「アルコール消毒」 「お酒のアルコール度数」 「無水アルコール」 「糖からアルコールを作る」
アルコールという言葉、毎日のように聞きますよね。
でも実は、化学で言うアルコールは、お酒の成分だけじゃないんです! 消毒液も、化粧品も、燃料も、すべて「アルコール」の仲間。
この記事を読めば、アルコールの化学構造から、なぜ消毒できるのか、なぜ酔うのか、すべての謎が解けます!
アルコールを5秒で理解!本質はOHグループ

アルコール = 炭化水素 + OH(ヒドロキシ基)
超簡単に言うと:
炭素と水素の鎖に「OH」がくっついた物質
例:エタノール
H H
│ │
H─C─C─OH
│ │
H H
C₂H₅OH と書く
身近な例で理解:
- 水(H₂O)の親戚みたいなもの
- 油(炭化水素)と水の性質を併せ持つ
- だから水にも油にもある程度溶ける!
アルコールの一般式
R-OH
R:アルキル基(炭素と水素の集まり)
OH:ヒドロキシ基(これがアルコールの証!)
アルコールの種類:実は大家族!
炭素数による分類
1. メタノール(C₁)
化学式:CH₃OH
別名:メチルアルコール、木精
用途:燃料、工業原料
危険:飲むと失明・死亡の危険!
2. エタノール(C₂)
化学式:C₂H₅OH
別名:エチルアルコール、酒精
用途:飲料、消毒、燃料
特徴:唯一飲めるアルコール
3. プロパノール(C₃)
化学式:C₃H₇OH
種類:1-プロパノール、2-プロパノール(IPA)
用途:消毒液、洗浄剤
特徴:エタノールより消毒力強い
4. ブタノール(C₄)以上
ブタノール:C₄H₉OH
ペンタノール:C₅H₁₁OH
...炭素数が増えると油っぽくなる
構造による分類
第一級アルコール
H
│
R─C─OH
│
H
例:エタノール、1-プロパノール
特徴:酸化されやすい
第二級アルコール
R'
│
R─C─OH
│
H
例:2-プロパノール(イソプロパノール)
特徴:酸化でケトンになる
第三級アルコール
R'
│
R─C─OH
│
R''
例:tert-ブタノール
特徴:酸化されにくい
アルコールの性質:なぜ水にも油にも溶ける?

物理的性質
1. 沸点が高い理由
水素結合があるから!
δ- δ+
R─O─H・・・O─H
│
R
分子同士が手をつないでいる
→ 離れにくい → 沸点が高い
沸点の比較:
物質 | 化学式 | 沸点 |
---|---|---|
メタン | CH₄ | -161.5℃ |
メタノール | CH₃OH | 64.7℃ |
エタン | C₂H₆ | -88.6℃ |
エタノール | C₂H₅OH | 78.4℃ |
OHがあるだけで200℃も違う!
2. 溶解性の二面性
親水性部分:-OH(水と仲良し)
疎水性部分:R-(油と仲良し)
炭素数が少ない → 水によく溶ける
炭素数が多い → 油によく溶ける
境界線:炭素数4〜5くらい
化学的性質
1. 酸性?塩基性?
実は:非常に弱い酸(ほぼ中性)
R-OH ⇌ R-O⁻ + H⁺
pKa ≈ 15-16(水とほぼ同じ)
2. 脱水反応
分子内脱水 → アルケン
CH₃CH₂OH → CH₂=CH₂ + H₂O
分子間脱水 → エーテル
2 CH₃CH₂OH → CH₃CH₂-O-CH₂CH₃ + H₂O
身近なアルコール大図鑑

家庭にあるアルコール
消毒用エタノール
濃度:70-80%
なぜこの濃度?
・100%だと蒸発が速すぎる
・水分があると細胞膜を通過しやすい
・この濃度が最も殺菌力が高い
無水エタノール
濃度:99.5%以上
用途:
・電子機器の洗浄
・化粧品の原料
・実験用試薬
注意:そのままでは消毒効果低い
イソプロパノール(IPA)
濃度:50-70%
特徴:
・エタノールより安い
・消毒力はやや強い
・においがきつい
・飲用不可(毒性あり)
飲料のアルコール
アルコール度数の意味
度数 = 体積パーセント濃度
ビール:5% = 100mL中5mLがエタノール
ワイン:12% = 100mL中12mL
日本酒:15% = 100mL中15mL
ウイスキー:40% = 100mL中40mL
発酵と蒸留
発酵:糖 → エタノール + CO₂
(酵母の働き、15%が限界)
蒸留:沸点の差を利用して濃縮
(78.4℃でエタノールが先に蒸発)
工業用アルコール
メタノール
用途:
・ホルムアルデヒド製造
・バイオディーゼル燃料
・不凍液
危険:絶対に飲まない!
エチレングリコール
構造:HO-CH₂-CH₂-OH(2価アルコール)
用途:
・不凍液(車のラジエーター)
・PETボトルの原料
・保湿剤
グリセリン
構造:3つのOHを持つ
用途:
・化粧品(保湿)
・医薬品(座薬)
・食品添加物
・ニトログリセリン(爆薬)の原料
アルコールの化学反応:変身の達人
1. 酸化反応
第一級アルコールの酸化
[O] [O]
R-CH₂OH → R-CHO → R-COOH
アルコール アルデヒド カルボン酸
例:エタノール → アセトアルデヒド → 酢酸
(二日酔いの原因) (お酢)
第二級アルコールの酸化
[O]
R-CHOH-R' → R-CO-R'
アルコール ケトン
例:2-プロパノール → アセトン
第三級アルコール
酸化されにくい(反応しない)
2. エステル化反応
アルコール + カルボン酸 → エステル + 水
CH₃COOH + C₂H₅OH → CH₃COOC₂H₅ + H₂O
酢酸 エタノール 酢酸エチル
香料や溶媒として使用
3. ハロゲン化反応
R-OH + HX → R-X + H₂O
(X = Cl, Br, I)
反応性:3級 > 2級 > 1級
4. 脱水反応の詳細
分子内脱水(E2反応)
濃硫酸、170℃
CH₃CH₂OH → CH₂=CH₂ + H₂O
エタノール エチレン
分子間脱水
濃硫酸、140℃
2 CH₃CH₂OH → CH₃CH₂-O-CH₂CH₃ + H₂O
ジエチルエーテル
なぜアルコールで消毒できるの?

殺菌メカニズム
1. タンパク質の変性
細菌の細胞膜 = タンパク質 + 脂質
アルコールが侵入
↓
タンパク質の立体構造が崩れる
↓
細胞膜が壊れる
↓
細菌が死ぬ
2. 脂質の溶解
エンベロープウイルス(コロナ、インフルエンザ)
→ 外側の脂質膜を溶かす
→ ウイルスが不活化
3. 脱水作用
細胞内の水分を奪う
→ 代謝が止まる
→ 死滅
効果的な濃度
殺菌力の順位:
70% > 80% > 60% > 90% > 100%
なぜ70%が最強?
・適度な水分で浸透しやすい
・蒸発速度がちょうど良い
・タンパク質変性が最も効率的
アルコールと人体:なぜ酔うの?
エタノールの代謝経路
エタノール
↓ アルコール脱水素酵素(ADH)
アセトアルデヒド(有毒!頭痛の原因)
↓ アルデヒド脱水素酵素(ALDH)
酢酸
↓
水 + 二酸化炭素
お酒に強い・弱いの科学
ALDH2の遺伝子型
活性型(NN型):お酒に強い(欧米人の100%)
低活性型(ND型):そこそこ飲める
非活性型(DD型):全く飲めない(日本人の7%)
日本人の約40%が低活性型or非活性型
アルコールの作用
中枢神経への影響
血中濃度と症状:
0.02-0.04%:ほろ酔い
0.05-0.10%:酔い
0.15-0.30%:泥酔
0.30-0.40%:昏睡
0.40%以上:生命の危険
実験で学ぶアルコール
実験1:アルコールの燃焼
材料:エタノール、蒸発皿、マッチ
手順:
1. 蒸発皿にエタノール少量
2. 点火
3. 青い炎で燃える
反応式:
C₂H₅OH + 3O₂ → 2CO₂ + 3H₂O
観察:煤が出ない完全燃焼
実験2:ヨードホルム反応
材料:エタノール、ヨウ素、水酸化ナトリウム
手順:
1. エタノールにヨウ素溶液
2. NaOH水溶液を加える
3. 黄色沈殿(ヨードホルム)
CH₃CH₂OH → CHI₃(黄色結晶)
メチル基の検出反応
実験3:アルコール発酵
材料:砂糖水、ドライイースト
手順:
1. 砂糖水にイースト投入
2. 30℃で保温
3. 泡(CO₂)が発生
C₆H₁₂O₆ → 2C₂H₅OH + 2CO₂
1週間でアルコール度数5%程度
アルコールの工業的製造法
1. 発酵法(伝統的)
原料:穀物、果実、芋類
糖化:デンプン → 糖
発酵:糖 → エタノール
利点:再生可能資源
欠点:時間がかかる、純度に限界
2. エチレン水和法(工業的)
CH₂=CH₂ + H₂O → CH₃CH₂OH
エチレン エタノール
触媒:リン酸
温度:300℃
圧力:70気圧
利点:大量生産、高純度
欠点:石油依存
3. 合成ガス法(メタノール)
CO + 2H₂ → CH₃OH
一酸化炭素 メタノール
触媒:銅・亜鉛系
温度:250℃
圧力:50-100気圧
アルコールの未来:新しい使い方

バイオエタノール
セルロース系バイオマス
↓ 酵素
糖
↓ 発酵
エタノール
カーボンニュートラルな燃料
燃料電池
メタノール燃料電池(DMFC):
CH₃OH + H₂O → CO₂ + 6H⁺ + 6e⁻
携帯機器の電源として開発中
医療応用
・ドラッグデリバリーの溶媒
・人工臓器の保存液
・新しい消毒剤の開発
よくある質問(FAQ)
Q1. メタノールはなぜ危険?
A:体内で有毒物質に変わるから
メタノール → ホルムアルデヒド → ギ酸
(毒性強い) (失明の原因)
致死量:30-100mL
Q2. お酒を飲むと太る?
A:エタノール自体にカロリーあり
1gあたり7kcal(炭水化物の1.75倍)
ビール350mL = 約150kcal
日本酒1合 = 約200kcal
さらに食欲増進効果も
Q3. 消毒用アルコールは飲める?
A:絶対ダメ!
・メタノール混入の可能性
・変性剤(苦味剤)添加
・不純物による中毒リスク
Q4. アルコールアレルギーって?
A:実はアセトアルデヒドへの反応
真のアルコールアレルギーは稀
多くは:
・ALDH2欠損による蓄積
・添加物へのアレルギー
・ヒスタミン反応
まとめ:アルコールは化学の優等生!
アルコールは、私たちの生活に欠かせない化学物質です。
アルコールの要点:
- OH基(ヒドロキシ基)を持つ有機化合物
- 水にも油にも溶ける両親媒性
- 消毒から燃料まで幅広い用途
覚えておくべき種類:
- メタノール(有毒、工業用)
- エタノール(飲用可、消毒)
- イソプロパノール(消毒専用)
重要な性質:
- 水素結合による高沸点
- 酸化されやすい
- タンパク質変性作用
安全な使い方:
- 適切な濃度で使用(消毒は70%)
- 換気を十分に
- 火気厳禁
- メタノールは絶対飲まない
化学を学ぶことで、アルコールをより安全に、効果的に使えるようになります。
身近な物質の化学、面白いでしょう? 次は、他の有機化合物についても学んでみてくださいね!
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