セプタリアンとは何か

セプタリアン(Septarian)は、恐竜時代の終わり頃(約5000万~7000万年前)に、古代の海底で形成された特別な岩石です。
簡単に言うと、「化石化した泥のボール」のようなものです。丸い形をしていて、中を割ると亀の甲羅のような美しい模様が現れます。
黄色い結晶(方解石)、茶色の線(アラゴナイト)、灰色の外殻(石灰岩)の3つの鉱物が組み合わさってできているんです。
科学的には「セプタリアンノジュール」(septarian nodule)や「セプタリアンコンクリーション」(septarian concretion)と呼ばれ、堆積岩の一種です。
大きさは手のひらサイズから、なんと3メートルもの巨大なものまであります。
名前の由来と別名
「セプタリアン」という名前は、ラテン語の「septum(セプタム)」から来ています。
これは「仕切り」や「隔壁」という意味で、鼻の穴を分ける軟骨と同じ言葉なんです。
石の中のひび割れが、まるで部屋を仕切る壁のように見えることから、この名前がつきました。
世界各地での別名
- ドラゴンストーン(Dragon Stone)
最も人気のある別名です。
表面の模様が竜のウロコに見えることから名付けられました。 - ドラゴンエッグ(Dragon Egg)
丸い形が竜の卵のように見えるため、この名前で呼ばれます。 - 亀甲石(きっこうせき)
日本での呼び名。亀の甲羅のような模様から名付けられました。 - ライトニングストーン(Lightning Stone)
稲妻のようなひび割れ模様から、この名前がつきました。
形成過程:なぜ亀裂模様ができるのか
セプタリアンの形成は、まるで「泥団子が乾いてひび割れる」プロセスを何百万年もかけて行ったようなものです。
形成の4段階
第1段階:海底での堆積(水中段階)
古代の海で、死んだ海の生き物(アンモナイトや貝など)の周りに、粘土や泥がくっついて丸い「泥団子」ができました。まるで雪だるまを作るように、どんどん大きくなっていきます。
第2段階:固まり始める
何千年もの間、地下水に含まれるミネラル(主に炭酸カルシウム)が泥団子に染み込み、外側から固まり始めました。外側は硬く、内側はまだ柔らかい状態です。
第3段階:ひび割れの形成(最も重要な段階)
海の水が引いて陸地になると、泥団子の内部が乾燥して縮みました。
これは池の底の泥が乾いてひび割れる現象とまったく同じです。
外側は硬いまま、内側だけが縮むので、放射状にひびが入ります。
地震の振動も、ひび割れを作る原因になりました。
第4段階:鉱物の充填
できたひび割れに、ミネラルを含んだ地下水が染み込み、美しい結晶が成長しました。黄色い方解石、茶色いアラゴナイトなどが、まるで「天然のセメント」のようにひびを埋めていったんです。
この全過程には100万年から400万年かかります。ニュージーランドのモエラキボルダー(直径3メートル)は、400万年かけて今の大きさになりました。
形成年代

セプタリアンの多くは白亜紀(1億4500万年~6600万年前)に形成されました。
これは恐竜が地球を支配していた最後の時代です。
各地の形成年代:
- ユタ州(アメリカ):9000万~1億年前
- マダガスカル:1億6000万年前(ジュラ紀)
- ニュージーランド:6000万年前(暁新世)
- イギリス:1億4500万年前(ジュラ紀後期)
当時は海面が今より高く、現在の陸地の多くが海の底でした。
鉱物組成
セプタリアンは3つの主要な鉱物でできています。
主要鉱物
- 方解石(ほうかいせき) 黄色い結晶部分です。化学式CaCO₃、モース硬度3。
- アラゴナイト 茶色い境界線の部分。方解石と同じCaCO₃ですが、結晶の形が違います。硬度3.5-4。
- ベントナイト粘土/石灰岩 灰色の外側部分。元は粘土だったものが石灰岩に変化しました。
その他の鉱物
- 重晶石(じゅうしょうせき) 白い結晶で、特にユタ州産に多く見られます。
- 石膏(せっこう) 透明な細長い結晶として現れます。
- 黄鉄鉱(おうてっこう) 金色の小さな結晶として含まれることがあります。
これらの鉱物の組み合わせが、セプタリアン特有の美しい模様を作り出すんですね。
物理的特性
- 硬度:モース硬度3.5-4(爪で傷がつかないが、ナイフで傷がつく程度)
- 比重:2.5-3.2(普通の石より少し重い)
- 大きさ:1センチから3メートルまで様々
- 重さ:大きいものは数トンにもなります
色のパターン:
- 黄色=方解石の純粋な結晶
- 茶色=鉄分を含むアラゴナイト
- 灰色=粘土が変化した石灰岩
- 白色=重晶石や石膏
世界の主要産地
最高品質の産地
アメリカ・ユタ州
場所はザイオン国立公園近くのマディークリーク地域です。大きな蜂蜜色の方解石結晶が特徴で、紫外線で光る性質があります。「世界最高品質」と評価されているんですよ。
マダガスカル
北部のツァラマンドロソ地域が主な産地です。
複雑で美しい模様、濃い茶色と鮮やかな黄色のコントラストが特徴で、装飾品として人気が高いです。
その他の産地
- ニュージーランド:モエラキボルダー(世界最大、直径3メートル)
- イギリス:ヨークシャー海岸からドーセットまで
- モロッコ:乾燥した気候で保存状態が良い
- アメリカの他の州:コロラド、ネバダ、アイオワ、ミシガン、ノースダコタ
日本での産出状況
重要な事実として、日本ではセプタリアンは産出されません。
日本で見られるセプタリアンはすべて輸入品です。主にマダガスカル、メキシコ、アメリカのユタ州から輸入されています。
日本の鉱物店やインターネットショップで購入できますが、すべて海外産なんです。
日本では「亀甲石」「泥灰岩(でいかいがん)」「ドラゴンストーン」などの名前で販売されています。
セプタリアンの見分け方と特徴的な模様
本物のセプタリアンの特徴
外観
卵やジャガイモのような丸い形をしています。表面は灰色や茶色でざらざらしていて、割ると中に美しい模様が現れます。
亀の甲羅模様(タートルシェルパターン)
放射状に広がるひび割れが特徴的です。多角形の区画に分かれていて、まるで亀の甲羅の模様のようですね。
ドラゴンスキン(竜の皮)模様
ウロコのような質感があります。黄色、茶色、灰色の組み合わせが、竜の皮膚のような外観を作り出します。
偽物の見分け方
色が均一すぎる場合は要注意。本物は必ず色のムラがあります。
模様が完璧すぎるのも怪しいです。自然のひび割れは不規則なものです。
硬すぎたり柔らかすぎたりする場合も偽物の可能性があります。硬度3.5-4が正常です。
軽すぎる場合は、プラスチックや樹脂の可能性があります。
内包物がない場合も怪しいです。本物は必ず小さな気泡や鉱物を含んでいます。
化石との関係
セプタリアンは古代の海の生き物と深い関係があります。
アンモナイトとの関係
多くのセプタリアンは、死んだアンモナイト(巻き貝のような古代の生き物)を核として形成されました。
マダガスカル産のセプタリアンには、完全なアンモナイトが保存されているものもあるんです。
その他の化石
- 貝殻:ユタ州産にはタリテラ貝がよく含まれます。
- 海洋爬虫類:まれにモササウルスやプレシオサウルスの歯が見つかることもあります(未確認)。
- 微小な海洋生物:様々な小さな生き物の痕跡が含まれています。
セプタリアンは、5000万年以上前の海の環境を教えてくれる「タイムカプセル」のような存在なんですね。
類似の鉱物との違い
間違えやすい石
- メノウ(アゲート) 縞模様があるけれど、セプタリアンのようなひび割れ模様はありません。
- ジャスパー 同じような土っぽい色ですが、ひび割れ模様がないんです。
- 石灰岩の塊 形は似ているけれど、内部に美しい模様がありません。
- 珪化木 木の化石で、年輪のような模様があります。
見分けるポイント
- 3色構成:黄・茶・灰の3色が必ずある
- ひび割れ模様:角張った亀裂が特徴的
- 硬度:モース硬度3.5-4(メノウより柔らかい)
- 内包物:必ず気泡や小さな鉱物を含む
興味深い標本と有名なコレクション

世界最大のセプタリアン
モエラキボルダー(ニュージーランド)
南島のコエコヘビーチにあります。直径3メートル、重さ数トンという巨大さです。
6000万年前に形成されたもので、世界最大のセプタリアン群として科学保護区に指定されています。毎年数十万人の観光客が訪れる人気スポットなんですよ。
有名な産地での採掘
ユタ州の採掘場
家族経営の「ジョーズロックショップ」(1952年創業)では、深さ15メートルまで掘って採掘しています。見学ツアーもあります(要予約)。
博物館のコレクション
- セントルイス科学センター(アメリカ):教育展示
- スミソニアン自然史博物館(アメリカ):研究用標本
- 各地の地質博物館:教育用展示
珍しい標本
- 蛍光セプタリアン 紫外線で黄色や白に光ります(ユタ州産)。
- オパール化セプタリアン ひび割れがオパールで満たされた超レアものです。
- 化石入りセプタリアン 完全なアンモナイトが入ったものもあります。
- 青い方解石セプタリアン マダガスカル産の一部に見られる珍しい色です。
まとめ:5000万年の地球の記憶
セプタリアンは、恐竜時代の海が作り出した天然の芸術品です。
死んだ海の生き物の周りに泥が集まり、何百万年もかけて固まり、ひび割れ、美しい鉱物で満たされました。
まるで地球が作った「天然のステンドグラス」のようですね。
一つとして同じ模様のものはなく、それぞれが5000万年以上前の海の記憶を秘めています。
「ドラゴンストーン」という名前の通り、まるで伝説の竜のウロコのような神秘的な美しさを持つセプタリアンは、地球の歴史を物語る貴重な宝物なのです。
手に取って眺めるたびに、太古の海の世界へタイムスリップしたような不思議な感覚を味わえる。それがセプタリアンの魅力かもしれませんね。
コメント