「Non-System disk or disk error」
パソコンを起動しようとして、こんなエラーメッセージを見たことはありませんか?
実は、パソコンが正常に起動するためには、ハードディスクやSSDにブートシグネチャという特別な「目印」が必要なんです。
この目印がないと、コンピュータは「このディスクからは起動できない」と判断して、エラーを表示してしまいます。
この記事では、ブートシグネチャとは何か、なぜ必要なのか、そしてトラブルが起きた時の対処法まで、初心者の方にも分かるように丁寧に解説していきます。
「難しそう…」と思うかもしれませんが、身近な例えを使いながら説明するので、誰でも理解できるはずですよ。
ブートシグネチャとは何か?基本を理解しよう

まずは基本から見ていきましょう。
ブートシグネチャの定義
ブートシグネチャ(Boot Signature)とは、ストレージデバイス(ハードディスクやSSD)の先頭部分に書き込まれた、特定の2バイトの値のことです。
具体的には、0x55AAという16進数の値が、ブートシグネチャとして使われています。
なぜ「シグネチャ(署名)」と呼ぶの?
シグネチャは「署名」という意味です。
まるで書類に署名やハンコを押すように、ディスクに「これは起動可能なディスクです」という証明を記すから、ブートシグネチャと呼ばれるんですね。
この署名があることで、コンピュータは「このディスクからOSを起動していいんだな」と判断できます。
ブートとは?
ブート(Boot)は、コンピュータを起動することを指します。
正式には「ブートストラップ」(Bootstrap)の略で、「自分で自分を引き上げる」という意味があります。
電源を入れた直後のコンピュータは何もできない状態ですが、少しずつプログラムを読み込んで、最終的にOSを起動します。この一連のプロセスがブートです。
0x55AAという値の意味
0x55AAという値は、なぜ選ばれたのでしょうか?
実は特別な意味があるわけではなく、単に「識別しやすい値」として選ばれました。
0x55:01010101(2進数)
0xAA:10101010(2進数)
0と1が交互に並ぶパターンなので、ビット化けやデータ破損を検出しやすいという利点があります。
また、偶然この値になる確率が低いため、誤認識も防げます。
ブートシグネチャの役割:なぜ必要?
ブートシグネチャは、パソコンの起動プロセスで重要な役割を果たします。
起動可能なディスクを識別する
コンピュータには、複数のストレージデバイスが接続されていることがあります:
- 内蔵ハードディスク(Cドライブ)
- 外付けUSBメモリ
- DVDドライブ
- SDカードリーダー
電源を入れた時、BIOS(またはUEFI)は、これらのデバイスを順番にチェックして、「どこから起動すべきか」を判断します。
その判断材料がブートシグネチャなんです。
ブートシグネチャがあれば「起動可能」、なければ「起動不可」と判断されます。
データディスクとの違いを明確にする
すべてのハードディスクが起動用というわけではありません。
- システムディスク:OSがインストールされている起動用ディスク
- データディスク:写真や動画を保存するだけのディスク
ブートシグネチャがあることで、「このディスクはOSを起動できる」と識別できるんですね。
エラー検出の役割
ブートシグネチャが破損していたり、間違った値になっていたりすると、ディスク自体に問題がある可能性があります。
BIOSはこれを検出して、エラーメッセージを表示し、ユーザーに知らせてくれます。
MBRとブートシグネチャの関係
ブートシグネチャは、MBR(Master Boot Record)という領域の一部です。
MBRとは
MBRは、ハードディスクの最初のセクタ(512バイト)に格納されている特別な領域です。
MBRには、以下の情報が含まれています:
ブートコード(446バイト):
- OSを起動するための小さなプログラム
- このコードが最初に実行される
パーティションテーブル(64バイト):
- ディスクがどのように分割されているかの情報
- 最大4つのパーティション情報を保存
ブートシグネチャ(2バイト):
- 最後の2バイトに0x55AAが格納される
- 「このMBRは有効です」という証明
MBRの構造を図解
+------------------------------------------+
| ブートコード (446バイト) |
| 0x0000 ~ 0x01BD |
+------------------------------------------+
| パーティションテーブル (64バイト) |
| 0x01BE ~ 0x01FD |
+------------------------------------------+
| ブートシグネチャ (2バイト) |
| 0x01FE: 0x55 |
| 0x01FF: 0xAA |
+------------------------------------------+
ブートシグネチャは、MBRの510番目と511番目のバイト(最後の2バイト)に配置されます。
BIOSの動作フロー
- 電源ON:コンピュータに電源が入る
- BIOS/UEFI起動:マザーボードのBIOSが起動
- ブートデバイス検索:起動可能なデバイスを探す
- MBR読み込み:各デバイスの最初のセクタを読む
- シグネチャ確認:510〜511バイト目が0x55AAか確認
- ブートコード実行:シグネチャが正しければ、MBRのブートコードを実行
- OS起動:ブートコードがOSのローダーを呼び出す
この流れの中で、ブートシグネチャは「ステップ5」で重要な役割を果たします。
GPTとブートシグネチャ
最近のパソコンでは、MBRではなくGPT(GUID Partition Table)という新しい方式が使われることが増えています。
GPTとは
GPTは、MBRの後継となるパーティション方式です。
MBRの制限:
- 2TBまでのディスクしか扱えない
- 最大4つのプライマリパーティション
- 古い技術で拡張性に乏しい
GPTの利点:
- 2TB以上の大容量ディスクに対応
- 128個のパーティションを作成可能
- パーティション情報の冗長化(バックアップ)
- より堅牢なエラー検出
GPTにもブートシグネチャはある?
GPTディスクでも、互換性のためにMBRの領域が残されています。
これを保護MBR(Protective MBR)と呼びます。
保護MBRの510〜511バイト目にも、0x55AAのブートシグネチャが格納されています。
ただし、GPT方式では、実際のブート処理はUEFIという新しいファームウェアが行います。
UEFIは、GPTパーティション内のEFIシステムパーティション(ESP)から直接ブートローダーを読み込みます。
レガシーBIOSとUEFI
レガシーBIOSモード(従来のBIOS):
- MBRのブートシグネチャを確認
- MBRのブートコードを実行
UEFIモード:
- GPTパーティションテーブルを直接読む
- EFIシステムパーティションからブートローダーを実行
- より高速で柔軟な起動が可能
多くの最新PCは、両方のモードに対応しています(デュアルブート対応)。
ブートシグネチャのエラーと対処法

ブートシグネチャに問題があると、さまざまなエラーが発生します。
よくあるエラーメッセージ
ブートシグネチャの問題で表示される代表的なエラー:
「Missing operating system」
- OSが見つからない
- ブートシグネチャがないか、破損している
「Invalid partition table」
- パーティションテーブルが無効
- MBR全体が破損している可能性
「Non-System disk or disk error」
- システムディスクではない
- ブートシグネチャがない
「Operating System not found」
- OSが見つからない
- ブートデバイスの設定が間違っている
「Boot failure」
- 起動失敗
- ハードウェアの問題やブートコードの破損
原因1:ブートシグネチャの破損
ディスクの物理的な損傷や、不適切なディスク操作により、ブートシグネチャが破損することがあります。
対処法
Windowsの回復環境を使う:
- Windowsインストールメディア(USBまたはDVD)から起動
- 「コンピューターを修復する」を選択
- 「トラブルシューティング」→「詳細オプション」
- 「コマンドプロンプト」を開く
- 以下のコマンドを実行:
bootrec /fixmbr
bootrec /fixboot
bootrec /rebuildbcd
これでMBRとブートシグネチャが修復されます。
原因2:間違ったディスクから起動しようとしている
USBメモリやDVDが挿入されたまま起動すると、そちらから起動しようとしてエラーになることがあります。
対処法
- すべての外部メディア(USB、DVD、SDカードなど)を取り外す
- パソコンを再起動
- 正しいハードディスクから起動する
または、BIOSのブート順序を確認:
- 起動時にF2、Delete、F10などのキーを押してBIOS設定画面に入る
- 「Boot Order」または「起動順序」を探す
- 内蔵ハードディスクを最優先に設定
- 設定を保存して再起動
原因3:パーティションテーブルの破損
パーティションテーブル全体が破損すると、ブートシグネチャだけでなく、ディスク構造全体が認識されなくなります。
対処法
TestDiskなどのツールを使用:
TestDiskは、無料のデータ復旧ツールで、パーティションテーブルの修復が可能です。
- 別のPCでTestDiskをダウンロード
- 起動可能なUSBメモリを作成
- 問題のあるPCで起動
- TestDiskを実行してパーティションを検出
- パーティションテーブルを復元
原因4:ディスクの物理的な故障
ハードディスクが物理的に故障している場合、ブートシグネチャだけでなく、データ全体が読めなくなります。
対処法
- 別のPCに接続して、データを救出できるか試す
- データ復旧ソフトを使用(Recuva、EaseUS Data Recoveryなど)
- 専門のデータ復旧業者に依頼(重要なデータの場合)
- 新しいディスクに交換してOSを再インストール
原因5:ウイルスやマルウェア
一部の悪意あるソフトウェアは、MBRを改ざんしてブートシグネチャを破壊します。
対処法
- ウイルス対策ソフトのブータブルUSBを作成
- そこから起動してウイルススキャンを実行
- 感染が確認されたら駆除
- MBRを修復(前述のbootrecコマンドを使用)
ブートシグネチャの確認方法
実際に、自分のディスクにブートシグネチャがあるか確認してみましょう。
Windowsでの確認方法
方法1:ディスク管理ツール
- Windowsキー + X を押す
- 「ディスクの管理」を選択
- ディスクが「GPT」か「MBR」か確認
- MBRディスクなら、ブートシグネチャが存在する
方法2:コマンドプロンプト(上級者向け)
管理者権限でコマンドプロンプトを開き、以下を実行:
diskpart
list disk
select disk 0
detail disk
「パーティションのスタイル」が「マスター ブート レコード (MBR)」と表示されれば、ブートシグネチャがあります。
Linux/Macでの確認方法
ターミナルで以下のコマンドを実行:
sudo fdisk -l
または、hexdumpコマンドでMBRの内容を直接確認:
sudo dd if=/dev/sda bs=512 count=1 | hexdump -C
最後の2バイトが「55 aa」になっていれば、ブートシグネチャが正しく存在します。
専用ツールを使う
HxD(Windowsの無料ヘキサエディタ):
- HxDをダウンロード・インストール
- 管理者権限で実行
- 「Extras」→「Open Disk」を選択
- 物理ディスクを選択
- アドレス0x01FEと0x01FFを確認
- 「55 AA」になっていればOK
セキュアブートとブートシグネチャ
最近のパソコンでは、セキュアブートという機能が有効になっていることがあります。
セキュアブートとは
セキュアブートは、UEFI標準の一部で、不正なブートローダーやOSの起動を防ぐセキュリティ機能です。
デジタル署名を使って、信頼できるソフトウェアだけを起動します。
Microsoftや各OSベンダーが署名したブートローダーだけが実行を許可されます。
ブートシグネチャとの違い
ブートシグネチャ:
- 単純な2バイトの値
- 「起動可能かどうか」を示すだけ
- セキュリティ機能はない
セキュアブート:
- デジタル署名を検証
- 暗号技術を使用
- 不正なソフトウェアの実行を防ぐ
セキュアブートは、ブートシグネチャよりも高度なセキュリティを提供します。
セキュアブートとレガシーブート
レガシーブート(CSMモード):
- 従来のBIOS互換モード
- MBRとブートシグネチャを使用
- セキュアブートは無効
UEFIブート(ネイティブUEFIモード):
- 新しいブート方式
- GPTパーティションを使用
- セキュアブートを有効化可能
古いOSや一部のソフトウェアを使う場合、セキュアブートを無効にする必要があることがあります。
ブート可能なUSBメモリの作成
ブートシグネチャの知識を活かして、起動可能なUSBメモリを作ってみましょう。
必要なもの
- 8GB以上のUSBメモリ
- OSのインストールイメージ(ISOファイル)
- 書き込みツール(Rufus、BalenaEtcherなど)
Rufusを使った作成手順
Rufusは、Windows用の無料ツールです。
- 公式サイトからRufusをダウンロード
- USBメモリを挿入(データは消去されるので注意)
- Rufusを起動
- 「デバイス」でUSBメモリを選択
- 「選択」ボタンでISOファイルを指定
- 「パーティション構成」を選択:
- MBR(レガシーBIOS用)
- GPT(UEFI用)
- 「スタート」をクリック
- 書き込み完了を待つ
作成されたUSBメモリのMBRには、自動的にブートシグネチャ(0x55AA)が書き込まれます。
動作確認
- 作成したUSBメモリを挿入
- パソコンを再起動
- ブートメニューを開く(F12、F8、Escなどのキーを押す)
- USBメモリから起動を選択
- 正常に起動すれば成功
ブートシグネチャがあるおかげで、BIOSがUSBメモリを起動デバイスとして認識してくれるんです。
デュアルブート環境でのブートシグネチャ
複数のOSをインストールする「デュアルブート」環境では、ブートシグネチャの理解が重要です。
デュアルブートの仕組み
1つのPCに複数のOSをインストールする場合:
- Windows 10とUbuntuなど
- Windows 11とWindows 10など
ブートローダー(GRUBやWindows Boot Manager)が、どのOSを起動するか選択画面を表示します。
ブートローダーの配置
MBRのブートコードに、ブートローダーの一部が格納されます。
GRUBの場合:
- MBRにGRUBのステージ1が格納される
- ブートシグネチャも正しく設定される
- 起動時にGRUBメニューが表示される
Windows Boot Managerの場合:
- MBRにWindows用のブートコードが格納される
- Windowsを優先して起動
注意点
デュアルブート環境では、OS更新時にMBRが上書きされることがあります。
例えば、Windowsアップデート後に、Linuxが起動できなくなるケースがあります。
この場合、Linuxのライブメディアから起動して、GRUBを再インストールする必要があります。
よくある質問(Q&A)
ブートシグネチャについて、よくある質問にお答えします。
Q1:ブートシグネチャを手動で書き込むことはできる?
A:可能ですが、非常に危険です。
ヘキサエディタやddコマンドを使えば、直接書き込めます。
しかし、間違えるとディスク全体が使えなくなる可能性があるため、専門知識がない限りおすすめしません。
通常は、OSインストール時やbootrecコマンドで自動的に設定されます。
Q2:SSDでもブートシグネチャは必要?
A:はい、必要です。
ストレージの種類(HDD、SSD、NVMe)に関わらず、MBR方式のディスクにはブートシグネチャが必要です。
Q3:ブートシグネチャが破損する原因は?
A:主な原因は以下の通りです:
- ディスクの物理的な損傷
- 不適切なパーティション操作
- ウイルスやマルウェアの感染
- 突然の電源断(書き込み中に停電など)
- ディスクコントローラの故障
Q4:複数のハードディスクがある場合、すべてにブートシグネチャが必要?
A:いいえ、必要ありません。
起動用のシステムディスクにだけ必要です。
データ保存用の2台目のディスクには、ブートシグネチャがなくても問題ありません。
Q5:Macでもブートシグネチャは使われている?
A:Intel MacではUEFI(Apple独自実装)を使用していますが、互換性のため保護MBRも存在します。
Apple Silicon Mac(M1/M2など)では、全く異なるブート方式を使用しており、従来のブートシグネチャは使われていません。
Q6:仮想マシンでもブートシグネチャは必要?
A:はい、必要です。
仮想マシン(VMware、VirtualBox、Hyper-Vなど)でも、仮想ディスクにブートシグネチャが必要です。
仮想化ソフトウェアが、実際のハードウェアをエミュレートするため、ブート処理も同じです。
まとめ:小さな2バイトが支える起動の仕組み
ブートシグネチャについて、理解できましたか?
この記事の重要ポイント:
- ブートシグネチャは0x55AAという2バイトの値
- MBRの最後に配置され、起動可能なディスクを識別する
- BIOSがこの値を確認して、ブートコードを実行するか判断
- GPTディスクでも互換性のため保護MBRに存在する
- 破損するとOSが起動できなくなるが、修復は可能
- セキュアブートはより高度なセキュリティを提供
- デュアルブート環境では特に重要
たった2バイトの小さなデータですが、パソコンの起動には欠かせない重要な役割を果たしています。
普段は意識することのない部分ですが、トラブルが起きた時にはこの知識が役立つはずです。
この記事を参考に、起動トラブルに遭遇しても慌てず対処できるようになってくださいね!

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