ゲームや3Dアプリケーションを開発していると、「ガラスのように透ける窓」「魔法のエフェクト」「水面の表現」「UI要素の半透明表示」など、半透明のマテリアルが必要になる場面がよくあります。
しかし、Unityで半透明マテリアルを作ろうとすると、「設定したのに透明にならない」「描画順がおかしくて表示が崩れる」「なぜか真っ黒になってしまう」といった問題に遭遇することも多いでしょう。
この記事では、Unity初心者の方でも確実に半透明マテリアルを作成できるよう、手順を詳しく解説し、よくあるトラブルの解決方法もまとめて紹介します。
Unityの透明度とレンダリングシステムの基礎
なぜ透明にするのが難しいのか
レンダリングの仕組み 3D描画では、通常「奥にあるオブジェクトから手前に向かって描画」します。
しかし、半透明オブジェクトは「手前から奥に向かって描画」する必要があり、これが複雑さの原因です。
Shaderとマテリアルの関係
- Shader(シェーダー):どのように描画するかの設計図
- Material(マテリアル):色や質感などの具体的な設定
- Render Pipeline:描画処理の流れを管理するシステム
Unity のレンダーパイプライン
Built-in Render Pipeline
- Unity の標準レンダリングシステム
- 「Standard」シェーダーを使用
- 設定がシンプルで初心者に優しい
Universal Render Pipeline (URP)
- 軽量で高性能なレンダリングシステム
- モバイルデバイスに最適化
- 「Lit」シェーダーを使用
High Definition Render Pipeline (HDRP)
- 高品質なビジュアル重視
- ハイエンドPC向け
- より複雑だが美しい表現が可能
手順1:基本的な半透明マテリアルの作成
ステップ1:新しいマテリアルの作成
Projectウィンドウでの操作
- Project ウィンドウ内で右クリック
- 「Create」→「Material」を選択
- マテリアル名を設定
- わかりやすい名前をつける(例:「Glass_Material」「Water_Material」)
- 日本語名も使用可能ですが、英語推奨
ファイル管理のコツ
- Materials専用フォルダを作成
- 用途別にフォルダ分け(Effects、UI、Environment など)
- 命名規則を統一(プロジェクト全体で一貫性を保つ)
ステップ2:使用中のレンダーパイプラインの確認
確認方法
- 「Edit」→「Project Settings」を開く
- 「Graphics」タブを選択
- 「Scriptable Render Pipeline Settings」を確認
- 空欄:Built-in Render Pipeline
- 設定済み:URP または HDRP
プロジェクト設定での確認
- Window → Rendering → Lighting Settings
- 使用中のパイプラインが明記されている
ステップ3:適切なシェーダーの選択
Built-in Render Pipeline の場合
Standard シェーダーの設定
- Inspector でマテリアルを選択
- Shader を「Standard」に設定
- Rendering Mode を変更
- 初期値:「Opaque」(不透明)
- 変更後:「Transparent」(透明)
Rendering Mode の種類
- Opaque:完全に不透明
- Cutout:アルファテストによる切り抜き
- Fade:フェードイン・アウト用
- Transparent:半透明表現用
Universal Render Pipeline (URP) の場合
Lit シェーダーの設定
- Shader を「Universal Render Pipeline > Lit」に設定
- Surface Type を変更
- 初期値:「Opaque」
- 変更後:「Transparent」
追加設定項目
- Blending Mode:透明度の合成方法
- Alpha:標準的な透明度
- Premultiply:エフェクト用
- Additive:加算合成
- Multiply:乗算合成
ステップ4:透明度の調整
Albedo Color の設定
- 「Albedo」の色設定ボタンをクリック
- Color Picker で色を選択
- Alpha スライダーで透明度を調整
- 255(100%):完全に不透明
- 128(50%):半透明
- 0(0%):完全に透明
実用的な透明度の目安
- ガラス:Alpha 50-100(約20-40%透明)
- 水面:Alpha 100-150(約40-60%透明)
- 霧・煙:Alpha 30-80(約70-90%透明)
- UI背景:Alpha 150-200(約20-40%透明)
手順2:オブジェクトへの適用とテスト
マテリアルの適用方法
ドラッグ&ドロップでの適用
- 作成したマテリアルを選択
- Scene ビューまたは Hierarchy の対象オブジェクトにドラッグ
- Mesh Renderer の Materials に自動的に設定される
Inspector での手動設定
- 対象オブジェクトを選択
- Mesh Renderer コンポーネントを確認
- Materials の Element 0 に作成したマテリアルを設定
テスト用オブジェクトの作成
基本的な3Dオブジェクトで確認
- Hierarchy で右クリック
- 「3D Object」→「Cube」または「Sphere」を選択
- 作成したマテリアルを適用
- Camera の背後に別のオブジェクトを配置して透明度を確認
効果的なテスト環境
- 背景に色付きオブジェクトを配置
- 光源の位置と強度を調整
- 異なる角度から確認
よくあるトラブルとその解決方法
問題1:設定しても透明にならない
原因と対策
Rendering Mode/Surface Type が間違っている
- Built-in:Rendering Mode が「Opaque」のまま
- URP:Surface Type が「Opaque」のまま
- 解決策:必ず「Transparent」に変更
Alpha 値が適切でない
- Alpha が 255(最大値)のまま
- 解決策:Alpha を 200 以下に下げる
シェーダーが透明度に対応していない
- Unlit や Legacy シェーダーを使用
- 解決策:Standard または URP/Lit に変更
問題2:完全に真っ黒になる
原因と対策
ライティングの問題
- Scene に Light がない
- Light の強度が不適切
- 解決策:Directional Light を追加し、Intensity を 1-3 に設定
Metallic 値が高すぎる
- Metallic が 1.0 に設定されている
- 解決策:Metallic を 0-0.3 程度に調整
Base Color が黒色
- Albedo/Base Color が (0,0,0) に設定
- 解決策:適切な色を設定
問題3:描画順がおかしい
原因と対策
Render Queue の問題
- 半透明オブジェクト同士の描画順序が不適切
- 解決策:Advanced Settings の Render Queue 値を調整
- 標準:3000(Transparent)
- 前面に表示:3001-3100
- 背面に表示:2900-2999
Z-Fighting の発生
- 複数の半透明オブジェクトが同じ位置にある
- 解決策:位置を微調整するか、異なる Render Queue を設定
問題4:パフォーマンスが悪い
原因と対策
過度な Overdraw
- 半透明オブジェクトが重なりすぎている
- 解決策:不要な重なりを減らす、LOD システムを導入
複雑なシェーダー
- 高負荷なエフェクトを多用
- 解決策:モバイル向けシェーダーに変更、エフェクトを簡素化
高度な設定とカスタマイズ
より リアルな透明表現
ガラス材質の表現
設定例:
- Albedo:薄い青色 (R:200, G:220, B:255, A:100)
- Metallic:0.0
- Smoothness:0.9-1.0
- Normal Map:細かいノイズテクスチャ
水面の表現
設定例:
- Albedo:青緑色 (R:100, G:200, B:255, A:150)
- Metallic:0.0
- Smoothness:0.8
- Normal Map:波のテクスチャ
UI背景の表現
設定例:
- Albedo:グレー (R:128, G:128, B:128, A:180)
- Metallic:0.0
- Smoothness:0.1
Shader Graph による高度なカスタマイズ
Shader Graph の活用
- Window → Shader Graph → Create Shader Graph
- Graph Type を「URP」または「HDRP」に設定
- Base Color の Alpha 入力にカスタムノードを接続
よく使われるノード
- Fresnel Effect:角度による透明度変化
- Noise:ランダムな透明度パターン
- Time:アニメーション効果
- Texture Sample:テクスチャベースの透明度
アニメーションとエフェクト
透明度のアニメーション
- Animation Window を開く
- マテリアルの Alpha 値をキーフレーム設定
- Curve Editor で変化の仕方を調整
スクリプトからの制御
// マテリアルの透明度を変更する例
Material material = GetComponent<Renderer>().material;
Color color = material.color;
color.a = 0.5f; // 50%透明
material.color = color;
パフォーマンス最適化のコツ
描画負荷の軽減
Render Queue の最適化
- 不必要な半透明オブジェクトは避ける
- 可能な限り Opaque または Cutout を使用
- Transparent は本当に必要な場合のみ
LOD (Level of Detail) の活用
- 距離に応じて透明度を調整
- 遠景では Opaque に切り替え
- モバイル環境では特に重要
モバイル向け最適化
シェーダーの選択
- URP の「Simple Lit」を使用
- 不要な機能(Reflection、Emission など)を無効化
- テクスチャサイズを適切に制限
描画設定の調整
- Anti-Aliasing を適切なレベルに設定
- Shadow の品質を調整
- Post-Processing を最小限に
実践的な使用例
ゲームでの活用例
建築・環境表現
- ガラス窓:Alpha 50-80, Smoothness 0.9
- 水面:Alpha 100-150, Normal Map使用
- 霧・雲:Alpha 20-60, Soft Particles使用
UI・インターフェース
- モーダルダイアログの背景:Alpha 180-200
- ツールチップ:Alpha 220-240
- オーバーレイ効果:Alpha 100-150
エフェクト表現
- 魔法の障壁:Alpha 80-120, Fresnel効果
- エネルギーシールド:Alpha 60-100, Emission使用
- ホログラム:Alpha 120-160, Scanline効果
アートワークでの活用
建築ビジュアライゼーション
- カーテン・ファブリック
- ガラス建材
- 照明効果
プロダクトビジュアライゼーション
- 包装材
- 液体表現
- 光学部品
トラブルシューティング:詳細な対処法
環境別のトラブル対応
Built-in Pipeline でのトラブル
- Graphics Settings で ColorSpace を確認
- Quality Settings で Anti-Aliasing を調整
- Camera の Background Type を Skybox に設定
URP でのトラブル
- URP Asset の設定を確認
- Renderer Data の設定を確認
- Camera の Renderer を適切に設定
モバイル環境でのトラブル
- Graphics API の互換性確認
- Shader バリアントの最適化
- テクスチャ圧縮の設定確認
デバッグ手法
Frame Debugger の活用
- Window → Analysis → Frame Debugger
- 描画順序と Render Queue を視覚的に確認
- Overdraw の状況を把握
Profiler での性能確認
- Window → Analysis → Profiler
- Rendering セクションでパフォーマンス確認
- Memory セクションでテクスチャ使用量確認
まとめ:確実な半透明マテリアル作成のチェックリスト
Unity での半透明マテリアル作成は、正しい手順を踏めば初心者でも確実に実現できます。
重要なのは使用しているレンダーパイプラインに応じた適切な設定を行うことです。
作成時のチェックリスト
基本設定
- [ ] 使用中のレンダーパイプラインを確認
- [ ] 適切なシェーダーを選択(Standard または URP/Lit)
- [ ] Rendering Mode/Surface Type を「Transparent」に設定
- [ ] Alpha 値を適切に調整(255未満)
品質向上
- [ ] Metallic, Smoothness の値を調整
- [ ] 適切な Render Queue を設定
- [ ] ライティング環境を整備
- [ ] テスト用背景オブジェクトで確認
パフォーマンス
- [ ] 不要な半透明オブジェクトを削減
- [ ] モバイル環境では軽量シェーダーを使用
- [ ] LOD システムの導入を検討
よくある失敗を避けるコツ
設定の確認
- 変更後は必ず Apply ボタンを押す
- 複数のマテリアルを使用する場合は個別に設定
- プレハブの場合は Apply を忘れずに
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