Google Analyticsで地域別のアクセス状況を見ていたら、気づいたんです。
「え、うちのサイト、東京と大阪ばっかり?地方からのアクセス、ほとんどないじゃん…」
全国向けのサイトを運営しているのに、アクセス元が政令指定都市あたりに極端に集中している。地域によっては、アクセスを見たことすら本当にない。
これ、流石におかしくない?
そう思って調べてみたところ、予想通り(というか予想以上に)面白い仕組みが分かったので、この記事にまとめてみました。
個人的な予想:
- モバイル通信とWi-Fiの仕組みが関係してそう
- 地方の方がモバイル通信の使用率が高くて、自宅回線の普及率が低いんじゃない?
- だから、地方からのアクセスほど別の場所として記録されて、偏りがさらに大きくなってるのでは?
この予想が当たっているのか、実際に調べてみました。
まず基本:アナリティクスってどうやって地域を判定してるの?

まず最初に、Google Analyticsがどうやって訪問者の地域を判定しているのかを理解しましょう。
IPアドレスから位置情報を推定
Google Analyticsは、訪問者のIPアドレスを元に地域情報を取得しています。
IPアドレスとは、インターネット上の住所のようなもので、すべてのデバイスに割り当てられています。GoogleはこのIPアドレスを第三者のデータベースと照合して、「このIPアドレスは○○県の××市で使われている」という情報を導き出しているんですね。
重要なポイント:
Google公式も「IPアドレスから導き出した地域情報は必ずしも正確ではない」と認めています。特に市区町村レベルの精度は低いことが知られています。
(参照:Google Analyticsヘルプ「地理データについて」https://support.google.com/analytics/answer/6160484)
位置情報の精度はどれくらい?
実際の精度を見てみましょう。IP位置情報に関する調査によると、以下のような精度になっています。
地域情報の精度:
- 国レベル:95〜99%の精度
- 地域(都道府県・州)レベル:55〜80%の精度
- 市区町村レベル:50〜75%の精度
つまり、市区町村レベルのデータは半分程度しか正確ではないということです。
(参照:Bounteous「IP Addresses and Google Analytics 4: Key Insights」https://www.bounteous.com/insights/2023/09/14/ip-addresses-and-google-analytics-4-what-you-should-know/
J Miller Marketing「Errors in Google Analytics’ User Location Data Explained」https://www.jmillermarketing.com/insights/2018/errors-in-google-analytics-user-location-data)
予想その1:モバイル通信が都市部に偏る理由
さて、ここからが本題です。なぜモバイル通信からのアクセスが都市部に偏るのでしょうか?
キャリアのゲートウェイサーバーの仕組み
スマートフォンで4Gや5Gなどのモバイル通信を使ってインターネットに接続する場合、以下のような経路をたどります。
モバイル通信の接続経路:
- スマートフォンが基地局と通信
- 携帯キャリアの内部ネットワークを経由
- ゲートウェイサーバーを通過
- インターネット(Webサイト)に到達
ここで重要なのが「ゲートウェイサーバー」です。
ゲートウェイサーバーは都市部に集中している
携帯キャリア(ドコモ、au、ソフトバンクなど)は、モバイルネットワークとインターネットを接続するためのゲートウェイサーバーを設置しています。
このゲートウェイサーバーは、全国に分散しているわけではなく、東京や大阪などの大都市部に集約されていることが多いんです。
何が起こるか:
- 北海道のユーザーがスマホでアクセス
→ ゲートウェイサーバーは東京
→ Google Analyticsでは「東京からのアクセス」と記録される - 沖縄のユーザーがスマホでアクセス
→ ゲートウェイサーバーは大阪
→ Google Analyticsでは「大阪からのアクセス」と記録される
携帯キャリアのIPアドレス割り当て
さらに、携帯キャリアは国内の接続点が1ヶ所に集約されているため、IPアドレスから位置情報を判定しようとすると、データ作成ポリシー上「東京都」になることが一般的です。
つまり、実際には地方からアクセスしているユーザーでも、モバイル通信を使っている限り、ほとんどが東京や大阪などの大都市からのアクセスとして記録されてしまうわけです。
(参照:どこどこJP「スマートフォンからのアクセスは地域判別できるのか」、「モバイル接続の位置情報」)
じゃあWi-Fi接続の場合はどうなの?

一方、Wi-Fi経由でインターネットに接続している場合は、少し状況が異なります。
ISPのデータセンターの位置が記録される
自宅や会社のWi-Fiを使ってインターネットに接続する場合、インターネットサービスプロバイダ(ISP)のネットワークを経由します。
Wi-Fi接続の場合:
- フレッツ光、NURO光、ケーブルテレビなど、ISPによってIPアドレスと地域の紐付け精度が異なる
- ISPのデータセンターや接続ポイントの位置が記録される
- 光ファイバーの場合、データセンターが実際の位置から10〜40km離れていることもある
Wi-Fiの方が正確だが、完璧ではない
モバイル通信と比べると、Wi-Fi経由のアクセスの方が地域情報は正確です。
しかし、これも完璧ではありません。特に地方の場合、ISPのデータセンターが県庁所在地や政令指定都市に設置されていることが多く、結果として都市部に偏る傾向があります。
他にも位置情報がズレる要因を調べてみた
モバイル通信やWi-Fi以外にも、位置情報が不正確になる要因がいくつかあります。
1. VPN(仮想プライベートネットワーク)の使用
VPNを使用している場合、実際のユーザーの位置ではなく、VPNサーバーの位置が記録されます。
例えば:
- 福岡のユーザーがVPNで東京のサーバーに接続
→ Google Analyticsでは「東京からのアクセス」と記録
VPNは海外サーバーを経由することもあるため、日本国内のユーザーなのに海外からのアクセスとして記録されることもあります。
2. 企業ネットワークやプロキシサーバー
会社のネットワークからアクセスする場合、企業のプロキシサーバーの位置が記録されます。
大企業の場合、地方の支社からアクセスしても、東京の本社にあるプロキシサーバーを経由するため、「東京からのアクセス」になることがあります。
3. IPアドレスの動的割り当て
ISPは、IPアドレスを定期的に変更したり、一時的に別の地域のIPアドレスを割り当てたりすることがあります。
例えば:
- 大きなイベント(オリンピックなど)がある地域に、一時的に他地域のIPアドレスを割り当てる
- 1〜2週間後、元に戻すか別の地域に割り当てる
この仕組みによって、実際の位置と記録される位置がずれることがあります。
4. デフォルト位置の設定
IPアドレスのデータベースに情報がない場合、デフォルトの位置が設定されることがあります。
興味深い例:
アメリカの場合、カンザス州Coffeyvilleという町が、多くのIPアドレスのデフォルト位置として設定されています。そのため、アナリティクスで「Coffeyvilleからのアクセスが多い」と表示されることがありますが、これは単なるデフォルト設定です。
日本の場合も、東京や大阪がデフォルト位置として設定されることがあります。
予想その2:地方ほどモバイル通信が多いのでは?【検証結果】

記事の冒頭で立てた予想を覚えていますか?
「地方の方がモバイル通信使用率が高くて、自宅回線(光回線)の普及率が低いから、地方からのアクセスほど都市部として記録される割合が高くなって、偏りがさらに大きくなってるんじゃない?」
これ、実際に調べてみたら…
当たってました!
総務省のデータを調べてみたら、予想以上にハッキリした地域差が出ていたんです。
調べてわかった:光回線普及率の都道府県格差がすごかった
総務省が公開している「ブロードバンド基盤整備率調査」のデータ(2024年3月時点)を見ると、光回線(FTTH)の普及率には大きな地域差があることが分かりました。
都市部の光回線普及率:
- 東京都:78.00%(全国最高)
- 神奈川県:76.60%
- 埼玉県:76.60%
- 千葉県:75.60%
- 大阪府:74.30%
地方の光回線普及率:
- 沖縄県:52.60%(全国最低)
- 青森県:53.80%
- 福島県:53.80%
- 鳥取県:54.30%
- 島根県:54.30%
格差:最大で約25ポイントの差
(参照:
総務省「ブロードバンド基盤整備率調査」令和6年3月末時点 https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/broadband/index.html、
総務省近畿総合通信局「FTTHサービス都道府県別普及率」https://www.soumu.go.jp/soutsu/kinki/calc/kotei_index.html)
なぜ地方でモバイル通信依存が高いのか調べてみた
さらに重要な発見として、地方で光回線普及率が低い理由の一つに「スマートフォンのモバイル通信で十分と考える世帯が多い」という点が指摘されています。
地方でモバイル依存が高い背景:
- 地方では光回線の必要性を感じない世帯が多い
- スマートフォン経由のインターネット利用で十分
- 光回線の契約にかかるコスト負担を避ける傾向
- 5Gなどモバイルデータ通信の高速化により、固定回線の必要性が低下
例えば、沖縄県(普及率52.60%)では「モバイルデータの利用が普及し、光回線への切り替えが進んでいない可能性がある」と分析されています。
(参照:都道府県別FTTH光回線普及率の分析データ 2025年4月 https://hikari.i6i6.biz/area/todoufuken-ftth-fukyuuritu.html)
つまり、ダブルパンチで偏りが拡大していた!
つまり、以下のようなダブルパンチ効果が実際に起きていたんです:
パンチ1:モバイル通信の仕組み上の問題
- モバイル通信からのアクセスは、キャリアのゲートウェイサーバーがある都市部(東京・大阪など)として記録される
パンチ2:地方ほどモバイル通信使用率が高い
- 地方は光回線普及率が低い(都市部の約25ポイント低い)
- 地方ほどモバイル通信に依存する傾向が強い
この2つが組み合わさった結果:
- 地方からのアクセスは、実際の位置に関係なく「都市部からのアクセス」として記録される割合が非常に高い
- 都市部からのアクセスは、Wi-Fi経由も多いため比較的正確に記録される割合が高い
- 見かけ上の地域偏りが、実態以上に大きく拡大する
具体例で考えてみる:沖縄県と東京都の場合
沖縄県のケース:
- 光回線普及率:52.60%(東京都より25ポイント低い)
- つまり、沖縄県民の約半分はモバイル通信でインターネットを利用
- モバイル通信からのアクセスは「東京」などとして記録される
- 結果:沖縄県からの実際のアクセスの半分近くが、別の地域(主に東京)からのアクセスとして記録されてしまう
東京都のケース:
- 光回線普及率:78.00%(全国最高)
- 東京都民の約8割は光回線(Wi-Fi)でインターネットを利用
- Wi-Fi経由のアクセスは比較的正確に「東京」として記録される
- 結果:東京都からのアクセスは、実態に近い形で記録される
このように、地方ほどアクセス元が誤って記録される割合が高く、都市部ほど正確に記録されるという非対称性が存在していました。
これが「アナリティクスで見ると都市部にアクセスが集中している」という現象をさらに強調していた原因だったんですね。
調査で参考にしたデータ・文献
総務省公式データ:
- 総務省「ブロードバンド基盤整備率調査」令和6年3月末時点
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/broadband/index.html - 総務省「通信利用動向調査報告書(世帯編)」令和5年・令和4年版
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/250530_1.pdf
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/pdf/HR202200_001.pdf - 総務省「令和6年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/html/nd21b120.html
Google公式情報:
- Google Analyticsヘルプ「地理データについて」
https://support.google.com/analytics/answer/6160484
IP位置情報技術の解説:
- 株式会社Geolocation Technology「どこどこJP」
- 「スマートフォンからのアクセスは地域判別できるのか」
https://www.docodoco.jp/wiki/index.php?title=スマートフォンからのアクセスは地域判別できるのか - 「モバイル接続の位置情報」
https://www.docodoco.jp/learn/area/20.html - 「スマートフォンからの判定について」
https://knowledge.docodoco.jp/knowledge/モバイルからの判定について/
位置情報精度に関する調査:
- Google Analytics Location Accuracy – GeoPlugin
https://www.geoplugin.com/resources/google-analytics-location-accuracy-top-limitations-revealed/ - IP Addresses and Google Analytics 4: Key Insights – Bounteous
https://www.bounteous.com/insights/2023/09/14/ip-addresses-and-google-analytics-4-what-you-should-know/ - How Accurate is Google Analytics Location Data? – Analytify
https://analytify.io/google-analytics-location-data-accuracy/
都道府県別光回線普及率分析:
- 都道府県別FTTH光回線普及率の一覧表(2025年4月)
https://hikari.i6i6.biz/area/todoufuken-ftth-fukyuuritu.html
その他参考資料:
- Web担当者Forum「Googleアナリティクス地域レポートの正確性は?」
https://webtan.impress.co.jp/e/2017/02/23/25027 - J Miller Marketing「Errors in Google Analytics’ User Location Data Explained」
https://www.jmillermarketing.com/insights/2018/errors-in-google-analytics-user-location-data
調べてる時に気になったこと(Q&A)
Q1. じゃあうちのサイト、本当に地方からアクセスされてないの?
地方からのアクセスがないわけではありません。
ただし、モバイル通信からのアクセスは、実際の位置に関係なく都市部からのアクセスとして記録されるため、見かけ上、地方からのアクセスが少なく見えているだけです。
実際には、全国からアクセスされている可能性が高いです。
Q2. アナリティクスで「市区町村」まで表示されるアクセスって、都市部に偏ってない?
実際にGoogle Analyticsの地域データを見ると、市区町村レベルまで詳細に表示されるアクセスは、圧倒的に都市部に集中していることに気づくはずです。
これが起きている理由:
市区町村レベルの詳細な位置情報が表示されるのは、主に個別の固定回線(光回線・Wi-Fi)からのアクセスです。
- 都市部からのアクセス:
- 光回線普及率が高い(74〜78%)
- Wi-Fi経由のアクセスが多い
- →ISPのIPアドレスから比較的正確に市区町村が特定できる
- →「渋谷区」「中央区」など詳細に表示される
- 地方からのアクセス:
- 光回線普及率が低い(52〜58%)
- モバイル通信経由のアクセスが多い
- →キャリアのゲートウェイサーバーの位置しか分からない
- →「Tokyo」「Osaka」など大まかにしか表示されない、または「(not set)」になる
つまり、「市区町村まで詳細に表示される=Wi-Fi経由=都市部に多い」という構造になっているんです。
これも、見かけ上の都市部集中をさらに強調する要因になっています。
Q3. そもそもなんでこんなに不正確なの?
不正確なのは、Google Analyticsが悪いわけではありません。
IPアドレスから位置情報を推定する方法そのものの限界であり、プライバシー保護の観点からも、これ以上正確な位置情報を取得するのは難しいとされています。
Q4. Google公式はこの問題を認めてるの?
はい、Google公式ヘルプページで「IPアドレスから導き出した地域情報は必ずしも正確ではない」と明記されています。
ただし、この情報はヘルプページの奥深くにあるため、多くのユーザーが気づいていないのが現状です。
(参照:Google Analyticsヘルプ「地理データについて」https://support.google.com/analytics/answer/6160484)
調査結果まとめ:予想は当たっていた!
Google Analyticsの地域情報が都市部に偏る理由について調べてみた結果をまとめます。
個人的な予想の答え合わせ:完全に的中!
最初に立てた予想「地方ほど光回線普及率が低くてモバイル通信使用率が高いから、偏りがさらに大きくなってるのでは?」は、データで完全に裏付けられました。
- 地方ほど光回線普及率が低い(都市部との差は最大25ポイント)
- 地方ほどモバイル通信依存度が高い
- モバイル通信は都市部のゲートウェイサーバーを経由するため、都市部として記録される
- ダブルパンチ効果で、見かけ上の地域偏りが実態以上に拡大している
調べてわかった地域情報が都市部に偏る理由:
インフラの構造的な問題:
- モバイル通信:キャリアのゲートウェイサーバーが都市部に集中している
- Wi-Fi接続:ISPのデータセンターが都市部に集中している
地域による通信環境の格差:
- 地方:光回線普及率が低い(52〜58%)→モバイル通信使用率が高い
- 都市部:光回線普及率が高い(74〜78%)→Wi-Fi使用率が高い
その他の要因:
- VPN使用:VPNサーバーの位置が記録される
- 企業プロキシ:本社のプロキシサーバー位置が記録される
- IPアドレスの動的割り当て:一時的に別地域のIPが割り当てられる
位置情報の精度(調査データより):
- 国レベル:95〜99%
- 都道府県レベル:55〜80%
- 市区町村レベル:50〜75%
(参照:Bounteous、J Miller Marketing の調査)
結論として:
「地方からのアクセスが少ない」と表示されていても、実際には全国からアクセスされている可能性が非常に高いです。
特に、地方からのアクセスは光回線普及率の低さからモバイル通信経由が多く、そのほとんどが都市部からのアクセスとして誤って記録されているのが実態でした。
さらに、市区町村レベルまで詳細に表示されるアクセスは、Wi-Fi経由が多い都市部に集中しているという現象も確認できます。
Google Analyticsの地域データを見る際は、この構造的な問題を理解した上で、「だいたいの傾向」を掴む参考データとして活用するのが良さそうです。


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