Google ChromeやChromiumは優れたブラウザですが、バックグラウンドでGoogleと通信し、利用統計を送信しています。
プライバシーを重視するユーザーにとって、これは大きな懸念事項です。
そこで登場したのがUngoogled Chromium(アングーグルド・クロミウム)です。
この記事では、Googleサービスをすべて削除したこのブラウザについて詳しく解説します。
Ungoogled Chromiumとは
Ungoogled Chromium(アングーグルド・クロミウム)は、ChromiumからGoogleに関連するすべてのWebサービスを削除した、フリー・オープンソースのWebブラウザです。
「ungoogled」は「un-Googled」、つまり「Googleを取り除いた」という意味を持ちます。
開発の背景
Ungoogled Chromiumプロジェクトは、2015年にEloston(エロストン)というユーザー名のホビイストによって創設されました。
当初はLinux向けに開発され、その後、他のオペレーティングシステムにも対応しました。
Elostonは以前はビルド版をリリースしていましたが、最終的に彼のパッチを使用して他の開発者がビルドを提供することを許可しました。
2019年以降、Elostonはプロジェクトへの関与を大幅に減らし、現在は他の開発者たちがパッチのメンテナンスを継続しています。
基本コンセプト
Ungoogled Chromiumは、他のChromiumフォークとは異なるアプローチを取っています。
他のChromiumフォーク
- 独自のビジョンや機能を追加
- ユーザーインターフェースの変更
- 追加サービスの統合
Ungoogled Chromium
- デフォルトのChromium体験をできるだけ維持
- 本質的にChromiumの代替品として機能
- プライバシー、制御、透明性の強化
つまり、Ungoogled Chromiumは「Chromiumそのまま、ただしGoogleなし」という設計思想です。
ChromeとChromiumとの違い
まず、Chrome、Chromium、Ungoogled Chromiumの関係を整理します。
Chromiumとは
Chromium(クロミウム)は、Webブラウザ向けのオープンソースのコードベースです。
主にGoogleによって開発とメンテナンスが行われています。
Chromiumの特徴
- FOSS(フリー・オープンソースソフトウェア)
- Google Chrome、Microsoft Edge、Opera、Braveなど多数のブラウザのベース
- Googleは公式版のChromiumブラウザを提供していない
Google Chromeとは
Google Chromeは、ChromiumのソースコードにGoogleが機能を追加して開発したブラウザです。
Chromeに追加される機能
- 自動アップデート
- Flash Playerの統合
- Google製のメディアコーデック
- トラッキングID
- 利用統計の送信
- Google SafeBrowsing
- Googleアカウントとの連携
Ungoogled Chromiumの位置づけ
Chromium
- オープンソースのベース
- Googleサービスへの依存あり
- バイナリブロブを含む
Ungoogled Chromium
- Chromiumをベース
- Googleサービスへの依存を完全削除
- バイナリブロブを削除
つまり、Ungoogled Chromiumは「Chromiumからさらにプライバシーを強化したバージョン」です。
削除されるGoogleサービス
Ungoogled Chromiumでは、以下のようなGoogleサービスが削除されています。
バックグラウンド通信の削除
削除される通信
- Google Host Detector(Googleホスト検出)
- Google URL Tracker(URL追跡)
- Google Cloud Messaging(クラウドメッセージング)
- Google Hotwording(音声起動)
- 利用統計の送信
- クラッシュレポートの送信
これらの通信は、ユーザーが意識しないうちにバックグラウンドで実行されていました。
Googleドメインの機能無効化
無効化される機能
- Google Safe Browsing(フィッシング対策)
- Googleアカウント連携
- Google翻訳
- Googleの検索候補
Safe Browsingは、フィッシングサイトや悪意のあるサイトから保護する機能ですが、Googleサーバーとの通信が必要なため、デフォルトで無効化されています。
バイナリブロブの削除
バイナリブロブとは
- コンパイル済みのバイナリファイル
- ソースコードが公開されていない部分
- 内部動作が不透明
Ungoogled Chromiumでは、これらのバイナリブロブを削除し、可能な限りユーザー提供の代替品に置き換えます。
ドメイン置換
Googleのドメインを存在しないドメインに置き換えることで、内部リクエストをブロックします。
例
google.com→qjz9zk(存在しないトップレベルドメイン)trk:スキームを持つURLのインターネット接続を防止
Ungoogled Chromiumの主な特徴
Ungoogled Chromiumには、プライバシーと透明性を強化する多数の機能があります。
プライバシー強化
デフォルトの設定
- すべてのウィンドウを閉じたときにサイトデータを削除(デフォルトで有効)
- WebRTCのIPリーク対策(デフォルトで制限)
- キャプティブポータル検出の無効化
- イントラネットリダイレクト検出の無効化
追加の設定フラグ
- 数十個の追加フラグを提供
- 通常は変更できないブラウザの動作を制御可能
透明性の向上
ソースコードの透明性
- すべての機能がソースコードで確認可能
- バイナリブロブを排除
- パッチとスクリプトが公開
設定の手動制御
- ほとんどの機能は手動で有効化が必要
- ユーザーが完全に制御
軽量化
Googleサービスを削除することで、ブラウザが軽量化されています。
軽量化の効果
- 起動速度の向上
- メモリ使用量の削減
- 低スペックPCでも快適に動作
実際、低スペックのPCでFirefoxがフリーズしていたユーザーが、Ungoogled Chromiumに切り替えて問題が解決したという報告があります。
インストール方法
Ungoogled Chromiumは、複数のプラットフォームで利用できます。
Windows
方法1: Wingetを使用
winget install eloston.ungoogled-chromium
Wingetを使用すると、公式リポジトリから最新の署名済みパッケージを取得できます。
方法2: GitHubから直接ダウンロード
- GitHubのリリースページにアクセス
- Windows用のインストーラーをダウンロード
- インストーラーを実行
インストール先は通常C:\Program Files\Ungoogled Chromiumです。
Linux
Ubuntu/Debian: PPA経由
sudo add-apt-repository ppa:xtradeb/ungoogled-chromium
sudo apt update
sudo apt install ungoogled-chromium
Arch Linux: AUR経由
yay -S ungoogled-chromium-bin
Fedora: COPR経由
sudo dnf copr enable wojnilowicz/ungoogled-chromium
sudo dnf install ungoogled-chromium
Flatpak
flatpak install flathub io.github.ungoogled_software.ungoogled_chromium
Flatpak版は、追加のサンドボックス保護が提供されます。
macOS
Homebrew経由
brew install --cask ungoogled-chromium
インストール後、/ApplicationsディレクトリにChromiumが表示されます。
ソースからのビルド
完全なコントロールが必要な場合は、ソースからビルドできます。
必要なツール
- Git
- Python 3
- Ninja
- Clang
- pkg-config
ビルド手順
# リポジトリのクローン
git clone https://github.com/ungoogled-software/ungoogled-chromium.git
cd ungoogled-chromium
# 特定のバージョンをチェックアウト
git checkout 144.0.7559.132-1
# ビルド(詳細は公式ドキュメントを参照)
拡張機能のインストール方法
Ungoogled Chromiumの最大の課題は、Chrome Web Storeから直接拡張機能をインストールできないことです。
方法1: chromium-web-store拡張機能を使用
最も簡単な方法は、chromium-web-store拡張機能をインストールすることです。
この拡張機能をインストールすると、Chrome Web Storeから通常通り拡張機能をインストールできるようになります。
手順
- chromium-web-store拡張機能のCRXファイルをダウンロード
chrome://extensions/を開く- 開発者モードを有効化
- CRXファイルをドラッグ&ドロップ
方法2: 直接CRXファイルをダウンロード
Chrome Web StoreのURLを使用して、直接CRX(拡張機能パッケージ)ファイルをダウンロードできます。
CRXダウンロードURL形式
https://clients2.google.com/service/update2/crx?response=redirect&acceptformat=crx2,crx3&prodversion=[VERSION]&x=id=[EXTENSION_ID]&installsource=ondemand&uc
パラメータ
[VERSION]: Chromiumのバージョン(例: 144.0.7559.132)[EXTENSION_ID]: 拡張機能のID
インストール手順
- CRXファイルをダウンロード
chrome://extensions/を開く- 開発者モードを有効化
- CRXファイルをドラッグ&ドロップ
または、アドレスバーにfile://PATH_TO_CRXと入力してアクセスします。
方法3: 拡張機能を解凍してインストール
手順
- CRXファイルを
.zipにリネーム - 解凍
chrome://extensions/で「パッケージ化されていない拡張機能を読み込む」を選択- 解凍したフォルダを選択
デフォルト設定の変更
Ungoogled Chromiumをインストールした後、いくつかの設定を変更する必要があります。
検索エンジンの設定
デフォルトの検索エンジンはDuckDuckGoに設定されています。
Googleや他の検索エンジンを使用したい場合は、設定から変更できます。
手順
chrome://settings/searchEnginesを開く- 検索エンジンを追加または変更
Safe Browsingの代替
Safe Browsingが無効化されているため、uBlock Originなどのブロッカー拡張機能の使用が推奨されます。
推奨拡張機能
- uBlock Origin(広告・トラッカーブロック)
- Privacy Badger(トラッキング防止)
- HTTPS Everywhere(HTTPS強制)
WebRTCの設定
WebRTCは、VPN使用時でも実際のIPアドレスをリークする可能性があります。
Ungoogled Chromiumでは、デフォルトでWebRTCが制限されていますが、一部のWebアプリケーションに影響する場合があります。
設定変更
chrome://flags/#webrtc-ip-handling-policyを開く- 必要に応じて設定を変更
スペルチェック辞書
スペルチェック辞書は手動でインストールする必要があります。
手順
- Chromiumの辞書リポジトリから
.bdicファイルをダウンロード - Windows:
%LOCALAPPDATA%\Chromium\Application\Dictionariesに配置 - Linux:
~/.config/chromium/Dictionariesに配置 chrome://settings/languagesでスペルチェックを有効化
推奨フラグ設定
chrome://flags/で有効化すると便利なフラグをいくつか紹介します。
PDF Viewer
一部のプラットフォームでは、ビルトインPDFビューアーが削除されています。
再有効化
chrome://flags/#enable-pdf-viewerを開く- 「Enabled」に設定
Chromecast
Chromecastを使用する場合は、以下のフラグを有効化します。
chrome://flags/#cast-media-route-providerを開く- 「Enabled」に設定
- ブラウザを再起動
Ungoogled Chromiumのメリット
Ungoogled Chromiumを使用する主なメリットを紹介します。
完全なプライバシー保護
Googleへのデータ送信ゼロ
- 利用統計の送信なし
- トラッキングなし
- バックグラウンド通信なし
実際、Chromeをネットワークモニターで監視すると数十のGoogle向けGETリクエストが発生しますが、Ungoogled Chromiumではこれらのパケットが一切送信されません。
軽量で高速
パフォーマンス向上
- 不要なサービスの削除により軽量化
- 起動速度の向上
- 低スペックPCでも快適に動作
Chromiumの互換性
互換性の維持
- ChromiumやChromeと同じレンダリングエンジン
- Webサイトの互換性が高い
- 開発者ツールも利用可能
オープンソース
透明性
- すべてのコードが公開
- パッチも公開
- コミュニティによるレビュー
クロスプラットフォーム
対応OS
- Windows
- macOS
- Linux(複数のディストリビューション)
- FreeBSD
Ungoogled Chromiumのデメリット
一方で、いくつかのデメリットもあります。
拡張機能のインストールが面倒
制約
- Chrome Web Storeから直接インストールできない
- chromium-web-store拡張機能が必要
- または手動でCRXファイルをダウンロード
Safe Browsingなし
セキュリティ機能の欠如
- フィッシングサイト警告なし
- 悪意のあるサイト警告なし
- uBlock Originなどで代替が必要
自動アップデートなし
更新の手動管理
- 自動更新機能が無効
- パッケージマネージャーで手動更新が必要
- セキュリティパッチの適用が遅れる可能性
Googleサービスとの連携なし
利用できない機能
- Googleアカウント同期
- Google翻訳
- Googleドライブとの統合
一部機能の制約
制約される機能
- キャプティブポータル検出(公共Wi-Fiのログインページ)
- 一部のWebアプリケーション(WebRTC依存)
- オンスクリーンキーボード(タブレット使用時)
ビルドの信頼性
コントリビューターバイナリ
- 公式ビルドは存在しない
- コントリビューターが提供するビルドを使用
- 再現性が保証されていない
- 改ざんのリスク(確率は低い)
公式リポジトリやWinget、パッケージマネージャーからのインストールが推奨されます。
アップデート方法
Ungoogled Chromiumは、Chromiumのバージョン番号に追従しています。
パッケージマネージャー経由
Linux(apt)
sudo apt update
sudo apt upgrade ungoogled-chromium
macOS(Homebrew)
brew update
brew upgrade ungoogled-chromium
Windows(Winget)
winget upgrade eloston.ungoogled-chromium
手動更新
GitHubのリリースページから最新版をダウンロードして、再インストールします。
類似プロジェクトとの比較
Iridium Browser
特徴
- Chromiumベース
- プライバシー強化
- Ungoogled Chromiumより機能が多い
Ungoogled Chromiumとの違い
- Ungoogled ChromiumはIridium Browserにもパッチを適用
- より徹底的にGoogleサービスを削除
Brave
特徴
- Chromiumベース
- 広告ブロック内蔵
- 暗号通貨統合
Ungoogled Chromiumとの違い
- Braveは独自機能を多数追加
- Ungoogled Chromiumはシンプルさを維持
Vivaldi
特徴
- Chromiumベース
- 高度なカスタマイズ
- 独自機能が多数
Ungoogled Chromiumとの違い
- Vivaldiは独自のビジョンを持つ
- Ungoogled Chromiumはバニラに近い
使用上の注意点
セキュリティ対策
Safe Browsingがないため、以下の対策が推奨されます。
推奨セキュリティ対策
- uBlock Originのインストール
- 信頼できるフィルターリストの使用
- HTTPS Everywhereの使用
- 怪しいサイトへのアクセス回避
サンドボックスの確認
サンドボックスが正しく動作していることを確認します。
Linux
chromium-sandbox --status
サンドボックスがないと、Chromiumのセキュリティの大部分が失われます。
プライバシー設定の確認
初回起動後、以下の設定を確認します。
確認項目
- サイトデータの自動削除
- WebRTCの設定
- クッキーの設定
- 位置情報の設定
よくある質問
Q: Ungoogled Chromiumは完全に安全ですか?
A: Googleへのデータ送信はありませんが、セキュリティはユーザーの設定次第です。
Safe Browsingがないため、uBlock Originなどのセキュリティ拡張機能の使用が推奨されます。
Q: 拡張機能は使えますか?
A: はい、ただしChrome Web Storeから直接インストールできません。
chromium-web-store拡張機能を使用するか、手動でCRXファイルをダウンロードする必要があります。
Q: Google Chromeから移行できますか?
A: 可能ですが、いくつかの機能が使えなくなります。
特にGoogleアカウント同期、Google翻訳、Safe Browsingがありません。
Q: パフォーマンスは向上しますか?
A: 一般的に軽量化により、起動速度やメモリ使用量が改善します。
ただし、ベンチマークスコアは必ずしも高くなりません。
Q: 日本語は使えますか?
A: はい、問題なく使用できます。
ただし、スペルチェック辞書は手動でインストールする必要があります。
まとめ
Ungoogled Chromium(アングーグルド・クロミウム)は、ChromiumからGoogleサービスをすべて削除したプライバシー重視のWebブラウザです。
主な特徴
- Googleへのバックグラウンド通信の完全削除
- バイナリブロブの削除
- デフォルトのChromium体験を維持
- オープンソースで透明性が高い
メリット
- 完全なプライバシー保護
- 軽量で高速
- Chromiumの互換性
- クロスプラットフォーム対応
デメリット
- 拡張機能のインストールが面倒
- Safe Browsingなし
- 自動アップデートなし
- Googleサービスとの連携不可
推奨ユーザー
- プライバシーを最優先するユーザー
- Googleのトラッキングを避けたいユーザー
- 低スペックPCでブラウザを軽量化したいユーザー
- オープンソースソフトウェアを好むユーザー
非推奨ユーザー
- Googleアカウント同期が必要なユーザー
- 簡単にすぐ使いたいユーザー
- セキュリティ機能の自動化が必要なユーザー
Ungoogled Chromiumは、プライバシーと透明性を重視するユーザーにとって優れた選択肢です。
ただし、いくつかの機能が制限されるため、自分のニーズに合っているか確認してから導入することをおすすめします。
Chromeの使い勝手を維持しながら、Googleのトラッキングから完全に独立したブラウザを求めるなら、Ungoogled Chromiumは最良の選択肢の一つといえるでしょう。

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