ワームホールとは?|時空を繋ぐトンネルの正体を科学的に解説

「ワームホール」と聞くと、SFで宇宙船が一瞬で遠い銀河へワープする場面を思い浮かべる方も多いでしょう。
確かにSF作品では頻繁に登場しますが、ワームホールは実は物理学の理論に基づいた科学的な概念です。

ワームホールは、アインシュタインの一般相対性理論から導かれる時空構造の一つで、宇宙の遠く離れた2点を直接繋ぐ「時空のトンネル」として理論的に予測されています。
この記事では、ワームホールの定義から歴史、理論的背景、実在の可能性まで、科学的にわかりやすく解説します。

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ワームホールとは

ワームホール(wormhole)とは、時空のある一点から別の離れた一点へと直結する空間領域で、トンネルのような抜け道として理論上考えられている時空構造です。

簡単に言えば、宇宙空間に開いた「近道のトンネル」のようなものです。
通常なら光の速度で何万年もかかる距離を、ワームホールを通ることで短時間で移動できる可能性があります。

リンゴの虫食い穴に例えると

ワームホールという名前は、実はリンゴの虫食い穴に由来します。

リンゴの表面のある一点から反対側に行くには、表面を半周する必要があります。
しかし、虫がリンゴの中を掘り進むと、短い距離の移動で反対側に到達できます。

これと同じように、宇宙空間の2点を繋ぐ「近道のトンネル」がワームホールです。
3次元の宇宙空間を、より高次元の視点から見たときに可能になる「抜け道」と考えることができます。

正式名称はアインシュタイン-ローゼン橋

ワームホールは、正式にはアインシュタイン-ローゼン橋(Einstein-Rosen bridge)と呼ばれます。
これは、1935年にアルベルト・アインシュタインとネイサン・ローゼンが提唱したことに由来します。

「ワームホール」という呼び名は、1957年にアメリカの物理学者ジョン・アーチボルト・ホイーラーが命名しました。

ワームホールの歴史

ワームホールの概念は、一般相対性理論の発展とともに生まれました。

1916年: 最初のアイデア

オーストリアの物理学者ルートヴィヒ・フラム(Ludwig Flamm)が、カール・シュヴァルツシルトのブラックホール解を研究する中で、別の解の可能性を指摘しました。
これが後にワームホールと呼ばれる構造の最初の数学的記述となります。

1928年: ヘルマン・ワイルの研究

ドイツの数学者・物理学者ヘルマン・ワイル(Hermann Weyl)が、電磁場中の質量の解析を研究する中でワームホールの概念を発案しました。
当初は「一方向のチューブ(One-Dimensional Tubes)」と呼んでいました。

1935年: アインシュタイン-ローゼン橋の提唱

アルベルト・アインシュタインとネイサン・ローゼンが、一般相対性理論に基づく時空構造モデルを発表しました。
これが「アインシュタイン-ローゼン橋」として知られるようになります。

1957年: 「ワームホール」の命名

ジョン・アーチボルト・ホイーラーとチャールズ・マイスナーが、空間を2次元で視覚化して空間上の2点を3次元のトンネルでつなぐ穴を「ワームホール」と名付けました。

1988年: 横断可能なワームホールの研究

物理学者キップ・ソーン(Kip Thorne)らが、「通過可能なワームホール(traversable wormhole)」の研究を発表しました。
これは、SF作家カール・セーガンが小説「コンタクト」を執筆中に、科学的に可能な星間旅行のシナリオを求めたことがきっかけでした。

ワームホールの理論的背景

ワームホールは、アインシュタインの一般相対性理論から導かれます。

一般相対性理論とは

一般相対性理論は、重力を「時空のゆがみ」として説明する理論です。

通常、私たちは宇宙空間を平らな舞台のようなものだと考えがちです。
しかし、一般相対性理論によれば、宇宙空間は質量を持つ物体の周りでゆがみます。

例えば:

  • 太陽の周りでは、その巨大な質量により時空が大きくゆがんでいます
  • 地球の周りでも、わずかに時空がゆがんでいます
  • このゆがみが、私たちが「重力」として感じる力の正体です

時空のゆがみとワームホール

一般相対性理論の方程式(アインシュタイン方程式)には、様々な解が存在します。
その中の一つが、ワームホールという時空構造です。

宇宙空間を柔らかいゴムシートに例えると:

  • 通常の宇宙は、質量によってゆがんだゴムシート
  • ワームホールは、ゴムシートに穴が開き、離れた2点がトンネルで繋がった状態

この「トンネル」を通ることができれば、ゴムシートの表面を移動するよりも速く目的地に到達できる可能性があります。

ワームホールの種類

ワームホールには、理論上いくつかの種類があります。

シュワルツシルト・ワームホール

最も基本的なワームホールで、ブラックホールとホワイトホールを結ぶ構造です。

特徴:

  • ブラックホール: 物質を吸い込む「入り口」
  • ホワイトホール: 物質を吐き出す「出口」(理論上の存在)
  • アインシュタイン-ローゼン橋: 両者を結ぶトンネル

問題点:

  • このタイプのワームホールは極めて不安定です
  • 1962年、ジョン・ホイーラーとロバート・フラーの研究により、光でさえ通過する前に崩壊してしまうことが示されました
  • 実質的に通過不可能です

横断可能ワームホール

1988年にキップ・ソーンらが提唱した、理論上通過できる可能性のあるワームホールです。

必要条件:

  • 負のエネルギー密度を持つ物質(エキゾチック物質)が必要
  • この物質は通常の物質とは逆の重力効果(反発力)を持つ
  • ワームホールの崩壊を防ぐために、トンネルを支える役割を果たす

可能性:

  • 負のエネルギーは、量子力学の一部の効果で実験的に確認されています(カシミール効果)
  • ただし、ワームホールを安定させるのに十分な量のエキゾチック物質が存在するかは不明です

最近の研究:

2021年、マドリード・コンプルテンセ大学のサルセド氏らの研究により、特定の条件下では負のエネルギーを必要としない横断可能なワームホールが理論的に可能であることが示されました。
これは電荷を持つフェルミオン物質を使用するもので、Physical Review Lettersに掲載された注目すべき成果です。

微小ワームホール

量子スケール(プランクスケール、約10^-33センチメートル)では、時空の構造が激しく変動していると考えられています。

特徴:

  • 極めて小さいサイズ
  • 絶えず生成と消滅を繰り返している可能性
  • 量子重力理論の効果により、トポロジー(形状)が変化する

問題点:

  • 実在したとしても、人間はもちろん、物質を通過させることは不可能なほど小さい
  • 宇宙の膨張により、一部が引き伸ばされて大きくなる可能性は理論上考えられる

ワームホールは実在するのか

ワームホールは理論上可能ですが、実際に存在するという証拠は見つかっていません

実在が難しい理由

1. 安定性の問題

ワームホールは極めて不安定で、すぐに崩壊してしまうと考えられています。
仮に自然にワームホールが発生しても、瞬時に消滅してしまう可能性が高いです。

2. エキゾチック物質の不足

横断可能なワームホールを維持するには、大量の負のエネルギー密度を持つ物質が必要です。
量子効果で負のエネルギーは確認されていますが、ワームホールを支えるのに必要な量を制御・維持する技術は現在ありません。

3. 観測の困難さ

ワームホールが存在したとしても、それを観測する方法は限られています。
天文学的な観測では、これまでワームホールの証拠は発見されていません。

人工的にワームホールを作れるか

理論物理学者の中には、人工的にワームホールを作る方法を提案している人もいます。

キップ・ソーンやフランク・ティプラーは、以下の手順でワームホールを作る可能性を示唆しています:

  1. 量子効果で生成された微小なワームホールを見つける
  2. それを宇宙船が通過できるほどに拡大する
  3. エキゾチック物質でトンネルを支える
  4. 安定化させて維持する

しかし、これは現在の技術では全く実現不可能です。
必要なエネルギー量は莫大で、制御する技術も存在しません。

ワームホールとSF作品

ワームホールは、多くのSF作品で重要な役割を果たしています。

SF作品での描かれ方

時空を超える移動手段:

  • 遠く離れた銀河や星系を瞬時に結ぶ「星間ゲート」
  • 数万光年の距離を短時間で移動可能
  • 物語上の重要な移動手段として機能

タイムトラベルの手段:

  • ワームホールの両端に時間差を作ることで、過去や未来への旅行が可能(理論上)
  • タイムパラドックスを扱った作品も多い

代表的な作品:

  • 「インターステラー」(2014年、クリストファー・ノーラン監督): 物理学者キップ・ソーンが科学顧問を務め、科学的に正確なワームホールの描写で知られる
  • 「コンタクト」(1997年、原作カール・セーガン): 地球外知的生命体が作ったワームホールを通じた星間旅行を描く
  • 「スタートレック ディープ・スペース・ナイン」: 安定したワームホールが物語の中心的要素

SFと現実の違い

SF作品では、ワームホールは比較的簡単に利用できるものとして描かれることが多いですが、現実の理論では:

  • ワームホールは極めて不安定
  • 維持するには莫大なエネルギーと特殊な物質が必要
  • 仮に通過できても、潮汐力(重力の差)で破壊される可能性が高い
  • 人間が安全に通過できる保証はない

ただし、SF作品がワームホールの研究を刺激したことも事実です。
キップ・ソーンの横断可能ワームホールの研究は、カール・セーガンの依頼がきっかけでした。

ワームホールとブラックホールの違い

ワームホールとブラックホールは混同されがちですが、異なる概念です。

ブラックホール

  • 定義: 重力が極めて強く、光さえ脱出できない天体
  • 事象の地平面: この境界を越えると、二度と戻ってこられない
  • 特異点: 中心部に無限大の密度を持つ点が存在すると考えられている
  • 観測: 実際に観測されており、存在が確認されている

ワームホール

  • 定義: 時空の2点を繋ぐトンネル
  • 出口の存在: 理論上、別の場所や時間に繋がる出口がある
  • 特異点: 横断可能なワームホールには特異点がない構造も考えられる
  • 観測: 実際には観測されておらず、理論上の存在

関連性

アインシュタイン-ローゼン橋は、ブラックホールとホワイトホールを結ぶ構造として提唱されました。
しかし、現代の理解では、通常のブラックホールがワームホールに繋がっているわけではありません。

ワームホールと時間旅行

ワームホールは、理論上タイムトラベルを可能にする可能性があります。

時間旅行の仕組み

キップ・ソーンらの研究によれば、以下の方法でタイムマシンを作れる可能性があります:

  1. 安定したワームホールを作る: エキゾチック物質で支える
  2. ワームホールの一方の口を高速で移動させる: 光速に近い速度で動かす
  3. 特殊相対性理論の効果: 高速で運動する物体の時間は遅くなる
  4. 時間差の発生: ワームホールの両端で時間のずれが生じる
  5. 過去への旅行: ワームホールを通ることで、過去に戻れる

時間旅行の問題点

1. タイムパラドックス

過去に戻って歴史を変えると、因果律に矛盾が生じます(祖父のパラドックスなど)。
物理学では、このような矛盾は起こらないとする「時間順序保護仮説」が提唱されています。

2. 量子効果

スティーブン・ホーキングは、量子効果を考慮するとタイムマシンは実現不可能であると主張しています。
ワームホールを使った時間旅行が可能になる直前に、量子的な不安定性によりワームホールが崩壊する可能性があります。

3. 技術的困難

仮に理論的に可能でも、実現には以下が必要です:

  • 莫大なエネルギー(中性子星レベル)
  • エキゾチック物質の制御技術
  • ワームホールの安定化技術

これらは、現在の技術では全く実現不可能です。

ワームホール研究の意義

ワームホールは実在が確認されていませんが、研究には重要な意義があります。

1. 一般相対性理論の理解を深める

ワームホールは一般相対性理論から導かれる興味深い解の一つです。
その性質を研究することで、時空の構造をより深く理解できます。

2. 量子重力理論の手がかり

ワームホールの研究は、一般相対性理論と量子力学を統合する「量子重力理論」の発展に貢献する可能性があります。

3. 宇宙の理解

時空の構造を理解することは、宇宙の起源や進化を理解する上で重要です。

4. 未来の技術への示唆

現在は不可能でも、将来的に技術が発展すれば、ワームホールに関する研究が応用される可能性があります。

まとめ

ワームホールは、一般相対性理論から導かれる時空のトンネル構造です。

この記事のポイント:

  • ワームホールは時空の2点を直接繋ぐトンネルのような構造
  • リンゴの虫食い穴に由来する名前で、宇宙空間の「近道」に例えられる
  • アインシュタインとローゼンが1935年に提唱し、1957年にホイーラーが「ワームホール」と命名
  • 一般相対性理論の解として数学的に導かれるが、実在は確認されていない
  • 横断可能なワームホールには負のエネルギー密度を持つエキゾチック物質が必要
  • 極めて不安定で、すぐに崩壊すると考えられている
  • SF作品では星間旅行やタイムトラベルの手段として描かれる
  • 現在の技術では、ワームホールの作成・利用は全く不可能
  • 理論物理学の重要な研究テーマであり、時空の理解を深める意義がある

ワームホールは、現時点では「数学的に可能性がある」という段階です。
実在するかどうか、将来的に利用できるかどうかは、今後の物理学の発展にかかっています。

SF作品で描かれるような星間旅行が実現する日が来るかもしれませんが、それには物理学と技術の大きな進歩が必要でしょう。

参考情報

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