メールは今や仕事でもプライベートでも欠かせないツールです。しかし、同時にウイルスやマルウェアの主な侵入経路でもあります。
「添付ファイルを開いたらウイルスに感染した」「怪しいメールのリンクをクリックしてしまった」こんな被害は後を絶ちません。無料で使えるThunderbirdでも、しっかりとウイルス対策ができるのでしょうか?
この記事では、Thunderbirdを安全に使うためのウイルス対策を、基本から応用まで詳しく解説していきます。
メール経由のウイルス感染リスク

まず、どのような危険があるのか理解しましょう。
主な感染経路
添付ファイル経由
メールに添付されたファイルを開くことで感染します。実行ファイル(.exeなど)だけでなく、WordやExcel文書にマクロウイルスが仕込まれていることもあるのです。
リンク経由
メール本文のリンクをクリックすると、ウイルスをダウンロードさせるWebサイトへ誘導されます。見た目は正規のサイトそっくりに作られていることが多いでしょう。
HTML形式のメール
HTMLメール自体に悪意のあるスクリプトが埋め込まれている場合があります。ただし、現代的なメールソフトはこれを防ぐ機能を備えています。
よくある攻撃の手口
フィッシング詐欺
銀行やクレジットカード会社を装ったメールで、偽サイトへ誘導してパスワードを盗みます。
ランサムウェア
添付ファイルを開くと、パソコンのデータが暗号化され、身代金を要求されます。
スパムメール
大量の迷惑メールの中に、ウイルス付きメールが紛れ込んでいることがあります。
Thunderbird標準のセキュリティ機能
Thunderbirdには、いくつかのセキュリティ機能が標準で備わっています。
フィッシング詐欺検出機能
Thunderbirdは、フィッシング詐欺メールを自動的に検出できます。
仕組み
- リンク先URLと表示テキストの不一致を検出
- 既知のフィッシングサイトのデータベースと照合
- 疑わしいメールには警告を表示
設定の確認
- 「ツール」→「オプション」(または「設定」)
- 「プライバシーとセキュリティ」を選択
- 「迷惑メール」セクションを確認
- 「フィッシング詐欺メールの可能性を検出する」にチェックが入っているか確認
この設定は標準で有効になっていますが、念のため確認しておきましょう。
迷惑メールフィルター
スパムメールを自動的に振り分ける機能です。
学習型フィルター
Thunderbirdの迷惑メールフィルターは、使えば使うほど賢くなります。「迷惑メール」または「正常なメール」と判定することで、フィルターが学習していくのです。
設定方法
- 「ツール」→「オプション」→「プライバシーとセキュリティ」
- 「迷惑メール」タブを確認
- 「迷惑メールと判断された時」で動作を選択:
- 「迷惑メールフォルダーに移動する」(推奨)
- 「削除する」
- 「何もしない」
使い方
- 迷惑メールを選択
- ツールバーの「迷惑マーク」アイコンをクリック
- フィルターが学習して、次回から自動判定される
リモートコンテンツのブロック
外部サーバーから画像を読み込むHTMLメールは、開封確認として悪用されることがあります。
標準設定
Thunderbirdは、デフォルトでリモートコンテンツ(外部画像など)をブロックします。信頼できる送信者からのメールのみ、画像を表示できるのです。
個別に許可する方法
- メールを開く
- 上部に「リモートコンテンツがブロックされました」と表示される
- 「設定」をクリック
- 「○○からのリモートコンテンツを許可する」を選択
信頼できる送信者のみ許可しましょう。
ウイルス対策ソフトとの連携
Thunderbird自体にウイルススキャン機能はありません。そのため、ウイルス対策ソフトとの併用が必須です。
推奨されるウイルス対策ソフト
有料ソフト
- ノートン(Norton)
- ウイルスバスター(トレンドマイクロ)
- カスペルスキー
- ESET
無料ソフト
- Windows Defender(Windows標準)
- Avast Free Antivirus
- AVG AntiVirus Free
Windows 10/11をお使いなら、標準搭載のWindows Defenderでも十分な保護が得られます。
ウイルス対策ソフトの設定
多くのウイルス対策ソフトには、メールスキャン機能があります。
確認すべき設定
- ウイルス対策ソフトを開く
- メール保護(メールスキャン)機能が有効になっているか確認
- 添付ファイルの自動スキャンが有効か確認
- リアルタイム保護が有効か確認
Thunderbirdとウイルス対策ソフトの競合
稀に、ウイルス対策ソフトがThunderbirdの動作を妨げることがあります。
症状
- メールの送受信が遅い
- 添付ファイルが開けない
- Thunderbirdが起動しない
対処方法
- ウイルス対策ソフトの設定を開く
- 除外リスト(ホワイトリスト)を確認
- Thunderbirdのプロファイルフォルダーを除外対象に追加
- ただし、添付ファイルのスキャンは有効のまま維持
除外設定は、信頼できるプログラムにのみ適用してください。
添付ファイルの安全な取り扱い

添付ファイルは最も危険な感染経路です。慎重に扱いましょう。
開く前の確認ポイント
送信者を確認
知らない人からの添付ファイルは絶対に開かないでください。知人からでも、本文が不自然な場合は電話などで確認しましょう。
ファイル拡張子を確認
特に危険な拡張子:
- .exe(実行ファイル)
- .bat、.cmd(バッチファイル)
- .scr(スクリーンセーバー)
- .vbs、.js(スクリプトファイル)
- .zip、.rar(中身に実行ファイルが入っている可能性)
これらのファイルは、信頼できる送信者からでも注意が必要です。
二重拡張子に注意
「請求書.pdf.exe」のように、拡張子が2つあるファイルは危険です。一見PDFに見えますが、実際は実行ファイルでしょう。
安全に開く手順
手順1:ウイルススキャン
- 添付ファイルを右クリック
- 「名前を付けて保存」を選択
- デスクトップなど分かりやすい場所に保存
- 保存したファイルを右クリック
- ウイルス対策ソフトでスキャン(「スキャン」メニューがあるはず)
- 安全が確認されてから開く
手順2:サンドボックス環境で開く
Windows Defenderの「Application Guard」や、専用のサンドボックスソフトを使うと、隔離された環境でファイルを開けます。
Office文書のマクロに注意
WordやExcel文書にもウイルス(マクロウイルス)が仕込まれることがあります。
対策
- Office文書を開く際、「マクロを有効にする」は安易にクリックしない
- 信頼できる送信者からの文書のみマクロを有効化
- Officeのセキュリティ設定で「マクロを無効にする」を選択
セキュリティ設定の最適化
Thunderbirdのセキュリティ設定を強化しましょう。
JavaScript無効化
HTMLメールに埋め込まれたJavaScriptを無効にします。
設定方法
- 「ツール」→「オプション」→「プライバシーとセキュリティ」
- 「メールコンテンツ」セクション
- 「メッセージ内の JavaScript を許可する」のチェックを外す
これはデフォルトでオフですが、確認しておきましょう。
Cookie無効化
メール内のクッキー(追跡情報)を無効にします。
設定方法
- 「ツール」→「オプション」→「プライバシーとセキュリティ」
- 「Cookie」セクション
- 「メッセージ内の Cookie を許可する」のチェックを外す
自動ダウンロード無効化
添付ファイルの自動ダウンロードを防ぎます。
設定方法
- Thunderbirdの設定ファイル(config editor)を開く
- 「ツール」→「オプション」→「一般」
- 最下部の「Config Editor」ボタンをクリック(設定エディター)
- 検索ボックスに「mail.server.default.autosync_offline_stores」と入力
- 値を「false」に変更
ただし、IMAP利用時はオフライン同期が便利なので、バランスを考えて設定してください。
SSL/TLS接続の確認
メールの送受信が暗号化されているか確認します。
確認手順
- 「ツール」→「アカウント設定」
- 各アカウントの「サーバー設定」を開く
- 「接続の保護」が「SSL/TLS」になっているか確認
- 「送信(SMTP)サーバー」も同様に確認
暗号化なしの接続は、通信内容が盗聴されるリスクがあります。
マスターパスワードの設定
すべてのアカウントパスワードを保護する重要な機能です。
マスターパスワードとは
Thunderbirdに保存されているすべてのメールアカウントのパスワードを、1つのマスターパスワードで保護する機能です。
メリット
- パソコンを紛失しても、他人がメールにアクセスできない
- 家族や同僚に勝手にメールを見られない
- セキュリティが大幅に向上
設定方法
手順
- 「ツール」→「オプション」→「プライバシーとセキュリティ」
- 「パスワード」セクション
- 「マスターパスワードを使用する」にチェック
- マスターパスワードを入力(2回)
- 「OK」をクリック
推奨するパスワード
- 12文字以上
- 大文字、小文字、数字、記号を混在
- 辞書に載っている単語は使わない
- 他のサービスと同じパスワードは使わない
次回起動時から、マスターパスワードの入力が求められます。
アドオンでセキュリティ強化
Thunderbirdは、アドオン(拡張機能)でさらに機能を追加できます。
セキュリティ関連の推奨アドオン
Enigmail(暗号化)
メールを暗号化して送受信できます。機密性の高い情報をやり取りする場合に有効です。
注意:Thunderbird 78以降はOpenPGP機能が標準搭載されています
Display Mail User Agent
送信者が使っているメールソフトを表示します。偽装メールの判別に役立つでしょう。
Check and Send
メール送信前に、宛先や添付ファイルを確認するダイアログを表示します。誤送信防止に有効です。
アドオンのインストール方法
手順
- 「ツール」→「アドオンとテーマ」
- 検索ボックスでアドオン名を検索
- 「Thunderbirdに追加」をクリック
- 指示に従ってインストール
アドオンの注意点
信頼できるアドオンのみインストール
- レビュー数が多く、評価が高いもの
- 最終更新日が新しいもの
- 開発者が明記されているもの
悪意のあるアドオンは、セキュリティリスクになります。慎重に選びましょう。
フィッシング詐欺を見抜く方法

フィッシング詐欺メールの特徴を知り、被害を防ぎましょう。
フィッシングメールの見分け方
不自然な日本語
翻訳ソフトを使ったような、おかしな日本語が使われています。「貴方のアカウントは停止されました」のような不自然な表現に注意してください。
緊急性を煽る内容
「24時間以内にアカウントを確認しないと停止します」のように、慌てさせて判断力を鈍らせる手口です。
個人情報の要求
正規の企業が、メールでパスワードやクレジットカード番号を聞くことはありません。
送信者アドレスの確認
@より後のドメインが正規のものか確認しましょう。「amazon-security.com」のような、似せたドメインに注意が必要です。
リンク先URLの確認
リンクにマウスを合わせると(クリックしない)、画面下部に実際のURLが表示されます。表示テキストとURLが一致しているか確認してください。
疑わしいメールへの対処
手順
- リンクをクリックしない
- 添付ファイルを開かない
- 返信しない
- 削除する、または「迷惑メール」マークを付ける
- 心配な場合は、公式サイトに直接アクセスして確認
安全なメール利用のベストプラクティス
日常的に気をつけるべきポイントをまとめます。
送信前の確認習慣
宛先の確認
間違った相手に送らないよう、送信前に必ず確認しましょう。特にBCC(ブラインドカーボンコピー)を使う際は注意が必要です。
添付ファイルの確認
意図しないファイルを添付していないか確認してください。機密情報が含まれていないかもチェックしましょう。
件名の確認
件名が適切か、誤解を招く表現になっていないか確認します。
定期的なメンテナンス
ソフトウェアの更新
- Thunderbirdを最新版に保つ
- ウイルス対策ソフトを最新に保つ
- OSを最新状態に保つ
セキュリティの脆弱性は日々発見されています。更新を怠らないようにしましょう。
古いメールの整理
- 不要なメールは削除
- 削除済みアイテムを定期的に空にする
- 重要なメールはバックアップ
古いメールに個人情報が含まれている場合、そのままにしておくとリスクになります。
パスワード管理
推奨する方法
- パスワードマネージャーの使用(1Password、Bitwardenなど)
- 定期的なパスワード変更(3~6ヶ月ごと)
- メールアカウントごとに異なるパスワードを使用
同じパスワードを使い回すと、1つのサービスから漏洩した際、他のアカウントも危険にさらされます。
モバイル版Thunderbirdのセキュリティ
Android版Thunderbirdも、セキュリティに配慮が必要です。
モバイル特有のリスク
公衆Wi-Fiでの使用
暗号化されていないWi-Fiでは、通信内容が盗聴される可能性があります。
対策
- 公衆Wi-Fi使用時はVPNを利用
- SSL/TLS接続を必ず使用
- 重要なメールの送受信は避ける
端末の紛失
スマートフォンを紛失すると、メールが第三者に見られる危険があります。
対策
- 画面ロックを必ず設定
- 指紋認証や顔認証を活用
- リモートワイプ機能を有効化
企業でThunderbirdを使う場合
ビジネス環境でのセキュリティ対策は、さらに重要です。
推奨するセキュリティポリシー
アカウント管理
- 退職者のメールアカウントは即座に無効化
- アクセス権限の定期的な見直し
- 強力なパスワードポリシーの徹底
データ保護
- 機密メールの暗号化
- DLP(データ損失防止)ツールの導入
- メールアーカイブの実施
社員教育
- セキュリティ研修の定期実施
- フィッシング詐欺のテスト
- インシデント発生時の報告体制
万が一感染してしまったら
ウイルスに感染した疑いがある場合の対処法です。
初期対応
手順1:インターネット接続を切断
- Wi-Fiをオフにする
- LANケーブルを抜く
感染拡大や情報流出を防ぎます。
手順2:ウイルススキャン実行
- ウイルス対策ソフトを起動
- フルスキャンを実行
- 検出されたウイルスを駆除
手順3:パスワード変更
感染が収まったら、すべての重要なパスワードを変更してください。
専門家への相談
自力で対処できない場合は、専門家に相談しましょう。
相談先
- パソコンメーカーのサポート
- セキュリティソフト会社のサポート
- 情報処理推進機構(IPA)の相談窓口
- 最寄りのパソコン修理店
よくある質問
Q1:Thunderbird自体にウイルス対策機能はありますか?
A:フィッシング詐欺検出と迷惑メールフィルターはありますが、ウイルススキャン機能はありません。別途ウイルス対策ソフトが必要です。
Q2:無料のウイルス対策ソフトで十分ですか?
A:Windows DefenderやAvast Freeなど、無料でも高性能なソフトがあります。個人利用なら無料版で十分でしょう。
Q3:HTMLメールは危険ですか?
A:HTMLメール自体は危険ではありません。ただし、リモートコンテンツや不審なリンクには注意が必要です。
Q4:すべてのメールをテキスト形式で表示すべきですか?
A:セキュリティは向上しますが、画像が見られないなど不便です。信頼できる送信者からのメールは、HTML表示でも問題ありません。
まとめ:多層防御でメールを安全に
Thunderbirdを安全に使うには、複数のセキュリティ対策を組み合わせることが重要です。
この記事のポイント
- 標準機能:フィッシング詐欺検出、迷惑メールフィルター、リモートコンテンツブロック
- ウイルス対策ソフト:必ず併用し、最新状態を保つ
- 添付ファイル:開く前にスキャン、危険な拡張子に注意
- セキュリティ設定:JavaScript無効化、SSL/TLS接続、マスターパスワード
- フィッシング対策:送信者確認、URL確認、不審なメールは開かない
- 日常習慣:ソフトウェア更新、パスワード管理、定期的な整理
メールは便利ですが、同時にセキュリティリスクの入り口でもあります。
しかし、適切な対策を講じれば、Thunderbirdは安全に使えるメールソフトです。無料でオープンソースというメリットを活かしつつ、セキュリティにも配慮した運用を心がけましょう。この記事で紹介した対策を実践すれば、安心してメールを使える環境が整うはずです。

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