私たちの身の回りにあるすべての物質は、何でできているのでしょうか。
この問いに対する答えの一つが「クォーク」です。
クォークは、陽子や中性子を構成する基本的な素粒子であり、宇宙のあらゆる物質の根源となる存在なんです。
概要
クォーク(Quark)は、物質を構成する最も基本的な素粒子の一種です。
陽子や中性子の内部に存在し、私たちが目にするあらゆる物質の土台を形作っています。
この記事では、クォークの発見から6種類の分類、小林・益川理論まで、クォークの全貌を詳しく解説します。
クォークとは何か
素粒子としてのクォーク
クォークは、レプトンと並んで物質を構成する基本粒子です。
現在の物理学では、クォークは内部構造を持たない「点状粒子」と考えられています。
大きさは少なくとも10^-15メートルよりも小さく、これは人間の観測技術の限界を示しています。
クォークの最大の特徴は、単独では存在できないという点です。
「クォークの閉じ込め」として知られるこの現象により、クォークは常に他のクォークと結合した状態でしか観測されません。
物質の階層構造
物質の構造を大きいものから順に見ていくと、以下のような階層になります。
原子 → 原子核 → 陽子・中性子 → クォーク
たとえば、陽子は2つのアップクォークと1つのダウンクォークから構成されています。
中性子は1つのアップクォークと2つのダウンクォークから構成されています。
このように、クォークが組み合わさることで、私たちが知る物質が形作られているのです。
クォークの発見
1964年の独立した提唱
クォークの概念は、1964年に2人の物理学者によって独立に提唱されました。
マレー・ゲルマン(Murray Gell-Mann)は、ジェームズ・ジョイス(James Joyce)の小説『フィネガンズ・ウェイク(Finnegans Wake)』の一節「Three quarks for Muster Mark」から「クォーク」という名称を命名しました。
この言葉はカモメの鳴き声を意味するとされています。
一方、ジョージ・ツワイク(George Zweig)はCERNで同じ概念を「エース(aces)」と名付けて発表しました。
ツワイクの論文は1964年1月17日に発表されましたが、最終的にはゲルマンの「クォーク」という名称が定着しました。
実験による証拠の発見
クォークの存在を示す最初の実験的証拠は、1968年にスタンフォード線形加速器センター(SLAC)で得られました。
深非弾性散乱実験により、陽子の内部に「何か小さなもの」が存在することが確認されたのです。
この実験で発見された粒子は、陽子の電荷の3分の1や3分の2といった端数の電荷を持っていました。
これこそが、ゲルマンとツワイクが予言したクォークだったのです。
6種類のクォーク
3つの世代
クォークは全部で6種類存在し、3つの世代に分類されます。
第1世代:
- アップクォーク(up quark, u)
- ダウンクォーク(down quark, d)
第2世代:
- チャームクォーク(charm quark, c)
- ストレンジクォーク(strange quark, s)
第3世代:
- トップクォーク(top quark, t)
- ボトムクォーク(bottom quark, b)
各世代は、電荷がプラスのものとマイナスのものがペアになっています。
電荷の特徴
クォークの最も特異な性質の一つは、その電荷です。
プラスの電荷を持つクォーク(+2/3):
- アップクォーク
- チャームクォーク
- トップクォーク
マイナスの電荷を持つクォーク(-1/3):
- ダウンクォーク
- ストレンジクォーク
- ボトムクォーク
この端数の電荷は、クォークが単独では観測されない理由の一つでもあります。
素粒子の電荷は通常、電子の電荷の整数倍ですが、クォークだけがこの規則から外れているのです。
質量の違い
クォークの質量は世代が上がるごとに増加します。
アップクォークとダウンクォークは非常に軽く、安定しています。
これらは宇宙で最も多く存在するクォークであり、通常の物質(陽子・中性子)を構成しています。
一方、第2世代と第3世代のクォークは不安定で、すぐに崩壊してアップクォークやダウンクォークに変化します。
特にトップクォークの質量は異常に重く、なんと鉄原子約3個分に相当します。
小林・益川理論とクォークの予言
CP対称性の破れという謎
1964年、ジェームズ・クローニン(James Cronin)とヴァル・フィッチ(Val Fitch)がK中間子の実験でCP対称性の破れを発見しました。
これは、粒子と反粒子の世界では物理法則が微妙に異なることを意味していました。
この現象をどう説明するかが、当時の物理学者たちの大きな課題でした。
6種類のクォークの予言
1973年、京都大学の助手だった小林誠と益川敏英は、画期的な理論を発表しました。
当時、クォークは3種類しか発見されていませんでした。
しかし、小林と益川は「クォークが6種類あれば、CP対称性の破れを説明できる」ことを理論的に示したのです。
この「小林・益川理論」は、発表当時はほとんど注目されませんでした。
なぜなら、当時知られていたクォークは3種類だけで、6種類という予言はあまりにも大胆だったからです。
理論の実証
小林・益川理論の正しさは、その後の実験で次々と証明されていきました。
チャームクォーク: 1974年発見
ボトムクォーク: 1977年発見
トップクォーク: 1995年発見(米フェルミ国立加速器研究所)
1995年にトップクォークが発見されたことで、小林と益川が予言した6種類のクォークがすべて揃いました。
さらに2001年には、KEKBファクトリー(日本)とPEP2加速器(米国)での実験により、小林・益川理論が予測したCP対称性の破れが実際に観測されました。
この業績により、小林誠と益川敏英は2008年にノーベル物理学賞を受賞しました。
クォークの性質
クォークの閉じ込め
クォークには「強い力」が働いており、この力はグルーオン(gluon)という粒子が媒介しています。
クォークを単独で取り出そうとすると、強い力がさらに強くなり、結果として新しいクォーク対が生成されてしまいます。
このため、クォークは常に複合粒子(ハドロン)の中にしか存在できないのです。
ハドロンの構成
クォークが結合してできる粒子を「ハドロン」と呼びます。
バリオン: 3つのクォークから構成
- 陽子(uud)
- 中性子(udd)
メソン: クォークと反クォークのペアから構成
- π中間子
- K中間子
これらのハドロンが組み合わさることで、原子核が形成され、さらに原子、分子、そして私たちが目にするあらゆる物質が作られます。
カラー荷
クォークには「カラー荷」という性質があります。
これは実際の色ではなく、強い力に関連した量子数です。
クォークは赤、青、緑の3種類の「色」を持ち、これらが組み合わさることで「無色」の状態になります。
すべての観測可能な粒子は無色でなければならないという原理があり、これがクォークの結合パターンを決定しています。
クォークの種類別解説
アップクォーク
最も軽く、最も一般的なクォークです。
陽子には2個、中性子には1個含まれています。
電荷は+2/3です。
ダウンクォーク
アップクォークと並んで安定したクォークです。
陽子には1個、中性子には2個含まれています。
電荷は-1/3です。
ストレンジクォーク
第2世代のクォークで、ダウンクォークの約50倍の質量を持ちます。
「ストレンジネス」という量子数を持つことから名付けられました。
チャームクォーク
1974年に発見された第2世代のクォークです。
その発見は「11月革命」と呼ばれる物理学の大きな転換点となりました。
ボトムクォーク
陽子質量の約5倍の重さを持つ第3世代のクォークです。
「ビューティクォーク」とも呼ばれます。
トップクォーク
6種類のクォークの中で最も重く、1995年に最後に発見されました。
その質量は鉄原子約3個分に相当し、素粒子としては異常に重い存在です。
クォーク研究の現在と未来
標準模型における位置づけ
クォークは、素粒子物理学の「標準模型」において中心的な役割を果たしています。
標準模型では、物質を構成する基本粒子として6種類のクォークと6種類のレプトンが存在します。
これらが4つの基本的な力(電磁力、強い力、弱い力、重力)によって相互作用することで、宇宙のすべての現象を説明できるとされています。
クォーク星の可能性
理論的には、クォークが「裸の状態」で存在する天体「クォーク星」が存在する可能性が指摘されています。
超新星爆発の後など、極めて高密度・高エネルギーの状態では、クォークが閉じ込めから解放されるかもしれません。
実際に、クォーク星らしき特徴を持つ天体がいくつか発見されており、今後の研究が期待されています。
未解決の問題
クォーク研究には、まだ多くの謎が残されています。
なぜクォークは6種類なのか、なぜ世代ごとに質量が大きく異なるのか、そしてクォークの閉じ込めの詳細なメカニズムはどうなっているのか。
これらの問いに答えることが、現代物理学の大きな課題の一つとなっています。
まとめ
- クォークは物質を構成する基本的な素粒子の一種
- 1964年にマレー・ゲルマンとジョージ・ツワイクが独立に提唱
- 1968年にSLACの実験で存在が確認された
- 全部で6種類(アップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトム)
- 3つの世代に分類され、電荷は+2/3または-1/3
- 小林・益川理論(1973年)が6種類の存在を予言
- 1995年にトップクォークが発見され、予言が完全に実証された
- 陽子や中性子を構成し、すべての物質の土台となっている
クォークの発見と研究は、20世紀後半の物理学における最大の成果の一つです。
私たちが当たり前のように目にする物質が、実は端数の電荷を持つ奇妙な粒子から成り立っているという事実は、自然の神秘を改めて感じさせてくれます。
参考情報
この記事で参照した情報源
一次資料・学術資料
- Gell-Mann, Murray (1964). “A schematic model of baryons and mesons”. Physics Letters. – クォークモデルの提唱論文
- Kobayashi, Makoto; Maskawa, Toshihide (1973). “CP-Violation in the Renormalizable Theory of Weak Interaction”. Progress of Theoretical Physics. – 小林・益川理論の原著論文
研究機関・大学の公式情報
- 素粒子の発見と標準理論 | ICEPP 素粒子物理国際研究センター(東京大学)
- クォーク間の「芯」をとらえた | 日本原子力研究開発機構
- Fifty years of quarks | CERN
- 50 Years of Quarks | Caltech
参考になる外部サイト

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