メールソフトThunderbirdで署名を設定すると、署名の前に「– 」(ハイフン2つとスペース)という区切り線が自動的に挿入されることに気づいた方も多いでしょう。
この区切り線は一体何なのか?消せるのか?そもそも必要なのか?こうした疑問を持つ方は少なくありません。
実はこの区切り線には、メールの国際標準規格(RFC)に基づいた重要な意味があります。しかし、ビジネスメールのデザイン性を重視したい場合など、削除したいケースもあるでしょう。
この記事では、Thunderbirdの署名ハイフンについて、その意味から削除方法、カスタマイズ方法まで、分かりやすく解説していきます。署名をもっと自由に設定したい方、必見です!
Thunderbirdの署名機能とは?基本を理解する

まず、Thunderbirdの署名機能について基本を確認しましょう。
署名(シグネチャ)とは
メール署名とは、メールの末尾に自動的に挿入される定型文のことです。
一般的な内容:
- 名前
- 会社名・部署名
- 役職
- 連絡先(電話番号、メールアドレス)
- Webサイト
- 住所
- SNSアカウント
例:
山田太郎
株式会社サンプル
営業部 課長
TEL: 03-1234-5678
Email: yamada@example.com
https://www.example.com
Thunderbirdでの署名設定方法
基本的な設定手順:
- Thunderbirdを起動
- 「ツール」→「アカウント設定」を選択
- 左側のメニューから署名を設定したいアカウントを選択
- 画面下部の「署名」セクションに署名テキストを入力
- 「OK」をクリック
署名ファイルを使う方法:
- テキストファイルやHTMLファイルを作成
- 「ファイルから署名を挿入する」にチェック
- ファイルを選択
これで、新規メール作成時に自動的に署名が挿入されます。
署名の前に現れる「– 」とは?区切り線の正体
Thunderbirdで署名を設定すると、このように表示されます:
メール本文がここに入ります。
--
山田太郎
株式会社サンプル
署名の前に「– 」(ハイフン2つとスペース1つ、そして改行)が自動的に挿入されています。
区切り線の構成要素
この区切り線は、正確には以下の要素で構成されています:
構成:
- ハイフン(-)
- ハイフン(-)
- 半角スペース
- 改行
重要なポイント:
- ハイフンは必ず2つ
- 2つ目のハイフンの後に必ず半角スペース
- その後に改行
この形式は偶然ではなく、意図的にこの形になっています。
なぜハイフンが自動挿入されるのか?RFC 3676の標準規格
この「– 」は、RFC 3676という国際標準規格で定義されている署名区切り線(Signature Separator)です。
RFC 3676とは
RFC(Request for Comments)は、インターネットの技術標準を定めた文書です。
RFC 3676の内容:
- 正式名称:「The Text/Plain Format and DelSp Parameters」
- プレーンテキストメールのフォーマット規格
- 署名の区切り方法を定義
規定されている内容:
A line which starts with the two characters hyphen followed by space, “– “, is a “signature separator”. The signature separator separates the body of the message from the signature.
日本語訳:
ハイフン2つとそれに続く半角スペース「– 」で始まる行は「署名区切り線」である。この区切り線はメッセージ本文と署名を分離する。
なぜこの標準が必要なのか
1. 自動処理のため
メールクライアントやメールサーバーが、署名部分を自動的に識別できるようにするためです。
具体的な用途:
- 返信時の署名削除:返信や転送の際、相手の署名を自動削除
- 引用の整理:メールスレッドで不要な署名の繰り返しを防ぐ
- モバイル表示:スマートフォンで署名を折りたたむ
- 統計処理:本文と署名を区別してデータ分析
2. メーリングリストでの処理
メーリングリストサーバーが署名を認識し、適切に処理するためです。
3. スパムフィルターの精度向上
署名部分をスパム判定から除外することで、誤判定を減らします。
世界標準としての普及
この区切り線は:
- Thunderbirdだけでなく多くのメールクライアントで採用
- Outlook、Apple Mail、Gmailなども内部的に認識
- Unixメール(mutt、Pine等)では古くから使用
- メール文化の長い歴史を持つ標準
つまり、単なる見た目の問題ではなく、メールシステム全体で使われる重要な技術標準なんです。
署名ハイフンのメリット:残しておくべき理由
標準規格に基づく区切り線には、実用上の多くのメリットがあります。
1. 返信時の自動整理
メリット:
相手があなたのメールに返信する際、あなたの署名が自動的に削除されます。
例:あなたが送信したメール
お世話になっております。
資料を送付いたします。
--
山田太郎
株式会社サンプル
TEL: 03-1234-5678
相手が返信する際の引用:
> お世話になっております。
>
> 資料を送付いたします。
ありがとうございます。確認しました。
署名部分が自動的に削除され、メールがすっきりします。
2. メールスレッドの可読性向上
長いやり取りの場合:
何度も返信を重ねると、署名が何度も繰り返されて読みにくくなります。
区切り線がある場合:
- 各返信で署名が自動削除される
- スレッドがコンパクトに保たれる
- 読みやすさが向上
区切り線がない場合:
- 署名が本文として扱われる
- 何度も引用されて冗長に
- スクロールが大変
3. モバイル表示の最適化
スマートフォンで:
画面が小さいため、署名を折りたたんで表示するメールアプリがあります。
Gmail(モバイル版)の例:
- 「– 」を認識すると署名を自動で折りたたむ
- 「…」ボタンで展開可能
- 画面スペースを有効活用
4. メーリングリストでの処理
メーリングリストサーバー:
- Mailman、Majordomo等のソフトウェア
- 署名を認識して適切に処理
- アーカイブ表示で署名を整理
5. 国際的な互換性
グローバルなやり取りで:
- 海外の相手とのメール交換
- 標準に従うことで円滑なコミュニケーション
- 相手のメールクライアントが正しく処理
6. プロフェッショナルな印象
技術者や海外企業との取引:
- RFC標準に従っている証
- メールのマナーを理解している印象
- 技術的な信頼性の向上
署名ハイフンのデメリット:削除したい理由
一方で、この区切り線を削除したいと考える理由もあります。
1. 見た目の問題
デザイン的な観点:
- 「– 」が無骨で野暮ったい
- HTMLメールのデザインに合わない
- ブランディングの一貫性が損なわれる
特にビジネスメールで:
- デザイン性の高い署名を作成したい
- ロゴや装飾を入れている
- 区切り線が余計に見える
2. HTMLメールでの表示
HTMLメールの場合:
- CSS装飾した署名
- 画像を含む署名
- プレーンテキストの区切り線が不調和
3. 企業テンプレートとの不一致
会社で統一された署名フォーマットがある場合:
- すでに独自の区切り線がある
- 「– 」が重複して見える
- 統一感が失われる
4. 日本国内での認知度
日本のビジネス環境:
- RFC標準の認知度が低い
- 「なぜハイフンが?」と疑問を持たれる
- 設定ミスと思われる可能性
5. 個人の好み
シンプルに:
- 余計な記号は不要
- 自分の好みのスタイルにしたい
署名ハイフンを削除する方法:3つのアプローチ
では、実際に「– 」を削除する方法を見ていきましょう。
方法1:about:configで設定変更(推奨)
最も確実な方法です。
手順:
- Thunderbirdのアドレスバーに「about:config」と入力
- 警告画面で「危険性を承知の上で使用する」をクリック
- 検索ボックスに「mail.identity.default.suppress_signature_separator」と入力
- 該当する設定が見つからない場合は新規作成:
- 右クリック→「新規作成」→「真偽値」を選択
- 設定名:
mail.identity.default.suppress_signature_separator - 値:
trueを選択
- Thunderbirdを再起動
注意点:
- この設定はすべてのアカウントに適用されます
- 個別アカウントごとの設定も可能(後述)
個別アカウント用の設定:
複数アカウントを使用していて、特定のアカウントだけ無効にしたい場合:
mail.identity.id1.suppress_signature_separator
mail.identity.id2.suppress_signature_separator
idの番号を確認する方法:
- about:configで「mail.identity」で検索
- 各アカウントのIDを確認
- 該当するIDで設定を作成
方法2:署名テキストに直接含める
簡易的な方法:
署名設定の際、最初の行に「– 」を自分で入力する方法です。
手順:
- アカウント設定の署名欄を開く
- 最初の行に「– 」を入力(ハイフン2つ+半角スペース)
- その後に実際の署名内容を入力
入力例:
--
山田太郎
株式会社サンプル
TEL: 03-1234-5678
効果:
- Thunderbirdは既に「– 」があることを検知
- 自動挿入をスキップする場合がある
デメリット:
- バージョンによって動作が不安定
- 確実性が低い
- 二重に挿入される可能性も
方法3:アドオンを使用
拡張機能で制御:
過去には「Signature Switch」などのアドオンがありましたが、現在のThunderbird(バージョン78以降)では互換性の問題があります。
現状:
- 最新版で動作するアドオンは限定的
- about:configでの設定が最も確実
方法4:外部ファイルから挿入(HTML署名)
HTMLファイルを使う方法:
- HTMLファイルで署名を作成
- 「– 」を含めずにデザイン
- ファイルから挿入する設定を使用
手順:
- HTMLエディタで署名を作成し保存
- Thunderbirdのアカウント設定
- 「ファイルから署名を挿入する」にチェック
- 作成したHTMLファイルを選択
HTMLファイルの例:
<!DOCTYPE html>
<html>
<body style="font-family: Arial, sans-serif;">
<div style="border-top: 2px solid #0066cc; padding-top: 10px;">
<p style="margin: 0;"><strong>山田太郎</strong></p>
<p style="margin: 0;">株式会社サンプル 営業部</p>
<p style="margin: 0;">TEL: 03-1234-5678</p>
<p style="margin: 0;">Email: yamada@example.com</p>
</div>
</body>
</html>
注意点:
- HTMLメール送信時のみ反映
- プレーンテキストメールでは別の署名が必要
- 受信側の環境によって表示が異なる
署名ハイフンを残したまま見た目を改善する方法
区切り線の機能は残しつつ、見た目を改善する方法もあります。
方法1:HTMLで装飾
HTMLメールの場合:
<div style="border-bottom: 1px solid #cccccc; margin: 10px 0;"></div>
--
<div style="font-family: Arial, sans-serif;">
<p><strong>山田太郎</strong></p>
<p>株式会社サンプル</p>
</div>
効果:
- 「– 」は機能として残る
- 上部に見栄えの良い線を追加
- HTMLメールでは「– 」が目立たなくなる
方法2:フォントカラーを変更
CSSで色を調整:
<span style="color: #ffffff;">-- </span>
<div>
山田太郎<br>
株式会社サンプル
</div>
注意:
- 白色にすると完全に見えなくなる
- ただし機能は残る
- プレーンテキスト表示では効果なし
方法3:改行で距離を取る
視覚的な工夫:
メール本文
--
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
山田太郎
株式会社サンプル
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
効果:
- 「– 」と署名の間に空行
- 独自の装飾線で目立たなくする
削除すべきか残すべきか?判断基準
実際にどちらを選ぶべきか、状況別の判断基準です。
残すべきケース
1. 技術者・エンジニア
- 技術的な標準を重視する環境
- オープンソースコミュニティ
- 海外企業とのやり取り
2. メーリングリストを多用
- メーリングリストでの議論
- 自動処理の恩恵を受けたい
3. プレーンテキストメール中心
- HTMLメールを使わない方針
- シンプルなメール文化
4. 長いメールスレッド
- 何度も返信を重ねる
- 署名の重複を避けたい
削除してもよいケース
1. HTMLメール中心
- デザイン性の高い署名
- ブランディング重視
- ビジュアル重視の業種
2. 日本国内のみのやり取り
- RFC標準の認知度が低い
- 相手が疑問に思う可能性
3. 企業の署名テンプレート使用
- すでに独自の区切りがある
- 社内規定で決まっている
4. 短いメールが多い
- 1往復で完結する
- 署名の自動削除が不要
推奨:状況に応じて使い分け
ベストプラクティス:
複数のアカウントを使い分けている場合、用途別に設定を変える:
技術的なやり取り用アカウント:
- 区切り線を残す
- プレーンテキスト中心
ビジネス用アカウント:
- HTMLメールでデザイン重視
- 状況に応じて削除も検討
個人用アカウント:
- 自由に設定
トラブルシューティング:よくある問題と解決法
署名設定でよくある問題と解決方法です。
問題1:設定しても区切り線が消えない
原因:
- about:configの設定が反映されていない
- 設定名のスペルミス
- Thunderbirdの再起動をしていない
解決策:
- 設定名を再確認:
mail.identity.default.suppress_signature_separator - 値が
trueになっているか確認 - Thunderbirdを完全に終了して再起動
- 新規メールを作成して確認
問題2:「– 」が二重に表示される
原因:
- 署名テキストに手動で「– 」を入力している
- かつ自動挿入も有効になっている
解決策:
- 署名テキストから「– 」を削除
- または、suppress_signature_separatorを
trueに設定
問題3:返信時に相手の署名が残る
原因:
- 相手が標準の区切り線を使っていない
- Thunderbirdが署名と認識できない
解決策:
- 手動で削除するしかない
- 相手に標準の区切り線使用を依頼(難しい)
問題4:HTMLメールで見た目が崩れる
原因:
- プレーンテキストとHTMLの混在
- CSSが正しく適用されていない
解決策:
- HTMLファイルから挿入する方式に変更
- HTMLとプレーンテキストの両方を用意
- プレビューで表示確認
問題5:about:configが表示されない
原因:
- Thunderbird 91以降でUIが変更された
- メニューから直接アクセスできなくなった
解決策:
- ツールバーの検索バーをクリック
- 「about:config」と直接入力
- Enterキーで開く
または:
- 「設定」→「一般」を開く
- 最下部の「設定エディター」ボタンをクリック
問題6:モバイルとデスクトップで署名が違う
原因:
- Thunderbird(デスクトップ)とモバイルアプリで別管理
- 同期されていない
解決策:
- それぞれで個別に署名を設定
- IMAPで署名を保存する設定は限定的
- 統一は難しい場合が多い
高度なカスタマイズ:署名をもっと自由に
さらに高度な署名のカスタマイズ方法です。
複数の署名を使い分ける
方法:
Thunderbird 78以降では複数署名の切り替え機能が改善されています。
設定手順:
- アカウント設定で基本の署名を設定
- 複数の署名をファイルとして保存
- メール作成時に「挿入」→「署名」から選択
用途別の署名例:
- 社外向け:フォーマルな署名
- 社内向け:簡潔な署名
- 友人向け:カジュアルな署名
JavaScriptで動的な署名
自動変更する署名:
HTMLファイル内にJavaScriptを記述して、時間帯や曜日で署名を変更する高度な方法もあります。
例:時間帯による挨拶の変更
<script>
var hour = new Date().getHours();
var greeting;
if (hour < 12) {
greeting = "おはようございます";
} else if (hour < 18) {
greeting = "こんにちは";
} else {
greeting = "こんばんは";
}
document.write(greeting);
</script>
注意:
- セキュリティ制限で動作しない場合あり
- メールクライアントによって無効化される
- 推奨されない手法
画像署名の作成
デザイン性の高い署名:
- Photoshopなどで署名画像を作成
- Webサーバーにアップロード
- HTMLで画像を参照
HTMLコード例:
<img src="https://example.com/signature.png" alt="山田太郎の署名">
メリット:
- 完全にデザインをコントロール
- フォントや色を自由に設定
デメリット:
- 画像が表示されない環境がある
- メールサイズが大きくなる
- 外部リンクだと開封追跡と誤解される可能性
vCardの添付
連絡先情報の共有:
署名にvCard(電子名刺)を添付することも可能です。
設定方法:
- アカウント設定を開く
- 「vCardを添付する」にチェック
- アドレス帳から自分の連絡先を選択
メリット:
- 相手がワンクリックで連絡先に追加可能
- 電話番号、住所などの詳細情報を含められる
デメリット:
- ファイルが添付されるためメールサイズ増加
- すべてのメールで必要とは限らない
ビジネスメールのベストプラクティス
署名に関するビジネスマナーと推奨事項です。
署名に含めるべき情報
必須項目:
- 氏名(フルネーム)
- 会社名・部署名
- 役職(ある場合)
- 電話番号
- メールアドレス
推奨項目:
- 会社の住所
- Webサイト
- FAX番号(必要に応じて)
避けるべき:
- 過度に長い署名(10行以上)
- 不要な装飾や顔文字
- 大きすぎる画像
- 宣伝色が強すぎる文言
署名の長さの目安
推奨:
- 4~8行程度
- 縦に長くなりすぎない
- モバイルでも読みやすい
例:適切な長さ
山田太郎
株式会社サンプル 営業部 課長
TEL: 03-1234-5678
Email: yamada@example.com
https://www.example.com
〒100-0001 東京都千代田区千代田1-1-1
プレーンテキストとHTMLの使い分け
プレーンテキスト:
- 技術者向け
- システム通知
- セキュリティ重視の相手
HTMLメール:
- 一般のビジネスメール
- マーケティングメール
- デザイン重視の場合
推奨:
両方を用意しておき、相手や状況に応じて使い分ける。
まとめ:署名ハイフンと上手に付き合う
Thunderbirdの署名ハイフン(– )について、包括的に解説しました。
この記事のポイント:
- 「– 」はRFC 3676で定義された国際標準
- 署名区切り線(Signature Separator)として機能
- 返信時の自動処理に使われる重要な要素
- 削除は可能だがメリット・デメリットを理解すべき
- about:configで設定変更が最も確実な削除方法
- 状況に応じて使い分けるのがベストプラクティス
- 技術的な場面では残すことを推奨
- デザイン重視ならHTMLメールで対応
- ビジネスマナーとして適切な署名を心がける
署名ハイフンは、一見すると不要に思えるかもしれませんが、メールシステム全体の効率化に貢献する重要な標準規格です。
削除するかどうかは、あなたのメール環境や相手、業種によって判断してください。技術的なコミュニケーションが多い場合は残すことを、デザイン性を重視するビジネスメールではHTMLで工夫することをおすすめします。
Thunderbirdは高機能なメールクライアントです。署名機能を上手に活用して、効率的でプロフェッショナルなメールコミュニケーションを実現しましょう!


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