物質を構成する最小単位である素粒子は、私たちの世界を理解する上で欠かせない存在です。
この記事では、現代物理学の到達点である「標準模型(Standard Model)」に含まれる17種類の素粒子について、その特徴と役割を詳しく解説します。
クォーク、レプトン、ボソンという3つのグループに分けて、それぞれの素粒子がどのように働いているのかを見ていきましょう。
概要
素粒子とは、物質を構成する最小の単位であり、内部構造を持たない粒子のことです。
標準模型では、物質を構成する12種類のフェルミオン(fermion)と、力を媒介する5種類のボソン(boson)の合計17種類が基本的な素粒子として認識されています。
この記事では、各素粒子の特性、役割、そして宇宙における重要性について網羅的にご紹介します。
素粒子とは
素粒子は、それ以上分割できない物質の基本単位です。
かつては原子が物質の最小単位と考えられていましたが、20世紀の物理学の発展により、原子は電子と原子核から構成され、原子核はさらに陽子と中性子から成り、陽子と中性子もクォークという素粒子で構成されていることが明らかになりました。
現在の素粒子物理学では、素粒子には大きさが無い「点粒子」として扱われており、実験結果とも矛盾していません。
ただし、超弦理論などの新しい理論では、素粒子は有限の大きさを持つ「ひも」の振動状態であるとも考えられています。
素粒子は、従う統計則によって2種類に分類されます。
フェルミ統計に従うフェルミオン(fermion)と、ボース統計に従うボソン(boson)です。
フェルミオンは物質を構成する粒子であり、ボソンは力を媒介する粒子です。
標準模型について
標準模型(Standard Model)は、1970年代半ばに体系化された現代素粒子物理学の基本的な枠組みです。
「20世紀の物理学の到達点」とも言われるこの理論には、17種類の素粒子が登場します。
標準模型は、電磁気力、弱い力、強い力という3つの基本的な力を量子論的に記述し、それらを担う素粒子がどのように相互作用するかを説明します。
ただし、重力については標準模型の範囲外であり、重力を媒介する重力子(graviton)は未発見です。
標準模型の素粒子は以下のように分類されます。
フェルミオン(物質粒子):12種類
- クォーク:6種類
- レプトン:6種類
ボソン(力を媒介する粒子):5種類
- ゲージボソン:4種類
- ヒッグスボソン:1種類
これらの素粒子は「世代」と呼ばれるグループに分けられ、各世代は似た性質を持ちますが、質量が異なります。
一般に、世代が上がるほど質量が大きくなります。
フェルミオン(物質粒子)
フェルミオンは、スピン量子数1/2を持つ物質を構成する粒子です。
パウリの排他原理に従い、同じ量子状態に2つの同一フェルミオンが同時に存在することはできません。
フェルミオンは、クォークとレプトンの2つのグループに分けられます。
クォーク(Quark)
クォークは、強い相互作用をする素粒子で、6種類(6つのフレーバー)が存在します。
クォークは単独で観測されることはなく、常に複数のクォークが結合してハドロンと呼ばれる複合粒子を形成します。
この現象は「クォークの閉じ込め」として知られています。
クォークは3つの世代に分類されます。
第1世代:
- アップクォーク(up quark, u):電荷+2/3、質量約2.2 MeV/c²
- ダウンクォーク(down quark, d):電荷-1/3、質量約4.7 MeV/c²
アップクォークとダウンクォークは、陽子と中性子を構成する基本的なクォークです。
陽子はアップクォーク2個とダウンクォーク1個、中性子はアップクォーク1個とダウンクォーク2個から成り立っています。
これらは安定しており、宇宙の中で最も多く存在するクォークです。
第2世代:
- チャームクォーク(charm quark, c):電荷+2/3、質量約1.28 GeV/c²
- ストレンジクォーク(strange quark, s):電荷-1/3、質量約96 MeV/c²
チャームクォークとストレンジクォークは、宇宙線や粒子加速器の中で起こる高エネルギー衝突でのみ生成されます。
これらは不安定で、すぐにアップクォークやダウンクォークに崩壊します。
第3世代:
- トップクォーク(top quark, t):電荷+2/3、質量約172.7 GeV/c²
- ボトムクォーク(bottom quark, b):電荷-1/3、質量約4.18 GeV/c²
トップクォークは、全ての素粒子の中で最も重い粒子です。
その質量は約172.7 GeV/c²で、なんと鉄原子約3個分に相当します。
トップクォークは1995年に発見され、標準模型の予言を裏付けました。
ボトムクォークも比較的重いクォークで、同様に不安定です。
クォークの重要な特性:
クォークは、電荷が素電荷(電子の電荷)の整数倍ではない唯一の粒子群です。
電荷は+2/3または-1/3という分数値を持ちます。
また、クォークは「色荷(color charge)」という性質を持ちます。
これは実際の色とは関係なく、強い相互作用に関わる量子数です。
色荷には赤、緑、青の3種類があり、反クォークは反赤、反緑、反青の色荷を持ちます。
クォークは、標準模型において唯一、4つの基本相互作用(電磁力、重力、強い力、弱い力)全ての影響を受ける素粒子のグループです。
レプトン(Lepton)
レプトンは、強い相互作用をしない素粒子で、6種類が存在します。
レプトンもクォークと同様に3つの世代に分類されます。
第1世代:
- 電子(electron, e⁻):電荷-1、質量約0.511 MeV/c²
- 電子ニュートリノ(electron neutrino, νₑ):電荷0、質量<2.2 eV/c²
電子は、私たちが最もよく知っているレプトンです。
原子核の周りを回り、原子を形成し、化学結合に関わります。
1897年にJ.J.トムソンによって発見されました。
電子ニュートリノは、電荷を持たない極めて軽い粒子で、弱い相互作用のみを行います。
そのため、物質との相互作用が非常に弱く、検出が困難です。
第2世代:
- ミューオン(muon, μ⁻):電荷-1、質量約105.7 MeV/c²
- ミューニュートリノ(muon neutrino, νμ):電荷0、質量<0.19 MeV/c²
ミューオンは、電子の約207倍の質量を持つレプトンです。
宇宙線が大気と衝突する際に生成され、不安定で約2.2マイクロ秒で電子に崩壊します。
第3世代:
- タウ粒子(tau, τ⁻):電荷-1、質量約1.777 GeV/c²
- タウニュートリノ(tau neutrino, ντ):電荷0、質量<18.2 MeV/c²
タウ粒子は最も重いレプトンで、電子の約3477倍の質量を持ちます。
極めて不安定で、約2.9×10⁻¹³秒で崩壊します。
タウニュートリノは2000年に発見され、標準模型の最後のレプトンとなりました。
ニュートリノの特性:
ニュートリノは、電荷を持たず、質量が極めて小さく(あるいはゼロの可能性もある)、弱い相互作用のみを行う不思議な粒子です。
宇宙には膨大な数のニュートリノが存在し、数の観点では宇宙の物質の大部分を占めていると考えられています。
ニュートリノは物質をほとんど素通りするため、検出が非常に困難です。
この特性のため、「幽霊粒子」とも呼ばれます。
ボソン(力を媒介する粒子)
ボソンは、素粒子間の相互作用を媒介する粒子です。
標準模型では5種類のボソンが知られています。
ゲージボソン(Gauge Boson)
ゲージボソンは、スピン1を持つ力を媒介する粒子です。
4種類が存在し、それぞれ異なる力を担います。
光子(Photon, γ)
- 電荷:0
- 質量:0
- 媒介する力:電磁気力
光子は、電磁相互作用を媒介するゲージ粒子です。
ガンマ線の正体であり、可視光線、電波、X線など、あらゆる電磁波は光子の流れです。
光子は質量を持たず、光速で移動します。
電磁気力は無限の距離まで到達するため、光子の作用範囲は無限です。
電荷を持つ粒子同士が引き合ったり反発したりするのは、光子を交換することによって起こります。
グルーオン(Gluon, g)
- 電荷:0
- 質量:0
- 媒介する力:強い力
グルーオンは、強い相互作用を媒介するゲージ粒子です。
色荷を持ち、カラーSU(3)の下で8種類存在します。
グルーオンは、クォーク同士を結びつけて陽子や中性子を形成し、さらに陽子と中性子を結びつけて原子核を作ります。
強い力は、原子核が崩壊せずに存在できる理由です。
グルーオン自身も色荷を持つため、グルーオン同士も相互作用します。
この性質が「クォークの閉じ込め」という現象を引き起こします。
Wボソン(W Boson, W⁺, W⁻)
- 電荷:±1
- 質量:約80.4 GeV/c²
- 媒介する力:弱い力
Wボソンは、弱い相互作用を媒介するゲージ粒子です。
W⁺とW⁻の2種類があり、互いに反粒子の関係にあります。
Wボソンは、ベータ崩壊(原子核が放射線を出して別の元素に変わる現象)を引き起こします。
電荷を持つため、荷電粒子との相互作用に関与します。
Zボソン(Z Boson, Z⁰)
- 電荷:0
- 質量:約91.2 GeV/c²
- 媒介する力:弱い力
Zボソンは、電荷を持たない弱い相互作用を媒介するゲージ粒子です。
ワインバーグ=サラム理論により予言され、1983年にWボソンとともに発見されました。
Zボソンは、中性の粒子との弱い相互作用に関わります。
ヒッグスボソン(Higgs Boson, H⁰)
ヒッグスボソン(Higgs Boson, H⁰)
- 電荷:0
- 質量:約125.1 GeV/c²
- スピン:0
ヒッグスボソンは、標準模型の中でも特殊な素粒子です。
1964年にピーター・ヒッグスらによって予言され、2012年7月4日、CERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)実験によってついに発見されました。
ヒッグスボソンは、ヒッグス機構と呼ばれる仕組みを通じて、他の素粒子に質量を与える役割を果たします。
宇宙全体に広がる「ヒッグス場」が存在し、粒子がこの場と相互作用することで質量を獲得すると考えられています。
ヒッグス場との相互作用が強い粒子ほど質量が大きく、相互作用が弱い(あるいはゼロの)粒子は質量が小さく(あるいはゼロ)なります。
光子とグルーオンはヒッグス場と相互作用しないため、質量がゼロです。
ヒッグスボソンの発見により、標準模型の最後のピースが埋まり、ピーター・ヒッグスとフランソワ・アングレールは2013年にノーベル物理学賞を受賞しました。
素粒子一覧表
以下は、標準模型に含まれる17種類の素粒子の一覧です。
| 分類 | 世代/種類 | 名称(日本語) | 名称(英語) | 記号 | 電荷 | 質量(概算) | 主な特性 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| フェルミオン(クォーク) | 第1世代 | アップクォーク | Up quark | u | +2/3 | 2.2 MeV/c² | 陽子・中性子の構成要素 |
| 第1世代 | ダウンクォーク | Down quark | d | -1/3 | 4.7 MeV/c² | 陽子・中性子の構成要素 | |
| 第2世代 | チャームクォーク | Charm quark | c | +2/3 | 1.28 GeV/c² | 不安定、すぐに崩壊 | |
| 第2世代 | ストレンジクォーク | Strange quark | s | -1/3 | 96 MeV/c² | 不安定、すぐに崩壊 | |
| 第3世代 | トップクォーク | Top quark | t | +2/3 | 172.7 GeV/c² | 最も重い素粒子 | |
| 第3世代 | ボトムクォーク | Bottom quark | b | -1/3 | 4.18 GeV/c² | 不安定、すぐに崩壊 | |
| フェルミオン(レプトン) | 第1世代 | 電子 | Electron | e⁻ | -1 | 0.511 MeV/c² | 原子の構成要素 |
| 第1世代 | 電子ニュートリノ | Electron neutrino | νₑ | 0 | <2.2 eV/c² | 弱い相互作用のみ | |
| 第2世代 | ミューオン | Muon | μ⁻ | -1 | 105.7 MeV/c² | 電子の約207倍の質量 | |
| 第2世代 | ミューニュートリノ | Muon neutrino | νμ | 0 | <0.19 MeV/c² | 弱い相互作用のみ | |
| 第3世代 | タウ粒子 | Tau | τ⁻ | -1 | 1.777 GeV/c² | 最も重いレプトン | |
| 第3世代 | タウニュートリノ | Tau neutrino | ντ | 0 | <18.2 MeV/c² | 2000年発見、弱い相互作用のみ | |
| ボソン(ゲージボソン) | 電磁気力 | 光子 | Photon | γ | 0 | 0 | 電磁気力を媒介 |
| 強い力 | グルーオン | Gluon | g | 0 | 0 | 強い力を媒介、8種類存在 | |
| 弱い力 | Wボソン | W boson | W⁺, W⁻ | ±1 | 80.4 GeV/c² | ベータ崩壊を引き起こす | |
| 弱い力 | Zボソン | Z boson | Z⁰ | 0 | 91.2 GeV/c² | 中性の弱い相互作用 | |
| ボソン(ヒッグスボソン) | 質量の起源 | ヒッグスボソン | Higgs boson | H⁰ | 0 | 125.1 GeV/c² | 素粒子に質量を与える |
注記:
- 質量の単位は、eV/c²(電子ボルト)です。1 GeV = 1000 MeV = 1,000,000,000 eV
- すべてのフェルミオンには対応する反粒子が存在します
- グルーオンは色荷の組み合わせにより8種類存在します
- 重力を媒介する重力子(graviton)は標準模型に含まれず、未発見です
標準模型の限界と未解決問題
標準模型は、現時点で素粒子物理学における最も成功した理論ですが、いくつかの限界と未解決問題も抱えています。
重力の欠如:
標準模型は、4つの基本的な力のうち、電磁気力、弱い力、強い力の3つを記述しますが、重力については扱っていません。
重力を媒介するとされる重力子(graviton)は、標準模型の粒子リストに含まれていません。
暗黒物質:
宇宙の約27%を占めるとされる暗黒物質(dark matter)は、標準模型の粒子では説明できません。
暗黒物質の正体は、素粒子物理学の最大の謎の一つです。
暗黒エネルギー:
宇宙の約68%を占めるとされる暗黒エネルギー(dark energy)も、標準模型では説明できません。
ニュートリノの質量:
標準模型の範囲内では、ニュートリノは質量を持たないとされていましたが、実験により質量を持つことが確認されています。
ニュートリノの質量獲得機構は、標準模型を超える物理として研究されています。
世代数の謎:
なぜフェルミオンに3つの世代が存在するのか、なぜ同じ世代内でも質量が大きく異なるのか(例:アップクォークとトップクォークの質量比は約100,000倍)といった疑問は、標準模型では答えられません。
CP対称性の破れ:
宇宙に反物質がほとんど存在しない理由を説明するには、標準模型で予言されるCP対称性の破れだけでは不十分とされています。
これらの問題を解決するため、超対称性理論、超弦理論、大統一理論など、標準模型を超える新しい理論が研究されています。
まとめ
標準模型に含まれる17種類の素粒子は、私たちの宇宙を構成する基本要素です。
物質を作るフェルミオン12種類(クォーク6種類、レプトン6種類)と、力を媒介するボソン5種類(ゲージボソン4種類、ヒッグスボソン1種類)が、宇宙のあらゆる現象を支配しています。
日常で目にする物質のほとんどは、アップクォーク、ダウンクォーク、電子という3種類の素粒子の組み合わせでできています。
しかし、宇宙全体を理解するには、他の14種類の素粒子も欠かせません。
標準模型は「20世紀の物理学の到達点」と呼ばれる偉大な理論ですが、まだ解明されていない謎も多く残されています。
暗黒物質、暗黒エネルギー、重力の量子論など、標準模型を超える新しい物理学の発見が待たれています。
21世紀の素粒子物理学は、さらなる発見に向けて進化を続けています。
参考情報
この記事で参照した情報源
学術機関・研究機関:
- 東京大学素粒子物理国際研究センター(ICEPP)「素粒子の発見と標準理論」 – 標準模型の基礎と17種類の素粒子
- 天文学辞典「素粒子」 – 標準模型の12種類のフェルミ粒子と5種類のボース粒子
- 九州大学附属図書館「標準模型の基本粒子」 – 小林・益川理論とCP対称性の破れ
国際研究機関:
- CERN「The Standard Model」 – ヒッグスボソンの発見と標準模型の概要
- 米国エネルギー省「DOE Explains…the Standard Model of Particle Physics」 – 素粒子の分類と相互作用
- イタリア国立原子核物理学研究所「Standard model of elementary particles」 – ゲージ対称性とヒッグス機構
参考文献・百科事典:
- Wikipedia「素粒子」 – フェルミオンとボソンの分類
- Wikipedia「標準模型」 – 標準模型の理論的枠組み
- Wikipedia「クォーク」 – 6種類のクォークの特性
- Britannica「Standard model」 – 標準模型の歴史と発展
- Wikipedia「Standard Model」 – 標準模型の詳細(英語版)
専門解説サイト:
- HiggsTan「素粒子ってなに?」 – 素粒子の基礎知識
- HiggsTan「クォークってなに?」 – クォークの種類と質量
- 英国物理学会「The Standard Model」 – ヒッグスボソンの役割
- Quanta Magazine「A New Map of All the Particles and Forces」 – 標準模型の新しい可視化
日本の研究成果:
- 日本原子力研究開発機構「クォーク間の『芯』をとらえた」 – クォークのパウリ原理と核力
- academist Journal「陽子の中の構造を反クォークの存在量から探る」 – 陽子内部のクォークとグルーオン
- KEK「レ プ ト ン ク ォ ー ク 物質をつくる素粒子 力を伝える素粒子 標準理論の素粒子たち」 – 素粒子の一覧と分類
- 核物理懇談会「日本の原子核物理学研究」 – クォーク・グルーオン・プラズマ
その他の参考資料:
- 高校物理の備忘録「クォークの質量比べ」 – クォークの質量データ
- 名古屋大学「質量の起源」 – ヒッグス機構と質量獲得

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