プログラム同士が通信してデータをやり取りする方法は、いくつもあります。その中の一つが「XML-RPC」という技術です。
XML-RPCでは、クライアント(依頼する側)がサーバー(処理する側)に「こういう処理をしてください」とお願いを送り、サーバーがその結果を返します。このサーバーからの返事が「XML-RPCレスポンス」なんです。
少し古い技術ではありますが、現在でもWordPressなど一部のシステムで使われています。Web APIの歴史を理解する上でも、知っておいて損はない技術でしょう。
この記事では、XML-RPCレスポンスの基本的な仕組みから具体例、使われている場面まで、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。
XML-RPCって何?

XML-RPCの基本
XML-RPCは「XML Remote Procedure Call(XMLリモートプロシージャコール)」の略です。
簡単に言うと、「離れた場所にあるコンピュータのプログラムを、XMLという形式のデータを使って呼び出す技術」のことなんです。
RPCの意味
- Remote(リモート):離れた場所にある
- Procedure(プロシージャ):処理や手続き
- Call(コール):呼び出す
つまり、自分のコンピュータから、インターネット越しに別のコンピュータの機能を使わせてもらう仕組みですね。
XMLとは?
XMLは「Extensible Markup Language(拡張可能なマークアップ言語)」の略で、データを構造化して記述するための形式です。
HTMLと似た見た目をしていますが、HTMLが「Webページの見た目」を記述するのに対し、XMLは「データの内容と構造」を記述します。
<person>
<name>山田太郎</name>
<age>25</age>
</person>
このように、タグ(<>で囲まれた部分)を使ってデータを表現するんです。
XML-RPCの通信の流れ
XML-RPCでは、次のような流れで通信が行われます。
1. リクエストの送信
クライアント(依頼側)が、サーバーに「この処理をしてください」というXML-RPCリクエストを送ります。
2. サーバーでの処理
サーバーは受け取ったリクエストを解析して、要求された処理を実行します。
3. レスポンスの返送
処理が終わったら、サーバーは結果をXML-RPCレスポンスとしてクライアントに返します。
このレスポンスが、今回のテーマですね。
XML-RPCレスポンスの基本構造
XML-RPCレスポンスは、決まった形式のXMLデータです。大きく分けて2種類あります。
成功レスポンス
処理が正常に完了した場合のレスポンスです。
基本構造
<?xml version="1.0"?>
<methodResponse>
<params>
<param>
<value>
<!-- ここに返り値が入る -->
</value>
</param>
</params>
</methodResponse>
構成要素
<?xml version="1.0"?>: XML宣言(XMLファイルの先頭)<methodResponse>: レスポンス全体を囲むタグ<params>: パラメータ(返り値)を囲むタグ<param>: 個々のパラメータ<value>: 実際の値
エラーレスポンス
処理中にエラーが発生した場合のレスポンスです。
基本構造
<?xml version="1.0"?>
<methodResponse>
<fault>
<value>
<struct>
<member>
<name>faultCode</name>
<value><int>エラーコード</int></value>
</member>
<member>
<name>faultString</name>
<value><string>エラーメッセージ</string></value>
</member>
</struct>
</value>
</fault>
</methodResponse>
構成要素
<fault>: エラー情報を囲むタグ<faultCode>: エラーの種類を示す数値<faultString>: エラーの詳細説明
XML-RPCで使えるデータ型
XML-RPCレスポンスでは、様々な種類のデータを返すことができます。
基本的なデータ型
整数(int または i4)
<value><int>42</int></value>
数値の「42」を表します。i4も同じ意味です。
真偽値(boolean)
<value><boolean>1</boolean></value>
「1」は真(true)、「0」は偽(false)を表します。
文字列(string)
<value><string>こんにちは</string></value>
文字列データです。タグを省略して直接書くこともできます。
<value>こんにちは</value>
小数(double)
<value><double>3.14159</double></value>
小数点を含む数値ですね。
日時(dateTime.iso8601)
<value><dateTime.iso8601>20251123T12:30:00</dateTime.iso8601></value>
ISO 8601形式で日時を表現します。
バイナリデータ(base64)
<value><base64>SGVsbG8gV29ybGQ=</base64></value>
画像ファイルなどのバイナリデータは、Base64エンコードして送ります。
複合データ型
配列(array)
複数の値をまとめて返す場合に使います。
<value>
<array>
<data>
<value><int>1</int></value>
<value><int>2</int></value>
<value><int>3</int></value>
</data>
</array>
</value>
これは「1, 2, 3」という3つの数値の配列を表します。
構造体(struct)
キーと値のペアを使って、複雑なデータを表現できます。
<value>
<struct>
<member>
<name>name</name>
<value><string>山田太郎</string></value>
</member>
<member>
<name>age</name>
<value><int>25</int></value>
</member>
</struct>
</value>
これは「名前が山田太郎で、年齢が25歳」という情報を表しているんです。
具体的なレスポンス例

実際にどのようなレスポンスが返ってくるのか、具体例を見てみましょう。
例1:数値を返す単純なレスポンス
処理内容:2つの数を足し算した結果を返す
<?xml version="1.0"?>
<methodResponse>
<params>
<param>
<value><int>7</int></value>
</param>
</params>
</methodResponse>
「3 + 4」の計算結果「7」が返ってきています。
例2:文字列を返すレスポンス
処理内容:ユーザー名を取得
<?xml version="1.0"?>
<methodResponse>
<params>
<param>
<value><string>佐藤花子</string></value>
</param>
</params>
</methodResponse>
ユーザー名「佐藤花子」が返ってきました。
例3:配列を返すレスポンス
処理内容:買い物リストを取得
<?xml version="1.0"?>
<methodResponse>
<params>
<param>
<value>
<array>
<data>
<value><string>りんご</string></value>
<value><string>バナナ</string></value>
<value><string>オレンジ</string></value>
</data>
</array>
</value>
</param>
</params>
</methodResponse>
「りんご」「バナナ」「オレンジ」という3つの商品名が返ってきていますね。
例4:構造体を返すレスポンス
処理内容:ユーザー情報を取得
<?xml version="1.0"?>
<methodResponse>
<params>
<param>
<value>
<struct>
<member>
<name>userId</name>
<value><int>12345</int></value>
</member>
<member>
<name>userName</name>
<value><string>田中一郎</string></value>
</member>
<member>
<name>email</name>
<value><string>tanaka@example.com</string></value>
</member>
</struct>
</value>
</param>
</params>
</methodResponse>
ユーザーID、名前、メールアドレスという複数の情報がまとめて返ってきています。
例5:エラーレスポンス
処理内容:存在しないユーザーを検索して失敗
<?xml version="1.0"?>
<methodResponse>
<fault>
<value>
<struct>
<member>
<name>faultCode</name>
<value><int>404</int></value>
</member>
<member>
<name>faultString</name>
<value><string>ユーザーが見つかりません</string></value>
</member>
</struct>
</value>
</fault>
</methodResponse>
エラーコード「404」と、エラーメッセージ「ユーザーが見つかりません」が返ってきました。
XML-RPCレスポンスの送受信方法
実際にどうやってレスポンスを送受信するのか、基本的な流れを見てみましょう。
HTTPプロトコルを使用
XML-RPCは、通常のHTTP(Webページを見るときに使うプロトコル)を使って通信します。
送信方法
- HTTPのPOSTメソッドを使う
- Content-Typeヘッダーに「text/xml」を指定
- ボディ部分にXMLデータを含める
レスポンスの受信
クライアント側では、サーバーから返ってきたXMLデータを解析(パース)して、必要な情報を取り出します。
処理の流れ
- HTTPレスポンスを受信
- XMLデータを解析
<methodResponse>内のデータを抽出- エラーがあれば
<fault>を確認 - プログラムで使える形式に変換
XML-RPCが使われている場面
現在でも、いくつかの場面でXML-RPCが活用されています。
WordPress
世界中で使われているブログシステムWordPressでは、XML-RPC APIが用意されています。
外部のアプリケーションから記事を投稿したり、コメントを管理したりする際に使われているんです。
ブログ投稿ツール
Windows Live WriterやMarsEditといったブログ投稿ソフトは、XML-RPCを使ってブログサービスと通信します。
社内システム
レガシーシステム(古くから使われているシステム)の中には、今でもXML-RPCで通信しているものがあります。
IoTデバイス
一部のIoT機器では、シンプルで実装しやすいXML-RPCが採用されることもあります。
XML-RPCのメリットとデメリット
メリット
1. シンプルで分かりやすい
仕様が単純なので、理解しやすく実装しやすいです。初心者でも比較的扱いやすいでしょう。
2. 言語に依存しない
XMLとHTTPという標準的な技術を使うので、どのプログラミング言語からでも利用できます。
3. ファイアウォールを通過しやすい
HTTPを使うので、通常のWebアクセスと同じポート(80番や443番)を使えます。そのため、企業のファイアウォールでブロックされにくいんです。
4. ライブラリが豊富
多くのプログラミング言語で、XML-RPCを扱うためのライブラリが用意されています。
デメリット
1. データサイズが大きい
XMLは人間が読みやすい反面、データサイズが大きくなりがちです。JSONなど他の形式と比べると、通信量が増えてしまいます。
2. 処理速度が遅い
XMLの解析(パース)には時間がかかります。大量のデータをやり取りする場合、パフォーマンスの問題が出ることがあるんです。
3. やや古い技術
1998年に登場した技術なので、現代的な要求には対応しきれない部分もあります。
4. セキュリティ面の考慮が必要
WordPressなどでは、XML-RPCを悪用した攻撃が報告されています。適切なセキュリティ対策が必要です。
他のAPI技術との比較

XML-RPC以外にも、プログラム間通信の技術はいろいろあります。
JSON-RPC
JSON-RPCは、XMLの代わりにJSON形式を使うRPCです。
違い
- データサイズがXML-RPCより小さい
- 解析速度が速い
- JavaScriptとの相性が良い
最近では、JSON-RPCの方が人気ですね。
REST API
REST APIは、HTTPの機能を最大限活用する設計思想です。
違い
- URL自体がリソース(データ)を表す
- HTTPメソッド(GET、POST、PUT、DELETEなど)を使い分ける
- 現代のWeb APIの主流
構造がシンプルで、キャッシュなども使いやすいため、広く採用されています。
SOAP
SOAPは、より高機能で複雑なプロトコルです。
違い
- XMLを使う点は同じ
- より厳密な仕様
- エンタープライズ(企業)システム向け
- 機能は豊富だが複雑
金融系など、厳密な仕様が求められる分野で使われることがあります。
gRPC
gRPCは、Googleが開発した最新のRPCフレームワークです。
違い
- Protocol Buffersという効率的なデータ形式を使用
- HTTP/2を活用
- 非常に高速
- マイクロサービスで人気
性能重視のシステムで採用が増えています。
よくある質問と回答
XML-RPCはもう使わない方がいい?
答え:新しいプロジェクトでは、REST APIやgRPCなど、より現代的な技術を選ぶのが一般的です。
ただし、既存システムとの互換性を保つ必要がある場合や、WordPressと連携する場合などは、今でもXML-RPCが使われています。
XML-RPCのセキュリティ対策は?
対策方法
- 不要な場合はXML-RPC機能を無効化する
- 認証を必須にする
- アクセス制限をかける
- 通信をHTTPSで暗号化する
- レート制限を設ける
特にWordPressを使っている場合は、必要なければXML-RPC機能を無効にしておくことをおすすめします。
XMLの解析は難しい?
多くのプログラミング言語には、XML解析のための標準ライブラリが用意されています。
そのため、実際にコードを書く際は、それほど難しくありません。ライブラリが自動的に処理してくれるんです。
まとめ
XML-RPCレスポンスは、XML-RPC通信においてサーバーがクライアントに返す、XML形式のデータです。
XML-RPCレスポンスの基本
- XML形式でデータを返す
<methodResponse>タグで囲まれる- 成功時は
<params>、エラー時は<fault>を使用 - HTTPプロトコルで送受信される
使えるデータ型
- 基本型:整数、文字列、真偽値、小数、日時、バイナリ
- 複合型:配列、構造体
XML-RPCの特徴
- シンプルで分かりやすい仕様
- 言語に依存しない
- データサイズが大きめ
- やや古い技術だが現役で使われている場面もある
主な使用場面
- WordPressのリモート操作
- ブログ投稿ツール
- レガシーシステム
- 一部のIoTデバイス
他の技術との比較
- JSON-RPC:より軽量で高速
- REST API:現代の主流
- SOAP:より厳密で複雑
- gRPC:最新で高性能
XML-RPCは1998年登場の技術で、最新のものではありません。しかし、シンプルさと安定性から、現在でも特定の用途で使われ続けています。
新しいプロジェクトを始めるなら、REST APIやgRPCなどの選択肢も検討すべきでしょう。ただし、既存システムとの互換性が必要な場合や、シンプルさを優先する場合は、XML-RPCも十分に有効な選択肢ですよ!


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