マルチバースとは?複数の宇宙が存在する理論を徹底解説

「この宇宙以外にも、別の宇宙が存在するかもしれない」という考え方を聞いたことがありますか。
最近のSF映画やドラマで「マルチバース」という言葉をよく耳にするようになりました。
マーベル映画の『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』や『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』などで描かれる「複数の宇宙」や「並行世界」の概念は、実は現代物理学で真剣に議論されている理論なのです。

マルチバースは単なるSFの設定ではありません。
インフレーション理論、量子力学、超弦理論など、最先端の物理学理論から自然に導かれる概念です。
この記事では、マルチバース(多元宇宙論)の基本から様々な種類のマルチバース理論まで、わかりやすく解説します。

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マルチバースとは

マルチバースの基本的な概念から見ていきましょう。

マルチバースの意味

マルチバース(multiverse)とは、複数の宇宙が存在するという概念を指す科学用語です。
日本語では「多元宇宙」「多元宇宙論」とも呼ばれます。

「マルチ(multi)」は「複数の」、「ユニバース(universe)」は「宇宙」を意味します。
一つの宇宙を意味する「ユニバース」の「ユニ(uni)」は「唯一の」という意味なので、マルチバースは「私たちの宇宙だけが唯一ではない」という考え方を表しています。

マルチバースの定義

マルチバースは、理論として可能性のある複数の宇宙の集合です。
多元宇宙はすべての存在を含み、そこには私たちが経験している宇宙に加え、空間、時間、物質、エネルギーの全体が含まれます。
さらに、それらを記述する異なる物理法則や物理定数なども含まれる可能性があります。

マルチバースに含まれるそれぞれの宇宙は、「並行宇宙」「パラレルワールド」「平行宇宙」などとも呼ばれます。

マルチバースという言葉の歴史

「マルチバース」という言葉は、1895年にアメリカの哲学者で心理学者のウィリアム・ジェームズによって造られました。
ただし、当時は異なる文脈で使われていました。

現代的な意味でのマルチバース概念が本格的に広まったのは、20世紀後半以降です。
宇宙のなりたちを説明しようとする現代の科学によって、私たちの現実とは違う別の現実が存在するという理論が導かれたからです。

人類ははるか昔から、この世界とは別の世界を様々に思い描いてきました。
1848年には詩人で作家のエドガー・アラン・ポーが「無限に続く宇宙」を想像する散文詩を書いています。

なぜマルチバースが必要なのか

物理学者たちは、なぜマルチバースという概念を必要としたのでしょうか。

宇宙の微調整問題

私たちの宇宙には不思議なことがあります。
それは、宇宙の物理定数が生命の存在を可能にするように、驚くほど精密に調整されているように見えることです。

物理定数には次のようなものがあります。
重力の強さ、電磁気力の強さ、素粒子の質量、宇宙の膨張速度などです。
これらの値がほんのわずかでも違っていたら、星も惑星も生命も存在できなかったはずです。

科学ジャーナリストのトム・ジーグフリード氏は次のように問いかけます。
「宇宙が一つしかないとすると、私たちの宇宙のすべての性質を説明することができないのです」
「各種の物理定数は、なぜこのような値なのでしょうか。この宇宙にはなぜ、恒星や惑星を作るのに十分な時間があるのでしょうか」

二つの説明方法

この謎を説明する方法は二つあります。

一つは、宇宙の特性を完全に説明できる新しく優れた物理理論を発見することです。

もう一つは、「私たちは多くの異なる宇宙のうちの一つに、快適に暮らしている」と考えることです。
無数の宇宙が存在し、それぞれが異なる物理定数を持つなら、その中の一つが偶然、生命に適した値を持っていても不思議ではありません。
これが「人間原理」と呼ばれる考え方です。

真空のエネルギー密度問題

もう一つの重要な問題があります。
理論的に計算された真空のエネルギー密度と、実際に観測された値の間には驚くべき差があります。
その差は、なんと120桁も違うのです。

物理学者スティーブン・ワインバーグは、真空のエネルギー密度がもっと大きかったら銀河も星も人間も存在できないことを示しました。
異なる真空のエネルギー密度を持つ多くの宇宙があれば、人間が存在できる程度に小さいエネルギー密度の宇宙があっても不思議ではないと考えたのです。

テグマークの4レベル分類

マルチバースには様々な種類があります。
物理学者マックス・テグマークは、マルチバースを4つのレベルに分類しました。

レベルI:観測可能な宇宙の向こう側

レベルIマルチバースは最もシンプルなタイプです。

私たちの宇宙は約138億年前に誕生しました。
そのため、光が届く距離には限界があります。
地球から約465億光年の範囲が「観測可能な宇宙」です。

しかし、宇宙はその先も続いている可能性が高いのです。
インフレーション理論によれば、観測可能な宇宙の外側にも同じ宇宙空間が広がっています。
これらの領域は物理法則は同じですが、物質の配置や歴史は異なる可能性があります。

テグマークの計算によれば、私たちの宇宙と全く同じ配置を持つ領域は約10^10^115メートル離れたところにあるかもしれません。
これはグーゴルプレックス(10^10^100)よりもさらに大きい距離です。

つまり、無限に広がる宇宙のどこかには、あなたとまったく同じ人生を歩んでいる「もう一人のあなた」がいるかもしれないのです。

レベルII:泡宇宙

レベルIIマルチバースはより複雑です。

カオス的インフレーション理論によれば、宇宙全体としてはインフレーション(急激な膨張)が永遠に続いています。
しかし、ある領域ではインフレーションが終わり、それぞれが「泡宇宙」として独立します。

これらの泡宇宙は、基礎的な物理法則は同じかもしれませんが、実効的な物理法則は異なる可能性があります。
つまり、物理定数や素粒子の種類が泡ごとに違うのです。

アンドレイ・リンデとVitaly Vanchurinの計算によれば、このような泡宇宙の数は10^10^10^7程度と推定されています。
超弦理論によれば、異なる真空状態の数は10^500以上にもなります。

それぞれの泡宇宙では物理法則が異なるため、原子爆弾が原理的に可能かどうかすらわからないかもしれません。

レベルIII:量子力学の多世界解釈

レベルIIIマルチバースは、量子力学から生まれる概念です。

量子力学の「多世界解釈」(エベレット解釈)によれば、量子的な測定が行われるたびに宇宙は分岐します。
すべての可能な結果が、それぞれ異なる宇宙で実現するのです。

例えば、あなたがコインを投げたとします。
コインが表になる宇宙と裏になる宇宙の両方が実在します。
ただし、あなたが知覚できるのは自分がいる宇宙の結果だけです。

この解釈は、1957年に物理学者ヒュー・エベレットによって提唱されました。
1970年代にブライス・デウィットが「多世界」という名前を付けて広めました。

重要なのは、レベルIIIマルチバースとレベルIマルチバースは実は同じ多様性を持つということです。
テグマークによれば、唯一の違いは「あなたのドッペルゲンガー(分身)がどこにいるか」だけです。

レベルIV:究極集合

レベルIVマルチバースは最も包括的で哲学的な概念です。

テグマークの「究極集合仮説」または「数学的宇宙仮説」によれば、すべての数学的構造に対応する宇宙が存在します。
これは、異なる物理法則を持つ宇宙だけでなく、異なる数学的構造を持つ宇宙すべてが実在するという考え方です。

レベルIVマルチバースには、レベルI~IIIのすべてのマルチバースが含まれます。
それだけでなく、私たちの宇宙とは全く異なる数学的構造を持つ宇宙も含まれます。

時空や宇宙の中に数学的構造があるのではなく、数学的構造の中に時空や宇宙が存在していると考えるのです。

インフレーション理論とマルチバース

マルチバース理論の多くは、インフレーション理論と密接に関連しています。

インフレーション理論とは

インフレーション理論は現代宇宙論の基礎となる理論です。
この理論によれば、宇宙は誕生直後(ビッグバンから10^-36秒後頃)に指数関数的な急激な膨張を経験しました。
この膨張により、宇宙は光速よりも速く拡大したのです。

インフレーション理論は、宇宙が現在観測されるような平坦で一様な構造を持つ理由を説明します。

永遠のインフレーション

インフレーション理論の予測の一つに「永遠のインフレーション」があります。
インフレーションはすべての場所で同時に終わるわけではありません。
ある領域ではインフレーションが終わっても、別の領域では続いています。

そして、インフレーションが終わった領域が「泡宇宙」として誕生します。
永遠のインフレーションは無限の数の宇宙を泡のように無限に作り出します。

泡宇宙の性質はどれも同じではありません。
私たちの宇宙とは物理定数が異なる宇宙もあれば、私たちの宇宙にそっくりな宇宙もあるかもしれません。

泡宇宙の衝突

もし別の泡宇宙が遠い昔に私たちの宇宙に衝突していたら、その痕跡が残っているかもしれません。
物理学者たちは、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)に円形の異常な模様が見つかれば、それが泡宇宙衝突の証拠になると考えました。

実際にそのような模様を探す研究が行われていますが、今のところ統計的に有意な証拠は見つかっていません。

量子力学の多世界解釈

量子力学の解釈の一つである「多世界解釈」は、マルチバースと深く関連しています。

量子力学の不思議

量子力学の世界では、粒子は測定されるまですべての可能な状態の「重ね合わせ」にあります。
有名な「シュレーディンガーの猫」の思考実験があります。
箱の中の猫は、観測されるまで「生きている状態」と「死んでいる状態」の重ね合わせにあります。

しかし、実際に箱を開けると猫は生きているか死んでいるかのどちらかです。
この現象を「波動関数の収縮」と呼びます。

エベレットの多世界解釈

1957年、物理学者ヒュー・エベレットは波動関数は収縮しないという解釈を提唱しました。
エベレットによれば、測定が行われると宇宙全体が分岐します。
すべての可能な結果が、それぞれ別の宇宙で実現するのです。

シュレーディンガーの猫の場合、測定の瞬間に宇宙が二つに分岐します。
一つの宇宙では猫が生きており、もう一つの宇宙では猫が死んでいます。
両方の宇宙が等しく実在しますが、互いに干渉しません。

観測者自身も分岐するため、それぞれの宇宙の観測者は自分の宇宙の結果しか知覚できません。

多世界解釈の特徴

多世界解釈では、宇宙全体の進化は決定論的です。
ランダム性や確率は、観測者がどの分岐にいるかという主観的な不確実性から生じます。

この解釈では、波動関数の収縮という特別な過程を仮定する必要がありません。
すべてが量子力学の基本方程式(シュレーディンガー方程式)に従って進化します。

マルチバースは科学か

マルチバース理論には、科学的な妥当性について激しい議論があります。

検証可能性の問題

科学理論の重要な条件の一つは「検証可能性」です。
つまり、観測や実験によって理論が正しいか間違っているかを確かめられることです。

しかし、マルチバースの問題は他の宇宙が原理的に観測できないことです。
私たちは自分の宇宙の外側を直接観測することはできません。

このため、一部の専門家は「マルチバースの探究は本当に科学と言えるのか」と疑問を投げかけています。

間接的な証拠の可能性

ただし、マルチバースそのものを観測できなくても、間接的な証拠を見つける方法はあるかもしれません。
インフレーション理論や量子力学など、マルチバースを予測する理論が他の方法で検証されれば、マルチバースの存在も支持されます。

また、宇宙マイクロ波背景放射の詳細な観測により、初期宇宙の物理過程を調べることができます。
これにより、インフレーション理論の妥当性を検証できる可能性があります。

科学者の見解

科学者の間でもマルチバースに対する見解は分かれています。
イギリスの天文学者マーチン・リースは、「マルチバースの存在を確かめる試みは真に科学的な問いである」と主張します。

一方、懐疑的な科学者は検証できない理論は科学ではなく形而上学だと主張します。
しかし、多くの物理学者はマルチバースは理論から自然に導かれる予測であり、理論自体が他の方法で検証されれば十分だと考えています。

マルチバースとパラレルワールドの違い

マルチバースとパラレルワールドは、よく混同されますが厳密には異なる概念です。

パラレルワールドとは

パラレルワールドは、主にフィクションや哲学的思考から生まれた概念です。
同一の時間軸で異なる選択や出来事が展開する「仮想世界」を指すことが多いです。

例えば、「私たちの世界と似た別の現実が存在し、私たちの選択や行動が異なる結果をもたらす」という考え方です。
パラレルワールドは、選択や出来事が異なるだけで基本的には同じ現実を扱っています。

マルチバースとの違い

マルチバースは、物理学や宇宙論に根ざした科学的理論です。
異なる宇宙の存在を示唆し、それぞれの宇宙は異なる物理法則や物理定数を持つ可能性があります。

簡単に言えば次のような違いがあります。
パラレルワールドは、歴史や事件によって分岐した同一の世界観(宇宙)を表します。
マルチバースは、全く異なる世界観(宇宙)や物理法則を持つ複数の宇宙を指します。

ただし、量子力学の多世界解釈におけるマルチバースは、パラレルワールドに近い概念とも言えます。

メタバースとの違い

最近話題の「メタバース」も、マルチバースとは全く異なる概念です。
メタバースは、テクノロジーによって作られた仮想空間(バーチャル空間)のことです。
現実に構築されつつあるデジタル世界を指します。

一方、マルチバースは理論物理学で議論される複数宇宙の存在可能性を示します。
メタバースは仮想空間におけるもう一つの現実であり、マルチバースは現実の宇宙が複数存在するという考え方です。

エンターテイメントにおけるマルチバース

マルチバースの概念は、映画、テレビドラマ、漫画などのエンターテイメント作品でも広く取り入れられています。

人気作品での描写

最近では次のような作品がマルチバースを扱っています。
マーベル映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』、マーベル映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』、映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(第95回アカデミー賞で7冠)などです。

これらの作品では、異なる宇宙間を移動したり複数の世界のキャラクターが出会ったりします。

エンタメ作品の魅力

マルチバースという設定は、創作の自由度を大きく広げます。
既存のキャラクターや世界観を維持しながら、新たな展開や解釈を加えることができるのです。
「もし○○がこうだったら」という可能性を、別の宇宙として描くことができます。

科学とフィクションの境界

エンタメ作品のマルチバースは、物理学のマルチバースとは異なります。
作品では宇宙間を自由に移動できたり、物理法則を無視した魔法が使えたりします。
これは現実の物理学では不可能です。

科学者たちは、少なくとも現在の物理学ではマルチバース間を移動することは不可能だと考えています。
しかし、エンタメ作品がマルチバースという概念を一般の人々に広め、科学への関心を高めていることは確かです。

まとめ

マルチバース(多元宇宙論)についてまとめます。

マルチバースとは、複数の宇宙が存在するという概念です。
日本語では「多元宇宙」とも呼ばれます。

テグマークの4レベル分類では、レベルIは観測可能な宇宙の外側で物理法則は同じだが配置が異なります。
レベルIIは泡宇宙で、物理定数や素粒子が異なります。
レベルIIIは量子力学の多世界解釈で、すべての可能性が実現します。
レベルIVは究極集合で、すべての数学的構造が実在します。

マルチバースが必要な理由として、宇宙の微調整問題を説明できること、真空のエネルギー密度の謎を解決できること、インフレーション理論から自然に導かれること、量子力学の解釈問題を解決できることがあります。

主要な理論として、インフレーション理論と永遠のインフレーション、量子力学の多世界解釈、超弦理論のランドスケープ、人間原理があります。

科学性についての議論では、検証可能性の問題があり、間接的な証拠を探す努力が続いています。
科学者の間でも意見が分かれています。

パラレルワールドとの違いとして、パラレルワールドはフィクション由来の概念であり、マルチバースは物理学由来の科学理論です。

エンタメ作品での人気として、マーベル映画などで広く描かれ一般の人々にも親しまれています。

今後の展望として、観測技術の向上により間接的な証拠が見つかる可能性があり、理論物理学の発展によりより具体的な予測が得られるかもしれません。
検証方法の開発が課題となっています。

マルチバースは現代物理学の最先端で議論されている概念です。
まだ証明されていませんが、多くの理論から自然に導かれる考え方でもあります。
私たちの宇宙が唯一ではないかもしれないという可能性は、宇宙観を大きく変えます。

参考情報

この記事は、以下の信頼できる情報源を参考に作成しました。

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