スマートフォンで連絡先を交換する時、メールに添付された「.vcf」というファイル。これを開くと、名前や電話番号が自動的にアドレス帳に追加される——こんな経験はありませんか?
あるいは、仕事で名刺交換の代わりにメールで連絡先を送る時、OutlookやiPhoneから簡単にエクスポートできる「連絡先ファイル」。
これらすべてがvCard(ブイカード)という電子名刺の標準形式です。
今回は、世界中で使われている連絡先データの共通言語「vCard形式(.vcfファイル)」について、その仕組みから使い方まで、すべてを詳しく解説します。
vCard(.vcf)とは何か?

定義:電子名刺の国際標準
vCard(ブイカード)は、電子名刺用の標準ファイル形式です。
正式名称: Virtual Contact File(仮想連絡先ファイル)
拡張子: .vcf
読み方:
- vCard = ブイカード / バーチャルカード
- VCF = ブイシーエフ
紙の名刺をデジタル化
紙の名刺に書かれている情報:
- 名前
- 会社名
- 部署・役職
- 電話番号
- メールアドレス
- 住所
- ウェブサイト
vCardで保存できる情報:
- 上記すべて + 写真、ロゴ、誕生日、音声メモ、SNSアカウントなど
vCardの特徴
1. 国際標準規格
- IETF(Internet Engineering Task Force)により標準化
- 世界中のソフトウェアで共通して使える
2. プレーンテキスト形式
- メモ帳などのテキストエディタで開ける
- 人間が読める形式
3. 高い互換性
- iPhone、Android、Outlook、Gmailなど、ほとんどのシステムで対応
4. 軽量
- テキストベースなので容量が小さい
- メールに添付しやすい
vCardの歴史
1995年:誕生の背景
Versit Consortium(バーシット・コンソーシアム)により開発
創設メンバー:
- Apple(アップル)
- AT&T Technologies(後のルーセント・テクノロジー)
- IBM
- Siemens(シーメンス)
目的:
電子的な名刺交換の標準を作る
1996年:標準化団体への移管
Internet Mail Consortium(IMC)へ移管
- 電子メール関連技術の標準化を推進
主要バージョンの歴史
vCard 2.1(1996年):
- 初期バージョン
- 広く普及
- 現在も多くのシステムで使用中
vCard 3.0(1998年):
- RFC 2425、RFC 2426として標準化
- 機能が大幅拡張
- より明確な構文ルール
vCard 4.0(2011年):
- RFC 6350として標準化
- UTF-8文字セットに統一
- スタンドアロンファイル形式として正式化
- 最新の標準
2002年以降:CalConnectによる継続開発
CalConnect(Calendar and Scheduling Consortium):
- 2003年設立
- vCard標準の継続的な開発と保守
- IETFと協力して新機能を追加
vCardファイルの中身を見てみよう
基本構造
vCardファイルはプレーンテキストです。メモ帳で開くと、こんな内容が見えます:
BEGIN:VCARD
VERSION:3.0
N:山田;太郎;;;
FN:山田太郎
ORG:サンプル株式会社
TITLE:営業部長
TEL;TYPE=WORK,VOICE:03-1234-5678
TEL;TYPE=CELL:090-1234-5678
EMAIL:yamada@example.com
ADR;TYPE=WORK:;;東京都千代田区1-2-3;千代田区;東京都;100-0001;日本
URL:https://www.example.com
END:VCARD
各項目の意味
BEGIN:VCARD / END:VCARD
- vCardの開始と終了を示す
- この間に1人分の連絡先情報が入る
VERSION:3.0
- vCardのバージョン
- 必須項目
N(Name):
- 構造化された名前
- 形式:
姓;名;ミドルネーム;敬称(前);敬称(後) - 例:
N:山田;太郎;;;;;(セミコロンで区切る)
FN(Formatted Name):
- 表示用の名前
- 必須項目
- 例:
FN:山田太郎
ORG(Organization):
- 所属組織
- 例:
ORG:サンプル株式会社;営業部(会社名;部署名)
TITLE(Title):
- 役職
- 例:
TITLE:営業部長
TEL(Telephone):
- 電話番号
- TYPE で種類を指定(WORK=会社、HOME=自宅、CELL=携帯、FAX=ファックス)
- 例:
TEL;TYPE=WORK,VOICE:03-1234-5678
EMAIL:
- メールアドレス
- 例:
EMAIL:yamada@example.com
ADR(Address):
- 住所
- 形式:
;;番地;市区町村;都道府県;郵便番号;国 - 例:
ADR;TYPE=WORK:;;東京都千代田区1-2-3;千代田区;東京都;100-0001;日本
URL:
- ウェブサイト
- 例:
URL:https://www.example.com
PHOTO:
- 写真(Base64エンコードまたはURL)
BDAY(Birthday):
- 誕生日
- 例:
BDAY:1980-01-01
NOTE:
- メモ・備考
複数の連絡先を1ファイルに
複数人の連絡先を1つのvCFファイルに保存することもできます:
BEGIN:VCARD
VERSION:3.0
N:山田;太郎
FN:山田太郎
TEL:090-1111-2222
END:VCARD
BEGIN:VCARD
VERSION:3.0
N:佐藤;花子
FN:佐藤花子
TEL:090-3333-4444
END:VCARD
注意:
- macOS / iOS: 通常、複数の連絡先を1ファイルにまとめる
- Outlook: 通常、1ファイル = 1連絡先
バージョンによる違い

vCard 2.1の特徴
時期: 1996年~
文字セット:
- 複数の文字セットをサポート
- 日本語の場合、文字化けを防ぐため特殊なエンコーディング(Quoted-Printable)を使用
主な特徴:
- シンプルな構造
- 広く普及している
- 古いシステムとの互換性が高い
制限:
- 複雑な文字や多言語対応が弱い
- セキュリティ機能が基本的
vCard 3.0の特徴
時期: 1998年~
改善点:
1. 明確な構文ルール
- エラーが減少
- パース(解析)しやすい
2. 拡張メディアサポート
- 高品質の画像
- 音声クリップ
3. 新しいデータ型
- 地理的位置情報(緯度・経度)
- タイムゾーン
4. 改善されたエンコーディング
- 多言語サポート強化
- 複雑なデータの保存が可能
vCard 4.0の特徴(最新版)
時期: 2011年~
大きな変更点:
1. UTF-8に統一
- 文字セットはUTF-8のみ
- 文字化けの問題がほぼ解消
- 多言語対応が完璧に
2. スタンドアロンファイル形式
- MIMEタイプ:
text/vcard - メール添付に限らず、単独ファイルとして正式化
3. 新しいプロパティ
- KIND:個人、組織、グループ、場所を区別
- GENDER:性別
- LANG:優先言語
- CLIENTPIDMAP:同期用
4. セキュリティ強化
- 暗号化鍵の統合
5. 互換性の改善
- ベンダー固有の拡張を標準化
バージョン比較表
| 項目 | vCard 2.1 | vCard 3.0 | vCard 4.0 |
|---|---|---|---|
| 公開年 | 1996年 | 1998年 | 2011年 |
| 文字セット | 複数対応 | 複数対応 | UTF-8のみ |
| 標準化 | なし | RFC 2425/2426 | RFC 6350 |
| 画像サポート | 基本的 | 高品質対応 | 高品質対応 |
| 地理情報 | なし | あり | あり |
| KIND属性 | なし | なし | あり |
| 普及度 | ★★★ | ★★★ | ★★ |
| 互換性 | 高い | 高い | やや低い |
vCardの使い方
【使い方1】iPhone / iOS
エクスポート(送信):
- 「連絡先」アプリを開く
- 送信したい連絡先を選択
- 下にスクロールして「連絡先を送信」をタップ
- 送信方法を選択(メール、メッセージ、AirDropなど)
インポート(受信):
- メールやメッセージで.vcfファイルを受信
- ファイルをタップ
- 「新規連絡先を作成」または「既存の連絡先に追加」
- 自動的に連絡先に追加される
一括エクスポート(iCloud経由):
- iCloud.com にアクセス
- 「連絡先」を開く
- エクスポートしたい連絡先を選択(全選択も可能)
- 設定アイコン(歯車)→「vCardを書き出す」
【使い方2】Android
エクスポート:
- 「連絡先」アプリを開く
- メニュー(≡)→「設定」
- 「エクスポート」を選択
- 保存先を選択(内部ストレージ、SDカード、Googleドライブなど)
- .vcfファイルが作成される
インポート:
- 「連絡先」アプリを開く
- メニュー(≡)→「設定」
- 「インポート」を選択
- インポート元を選択
- .vcfファイルを選択
【使い方3】Outlook(Windows / Mac)
エクスポート(1件):
- Outlookで「連絡先」を開く
- エクスポートしたい連絡先を右クリック
- 「名前を付けて保存」→「vCardファイルにエクスポート」
エクスポート(複数件):
- 「ファイル」→「開く/エクスポート」→「インポート/エクスポート」
- 「ファイルにエクスポート」を選択
- 「カンマ区切りの値」または「Outlook データ ファイル」
(注:vCard形式での一括エクスポートは制限あり)
インポート:
- .vcfファイルをダブルクリック
- 自動的にOutlookが開き、連絡先が追加される
または
- .vcfファイルを「連絡先」フォルダにドラッグ&ドロップ
【使い方4】Gmail / Google連絡先
エクスポート:
- contacts.google.com にアクセス
- エクスポートしたい連絡先を選択
- 左側のメニューから「エクスポート」
- 形式で「vCard」を選択
- 「エクスポート」をクリック
インポート:
- contacts.google.com にアクセス
- 左側のメニューから「インポート」
- .vcfファイルを選択
- 「インポート」をクリック
【使い方5】macOS連絡先アプリ
エクスポート:
- 「連絡先」アプリを開く
- エクスポートしたい連絡先を選択(全選択: Command+A)
- 「ファイル」→「書き出す」→「vCardを書き出す」
- 保存先を選択
インポート:
- 「ファイル」→「読み込む」
- .vcfファイルを選択
- 自動的にインポートされる
または
- .vcfファイルをダブルクリック
【使い方6】メールに添付して送信
Outlook:
- 新規メッセージ作成
- 「挿入」タブ→「名刺」→「その他の名刺」
- 送信したい連絡先を選択
- 自動的に.vcfファイルとして添付される
vCardの主な用途
【用途1】ビジネス名刺の交換
メリット:
- 紙の名刺を持ち歩かなくても良い
- 入力ミスがない
- 即座にアドレス帳に追加
- 環境に優しい
方法:
- メール添付
- QRコード化
- NFC(近距離無線通信)
【用途2】連絡先のバックアップ
活用例:
- スマホ機種変更時
- PC故障時の復元
- 定期的なバックアップ
推奨:
- 月1回、全連絡先をvCardでエクスポート
- クラウドストレージに保存
【用途3】複数デバイス間での同期
シナリオ:
- iPhone → Android への移行
- 会社のOutlook → 個人のGmail
- PC → スマートフォン
vCardのメリット:
異なるシステム間でも互換性が高い
【用途4】ウェブサイトへの埋め込み
hCard(HTMLマイクロフォーマット):
- Webページ内にvCard情報を埋め込み
- ブラウザ拡張機能で抽出可能
例:
<div class="vcard">
<span class="fn">山田太郎</span>
<span class="tel">03-1234-5678</span>
<span class="email">yamada@example.com</span>
</div>
【用途5】CRM(顧客管理)システム
活用:
- 顧客情報のインポート・エクスポート
- 営業チーム間での連絡先共有
- マーケティングツールへのデータ連携
【用途6】メール署名
Outlook:
メール署名に電子名刺を含めることで、受信者が簡単に連絡先を保存できる
vCardの関連技術

CardDAV
CardDAV(カードダブ):
- vCardデータをサーバーで管理するプロトコル
- クライアント・サーバー間で同期
使用例:
- iCloud連絡先
- Google連絡先
- Microsoft Exchange
jCard(JSON形式)
jCard:
- vCardをJSON形式で表現
- RFC 7095として標準化
- Web APIでの利用に最適
例:
["vcard",
[
["version", {}, "text", "4.0"],
["fn", {}, "text", "山田太郎"],
["tel", {"type":"work"}, "text", "03-1234-5678"]
]
]
xCard(XML形式)
xCard:
- vCardをXML形式で表現
- 構造化されたデータ交換に便利
よくある問題と解決法
Q1:日本語が文字化けする
原因:
- 文字エンコーディングの不一致
- 古いvCard 2.1形式
解決法:
方法1:vCard 3.0以降を使用
- UTF-8対応システムでエクスポート
方法2:専用ツールで変換
- 文字コード変換ソフトを使用
Q2:写真が表示されない
原因:
- Base64エンコードが大きすぎる
- 対応していない画像形式
解決法:
- 画像サイズを小さくする(推奨:300×300ピクセル以下)
- JPEG形式を使用
Q3:複数の連絡先が1ファイルになって困る
macOS / iOS:
- 標準で1ファイルに複数連絡先を含める
- 1件ずつ個別にエクスポート(手間がかかる)
解決法:
- 専用の分割ツールを使用
- テキストエディタで手動分割(上級者向け)
Q4:インポートしても連絡先が増えない
原因:
- すでに同じ連絡先が存在(重複)
- ファイル形式のエラー
解決法:
- テキストエディタで.vcfファイルを開く
BEGIN:VCARDとEND:VCARDが正しく対応しているか確認- バージョンが記載されているか確認
Q5:Outlookで日本語の名前が逆順になる
原因:
- N(構造化名前)とFN(表示名)の設定
解決法:
- FNプロパティを正しく設定する
- 例:
FN:山田太郎(姓名の順)
Q6:テキストエディタで開くと文字化けする
Windows:
- メモ帳のエンコーディング設定を「UTF-8」に
解決法:
- 「名前を付けて保存」→文字コード「UTF-8」
- または専用の連絡先アプリで開く
vCardの未来
より広範な用途
個人情報を超えて:
- vCard 4.0では「KIND」属性で、個人・組織・グループ・場所を区別
- 店舗情報、イベント会場などにも応用可能
セキュリティとプライバシー
課題:
- vCardは平文(プレーンテキスト)
- 暗号化されていない
対策:
- 送信時にメール暗号化
- 機密情報は含めない
新しいプロパティの追加
CalConnectとIETFで継続的に開発中
将来の可能性:
- ソーシャルメディアアカウント(標準化)
- 暗号通貨アドレス
- NFCタグ情報
まとめ:vCardは連絡先交換の共通言語
vCard(.vcf)形式は、1995年の誕生以来、連絡先情報を交換する国際標準として広く使われています。
vCardの強み:
- 互換性の高さ
- iPhone、Android、Outlook、Gmailなど、あらゆるシステムで対応
- シンプルさ
- テキストベースで軽量
- メールに簡単に添付できる
- 国際標準
- IETFによる標準化
- 世界中で同じ形式を使用
- 拡張性
- 写真、音声、地理情報など豊富なデータに対応
主な用途:
- ビジネス名刺の電子化
- 連絡先のバックアップ
- デバイス間の移行
- CRMシステムとの連携
バージョンの選択:
- 互換性重視: vCard 2.1 / 3.0
- 最新機能・多言語: vCard 4.0
覚えておきたいポイント:
- .vcfファイルはプレーンテキスト
- メモ帳で開いて編集可能
- BEGIN:VCARDとEND:VCARDで囲まれた1ブロック = 1連絡先
- 複数の連絡先を1ファイルに保存可能
vCardを活用することで、紙の名刺を持ち歩かなくても、手入力のミスなく、すぐにアドレス帳に追加できる——デジタル時代の連絡先交換を、スマートに実現できます。
あなたも今日から、vCardで連絡先をスマートに管理してみませんか?

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