「パスワードって、本当に安全なの?」
「ブルートフォース攻撃って聞いたことあるけど、何が怖いの?」
インターネット上には、あなたのパスワードを破ろうとする攻撃が24時間365日行われています。
その代表的な手口がブルートフォース攻撃(Brute Force Attack)です。
この記事では、ブルートフォース攻撃とは何か、どれくらい危険なのか、そしてあなたのアカウントを守るための具体的な対策まで、初心者の方にも分かりやすく解説します。
難しい専門用語は使わず、すぐに実践できる情報をお届けしますね。
ブルートフォース攻撃とは?基本を理解しよう

ブルートフォース攻撃の定義
ブルートフォース攻撃(Brute Force Attack)とは、パスワードやPIN(暗証番号)などを、考えられるすべての組み合わせを試して突破しようとする攻撃手法です。
「ブルートフォース(Brute Force)」は英語で「力ずく」という意味があります。
つまり、頭を使わず、ひたすら力ずくで試し続ける攻撃方法なんですね。
日本語では「総当たり攻撃」
日本語では総当たり攻撃とも呼ばれます。
これは将棋やチェスの「総当たり戦」と同じ意味で、可能性のあるすべてのパターンを試すということです。
具体例で理解しよう
4桁のPINコードを例に考えてみましょう。
可能な組み合わせ:
- 0000から9999まで
- 合計10,000通り
ブルートフォース攻撃では:
- まず「0000」を試す
- ダメなら「0001」を試す
- ダメなら「0002」を試す
- ……と延々と続ける
- いつか必ず「正解」に当たる
人間がやると気が遠くなりますが、コンピューターなら一瞬です。
ブルートフォース攻撃の種類
ブルートフォース攻撃にはいくつかのバリエーションがあります。
1. シンプルブルートフォース
最も基本的な手法です。
文字や数字のすべての組み合わせを、順番に試していきます。
特徴:
- 必ず正解にたどり着く
- 時間がかかる
- システムの負荷が高い
2. 辞書攻撃(ディクショナリーアタック)
よく使われる単語や人気のパスワードから試す手法です。
使われるリスト:
- password
- 123456
- qwerty
- admin
- welcome
- 名前や誕生日の組み合わせ
実は多くの人が、こうした簡単なパスワードを使っているため、シンプルブルートフォースより効率的なんです。
3. ハイブリッド攻撃
辞書攻撃とブルートフォース攻撃を組み合わせた手法です。
例:
- 「password」という単語に数字を追加
- password1
- password123
- password2024
「単語+数字」や「単語+記号」のパターンを優先的に試します。
4. リバースブルートフォース
通常とは逆のアプローチです。
特徴:
- 1つのパスワードで複数のアカウントを試す
- よく使われるパスワード(例:123456)を使う
- 大量のユーザー名に対して試行
セキュリティの甘いサイトで特に効果的です。
5. クレデンシャルスタッフィング
流出したID・パスワードのリストを使って攻撃する手法です。
攻撃の流れ:
- 過去に流出したログイン情報を入手
- 他のサービスでも同じ組み合わせを試す
- 同じパスワードを使い回している人が被害に遭う
「パスワードの使い回し」が狙われるわけですね。
ブルートフォース攻撃はどれくらい速い?
「すべての組み合わせを試すなんて、時間がかかるのでは?」
そう思うかもしれませんが、現代のコンピューターは驚くほど高速です。
パスワードの長さと解析時間
一般的なコンピューターでの解析時間の目安です。
4文字のパスワード(英小文字のみ):
- 組み合わせ:約46万通り
- 解析時間:数秒
6文字のパスワード(英小文字のみ):
- 組み合わせ:約3億通り
- 解析時間:数分
8文字のパスワード(英小文字のみ):
- 組み合わせ:約2,000億通り
- 解析時間:数時間~数日
8文字のパスワード(英大小文字+数字+記号):
- 組み合わせ:約6京通り
- 解析時間:数年~数十年
高性能なコンピューターならさらに速い
専門の攻撃用コンピューターでは:
- 1秒間に数十億回の試行が可能
- GPU(グラフィックボード)を使えばさらに高速化
- 複数のコンピューターを同時に使う(分散攻撃)
結果として、簡単なパスワードは本当に一瞬で破られてしまいます。
ブルートフォース攻撃の標的になりやすいもの
どんなサービスやシステムが狙われやすいのでしょうか?
1. Webサービスのログインページ
最も標的になりやすいのがWebサービスです。
狙われやすいサービス:
- SNS(Twitter、Facebook、Instagramなど)
- メールサービス(Gmail、Yahoo!メールなど)
- ネットバンキング
- ショッピングサイト
- ビジネスツール(Slack、チャットワークなど)
アカウントを乗っ取られると、個人情報の流出や金銭被害につながります。
2. Wi-Fiルーターのパスワード
自宅やオフィスのWi-Fiのパスワードも狙われます。
侵入されると:
- インターネット通信を盗聴される
- 不正なサイトへのアクセスに悪用される
- ネットワーク内の他の機器に侵入される
3. サーバーやクラウドサービス
企業のサーバーやクラウドサービスも標的です。
狙われやすいもの:
- SSH(サーバーへのリモート接続)
- FTP(ファイル転送サービス)
- VPN(仮想プライベートネットワーク)
- 管理画面
侵入されると、企業の重要データが盗まれたり、システムが破壊されたりします。
4. スマートフォンやPCのロック解除
デバイス自体のロックも攻撃対象になります。
特に危険なケース:
- 紛失・盗難されたスマートフォン
- 中古で売却したデバイス
- 公共の場所に放置されたPC
デバイスを物理的に手に入れた攻撃者が、時間をかけて解析を試みます。
実際にあったブルートフォース攻撃の被害事例
具体的な事例を見ていきましょう。
事例1:大規模なSNSアカウント乗っ取り
状況:
- 複数のSNSアカウントが一斉に乗っ取られる
- 被害者は簡単なパスワード(123456、passwordなど)を使用
- 辞書攻撃で短時間で突破された
被害内容:
- なりすまし投稿による詐欺
- 友人へのスパムメッセージ送信
- 個人情報の流出
事例2:企業サーバーへの不正アクセス
状況:
- 中小企業のWebサーバーが攻撃される
- 管理者アカウントのパスワードが単純(admin123)
- ブルートフォース攻撃で管理者権限を奪取
被害内容:
- 顧客データベースの流出
- Webサイトの改ざん
- ランサムウェア(身代金要求ウイルス)の感染
事例3:自宅Wi-Fiへの不正侵入
状況:
- 初期設定のままのWi-Fiパスワードを使用
- 近隣の攻撃者がブルートフォース攻撃を実行
- 数日かけてパスワードを解読
被害内容:
- 通信内容の盗聴
- 不正なサイトへのアクセスに悪用
- 回線速度の低下
これらの事例に共通するのは、パスワードが単純だったことです。
ブルートフォース攻撃から身を守る7つの対策
それでは、具体的な防御策をご紹介します。
対策1:長く複雑なパスワードを使う
最も基本的で重要な対策です。
推奨されるパスワード:
- 最低でも12文字以上(できれば16文字以上)
- 英大文字・英小文字・数字・記号を混在させる
- 辞書にある単語を避ける
- 個人情報(誕生日、名前など)を使わない
良い例:
- W9#mK2$pL7@nQ5
- Tr!pp1ng@Summ3r#2024
悪い例:
- password123
- tanaka1980
- 123456
対策2:パスワードマネージャーを使う
複雑なパスワードを覚えられない?
パスワードマネージャー(パスワード管理ツール)を使えば解決です。
代表的なツール:
- 1Password
- Bitwarden
- LastPass
- Keeper
メリット:
- 複雑なパスワードを自動生成
- すべてのパスワードを安全に保管
- 自動入力で便利
- サービスごとに異なるパスワードを使える
価格:
- 無料版でも基本機能は十分
- 有料版:月300円~1,000円程度
対策3:二段階認証(2FA)を必ず設定する
パスワードだけでは不十分です。
二段階認証(Two-Factor Authentication)を設定すれば、パスワードが破られても安全です。
二段階認証の仕組み:
- パスワードを入力
- スマートフォンに送られる認証コードを入力
- 両方が正しければログイン成功
認証方法の種類:
- SMS(ショートメッセージ)で受け取る
- 認証アプリ(Google Authenticator、Microsoft Authenticatorなど)
- 生体認証(指紋、顔認証)
- セキュリティキー(物理デバイス)
設定すべきサービス:
- メールアカウント(Gmail、Yahoo!メールなど)
- SNS(Twitter、Facebook、Instagramなど)
- ネットバンキング
- クラウドストレージ(Google Drive、Dropboxなど)
対策4:パスワードを使い回さない
絶対にやってはいけないことが、複数のサービスで同じパスワードを使うことです。
なぜ危険か:
- 1つのサービスから情報が流出
- 攻撃者が他のサービスでも同じパスワードを試す
- 複数のアカウントが一気に乗っ取られる
対策:
- サービスごとに異なるパスワードを設定
- パスワードマネージャーで管理する
- 重要度の高いサービスは特に強固なパスワードに
対策5:ログイン試行回数制限を活用する
多くのサービスには、ログイン失敗回数の制限があります。
仕組み:
- 5回連続でログイン失敗すると一時的にロック
- 一定時間(15分~30分)待たないと再試行できない
- 繰り返すと長時間のロックや永久停止
これにより、ブルートフォース攻撃を大幅に遅らせることができます。
自分でできること:
- サービスの設定で試行回数制限を確認
- 企業サイトなら管理画面で設定を有効化
- ログイン履歴を定期的にチェック
対策6:不審なログインを検知する
多くのサービスには、異常なログインを検知する機能があります。
検知される異常:
- 普段と違う場所からのアクセス
- 短時間に大量のログイン試行
- 見知らぬデバイスからのアクセス
- 深夜など普段と異なる時間帯
通知設定を有効にする:
- ログイン時にメールで通知
- 新しいデバイスからのアクセス時に警告
- 不正ログインが疑われる場合は即座にアラート
対策7:定期的にパスワードを変更する
3ヶ月~6ヶ月に一度はパスワードを変更しましょう。
変更が特に重要なケース:
- ニュースでデータ流出が報道されたとき
- 不審なログイン通知があったとき
- 公共のWi-Fiを使った後
- 会社を退職したとき(業務用アカウント)
注意点:
- 古いパスワードと似たものは避ける
- 規則性のある変更(末尾の数字を1増やすだけなど)は危険
- 完全に新しいパスワードにする
サービス提供側の対策

個人だけでなく、サービスを提供する側も対策が必要です。
CAPTCHA(キャプチャ)の導入
「私はロボットではありません」というチェックボックス、見たことありますよね?
これがCAPTCHAです。
仕組み:
- 歪んだ文字を読み取らせる
- 画像から特定のものを選ばせる
- チェックボックスをクリックさせる
人間には簡単でも、プログラムには難しいため、自動攻撃を防げます。
レートリミット(速度制限)
一定時間内のアクセス回数を制限する仕組みです。
例:
- 1分間に5回までのログイン試行のみ許可
- それを超えると一時的にアクセスを遮断
- IPアドレス(ネット上の住所)ごとに制限
ブルートフォース攻撃には大量の試行が必要なので、速度を制限されると攻撃が非常に困難になります。
IPアドレスのブラックリスト化
過去に攻撃を行ったIPアドレスを記録し、アクセスを拒否します。
手法:
- 不審な行動をしたIPを自動検知
- 世界中の攻撃元IPを共有するサービスを利用
- ブラックリストに載ったIPは自動ブロック
パスワードポリシーの強制
弱いパスワードを設定できないようにする仕組みです。
よくあるルール:
- 最低8文字以上
- 英大文字・小文字・数字を必ず含める
- よく使われるパスワードは禁止
- 過去に使ったパスワードは再利用不可
よくある質問と回答
Q. パスワードマネージャー自体が攻撃されたら危険では?
確かに一理ありますが、適切に設計されたパスワードマネージャーは非常に安全です。
安全性の理由:
- 強力な暗号化技術を使用
- マスターパスワードは保存されない
- データは分散保存される
- セキュリティ監査を定期的に実施
パスワードを紙に書いたり、ブラウザの自動保存機能だけに頼るよりずっと安全です。
Q. 指紋認証や顔認証ならブルートフォース攻撃されませんか?
生体認証は基本的にブルートフォース攻撃に強いです。
理由:
- 組み合わせのパターンが膨大
- 試行回数が厳しく制限されている
- 物理的な特徴を偽造するのは困難
ただし、完璧ではありません。高度な攻撃では偽造指紋などが使われる可能性もあります。
Q. パスワードを紙に書くのは危険ですか?
状況によります。
紙に書くメリット:
- デジタル攻撃を受けない
- ハッキングの心配がない
- シンプルで確実
紙に書くデメリット:
- 紛失や盗難のリスク
- 物理的にアクセスされたら終わり
- 持ち歩きが不便
推奨する方法:
- 自宅の金庫など安全な場所に保管
- 重要なアカウントのみ紙に書く
- 日常的に使うものはパスワードマネージャー
Q. ブルートフォース攻撃を受けているかどうか分かりますか?
いくつかの兆候があります:
個人アカウントの場合:
- 身に覚えのないログイン通知
- ログイン履歴に知らない場所が表示される
- アカウントがロックされる(試行回数超過)
企業サーバーの場合:
- サーバーログに大量の失敗ログイン記録
- 特定のIPからの集中アクセス
- システムの動作が遅くなる
まとめ:パスワードは最初の防御線
ブルートフォース攻撃について、基本から対策まで解説してきました。
この記事のポイント:
✓ ブルートフォース攻撃とは、すべての組み合わせを試してパスワードを破る手法
✓ 簡単なパスワードは数秒~数分で破られる
✓ 辞書攻撃やクレデンシャルスタッフィングなど様々な手法がある
✓ 長く複雑なパスワードが最も効果的な防御策
✓ 二段階認証は必須のセキュリティ対策
✓ パスワードマネージャーで安全に管理
✓ パスワードの使い回しは絶対に避ける
最も大切なこと:
パスワードは、あなたのデジタル資産を守る最初の防御線です。
「自分は狙われない」と思わず、今すぐセキュリティ対策を見直しましょう。
今日からできること:
- 主要なアカウント(メール、SNS、銀行)のパスワードを確認
- 簡単なパスワードは今すぐ変更
- 二段階認証を設定する
- パスワードマネージャーの導入を検討
- 家族や友人にもこの情報を共有
少しの手間で、あなたの大切な情報を守ることができます。
サイバー攻撃は決して他人事ではありません。今日から、安全なパスワード管理を始めてみてください!

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