「パソコンの動作が最近遅くなってきた…」
「大切なデータが突然消えたらどうしよう」
こんな不安を感じたことはありませんか?
ハードディスク(HDD)やSSDといったストレージは消耗品です。長く使っていると劣化し、いずれ故障します。しかし、多くの場合、故障の前兆を知ることができる仕組みがあります。
それがS.M.A.R.T.(スマート)情報です。
この記事では、S.M.A.R.T.情報とは何か、どうやって確認するのか、どの項目に注目すべきかを、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。大切なデータを守るために、ぜひ最後まで読んでみてください。
S.M.A.R.T.とは?基本を理解しよう

S.M.A.R.T.の正式名称と意味
S.M.A.R.T.は、「Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technology」の略称です。
日本語に訳すと「自己監視・分析・報告技術」となります。
この技術は、ハードディスクやSSDに内蔵されており、ストレージデバイス自身が自分の健康状態を常時監視する仕組みです。
S.M.A.R.T.の目的
S.M.A.R.T.の主な目的は、以下の2つです:
- 故障の予測:ストレージの異常を早期に検知する
- データ損失の防止:故障する前にユーザーに警告を出す
ハードディスクやSSDには、温度センサー、エラーカウンターなど、様々なセンサーが組み込まれています。これらのセンサーが収集したデータをもとに、ストレージは自分の状態を継続的に監視しています。
S.M.A.R.T.の歴史
S.M.A.R.T.技術は、1990年代初頭に開発されました。
当時、ハードディスクの容量が急速に増大していましたが、突然の故障によるデータ損失が深刻な問題となっていました。IBM、コンパック、ウエスタンデジタルなどの主要メーカーが共同で開発したこの技術は、1995年頃から本格的に普及し始めました。
現在では、ほとんどすべてのHDDとSSDに標準搭載されています。
S.M.A.R.T.で何がわかるのか?
S.M.A.R.T.は、ストレージの状態を示す約100種類以上のパラメータを測定しています。
主な測定項目
温度
ストレージの動作温度を監視します。高温状態が続くと、部品の劣化が早まり故障のリスクが高まります。
電源投入回数
電源をON/OFFした回数を記録します。
使用時間
累計でどれだけの時間、電源が入っていたかを記録します。
エラー発生回数
データの読み書き時にエラーが発生した回数をカウントします。
不良セクタの数
ディスク上で、データの読み書きができなくなった領域(セクタ)の数を記録します。
書き込み回数(SSDの場合)
SSDは書き込み回数に寿命があるため、総書き込み量が記録されます。
故障の前兆を察知
これらのデータを継続的に記録することで、故障の前兆を察知できます。
例えば:
- 不良セクタの数が急増している
- 温度が異常に高い
- エラーの発生頻度が増えている
こうした兆候が見られた場合、「そろそろ危険かもしれない」と判断できるわけです。
S.M.A.R.T.情報の確認方法
残念ながら、WindowsやmacOSの標準機能では、S.M.A.R.T.情報を詳しく表示することができません。
そのため、専用のソフトウェアを使って確認する必要があります。
【方法1】CrystalDiskInfo(最もおすすめ)
CrystalDiskInfoは、Windows用の無料ソフトです。日本語に対応しており、見やすく、わかりやすいため、初心者の方に最もおすすめです。
ダウンロード方法:
- CrystalDiskInfoの公式サイト(https://crystalmark.info/)にアクセス
- 「CrystalDiskInfo」をダウンロード
- ダウンロードしたファイルを実行してインストール
使い方:
インストール後、ソフトを起動するだけで、自動的にS.M.A.R.T.情報が表示されます。
表示される情報:
- 健康状態:「正常」「注意」「異常」で判定
- 温度:現在のストレージの温度
- 電源投入回数:何回電源を入れたか
- 使用時間:累計の使用時間
- 詳細なS.M.A.R.T.項目:各種パラメータの数値
健康状態が「正常」であれば問題ありません。「注意」や「異常」と表示された場合は、バックアップを取り、ストレージの交換を検討しましょう。
【方法2】Windowsのコマンドプロンプト
Windowsには、簡易的にS.M.A.R.T.情報を確認できるコマンドがあります。
手順:
- スタートメニューで「cmd」と検索
- 「コマンドプロンプト」を右クリック→「管理者として実行」
- 以下のコマンドを入力してEnterキーを押す
wmic diskdrive get status
結果の見方:
- OK:ストレージは正常
- Pred Fail:故障の予兆あり
- Error:エラーが検出されている
ただし、この方法では詳細な情報は得られないため、より詳しく知りたい場合はCrystalDiskInfoなどのソフトを使いましょう。
【方法3】その他の便利なツール
Hard Disk Sentinel(Windows)
より詳細な分析と予測機能を提供する有料ソフトです。企業向けにも人気があります。
DiskDrill(Windows/Mac)
S.M.A.R.T.監視機能を備えたデータ復旧ソフトです。
GSmartControl(Windows/Mac/Linux)
オープンソースのS.M.A.R.T.監視ツールです。
macOSの場合
「ディスクユーティリティ」でも基本的な情報を確認できますが、詳細を知りたい場合は専用ソフトが必要です。
S.M.A.R.T.情報の見方【重要項目を解説】

S.M.A.R.T.情報には、多くの項目が表示されますが、すべてを理解する必要はありません。
ここでは、特に重要な項目に絞って解説します。
数値の見方(共通事項)
S.M.A.R.T.の各項目には、以下の数値が表示されます:
現在値(Current Value)
現在の状態を示す数値です。この数値が高いほど良好な状態です。
最悪値(Worst Value)
過去に記録された中で、最も悪かったときの数値です。
閾値(Threshold)
メーカーが定めた限界値です。現在値や最悪値がこの数値を下回ると、故障の危険性が高いと判断されます。
生の値(Raw Value)
実際の測定データそのものです。16進数で表示されることもあります。
【最重要】代替処理済みのセクタ数
項目ID:05(Reallocated Sectors Count)
ディスク上で不良となったセクタ(データを保存する領域)が、別の予備セクタに置き換えられた回数を示します。
見方のポイント:
- この数値が「0」であれば理想的
- 数値が増えている場合、ディスクの物理的な劣化が進んでいる
- 急激に増加している場合は、早急にバックアップを取るべき
この項目は、故障診断において最も重要とされています。
【重要】代替処理保留中のセクタ数
項目ID:C5(Current Pending Sector Count)
読み取りエラーが発生したセクタで、まだ代替処理されていないものの数です。
見方のポイント:
- この数値が増えている場合、近いうちに代替処理が行われる可能性がある
- 数値が高い場合は要注意
【重要】回復不可能セクタ数
項目ID:C6(Uncorrectable Sector Count)
エラー訂正機能でも修復できなかったセクタの数です。
見方のポイント:
- この数値が「0」以外の場合、データが失われている可能性がある
- 数値が増えている場合は、すぐにバックアップを取る
リードエラーレート
項目ID:01(Read Error Rate)
データ読み込み時にエラーが発生した回数です。
見方のポイント:
- 正常な状態でもある程度のエラーは発生する
- 閾値を下回らない限りは問題なし
温度
項目ID:C2(Temperature)
ストレージの現在の温度を示します。
見方のポイント:
- 一般的に、HDDは50℃以下が理想
- SSDは70℃以下が目安
- 高温状態が続くと、寿命が縮まる
SSD専用:総書き込み量
項目ID:F1(Total LBAs Written)など
SSDに書き込まれたデータの総量を示します。
見方のポイント:
- SSDには書き込み寿命がある(TBW:Total Bytes Writtenで表される)
- 総書き込み量が、メーカーが保証するTBWに近づいている場合、交換を検討
健康状態の判定基準
CrystalDiskInfoなどのソフトでは、S.M.A.R.T.情報をもとに、自動的に健康状態を判定してくれます。
正常(青色のアイコン)
すべてのS.M.A.R.T.項目が正常範囲内です。問題ありません。
注意(黄色のアイコン)
一部の項目で異常値が検出されています。
対処法:
- すぐに故障するわけではないが、注意が必要
- こまめにバックアップを取る
- 交換用のストレージを準備しておく
異常(赤色のアイコン)
重要な項目で異常値が検出されています。
対処法:
- 今すぐバックアップを取る
- できるだけ早くストレージを交換する
- データ復旧業者への相談も検討
S.M.A.R.T.の限界と注意点
S.M.A.R.T.は非常に有用な機能ですが、万能ではありません。
突然の故障には対応できない
S.M.A.R.T.は、ゆっくりと進行する劣化を検出するのに優れていますが、電子部品の突然の故障や、物理的な衝撃による破損は予測できません。
つい数時間前まで「正常」だったストレージが、突然故障することもあります。
定期的なバックアップが最重要
S.M.A.R.T.情報だけに頼るのは危険です。
日頃からのバックアップと定期的な交換が、データ消失リスクを低減させる最も確実な方法です。
すべてのストレージが対応しているわけではない
一部の古いストレージや、特殊な接続方法(一部のRAID構成など)では、S.M.A.R.T.情報を取得できない場合があります。
よくある質問(FAQ)

Q1. どのくらいの頻度でS.M.A.R.T.情報を確認すべきですか?
A: 月に1回程度の確認が目安です。重要なデータを扱っている場合は、週に1回確認してもよいでしょう。CrystalDiskInfoなどのソフトには、常駐して自動監視する機能もあります。
Q2. 「注意」と表示されたら、すぐに交換すべきですか?
A: 「注意」の段階では、すぐに故障するわけではありません。ただし、バックアップを取り、交換の準備をしておくことをおすすめします。
Q3. SSDとHDDで見るべき項目は違いますか?
A: はい、違います。HDDは機械的な動作をするため、代替処理済みセクタ数やリードエラーレートが重要です。SSDは書き込み寿命があるため、総書き込み量や摩耗指標が重要になります。
Q4. 外付けハードディスクのS.M.A.R.T.情報も確認できますか?
A: はい、多くの場合確認できます。ただし、外付けケースの種類によっては、S.M.A.R.T.情報を取得できない場合もあります。
Q5. S.M.A.R.T.情報が表示されません
A: 以下の原因が考えられます:
- BIOS/UEFI設定でS.M.A.R.T.が無効になっている
- 古いストレージで、S.M.A.R.T.に対応していない
- 接続方法の問題(一部のRAIDやSCSI接続)
Q6. 「正常」と表示されていても故障することはありますか?
A: はい、あります。S.M.A.R.T.は故障の予測精度を高めるものですが、100%ではありません。突然の故障もあり得るため、定期的なバックアップが不可欠です。
S.M.A.R.T.情報を活用したストレージ管理のコツ
最後に、S.M.A.R.T.情報を活用して、ストレージを長持ちさせるコツを紹介します。
1. 定期的な確認習慣をつける
月に1回、S.M.A.R.T.情報をチェックする習慣をつけましょう。
カレンダーにリマインダーを設定しておくと忘れません。
2. 温度管理を徹底する
ストレージは熱に弱いため、パソコン内部の温度管理が重要です。
- パソコンを風通しの良い場所に設置する
- 定期的に内部の埃を掃除する
- 冷却ファンが正常に動作しているか確認する
3. こまめにバックアップを取る
S.M.A.R.T.情報が「正常」であっても、定期的にバックアップを取りましょう。
3-2-1ルールが推奨されています:
- データのコピーを3つ作る
- 2種類の異なるメディアに保存する(HDDとクラウドなど)
- 1つは別の場所に保管する(オフサイトバックアップ)
4. 使用年数も考慮する
S.M.A.R.T.情報だけでなく、使用年数も考慮しましょう。
一般的に:
- HDD:3〜5年で交換を検討
- SSD:5〜7年で交換を検討
ただし、使用頻度や環境によって大きく異なります。
5. 異常を感じたらすぐに対処
S.M.A.R.T.情報に異常がなくても、以下のような症状があれば注意:
- パソコンの動作が極端に遅い
- ファイルが突然消える
- 異音がする(HDDの場合)
- 頻繁にフリーズする
こうした症状がある場合は、すぐにバックアップを取り、専門家に相談しましょう。
まとめ:S.M.A.R.T.情報でデータを守ろう
S.M.A.R.T.情報について解説してきました。
この記事の要点:
- S.M.A.R.T.とは:ストレージが自分の健康状態を監視する技術
- 確認方法:CrystalDiskInfoなどのソフトで簡単に確認できる
- 重要項目:代替処理済みセクタ数、温度、総書き込み量(SSD)など
- 健康状態:「正常」「注意」「異常」で判定される
- 限界:突然の故障は予測できないため、定期的なバックアップが必須
ハードディスクやSSDは、いつか必ず故障します。しかし、S.M.A.R.T.情報を定期的に確認することで、故障の前兆を察知し、大切なデータを守ることができます。
今日からでも、CrystalDiskInfoをダウンロードして、あなたのパソコンのストレージ状態をチェックしてみてください。そして、定期的なバックアップを忘れずに!
データは一度失われると、取り戻せないこともあります。事前の対策が、何よりも重要です。


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