宝石をルーペで覗いてみたことはありますか?
よく見ると、中に小さな結晶や泡、ひび割れのようなものが見えることがあるんです。
これらは「インクルージョン(inclusion)」と呼ばれる内包物で、宝石が何百万年もかけて成長する過程で閉じ込められた、いわば「地球の記憶」なんですよ。
多くの人は「キズかな?」「不純物でしょ?」と思いがちですが、実はインクルージョンこそが宝石に個性を与えて、時には価値をグンと高める重要な要素になっているんです。
今回は、宝石の中に広がる小宇宙、インクルージョンの魅力について一緒に探ってみましょう!
インクルージョンって何?

地球が作り出した天然の証明書
インクルージョン(内包物)とは、宝石が地球の内部で結晶になる過程で、内部に取り込まれた別の鉱物、液体、気体などのことです。
宝石は地下深くで、ものすごい高温・高圧の環境で、数千年から数百万年という気の遠くなるような時間をかけて成長します。
この長〜い成長過程で、周りにあるいろんな物質が結晶の中に閉じ込められちゃうんです。
人間でいうと「指紋」みたいなものですね。
同じ種類の宝石でも、インクルージョンの種類、位置、大きさは一つとして同じものはありません。だから、あなたの宝石は世界に一つだけなんですよ!
どうやってインクルージョンができるの?
宝石の結晶が成長する時、こんな感じでインクルージョンが作られます:
1. 成長中に巻き込まれる
- 周りにある他の鉱物の小さな結晶が巻き込まれちゃう
- 成長する結晶の隙間に液体や気体が入り込む
2. 環境が変わって形成される
- 温度や圧力が急に変わって、結晶にひび(フェザー)が入る
- 成長が一時停止して、再開する時に成長線ができる
3. 化学反応で生まれる
- 結晶の中で化学反応が起きて、新しい鉱物ができる
- 不純物が特定の方向に並んで模様を作る
まるで宝石が成長日記をつけているみたいですね!
インクルージョンの3つのタイプ

1. 固体インクルージョン:宝石の中の宝石!
一番よく見られるタイプで、宝石の中に別の鉱物の結晶が入っているものです。
こんな美しい例があります:
ルチルクォーツ 水晶の中に金色や赤褐色のルチル(金紅石)の針みたいな結晶が入っています。まるで金の糸が入っているみたい!
デマントイドガーネット 馬の尻尾みたいな緑色のビソライト(異極鉱)が特徴的。本当に馬の尻尾に見えるから面白い!
サンストーン ヘマタイト(赤鉄鉱)の小片がキラキラ光って、太陽みたいに輝きます。
これらの固体インクルージョンは、まるで宝石の中に別の世界が広がっているような美しさを作り出すんです。
2. 液体インクルージョン:太古の水を閉じ込めて
宝石が成長した時の水溶液が、小さな空洞として残っているものです。
びっくりするような例:
エメラルドの三相インクルージョン 液体、気体、固体(塩の結晶)が同時に存在!小さな世界の中に3つの状態が共存しているなんて、すごいでしょう?
水入り水晶(エンハイドロ) 内部に太古の水が動く様子が見えます。傾けると水が動くんですよ!
オパール 水分を20%近くも含む特殊な宝石。だからあの不思議な輝きが生まれるんですね。
液体インクルージョンの中には、宝石ができた当時(数億年前!)の海水や地下水が含まれていることもあって、科学者にとっても貴重な研究対象なんです。
3. 気体インクルージョン:小さな泡の世界
結晶が成長する時に閉じ込められた気体の泡です。
こんな宝石で見られます:
天然ガラス モルダバイトなどの天然ガラスによく見られます。
琥珀 樹脂が固まる時に空気が入って、プチプチした泡ができます。
合成宝石の見分け方 実は、天然と合成を見分ける重要な手がかりになるんです!
気体インクルージョンは、宝石ができた時の温度や圧力を推定する大切な情報源でもあるんですよ。
インクルージョンが価値を下げちゃう場合
透明度と輝きが命の宝石では…
ダイヤモンドのように、透明度と輝きが超重要な宝石では、インクルージョンは基本的に価値を下げる要因になっちゃいます。
ダイヤモンドの4C評価の一つ「クラリティ(透明度)」は、インクルージョンの有無や程度で決まります:
- FL(フローレス):10倍に拡大しても内包物なし!完璧!
- IF(インターナリーフローレス):表面の特徴だけ
- VVS〜I3:インクルージョンの程度によって段階的に評価
値段にも大きく影響するので、ダイヤモンドの場合は少ない方がいいんですね。
強度が心配になる場合
大きなひび割れ(フェザー)や、表面近くのインクルージョンは、宝石の強度を弱くしちゃう可能性があります。
こんな場合は要注意:
- エメラルドの「ジャルダン」が多すぎる
- 表面まで達するクラック
- 大きな劈開(へきかい・割れやすい方向)
でも、適切にカットされていれば、普通に使う分には問題ないことがほとんどですよ。
インクルージョンが価値を高める場合もある!

美しい光学効果を生み出すインクルージョン
スター効果(星が見える!)
針状のルチルが規則正しく並ぶことで、6条や4条の星が現れます。
有名な宝石:
- スタールビー
- スターサファイア
- スターローズクォーツ
光を当てると星が浮かび上がる様子は、本当に神秘的!
キャッツアイ効果(猫の目みたい!)
平行に並んだ繊維状インクルージョンが、猫の目のような一筋の光を作ります。
代表的な宝石:
- クリソベリルキャッツアイ(最高級!)
- タイガーズアイ
- アクアマリンキャッツアイ
動かすと猫の目がウインクしているみたいで可愛いんです。
芸術的な模様を作るインクルージョン
モスアゲート(苔瑪瑙)
緑や茶色の鉱物が、まるで苔や樹木のような模様を描きます。自然が描いた風景画みたいで、一つ一つが芸術作品!
ファントムクォーツ(幻影水晶)
成長が一時停止した跡が、山の形のような幻想的な模様として現れます。まるで水晶の中に富士山が入っているみたい!
ガーデンクォーツ
クローライト(緑泥石)などが庭園のような景色を作り出します。本当に「宝石の中の箱庭」なんですよ。
産地や天然の証明になるんです
産地を特定する決め手
インクルージョンは「宝石のパスポート」とも呼ばれていて、どこで生まれたかを教えてくれるんです。
エメラルドの産地別インクルージョン:
- コロンビア産:三相インクルージョン(液体・気体・固体)が特徴
- ザンビア産:黒雲母(バイオタイト)が入っている
- ジンバブエ産:曲がった針状のトレモライトが見られる
専門家はインクルージョンを見るだけで、産地がわかっちゃうんですよ!
天然と合成を見分ける
天然石と合成石では、インクルージョンの種類や形が全然違います。
見分けるポイント:
- 天然石:不規則でいろんな種類のインクルージョン
- 合成石:規則的な気泡、フラックス(融剤)の残り、カーブした成長線
だから、インクルージョンは天然の証明書みたいなものなんです。
エメラルドの「ジャルダン」:欠点が魅力になる瞬間
エメラルドのインクルージョンは「ジャルダン(jardin)」って呼ばれます。
フランス語で「庭」という意味で、内包物が作る模様が庭園みたいに見えることから名付けられました。素敵な名前でしょう?
エメラルドは、その成長過程の特性上、インクルージョンのない石はほぼ存在しません。

むしろ、適度なジャルダンは:
- エメラルドが天然である証拠
- その石の個性と歴史を物語る
- 「完璧すぎない美しさ」という新しい価値観
として受け入れられて、愛されているんです。完璧じゃないからこそ美しいって、人間みたいですね。
インクルージョンを観察してみよう!
ルーペで覗く小宇宙
10倍のルーペがあれば、多くのインクルージョンを観察できます。
観察のコツ:
- 明るい光の下で見る
- いろんな角度から観察
- 透過光と反射光の両方で確認
- ゆっくりピントを合わせる
最初は何も見えなくても、コツをつかむと小さな世界が見えてきますよ!
宝石店での楽しみ方
多くの宝石店では、顕微鏡でインクルージョンを見せてくれます。遠慮せずに「インクルージョンを見せてください」って頼んでみましょう。きっと喜んで見せてくれますよ。
インクルージョンから学べること
地球の歴史を読み解く
インクルージョンは、宝石ができた当時の環境を教えてくれます:
- 温度と圧力:どのくらい深い場所でできたか
- 形成年代:いつ頃できたか
- 地質環境:周りにどんな岩石があったか
小さなインクルージョンから、壮大な地球の歴史がわかるなんてロマンチックですよね。
個性を愛でる心
人間と同じように、宝石も「完璧」である必要はありません。
インクルージョンは:
- その石だけの個性
- 地球が何百万年かけて作った芸術品
- 二つとない唯一無二の存在の証
として、むしろ愛おしく感じられるようになるでしょう。
まとめ:インクルージョンは地球からの手紙
インクルージョンは単なる「不純物」じゃありません。
それは:
- 宝石が歩んできた数百万年の旅の記録
- 地球の営みが生み出した芸術作品
- その石だけが持つ個性と魅力の源
次に宝石を見る機会があったら、ぜひルーペでインクルージョンを観察してみてください。そこには、地球が何百万年もかけて描いた、小さな宇宙が広がっています。
スタールビーの星も、ルチルクォーツの金の糸も、エメラルドの庭園も、すべてはインクルージョンが作り出す奇跡。
完璧でないからこそ美しい。それが天然宝石の真の魅力なんです。
あなたの宝石に入っているインクルージョンも、きっと素敵な物語を持っているはずですよ!
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