人気のWebサイトには、同時に何千人、何万人もの人がアクセスします。でも一つのサーバーだけでは処理しきれませんよね。
そこで活躍するのがラウンドロビン(Round Robin)という技術です。
この記事では、IT分野で広く使われるラウンドロビンについて、初心者の方にも理解できるように丁寧に解説していきます。難しそうに見えるかもしれませんが、基本的な考え方はとてもシンプルですよ!
ラウンドロビンの基本的な意味
ラウンドロビンは、英語で「Round Robin」と書きます。
もともとは:
- Round → 巡回する、順番に回る
- Robin → 諸説ありますが、「回覧」を意味するフランス語が語源
IT用語としては、「順番に、公平に割り当てる方式」を意味します。
身近な例で言えば、グループで何かを決めるときに「順番に一人ずつ意見を言う」ような感じです。誰か一人に負担が集中せず、みんなに公平にチャンスが回ってくるイメージですね。
IT分野での主な使われ方
1. 負荷分散(ロードバランシング)
最も一般的な使い方が、Webサーバーの負荷分散です。
人気のショッピングサイトやSNSは、一つのサーバーではなく、複数のサーバーで運営されています。たくさんのアクセスを複数のサーバーで分担処理するわけです。
このとき、どのサーバーにどのアクセスを振り分けるか?その方法の一つがラウンドロビンなんです。
仕組みはこう:
- ユーザーAのアクセス → サーバー1へ
- ユーザーBのアクセス → サーバー2へ
- ユーザーCのアクセス → サーバー3へ
- ユーザーDのアクセス → サーバー1へ(また最初に戻る)
このように、順番にぐるぐる回して振り分けます。
2. CPUスケジューリング
パソコンやスマートフォンでは、同時に複数のアプリが動いていますよね。
でも実は、CPUは同時に複数の処理を実行しているわけではありません。超高速で処理を切り替えているんです。
この切り替え方法の一つがラウンドロビンで、各プログラムに順番にCPU時間を割り当てます。
動作の流れ:
- アプリA → 0.1秒間実行
- アプリB → 0.1秒間実行
- アプリC → 0.1秒間実行
- またアプリAに戻る
人間には気づかないほど高速に切り替わるため、すべてのアプリが同時に動いているように見えるんですね。
3. DNSのラウンドロビン
DNS(Domain Name System)という、インターネットの住所録のような仕組みでも使われています。
一つのドメイン名(例:example.com)に対して、複数のIPアドレス(サーバーの住所)を登録しておき、アクセスごとに順番に返す方法です。
これにより、アクセスが自然に分散され、サーバーの負担が軽減されます。
ラウンドロビンのメリット
シンプルで分かりやすい
ラウンドロビンの最大の利点は、仕組みがシンプルなことです。
「次はどこに振り分けよう?」と複雑な判断をする必要がありません。ただ順番に回すだけなので、実装も管理も簡単なんです。
公平性が高い
どのサーバーも、どのプログラムも、平等に処理のチャンスが回ってきます。
特定のサーバーだけに負荷が集中したり、特定のプログラムだけが実行されない、といった偏りが発生しにくいんですね。
低コストで導入できる
複雑なアルゴリズムや高性能なロードバランサーが不要です。
比較的低コストで負荷分散の仕組みを構築できるため、中小規模のシステムでも採用しやすいというメリットがあります。
ラウンドロビンの課題と限界
ただし、ラウンドロビンにも弱点があります。
サーバーの性能差を考慮しない
3台のサーバーがあるとして:
- サーバーA:高性能(処理能力が高い)
- サーバーB:中性能
- サーバーC:低性能(処理能力が低い)
ラウンドロビンは性能差を無視して、平等に振り分けてしまいます。その結果、低性能なサーバーCがボトルネック(処理の遅延箇所)になる可能性があるんです。
処理の重さを考慮しない
アクセスによって、処理の重さは異なります。
- 軽い処理:トップページを表示するだけ
- 重い処理:大量のデータを検索して集計する
ラウンドロビンはこの違いを考えず、順番に振り分けます。すると、たまたま重い処理が集中したサーバーだけが過負荷になることもあるんですね。
セッションの維持が難しい
ショッピングサイトでカートに商品を入れたとします。
最初のアクセスはサーバー1が処理したのに、次のアクセスはサーバー2に振り分けられてしまうと、カートの中身が消えてしまう…なんてことも。
この問題を解決するには、セッション維持(スティッキーセッション)という追加の仕組みが必要です。
改良版:加重ラウンドロビン
課題を解決するために、加重ラウンドロビン(Weighted Round Robin)という改良版があります。
これは、各サーバーに「重み」を設定する方式です。
設定例:
- サーバーA(高性能):重み5
- サーバーB(中性能):重み3
- サーバーC(低性能):重み2
この場合、10回のアクセスのうち:
- サーバーAには5回振り分ける
- サーバーBには3回振り分ける
- サーバーCには2回振り分ける
こうすることで、各サーバーの処理能力に応じた負荷分散が可能になります。
他の負荷分散方式との比較
ラウンドロビン以外にも、いくつかの負荷分散方式があります。
最小接続方式(Least Connection)
現在の接続数が最も少ないサーバーに振り分ける方式です。
処理時間が長いリクエストが多い場合、ラウンドロビンより効果的なことがあります。
IPハッシュ方式
アクセス元のIPアドレスをもとに、振り分け先を決定する方式です。
同じユーザーからのアクセスは常に同じサーバーに振り分けられるため、セッション維持の問題を解決できます。
レスポンスタイム方式
各サーバーの応答速度を測定し、最も速く応答したサーバーに振り分ける方式です。
高度な負荷分散が可能ですが、測定のオーバーヘッド(余計な処理)が発生します。
実際の使用例
実例1:Webサービスの負荷分散
ある人気ニュースサイトでは、3台のWebサーバーを使っています。
構成:
- ロードバランサー(交通整理役):1台
- Webサーバー:3台
ユーザーのアクセスは、まずロードバランサーが受け取ります。そこからラウンドロビン方式で、3台のサーバーに順番に振り分けられるわけです。
これにより、一つのサーバーだけでは処理しきれない大量のアクセスにも対応できます。
実例2:データベースの読み取り分散
大規模なSNSサービスでは、データベースも複数台に分散しています。
システム構成:
- マスターデータベース(書き込み用):1台
- レプリカデータベース(読み取り用):5台
データの書き込みはマスターDBが担当し、読み取りはレプリカDBがラウンドロビンで分担します。読み取り処理の方が圧倒的に多いため、この構成で効率的に処理できるんです。
実例3:メールサーバーの負荷分散
企業のメールシステムでも、ラウンドロビンが活用されています。
DNSラウンドロビンを使い、メールサーバーのIPアドレスを複数登録しておきます。外部からメールが届くと、自動的に負荷が分散されるわけです。
一つのサーバーが故障しても、他のサーバーで受信できるため、可用性(システムが使える状態を保つこと)も向上します。
よくある疑問に答えます
Q. ラウンドロビンは今でも使われている?
はい、現在でも広く使われています。
最近では、より高度な負荷分散技術も登場していますが、シンプルで効果的なラウンドロビンは、多くのシステムで現役で活躍しています。
Q. 家庭用ルーターでも使われている?
使われているケースがあります。
複数のWAN回線を使う環境では、ラウンドロビン方式で回線を切り替えながら通信することで、帯域幅を有効活用できるんです。
Q. ラウンドロビンとロードバランサーの違いは?
ロードバランサーは負荷分散を行う装置やソフトウェアのことで、ラウンドロビンはその中で使われる振り分け方式の一つです。
つまり、ロードバランサーという道具が、ラウンドロビンという手法を使って仕事をする、という関係ですね。
まとめ:順番に回すシンプルな賢さ
ラウンドロビンは、順番に公平に振り分ける負荷分散の基本的な方式です。
重要ポイントをおさらい:
- Webサーバーの負荷分散に広く使われている
- CPUスケジューリングでも活用されている
- シンプルで実装しやすく、コストも低い
- 公平性が高く、偏りが少ない
- サーバーの性能差を考慮しないという課題もある
- 改良版として加重ラウンドロビンも存在する
ITシステムの信頼性を支える重要な技術の一つです。複雑なアルゴリズムではありませんが、その「シンプルさ」こそが、長年愛され続けている理由なんですね。
あなたが日常的に使っているWebサービスの裏側でも、きっとラウンドロビンが活躍していますよ!
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