インターネット上で異なるシステム同士がデータをやり取りする仕組みを「Webサービス」と呼びます。
Apache Axis(アパッチ・アクシス)は、このWebサービスを簡単に作れるようにしてくれる便利なツールです。2000年代前半から中盤にかけて、多くの企業システムで使われていました。
「Apache」という名前を聞いたことがあるかもしれませんね。これは、世界中のエンジニアが協力して作っている無料のソフトウェアプロジェクトの名前なんです。
この記事では、Apache Axisの基本から使い方、そして現在の状況まで詳しく解説していきます。IT初心者の方でも理解できるよう、専門用語はできるだけ分かりやすく説明しますので、安心して読み進めてくださいね。
1. Apache Axisとは?
Apache Axisの基本概念
Apache Axis(正式名称:Apache eXtensible Interaction System)は、JavaとXML技術を使ったWebサービスのフレームワークです。
フレームワークというのは、プログラムを作るときの「土台」や「枠組み」のようなもの。家を建てるときの基礎工事のようなイメージですね。
Apache Axisを使うことで、開発者は複雑なWebサービスの仕組みを一から作る必要がなくなります。
SOAPとの関係
Apache Axisは「SOAP」という通信プロトコルを実装したツールです。
SOAPは「Simple Object Access Protocol(シンプル・オブジェクト・アクセス・プロトコル)」の略で、インターネット上でプログラム同士が情報をやり取りするための約束事のことです。
XMLという形式でデータをやり取りするため、JavaやC++、.NETなど、異なるプログラミング言語で作られたシステム同士でも通信できるんです。
Apache Axisの歴史
Apache Axisは、もともとIBMが開発した「SOAP4J」というプロジェクトがルーツになっています。
2000年4月にIBMがこのコードをApache財団に寄贈し、「Apache SOAP」として開発が進められました。そして、より柔軟で拡張性の高いシステムを目指して全面的に設計し直したのが「Apache Axis」です。
ただし、Apache Axisの開発は2006年で停止しており、現在は後継プロジェクトである「Apache Axis2」に引き継がれています。
2. Apache Axisの主な機能
Apache Axisには、Webサービスの開発を楽にしてくれる便利な機能がたくさんあります。
SOAPサーバーの実装
Apache Axisの中心となる機能は、SOAPサーバーの構築です。
サーバーというのは、リクエスト(要求)を受け取って、適切な処理をして結果を返すコンピュータやプログラムのこと。Apache Axisを使えば、このSOAP通信を処理するサーバーを簡単に作れます。
Webサービスの生成と配備
Apache Axisには、Javaのコードから自動的にWebサービスを作り出す機能があります。
たとえば、「2つの数字を足し算する」というシンプルなJavaのメソッド(関数)があったとします。Apache Axisを使えば、このメソッドをインターネット経由で呼び出せるWebサービスに変換できるんです。
また、作ったWebサービスをサーバーに配置(デプロイ)する作業も、専用のツールが用意されているため簡単に行えます。
WSDL対応
Apache AxisはWSDL(Web Services Description Language)をサポートしています。
WSDLは、「このWebサービスにはどんな機能があって、どうやって使えばいいか」を説明する設計図のようなものです。
Apache Axisには、Javaのコードから自動的にWSDLを生成する「Java2WSDL」というツールや、WSDLからJavaのコードを自動生成する「WSDL2Java」というツールが含まれています。
JavaBeansの自動変換
JavaBeans(Javaのオブジェクト)とXMLデータを自動的に相互変換してくれる機能があります。
これによって、開発者は面倒なデータ変換のコードを書く必要がなくなり、ビジネスロジック(実際の業務処理)に集中できるようになります。
複数のトランスポート対応
Apache AxisはHTTPだけでなく、SMTP(メール)やFTP、JMS(Java Message Service)など、さまざまな通信方式に対応しています。
つまり、インターネット経由だけでなく、メールや他の仕組みを使ってもWebサービスを利用できるんです。
3. Apache AxisとAxis2の違い
2004年8月、スリランカのコロンボで開催されたサミットで、Apache Axis2の新しいアーキテクチャが発表されました。
Axis2は、Axis1の経験を活かして一から設計し直された「次世代」のWebサービスフレームワークです。
処理速度の向上
Axis1はSAX(Simple API for XML)というイベントベースのXML解析方法を使っていました。
Axis2は、StAX(Streaming API for XML)という新しい解析方法を採用しています。StAXの方が高速で、メモリの使用量も少ないため、Axis2の方が圧倒的に速く動作するんです。
アーキテクチャの改善
Axis1では、機能拡張がやや難しい構造でした。
Axis2は「モジュール」という考え方を導入し、必要な機能を後から簡単に追加できるようになっています。レゴブロックのように、必要な機能を組み合わせられるイメージですね。
対応標準の違い
Axis1は、JAX-RPC(Java API for XML-based RPC)という古い標準をサポートしています。
Axis2は、JAX-WS(Java API for XML Web Services)という新しい標準に対応しました。さらに、WSDL 1.1だけでなくWSDL 2.0もサポートしています。
ホットデプロイメント
Axis1では、新しいWebサービスを追加するときにサーバーを停止する必要がありました。
Axis2は「ホットデプロイメント」に対応しており、サーバーを動かしたまま新しいサービスを追加したり、設定を変更したりできます。これは運用上、非常に大きなメリットです。
非同期処理のサポート
Axis1は基本的に同期処理(処理が終わるまで待つ方式)のみでした。
Axis2は非同期処理(処理の完了を待たずに他の作業ができる方式)をサポートしています。大量のデータを扱う場合や、時間のかかる処理を行う場合に便利です。
REST対応とJSON対応
Axis1はSOAPのみの対応でした。
Axis2は、SOAP 1.1、SOAP 1.2に加えて、RESTスタイルのWebサービスにも対応しています。さらに最近のバージョンでは、JSON(JavaScript Object Notation)形式のWebサービスもサポートするようになりました。
互換性について
重要な注意点として、Axis1とAxis2の間には互換性がありません。
内部設計が大幅に変わったため、Axis1で作ったWebサービスをAxis2に移行するには、コードの書き換えが必要になります。
4. Apache Axisの仕組み
Apache Axisがどのように動作するのか、基本的な仕組みを見ていきましょう。
メッセージハンドラーとチェーン
Apache Axisの中心的な仕組みは、「ハンドラー」と「チェーン」という概念です。
ハンドラーは、メッセージ処理の小さな単位です。たとえば「認証を確認する」「ログを記録する」「データを変換する」といった個別の処理を行います。
これらのハンドラーを鎖のようにつなげたものが「チェーン」です。メッセージは、このチェーンを通って順番に処理されていきます。
リクエストの処理フロー
クライアント(利用者側)からリクエストが来ると、以下のような流れで処理されます。
ステップ1:受信
SOAPメッセージがHTTPなどのプロトコル経由で届きます。
ステップ2:解析
受信したXML形式のメッセージを解析して、「どのサービスの、どのメソッドを呼び出したいのか」を理解します。
ステップ3:ハンドラーチェーンの実行
設定されたハンドラーチェーンを順番に通過させます。ここでセキュリティチェックやログ記録などが行われることもあります。
ステップ4:Javaメソッドの実行
実際のビジネスロジックを含むJavaのメソッドを呼び出します。
ステップ5:レスポンスの生成
メソッドの実行結果をXML形式のSOAPメッセージに変換します。
ステップ6:送信
クライアントに結果を返します。
トランスポート抽象化
Apache Axisは、トランスポート(通信手段)を抽象化しています。
つまり、HTTPで送られてきたメッセージでも、SMTPで送られてきたメッセージでも、同じように処理できる仕組みになっているんです。
この設計のおかげで、新しい通信方式への対応が比較的簡単に追加できます。
5. Apache Axisの使い方
Apache Axisを使ってWebサービスを作る基本的な手順を紹介します。
環境構築
必要なもの:
- Java Development Kit(JDK)
- Apache Tomcat(サーブレットコンテナ)
- Apache Axis本体
セットアップ手順:
- Apache Axisをダウンロードして解凍する
- Tomcatの「webapps」フォルダにAxisフォルダをコピーする
- 必要なライブラリ(JARファイル)をクラスパスに設定する
JWSファイルを使った簡単なデプロイ
Apache Axisには「JWS(Java Web Service)」という便利な機能があります。
通常のJavaファイルの拡張子を「.java」から「.jws」に変えるだけで、そのクラスをWebサービスとして公開できるんです。
例:計算サービス
public class Calculator {
public int add(int a, int b) {
return a + b;
}
public int subtract(int a, int b) {
return a - b;
}
}
このファイルを「Calculator.jws」として保存し、Axisのディレクトリにコピーするだけで、Webサービスとしてアクセスできるようになります。
アクセスURL:http://localhost:8080/axis/Calculator.jws
カスタムデプロイメント
より細かい制御が必要な場合は、WSDD(Web Service Deployment Descriptor)という設定ファイルを使います。
WSDDファイルには、どのクラスをサービスとして公開するか、どのメソッドを呼び出し可能にするかなどを記述します。
AdminClientというツールを使って、このWSDDファイルをサーバーにデプロイします。
クライアント側の実装
Webサービスを呼び出すクライアント側のコードも、Apache Axisが提供するAPIを使えば簡単に書けます。
WSDL2Javaツールを使えば、WSDLファイルから自動的にクライアントコード(スタブ)を生成できるため、手作業でコードを書く量を大幅に減らせます。
6. 現在の状況と代替技術
Apache Axisの現状
Apache Axisは、2006年4月のバージョン1.4を最後に開発が停止しています。
現在、新規プロジェクトでApache Axis1を採用することは推奨されていません。ただし、以下のような場合には今でも使われることがあります。
レガシーシステムの保守
すでにApache Axisで構築されたシステムがあり、新しいフレームワークに移行するコストが高い場合。
JAX-RPCが必要な場合
古い標準であるJAX-RPCを使う必要がある場合。
SOAPエンコーディングを使うサービス
古いSOAPエンコーディング方式を使っているレガシーサービスとの連携が必要な場合。
Apache Axis2への移行
Apache Axis2は、Axisの後継として現在も開発が続いています。
Axis2はJava版とC/C++版の両方が提供されており、高速で柔軟なWebサービス開発が可能です。特にJava版は活発に開発されており、JSON対応などの新機能も追加されています。
ただし、Axis1からAxis2への移行には相当な作業が必要になる点には注意が必要です。
その他の選択肢
現在のJavaでのWebサービス開発では、以下のようなフレームワークも広く使われています。
Apache CXF
XFireとCeltixという2つのプロジェクトが統合されて生まれたフレームワークです。Spring Frameworkとの連携が強く、開発者にとって使いやすい設計になっています。
Metro
OracleとSunが開発したJAX-WSのリファレンス実装です。Java EE環境での標準的な選択肢の一つとなっています。
Spring Web Services
Springエコシステムの一部として提供されるWebサービスフレームワークです。コントラクトファーストアプローチ(WSDLから開発を始める方式)を推奨しています。
RESTfulサービスの台頭
近年では、SOAP/WSDLベースのWebサービスよりも、RESTful APIの方が主流になってきています。
REST(Representational State Transfer)は、よりシンプルで軽量な設計思想で、JSONを使ったデータ交換が一般的です。
JavaでRESTful APIを開発する場合は、JAX-RS(Java API for RESTful Web Services)をサポートするフレームワーク(Jersey、RESTEasy、Apache CXFなど)や、Spring Bootなどが使われています。
まとめ
Apache Axisは、2000年代のWebサービス開発において重要な役割を果たしたフレームワークです。
Apache Axisの特徴:
- JavaとXMLベースのSOAP Webサービスフレームワーク
- 自動コード生成、WSDL対応などの便利な機能を提供
- 2006年以降は開発が停止し、Apache Axis2に継承された
Apache Axis2との主な違い:
- 処理速度(Axis2の方が高速)
- アーキテクチャ(Axis2の方が柔軟)
- 対応標準(Axis2の方が新しい標準に対応)
- 互換性なし(移行には作業が必要)
現在の推奨:
- 新規プロジェクトではApache Axis1は非推奨
- Apache Axis2、Apache CXF、Metroなどの新しいフレームワークを検討
- RESTful APIも有力な選択肢
Apache Axisの理解は、Webサービス技術の歴史を知る上で重要です。現在のマイクロサービスアーキテクチャやAPI設計の基礎となった技術として、その功績は今も評価されています。
もしレガシーシステムでApache Axisに触れる機会があったり、Axis2への移行プロジェクトに参加することになったりした場合、この記事の知識がきっと役立つはずです。
Webサービス技術は日々進化していますが、基本的な概念は変わりません。Apache Axisを通じて学んだ知識は、他のフレームワークを理解する際にも活用できますよ!


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