インターネットを使っていて、Amazonで見た商品の広告がいろんなサイトで表示される経験はありませんか?これは「トラッキング(追跡)」という仕組みが原因です。
Safariには、このトラッキングからあなたのプライバシーを守る「サイト越えトラッキングを防ぐ」という機能が搭載されています。この記事では、トラッキング防止機能の仕組みから設定方法、メリット・デメリットまで、わかりやすく解説します。
トラッキングとは?なぜ防ぐ必要があるの?

トラッキングの仕組み
トラッキングとは、インターネット上でのあなたの行動を追跡・記録する技術のことです。具体的には、以下のような情報が収集されています。
- どのウェブサイトを訪問したか
- どんな商品を見たか
- どのページをどれくらい見ていたか
- 検索したキーワード
これらの情報は「Cookie(クッキー)」という小さなデータファイルを使って記録されます。Cookieには大きく分けて2種類あります。
ファーストパーティCookie
訪問したサイト自身が作成するCookieで、ログイン状態の保持やカート情報の記憶など、便利な機能に使われます。
サードパーティCookie
広告会社など第三者が作成するCookieで、複数のサイトを横断してあなたの行動を追跡します。「サイト越えトラッキング」で使われるのはこちらです。
なぜトラッキングされるの?
企業がトラッキングを行う主な目的は以下の通りです。
- パーソナライズド広告の配信
あなたの興味に合わせた広告を表示するため - ユーザー行動の分析
どんな商品が人気か、どのページで離脱するかなどを調べるため - リターゲティング
一度サイトを訪れた人に再度広告を表示するため
プライバシーの問題
便利な面もあるトラッキングですが、以下のような問題があります。
- 知らないうちに個人情報が収集される
- 複数の企業間で情報が共有される
- プライバシーが侵害される
- セッションハイジャック(不正アクセス)のリスクがある
こうした問題を解決するために、Appleは「Intelligent Tracking Prevention(ITP)」という仕組みをSafariに搭載しました。
SafariのITP(トラッキング防止機能)とは
ITPの基本情報
ITP(Intelligent Tracking Prevention)は、Appleが開発したトラッキング防止技術です。
- 導入時期: 2017年9月(iOS 11、Safari 12から)
- 開発元: WebKit(Safariのエンジン)
- デフォルト設定: オン(初期状態で有効)
- 対象: iPhone、iPad、Mac上のSafari
ITPの主な機能
1. サードパーティCookieを完全ブロック
広告会社など第三者が作成するCookieをデフォルトでブロックします。これにより、複数のサイトを横断した追跡ができなくなります。
2. ファーストパーティCookieの期限制限
JavaScriptで作成されたCookieは、7日間で自動的に削除されます。トラッキング目的で使われる可能性があるCookieの寿命を制限することで、長期的な追跡を防ぎます。
3. 機械学習によるトラッキングドメインの判定
どのサイトがトラッキング目的で使われているかを、機械学習で自動判定します。この処理はデバイス上で行われるため、あなたの閲覧履歴がAppleに送信されることはありません。
4. リンク装飾の検出
URLに追加されたトラッキングパラメータ(fbclid、gclid など)を検出し、そこから作成されたCookieの有効期限を24時間に制限します。
5. フィンガープリンティング対策
Cookieを使わない追跡手法(デバイスの特徴から個人を特定する方法)も防ぎます。
ITPのバージョン履歴
ITPは段階的に強化されてきました。
- ITP 1.0(2017年9月): 24時間以内に訪問したサイトのCookieを一定期間保持
- ITP 1.1(2017年11月): Storage Access API導入
- ITP 2.0(2018年6月): 24時間の猶予期間を廃止、サードパーティCookie完全ブロック
- ITP 2.1(2019年2月): ファーストパーティCookieを7日間に制限
- ITP 2.2(2019年4月): リンク装飾によるトラッキング防止、期限を24時間に短縮
- ITP 2.3(2019年9月): LocalStorageなど非Cookieデータも7日後に削除
トラッキング防止機能の設定方法
iPhone・iPadでの設定方法
基本設定(オン/オフの切り替え)
- ホーム画面から「設定」アプリを開く
- 下にスクロールして「Safari」をタップ
- 「プライバシーとセキュリティ」まで下にスクロール
- 「サイト越えトラッキングを防ぐ」のスイッチを確認
- 緑色(右側)= オン(有効)
- グレー(左側)= オフ(無効)
プライバシーレポートの確認方法(iOS 14以降)
Safariがどれだけトラッカーをブロックしているか確認できます。
- Safariを開く
- 画面上部のURLバー左側にある「ああ」マークをタップ
- 「プライバシーレポート」をタップ
- ブロックされたトラッカーの一覧が表示される
各ウェブサイトでブロックされたトラッカーの数や、どの企業のトラッカーがブロックされたかを確認できます。
Macでの設定方法
基本設定
- Safariを起動する
- メニューバーから「Safari」→「設定…」をクリック
- 「プライバシー」タブを選択
- 「Webサイトによるトラッキングを防止」にチェックを入れる
推奨設定
Macの場合、以下の設定がおすすめです。
- ✅ Webサイトによるトラッキングを防止(オン)
- ✅ IPアドレスを非公開(オン)
- ✅ 詐欺Webサイトの警告(オン)
- ⬜ すべてのCookieをブロック(オフ推奨)
「すべてのCookieをブロック」をオンにすると、ログイン機能など正常なサービスまで動かなくなるため、通常はオフのままが良いでしょう。
その他のプライバシー設定
Safariには他にも便利なプライバシー機能があります。
IPアドレスを非公開
iCloud+加入者向けの機能で、あなたのIPアドレス(インターネット上の住所のようなもの)を隠します。
設定方法:設定 → Safari → IPアドレスを非公開
詐欺Webサイトの警告
フィッシングサイトやマルウェアサイトにアクセスしようとすると警告を表示します。
設定方法:設定 → Safari → 詐欺Webサイトの警告
メリットとデメリット
オンにした場合のメリット
1. プライバシーの保護
複数のサイトを横断した行動追跡をブロックすることで、あなたの趣味嗜好や興味が第三者に収集されにくくなります。
2. 個人情報漏洩リスクの低減
不要なデータ収集が制限されるため、情報漏洩のリスクが減ります。
3. セッションハイジャック対策
Cookieを悪用した不正アクセス(セッションハイジャック)のリスクが低下します。
4. 快適なブラウジング
追跡スクリプトが減ることで、ページの読み込み速度が向上する場合があります。
5. 設定不要
デフォルトでオンになっているため、特別な設定なしでプライバシーが保護されます。
オンにした場合のデメリット
1. 広告がパーソナライズされない
あなたの興味に合った広告が表示されなくなり、関係のない広告ばかり見ることになります。
2. 一部サービスが正常に動作しない
トラッキング防止が原因で、以下のような問題が起きることがあります。
- ログイン状態が保持されない
- 予約サイトで予約できない
- ECサイトで「ゲスト様」と表示される
- カートに入れた商品が消える
- アフィリエイトリンクが機能しない
3. ウェブサービスの一部機能が制限される
特にSNSのログイン連携や、複数サイト間でデータを共有するサービスで問題が起きやすくなります。
オフにした場合のメリット・デメリット
メリット
- 興味のある広告が表示される
- すべてのウェブサービスが正常に動作する
- ログイン状態が長期間保持される
デメリット
- プライバシーが保護されない
- 行動履歴が複数の企業に収集される
- セキュリティリスクが高まる
よくある質問と対処法
Q1. 「サイト越えトラッキングを防ぐ」はオンとオフ、どっちがいいの?
A. 基本的にはオン(有効)のままがおすすめです。プライバシー保護の観点から、特別な理由がない限りオンにしておきましょう。
ただし、以下のような場合は一時的にオフにする必要があるかもしれません。
- 予約サイトで予約ができない
- ECサイトでログイン状態が保持されない
- 特定のサービスが正常に動作しない
この場合も、そのサイトを使い終わったらすぐにオンに戻すことをおすすめします。
Q2. オンにしているのにログアウトされてしまう
ITPの仕組み上、7日間サイトにアクセスしないとCookieが削除されるため、ログアウトされる可能性があります。
対処法:
- よく使うサイトは定期的にアクセスする
- ブックマークして、少なくとも週1回は訪問する
- パスワード管理アプリを使って、再ログインを簡単にする
Q3. 予約サイトで「予約できません」と表示される
予約サイトの多くは、セッション管理にCookieを使用しています。トラッキング防止が原因で予約できないことがあります。
対処法:
- 一時的に「サイト越えトラッキングを防ぐ」をオフにする
- 予約を完了する
- 予約完了後、すぐにオンに戻す
もしくは、Chromeなど別のブラウザを使用することも検討してください。
Q4. ECサイトで「ゲスト様」と表示される
ログインしているはずなのに「ゲスト様」と表示される場合、Cookieが正しく保存されていない可能性があります。
対処法:
- 設定 → Safari → 「すべてのCookieをブロック」がオフになっているか確認
- Safari → 設定 → 詳細 → Webサイトデータ で、該当サイトのデータを確認
- 問題が続く場合は、一時的に「サイト越えトラッキングを防ぐ」をオフにしてみる
Q5. 「すべてのCookieをブロック」との違いは?
「サイト越えトラッキングを防ぐ」
サードパーティCookieと、トラッキング目的で使われるファーストパーティCookieだけをブロックします。通常のサイト機能に必要なCookieは許可されます。
「すべてのCookieをブロック」
文字通り、すべてのCookieをブロックします。この設定をオンにすると、ほとんどのウェブサイトが正常に動作しなくなるため、通常はオフのままにしておくべきです。
Q6. 広告がまったく表示されなくなるの?
いいえ、広告は表示されます。ただし、あなたの興味に基づいたパーソナライズド広告ではなく、サイトの内容に関連した一般的な広告が表示されるようになります。
Q7. トラッキング防止を無効にしても安全?
完全に安全とは言えません。オフにすると、以下のリスクがあります。
- プライバシーが保護されない
- 個人情報が収集される
- セキュリティリスクが高まる
どうしても必要な場合のみ一時的にオフにし、使い終わったらすぐにオンに戻しましょう。
Q8. 他のブラウザにも同じ機能はあるの?
はい、他の主要ブラウザにも類似の機能があります。
- Chrome: トラッキング拒否、サードパーティCookieのブロック
- Firefox: トラッキング防止機能(Enhanced Tracking Protection)
- Edge: トラッキング防止(基本、バランス、厳重の3段階)
ただし、SafariのITPは最も厳格な制限を実施しているため、他のブラウザでは動くのにSafariでは動かないサービスもあります。
トラッキング防止とうまく付き合うコツ

使い分けの提案
プライバシーと利便性のバランスを取るために、以下のような使い分けがおすすめです。
Safari(トラッキング防止オン)
- 日常的な情報収集
- ニュースサイトの閲覧
- 検索エンジンの利用
- 一般的なウェブブラウジング
Safari(トラッキング防止オフ)または他のブラウザ
- オンラインショッピング
- 予約サイトの利用
- 銀行やクレジットカードサイト
- ログインが必要なサービス
プライバシー重視派の設定
プライバシーを最優先したい場合は、以下の設定がおすすめです。
- 「サイト越えトラッキングを防ぐ」をオン
- 「IPアドレスを非公開」をオン(iCloud+加入者のみ)
- 「詐欺Webサイトの警告」をオン
- 定期的に「履歴とWebサイトデータを消去」を実行
- プライベートブラウズモードを活用
利便性重視派の設定
ウェブサービスをストレスなく使いたい場合は、以下の設定を検討してください。
- 「サイト越えトラッキングを防ぐ」を基本オン、必要に応じて一時的にオフ
- よく使うサイトは定期的にアクセスしてCookieを維持
- パスワード管理アプリを使って再ログインを簡単に
- 問題が起きたサイトだけ別ブラウザを使用
まとめ
Safariの「サイト越えトラッキングを防ぐ」機能は、あなたのプライバシーを守る重要な機能です。2017年の導入以来、Appleは段階的に機能を強化し、現在では業界最高水準のトラッキング防止を実現しています。
この記事のポイント:
- トラッキングはあなたの行動を複数サイト間で追跡する仕組み
- SafariのITPはデフォルトでオンになっている
- サードパーティCookieを完全ブロック、ファーストパーティCookieも制限
- プライバシー保護とサービスの利便性はトレードオフの関係
- 基本的にはオンのまま、必要に応じて一時的にオフにする使い方がおすすめ
- プライバシーレポートで効果を確認できる
プライバシーと利便性のバランスを考えながら、自分に合った設定を見つけてください。基本的には「サイト越えトラッキングを防ぐ」をオンにして、問題が起きたサイトだけ一時的に対処するのが最も安全な使い方です。
インターネットを安全・快適に使うために、この機能を上手に活用しましょう。

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