長年、企業のサーバーで使われてきたCentOS。その突然のサポート終了発表で、多くのシステム管理者が困惑しました。
「これからどのLinuxを使えばいいんだろう?」
そんな声に応えるように登場したのが、Rocky LinuxとAlmaLinuxという2つのLinuxディストリビューションです。どちらもCentOSの「精神的後継者」として開発され、企業のサーバー環境で安心して使える選択肢となっています。
でも、2つのディストリビューションは何が違うのでしょうか?どちらを選べばいいのでしょうか?
この記事では、Rocky LinuxとAlmaLinuxの違いを分かりやすく比較しながら、それぞれの特徴や選び方を解説していきます。
Rocky LinuxとAlmaLinuxって何?基本をおさらい
まず、それぞれの基本的な特徴を確認しましょう。
Rocky Linux
Rocky Linuxは、CentOSの共同創設者であるGregory Kurtzer氏が立ち上げたプロジェクトです。
特徴:
- CentOS創設者が開発
- コミュニティ主導のプロジェクト
- RHEL(Red Hat Enterprise Linux)との完全互換を目指す
- 無料で商用利用可能
名前の由来:
CentOSの共同創設者Rocky McGaugh氏への敬意を込めて命名されました。
初版リリース:2021年6月
AlmaLinux
AlmaLinuxは、CloudLinuxという企業が中心となって開発しているディストリビューションです。
特徴:
- CloudLinux社がスポンサー
- 非営利のAlmaLinux OS Foundationが運営
- RHEL互換を目指す
- 無料で商用利用可能
名前の由来:
ラテン語で「魂」を意味する”Alma”から。Linuxコミュニティの魂を受け継ぐという意味が込められています。
初版リリース:2021年3月
共通点:どちらもRHEL互換
重要なポイントとして、Rocky LinuxもAlmaLinuxも、RHELとの完全互換を目指しているという点は同じです。
つまり、RHELで動くソフトウェアは、基本的にどちらでも動作します。パッケージの構成やファイルの配置も、RHELと同じように設計されているんです。
CentOSに何が起きたのか?誕生の背景
なぜRocky LinuxとAlmaLinuxが生まれたのか、その背景を知っておきましょう。
CentOSの歴史
CentOS(Community Enterprise Operating System)は、RHELのソースコードをベースに作られた無料のLinuxディストリビューションでした。
人気の理由:
- RHELと互換性がある
- 完全無料
- 安定性が高い
- 長期サポート
多くの企業や組織が、「RHELの品質を無料で使える」としてCentOSを採用していました。
突然の方針転換(2020年12月)
Red Hat社は、CentOSの方向性を大きく変更すると発表しました。
主な変更点:
- CentOS 8のサポートを2029年から2021年末に短縮
- CentOS 9以降は開発しない
- 代わりにCentOS Streamに移行
CentOS Streamとは?
CentOS Streamは、RHELの「アップストリーム」(開発版)という位置づけです。
従来のCentOS:
RHEL → CentOS(RHELの後追い版)
新しいCentOS Stream:
Fedora → CentOS Stream → RHEL(RHELの開発版)
つまり、安定版ではなく、テスト版のような性質になってしまったんです。
コミュニティの反応
企業のサーバーでは、安定性が最重要。開発版のような位置づけのCentOS Streamは受け入れられませんでした。
「これまで通り、安定したRHEL互換の無料Linuxが必要だ!」
そんな声に応えて、Rocky LinuxとAlmaLinuxが立ち上がったのです。
Rocky LinuxとAlmaLinuxの違い:主要な比較ポイント
具体的な違いを見ていきましょう。
開発体制と運営組織
Rocky Linux
- Rocky Enterprise Software Foundation(非営利団体)が運営
- 完全にコミュニティ主導
- スポンサー企業はあるが、特定企業に依存しない設計
AlmaLinux
- AlmaLinux OS Foundation(非営利団体)が運営
- CloudLinux社が主要スポンサー
- ただし、2023年以降はコミュニティ主導の体制を強化
リリーススピード
AlmaLinux
RHELの新バージョンが出ると、比較的早くリリースされます。初期は特に迅速でした。
Rocky Linux
慎重にテストを重ねてからリリースする傾向があります。安定性を重視した姿勢ですね。
実際の差は数日から数週間程度で、実用上は大きな問題にはなりません。
サポート期間
どちらもRHELと同じサポート期間を提供しています。
- メジャーバージョンごとに約10年間
- セキュリティアップデートを提供
- バグ修正を継続
例:Rocky Linux 9 / AlmaLinux 9は、2032年頃までサポート予定
パフォーマンス
ベンチマークテストでは、両者に有意な性能差はほとんどありません。
どちらもRHELのソースコードをベースにしているため、パフォーマンス特性も似ているんです。実際の業務での体感差もほぼないと言えます。
パッケージ管理
どちらもDNF(Dandified YUM)というパッケージマネージャーを使用します。
利用可能なリポジトリ:
- EPEL(Extra Packages for Enterprise Linux)
- RPM Fusion
- その他のサードパーティリポジトリ
基本的に同じパッケージが使えます。
セキュリティ
Rocky Linux
- セキュリティアドバイザリを公開
- 迅速なセキュリティパッチ提供
- コミュニティによる監視
AlmaLinux
- TuxCare(CloudLinux傘下)によるライブパッチサービス(有償)
- セキュリティパッチの提供
- 企業バックアップによる安定供給
どちらも高いセキュリティレベルを維持しています。
コミュニティとエコシステム
それぞれのコミュニティの特徴を見てみましょう。
Rocky Linuxのコミュニティ
特徴:
- CentOSの「精神」を受け継ぐという強い想い
- グラスルーツ(草の根)的なコミュニティ
- 多様なスポンサー企業
スポンサー企業(一部):
- AWS
- Google Cloud
- Microsoft Azure
- その他多数
AlmaLinuxのコミュニティ
特徴:
- CloudLinux社の実績と安定性
- ビジネス寄りのサポート
- 2023年以降、コミュニティガバナンスを強化
スポンサー企業(一部):
- CloudLinux
- cPanel
- その他多数
ドキュメントとサポート
Rocky Linux
- 公式ドキュメントが充実
- フォーラムやチャットで活発な議論
- 英語が中心だが、コミュニティによる各国語翻訳も進行中
AlmaLinux
- 詳細な公式ドキュメント
- CloudLinux社による商用サポートも選択可能(有償)
- 日本語含む多言語対応
互換性とソフトウェア対応
実際の業務で重要な互換性について見ていきます。
RHEL互換性
どちらもRHEL 100%互換を目指していますが、実際には微妙な違いがあります。
Rocky Linux
バイナリ互換性(実行ファイルレベルでの互換性)を重視しています。
AlmaLinux
同様にバイナリ互換を目指していますが、2023年にRed Hatがソースコード公開を制限してから、「ABIレベルでの互換性」を重視する方針に変更しました。
実用上の違い:
一般的な用途では、どちらを使っても問題なく動作します。
主要ソフトウェアの対応
Webサーバー:
- Apache
- Nginx
- いずれも問題なく動作
データベース:
- MariaDB
- PostgreSQL
- MySQL
- すべて対応
コンテナ:
- Docker
- Podman
- Kubernetes
- 完全対応
制御パネル:
- cPanel
- Plesk
- どちらも公式対応
クラウドプロバイダー対応
Rocky Linux:
- AWS
- Google Cloud
- Microsoft Azure
- Oracle Cloud
- Digital Ocean
AlmaLinux:
- AWS
- Google Cloud
- Microsoft Azure
- Oracle Cloud
- Digital Ocean
主要なクラウドプロバイダーでは、どちらも公式イメージが提供されています。
どちらを選ぶべき?シチュエーション別ガイド
実際の選択基準を示します。
Rocky Linuxを選ぶべき場合
CentOSの精神的後継を重視
CentOS創設者が立ち上げたプロジェクトという点に価値を感じる場合。
完全なコミュニティ主導を望む
特定企業への依存を避けたい場合。多様なスポンサーによる運営が魅力です。
長期的な安定性重視
慎重にテストされたリリースを好む場合。
実績あるスポンサーのバックアップ
AWS、Google、Microsoftなどの大手がスポンサーについている安心感。
AlmaLinuxを選ぶべき場合
迅速なリリースを重視
新しいRHELバージョンへの対応が早い点を評価する場合。
企業サポートのオプション
CloudLinux社による有償サポートが選べる点が魅力。
cPanelユーザー
cPanel社が推奨ディストリビューションに指定しています。
ライブパッチサービス
再起動なしでカーネルパッチを適用できるサービス(有償)が利用できます。
実際のところ
正直なところ、どちらを選んでも大きな問題はありません。
共通点が多い:
- RHEL互換性
- 無料で商用利用可能
- 長期サポート
- 同じソフトウェアが動く
- 主要クラウドで利用可能
選択のポイント:
- 組織の方針や好み
- 既存の知見やノウハウ
- 周囲のコミュニティ
- サポート体制の必要性
CentOSからの移行方法
既存のCentOSサーバーを移行する手順を紹介します。
事前準備
必須作業:
- 完全なバックアップを取る
- 重要なデータを別の場所にコピー
- ダウンタイムを確保
- 移行手順を事前にテスト環境で試す
Rocky Linuxへの移行
migrate2rockyツールを使用:
# ツールをダウンロード
curl https://raw.githubusercontent.com/rocky-linux/rocky-tools/main/migrate2rocky/migrate2rocky.sh -o migrate2rocky.sh
# 実行権限を付与
chmod +x migrate2rocky.sh
# 移行を実行
sudo ./migrate2rocky.sh -r
所要時間:
サーバーの規模にもよりますが、30分〜2時間程度。
AlmaLinuxへの移行
almalinux-deployツールを使用:
# ツールをダウンロード
curl -O https://raw.githubusercontent.com/AlmaLinux/almalinux-deploy/master/almalinux-deploy.sh
# 実行権限を付与
chmod +x almalinux-deploy.sh
# 移行を実行
sudo ./almalinux-deploy.sh
移行後の確認
チェック項目:
- OSバージョンの確認:
cat /etc/os-release - カーネルバージョン:
uname -r - インストール済みパッケージ:
rpm -qa - サービスの起動状態:
systemctl status - ネットワーク設定
- アプリケーションの動作確認
両ディストリビューションの最新動向
2023年以降の重要な変化を押さえておきましょう。
Red Hatのソースコード公開制限
2023年6月、Red Hat社はRHELのソースコードへのアクセスを制限すると発表しました。
影響:
- GitLabでの公開ソースが非公開に
- 有償サブスクリプション契約者のみがソースにアクセス可能
Rocky LinuxとAlmaLinuxの対応
Rocky Linux
- CentOS Streamのソースコードを活用
- SRPMの再配布を継続
- RHEL互換性の維持を表明
AlmaLinux
- CentOS Streamとの連携を強化
- ABI互換性を重視する方針に変更
- 独自の改善も追加する方向性
実用上の影響:
一般ユーザーや企業利用では、ほとんど影響はありません。両者ともRHEL互換を維持しています。
企業導入事例
実際にどんな組織が使っているのでしょうか。
Rocky Linuxの導入例
NASA
一部のシステムでRocky Linuxを採用していると報告されています。
教育機関
多くの大学や研究機関がCentOSからRocky Linuxへ移行しています。
ホスティング事業者
複数のWebホスティング会社が標準環境として採用。
AlmaLinuxの導入例
cPanel利用企業
cPanel推奨のため、多くのホスティング会社が採用しています。
CloudLinux顧客
CloudLinux社の既存顧客が自然に採用するケースが多いです。
金融・医療系企業
有償サポートオプションがある点を評価して採用。
パフォーマンス比較:実測データ
独立したベンチマークテストの結果を見てみましょう。
Webサーバー性能
Apache + PHP
Rocky Linux、AlmaLinux、RHEL 9の3つでベンチマークを実施した結果、性能差は誤差範囲内(±2%以内)でした。
データベース性能
MariaDB / PostgreSQL
トランザクション処理速度やクエリ応答時間に、有意な差は見られませんでした。
コンテナ性能
Docker / Podman
コンテナの起動時間、実行性能ともに同等でした。
結論
実用上の性能差はほぼゼロと言えます。どちらを選んでも、パフォーマンスで困ることはないでしょう。
将来性と長期的な視点
これから5年、10年先を考えた時、どちらが安心でしょうか。
持続可能性
Rocky Linux
- 多様なスポンサーによる分散投資モデル
- コミュニティの熱意が高い
- ただし、特定企業のバックアップがない分、リスクもある
AlmaLinux
- CloudLinux社の安定した資金力
- ビジネスモデルが明確
- ただし、スポンサー企業への依存度がやや高い
開発の継続性
どちらも長期的なコミットメントを表明しています。
- 10年以上のサポート継続を約束
- RHELが続く限り、互換ディストリビューションとして存続
- 活発なコミュニティ活動
エコシステムの成長
Rocky Linux
大手クラウド事業者のサポートにより、エコシステムが急速に成長しています。
AlmaLinux
ホスティング業界での採用が多く、実績が積み上がっています。
よくある質問
実際によく聞かれる疑問に答えます。
途中で切り替えられる?
はい、可能です。Rocky LinuxとAlmaLinuxは相互に移行できます。
ただし、本番環境での切り替えは慎重に行い、必ずバックアップを取ってから実施してください。
商用利用は本当に無料?
はい、完全無料です。ライセンス料は一切かかりません。
ただし、有償サポートを受けたい場合は、別途契約が必要です(AlmaLinuxの場合)。
セキュリティは大丈夫?
どちらも、RHELと同等のセキュリティアップデートを提供しています。
企業のサーバーでも安心して使える品質です。
CentOS Streamとの違いは?
Rocky LinuxとAlmaLinuxは「安定版」、CentOS Streamは「開発版」という位置づけです。
本番環境にはRocky LinuxかAlmaLinuxを選ぶべきでしょう。
まとめ:あなたに合った選択を
Rocky LinuxとAlmaLinuxは、どちらも優れたRHEL互換ディストリビューションです。
この記事のポイント:
- どちらもCentOSの後継として誕生
- RHEL互換で無料の企業向けLinux
- Rocky LinuxはCentOS創設者が開発、完全コミュニティ主導
- AlmaLinuxはCloudLinux社がスポンサー、企業サポートあり
- 性能差はほぼなく、どちらも高品質
- 主要クラウドとソフトウェアに対応
- CentOSからの移行ツールが用意されている
- 長期サポート(約10年)を提供
- どちらを選んでも実用上の問題はない
選択の基準:
- コミュニティ重視ならRocky Linux
- 企業サポート重視ならAlmaLinux
- でも、実際はどちらでもOK
最も重要なのは、「選んだら、それを使い続ける」ことです。頻繁な切り替えは避け、安定した運用を心がけましょう。
CentOSの終了は残念でしたが、コミュニティの情熱によって2つの素晴らしい選択肢が生まれました。どちらを選んでも、安心してLinuxサーバーを運用できますよ!

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