPアドレスを割り当てる設定です。
別名がいろいろある
この機能は、メーカーやソフトウェアによって呼び方が異なります。
様々な呼び方:
- 静的リース(Static Lease)
- DHCPリザベーション(DHCP Reservation)
- DHCP予約
- 固定割り当て(Fixed Assignment)
- MACアドレスバインディング
すべて同じ機能を指していますね。
MACアドレスとの紐付け
静的リースでは、MACアドレスという機器固有の識別子を使います。
MACアドレスとは:
ネットワーク機器に割り振られた、世界で唯一の番号です。
例: 00:1A:2B:3C:4D:5E
このMACアドレスと、特定のIPアドレスを紐付けるのが静的リースの仕組みなんですよ。
動的割り当てとの違い
| 項目 | 動的割り当て | 静的リース |
|---|---|---|
| IPアドレス | 毎回変わる可能性あり | 常に同じ |
| 設定場所 | 不要 | DHCPサーバー側で設定 |
| 管理 | 自動 | 手動で登録 |
| 適した用途 | 一般的なクライアント | サーバー、プリンター |
静的IPアドレスとの違い:どちらを使うべき?
「固定IPなら、機器側で設定すればいいのでは?」と思うかもしれませんね。
静的IPアドレス(手動設定)
機器側で直接設定:
IPアドレス:192.168.1.50
サブネットマスク:255.255.255.0
ゲートウェイ:192.168.1.1
DNS:192.168.1.1
機器の設定画面で、これらを手入力します。
メリット:
- DHCPサーバーに依存しない
- 確実に固定される
デメリット:
- 各機器で個別に設定が必要
- ネットワーク構成変更時に全機器の設定変更が必要
- IPアドレスの重複リスク
- 管理が煩雑
静的リース(DHCP予約)
DHCPサーバー側で管理:
ルーターやDHCPサーバーで、「このMACアドレスには、このIPアドレスを割り当てる」と設定するだけです。
メリット:
- 集中管理できる
- 機器側の設定は「DHCP」のまま
- ネットワーク構成変更が容易
- DNSサーバーなども自動で配布
- 重複を防ぎやすい
デメリット:
- DHCPサーバーの設定が必要
- サーバーダウン時は割り当てられない
どちらを選ぶべき?
静的リースがおすすめ:
- サーバー、NAS、プリンター
- ネットワークカメラ
- スマートホーム機器
- ゲーム機(ポート開放する場合)
静的IPアドレスが適している:
- DHCPサーバー自体
- ルーター
- 完全独立稼働が必要な機器
- DHCPが使えない特殊な機器
一般的には、静的リースの方が管理しやすいですよ。
静的リースのメリット:なぜ便利なの?
具体的にどんな良いことがあるのか見ていきましょう。
メリット1:固定アドレスで常にアクセス可能
サーバーやNASへのアクセスが安定:
「\192.168.1.50\share」のようなIPアドレスでアクセスする場合、アドレスが変わると接続できなくなります。
静的リースなら、常に同じアドレスなので安心ですね。
メリット2:集中管理で効率的
すべての設定をルーター側で管理:
100台のパソコンがあっても、ルーターの設定画面だけで全体を把握できます。
機器側を触る必要がないので、リモート管理も簡単です。
メリット3:ネットワーク変更が楽
サブネット変更時の手間が激減:
例えば、ネットワークを「192.168.1.x」から「192.168.10.x」に変更する場合。
静的IP設定: 全機器を個別に設定変更(大変!)
静的リース: DHCPサーバー側だけ変更(簡単!)
大規模なネットワークほど、この差は大きいですよ。
メリット4:DNS設定も自動配布
手動設定だと:
DNSサーバーも各機器に入力する必要があります。
静的リースなら:
IPアドレスと一緒に、DNSサーバー情報も自動で配られます。
メリット5:ポート転送が簡単
ゲームやサーバー公開時に便利:
ポート転送(ポートフォワーディング)を設定する際、転送先のIPアドレスが固定されている必要があります。
静的リースなら、確実に同じアドレスを維持できますね。
家庭用ルーターでの設定方法

実際に設定してみましょう。メーカーによって画面は異なりますが、基本的な流れは同じです。
事前準備:MACアドレスの確認
Windowsの場合:
# コマンドプロンプトを開く
ipconfig /all
# 「物理アドレス」の欄を確認
# 例:00-1A-2B-3C-4D-5E
macOSの場合:
# ターミナルを開く
ifconfig | grep ether
# 例:ether 00:1a:2b:3c:4d:5e
Linuxの場合:
ip link show
# または
ifconfig
スマートフォンの場合:
- 設定→Wi-Fi→接続中のネットワークの詳細を確認
- 「MACアドレス」または「Wi-Fiアドレス」と表示される
ルーターの設定画面にアクセス
一般的なアクセス方法:
- ブラウザを開く
- アドレスバーに「192.168.1.1」または「192.168.0.1」を入力
- ユーザー名とパスワードを入力(本体に記載されていることが多い)
主要メーカーのデフォルトアドレス:
| メーカー | アドレス | デフォルトログイン |
|---|---|---|
| バッファロー | 192.168.11.1 | admin / password |
| NEC(Aterm) | 192.168.10.1 | admin / 本体記載 |
| TP-Link | 192.168.0.1 | admin / admin |
| ASUS | 192.168.1.1 | admin / admin |
静的リースの設定手順
一般的な流れ:
ステップ1:DHCPサーバー設定を開く
メニューから「DHCPサーバー」「LAN設定」「DHCP予約」などの項目を探します。
ステップ2:新しい予約を追加
「追加」「新規作成」などのボタンをクリックします。
ステップ3:情報を入力
- MACアドレス:
00:1A:2B:3C:4D:5E - IPアドレス:
192.168.1.50 - ホスト名(任意):
MyPrinter
ステップ4:保存して適用
設定を保存し、必要に応じてルーターを再起動します。
バッファローの例
詳細設定 → LAN → DHCPサーバー → 手動割り当てリスト
→ 追加
→ MACアドレス入力 & IPアドレス入力
→ 設定
TP-Linkの例
Advanced → Network → DHCP Server → Address Reservation
→ Add
→ MAC Address & Reserved IP Address入力
→ Save
Linuxサーバーでの設定方法
DHCPサーバー(ISC DHCP、dnsmasqなど)を自分で運用している場合の設定です。
ISC DHCP Serverの場合
設定ファイル: /etc/dhcp/dhcpd.conf
# 設定ファイルを編集
sudo nano /etc/dhcp/dhcpd.conf
# 静的リースを追加
host myprinter {
hardware ethernet 00:1a:2b:3c:4d:5e;
fixed-address 192.168.1.50;
option host-name "myprinter";
}
host nas-server {
hardware ethernet 00:11:22:33:44:55;
fixed-address 192.168.1.60;
option host-name "nas";
}
# サービスを再起動
sudo systemctl restart isc-dhcp-server
各項目の意味:
host myprinter:識別用の名前(任意)hardware ethernet:MACアドレスfixed-address:割り当てるIPアドレスoption host-name:ホスト名(オプション)
dnsmasqの場合
設定ファイル: /etc/dnsmasq.conf
# 設定ファイルを編集
sudo nano /etc/dnsmasq.conf
# 静的リースを追加
dhcp-host=00:1a:2b:3c:4d:5e,192.168.1.50,myprinter
dhcp-host=00:11:22:33:44:55,192.168.1.60,nas
# サービスを再起動
sudo systemctl restart dnsmasq
書式:
dhcp-host=MACアドレス,IPアドレス,ホスト名
シンプルで分かりやすいですね。
複数のオプション指定
# より詳細な設定
dhcp-host=00:1a:2b:3c:4d:5e,192.168.1.50,myprinter,infinite
# リース時間を無期限に設定
dhcp-host=00:11:22:33:44:55,set:nas-group,192.168.1.60,12h
# 特定のタグを付けて、12時間のリース時間
設定後の確認方法
正しく設定できているか確認しましょう。
機器側での確認
Windows:
ipconfig /all
# 以下を確認
# - IPv4アドレス:設定したIPになっているか
# - DHCPサーバー:ルーターのIPアドレス
# - リース取得日時
Linux:
ip addr show
# または
nmcli device show
macOS:
システム環境設定 → ネットワーク → 詳細 → TCP/IP
DHCPサーバー側での確認
ISC DHCP:
# リース情報を確認
cat /var/lib/dhcp/dhcpd.leases
# ログを確認
sudo journalctl -u isc-dhcp-server -f
dnsmasq:
# リース情報を確認
cat /var/lib/misc/dnsmasq.leases
# ログを確認
sudo journalctl -u dnsmasq -f
Pingテストで疎通確認
# 設定したIPアドレスにPing
ping 192.168.1.50
# 応答があればOK
64 bytes from 192.168.1.50: icmp_seq=1 ttl=64 time=1.23 ms
実用例:こんな場面で活躍

実際にどんな使い方があるか見てみましょう。
例1:ネットワークプリンターの固定
シナリオ:
オフィスの共有プリンターに、全員がアクセスできるようにしたい。
設定:
MACアドレス:00:1A:2B:3C:4D:5E
IPアドレス:192.168.1.10
ホスト名:Office-Printer
これで、全員が「\192.168.1.10」でプリンターにアクセスできますね。
例2:NASサーバーの固定
シナリオ:
家族で写真や動画を共有するNASサーバー。
設定:
MACアドレス:00:11:22:33:44:55
IPアドレス:192.168.1.100
ホスト名:Family-NAS
スマホやパソコンから、常に同じアドレスでアクセスできます。
例3:ゲーム機のポート開放
シナリオ:
PS5やNintendo Switchで、NATタイプをオープンにしたい。
設定手順:
- 静的リースでゲーム機のIPを固定(例:192.168.1.200)
- ルーターのポート転送設定で、該当IPに必要なポートを開放
IPが固定されているので、ポート転送が確実に機能しますよ。
例4:監視カメラシステム
シナリオ:
複数の防犯カメラを設置して、録画サーバーでまとめて管理。
設定:
カメラ1:192.168.1.81
カメラ2:192.168.1.82
カメラ3:192.168.1.83
カメラ4:192.168.1.84
録画サーバー:192.168.1.90
連番で管理すると分かりやすいですね。
例5:スマートホーム機器の管理
シナリオ:
スマート照明、サーモスタット、スマートスピーカーなど。
設定:
スマート照明:192.168.1.51〜59
サーモスタット:192.168.1.60
スマートスピーカー:192.168.1.70
カテゴリごとにIP範囲を分けると、管理が楽になります。
トラブルシューティング
設定してもうまくいかない場合の対処法です。
問題1:設定したIPが割り当てられない
症状:
静的リースを設定したのに、別のIPアドレスが割り当てられる。
原因と対処:
原因1:MACアドレスの入力ミス
MACアドレスを再確認してください。コロン(:)とハイフン(-)の違いにも注意が必要です。
原因2:リースの更新が必要
機器側でIPアドレスを解放して再取得します。
# Windows
ipconfig /release
ipconfig /renew
# Linux
sudo dhclient -r
sudo dhclient
原因3:IPアドレスの競合
他の機器が同じIPを使っていないか確認しましょう。
# ARPテーブルで確認
arp -a | grep 192.168.1.50
問題2:機器が全く接続できない
症状:
静的リース設定後、ネットワーク接続自体ができない。
対処法:
DHCPプールの確認:
静的リースで設定したIPアドレスが、DHCPプールの範囲外か確認してください。
推奨構成:
DHCPプール:192.168.1.100〜192.168.1.200
静的リース:192.168.1.10〜192.168.1.99
プールと静的リースを分けると、競合を防げますよ。
問題3:ルーター再起動後に消える
症状:
ルーターを再起動すると、設定が消えてしまう。
原因:
設定を保存し忘れているか、ルーターのバグの可能性があります。
対処法:
- 設定後、必ず「保存」「適用」ボタンをクリック
- 設定をエクスポート(バックアップ)しておく
- ファームウェアを最新版にアップデート
問題4:一部の機器だけ接続できない
症状:
ほとんどの機器は正常だが、特定の機器だけDHCPで接続できない。
原因:
MACアドレスフィルタリングが有効になっている可能性があります。
対処法:
ルーターの設定で「MACアドレスフィルタリング」を確認し、該当MACアドレスを許可リストに追加しましょう。
IPアドレスの命名規則とベストプラクティス
効率的に管理するためのコツです。
用途別のIP範囲を決める
推奨構成例:
192.168.1.1 ルーター(ゲートウェイ)
192.168.1.2-9 ネットワーク機器(スイッチ、APなど)
192.168.1.10-49 サーバー、NAS
192.168.1.50-79 プリンター、スキャナー
192.168.1.80-99 IoT機器、カメラ
192.168.1.100-200 DHCPプール(動的割り当て)
192.168.1.201-254 予備
ルールを決めておくと、後から見てもすぐ分かりますね。
ホスト名も設定する
IPアドレスだけでなく、分かりやすいホスト名も付けましょう。
例:
192.168.1.10 → server01
192.168.1.50 → printer-office
192.168.1.81 → camera-entrance
192.168.1.82 → camera-parking
ドキュメント化する
設定内容をExcelやスプレッドシートで管理しておくと便利です。
管理表の項目例:
| IPアドレス | MACアドレス | ホスト名 | 用途 | 設置場所 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 192.168.1.10 | 00:1A:2B:… | nas01 | NAS | サーバールーム | 4TB×4 |
| 192.168.1.50 | 00:11:22:… | printer01 | プリンター | 1階 | キヤノン |
DHCPプールとの重複を避ける
重要:静的リースとDHCPプールは分ける
同じIPアドレスが動的割り当てと静的リースで重複しないよう、必ず範囲を分けてください。
セキュリティの考慮点
静的リースを使う際の注意事項です。
MACアドレススプーフィング
MACアドレスは偽装できるため、完全なセキュリティ対策にはなりません。
対策:
- MACアドレスフィルタリングと併用
- VLANで重要な機器を分離
- ファイアウォールで適切にアクセス制御
情報の外部流出に注意
静的リース設定には、ネットワーク構成の情報が詰まっています。
対策:
- ルーターの管理画面に強固なパスワードを設定
- 設定のバックアップファイルは安全に保管
- 外部からの管理アクセスは無効化
未使用のリースは削除
使わなくなった機器のリースは、定期的に削除しましょう。
古い設定が残っていると、トラブルの原因になることがありますよ。
よくある質問
Q: 静的リースと静的IPアドレス、どちらが良い?
A: ほとんどの場合、静的リースがおすすめです。集中管理できて、ネットワーク構成変更も簡単です。ただし、DHCPサーバー自体やルーターには、静的IPアドレスを設定する必要がありますね。
Q: リース時間は「無期限」にすべき?
A: 静的リースの場合、リース時間を無期限にしても問題ありません。ただし、定期的に更新されることで、ネットワークの健全性を確認できる側面もあるため、24時間程度に設定しておくのも一案です。
Q: MACアドレスが変わったらどうなる?
A: ネットワークカードを交換したり、仮想MACアドレスを使っている場合、MACアドレスが変わることがあります。その場合は、DHCPサーバー側の設定を更新する必要がありますよ。
Q: 静的リースの数に制限はある?
A: 技術的な制限はほとんどありませんが、家庭用ルーターでは数十個程度が上限のことが多いです。業務用のDHCPサーバーなら、数千個でも問題ありません。
Q: スマホやタブレットにも設定すべき?
A: 頻繁に持ち歩く機器には、通常は不要です。静的リースは、固定的に設置される機器(サーバー、プリンター、カメラなど)に使うのが一般的ですね。
まとめ:静的リースで快適なネットワーク管理
静的リース(DHCP Reservation)について、重要なポイントをおさらいします。
今日学んだこと:
- 静的リースは、特定の機器に常に同じIPを割り当てる仕組み
- MACアドレスで機器を識別する
- 静的IPアドレスより管理が楽
- サーバー、プリンター、NASなどに最適
- ルーターやDHCPサーバーで簡単に設定できる
- 用途別にIP範囲を分けると管理しやすい
- DHCPプールとの重複を避けることが重要
静的リースは、一度設定してしまえば、その後のネットワーク管理が驚くほど楽になります。
プリンターやNASのIPアドレスが勝手に変わって困った経験がある方は、ぜひこの機能を使ってみてください。最初は少し手間に感じるかもしれませんが、長期的に見れば確実に時間の節約になりますよ。
小規模なホームネットワークから、数百台規模のオフィスネットワークまで、静的リースは幅広く活用できる便利な技術です。ぜひ、今日学んだ知識を実践で活かしてみてくださいね!


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