サーバー管理やLinux環境の構築に携わっている方なら、2020年末に起きた「CentOS 8のサポート終了騒動」を覚えているかもしれません。
多くの企業やエンジニアが頼りにしていたCentOSの方針転換は、IT業界に大きな衝撃を与えました。そんな中、救世主として登場したのがRocky Linuxです。
「Rocky Linuxって何?」「CentOSとどう違うの?」「本当に使っても大丈夫?」
この記事では、そんな疑問に答えながら、Rocky Linuxの特徴から使い方まで、初心者の方にも分かるように丁寧に解説していきます。
サーバーOSの選択肢として、今最も注目されているディストリビューションを一緒に見ていきましょう!
Rocky Linuxとは?基本を押さえよう

正式名称と誕生の背景
Rocky Linux(ロッキー・リナックス)は、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)と完全互換を目指すLinuxディストリビューションです。
2020年12月に発表され、2021年6月に最初の安定版(Rocky Linux 8.4)がリリースされました。
名前の由来は、CentOSプロジェクトの共同創設者であるRocky McGaugh氏から取られています。彼の遺志を継ぐ形でプロジェクトが立ち上がったんですね。
エンタープライズLinuxとは?
Rocky Linuxを理解するには、まず「エンタープライズLinux」という概念を知っておく必要があります。
エンタープライズLinuxとは、企業の本番環境で使用することを前提とした、安定性と信頼性を重視したLinuxディストリビューションのこと。
以下のような特徴があります。
- 長期サポート:10年前後の長期間、セキュリティアップデートが提供される
- 安定性重視:最新技術よりも動作の安定性を優先
- 商用サポート:有償のサポート契約が利用可能(オプション)
- 大規模導入に適した設計:数百台、数千台のサーバーでも管理しやすい
RHELとの関係
RHEL(Red Hat Enterprise Linux)は、Red Hat社が開発・販売する有償のエンタープライズLinux。
非常に高品質ですが、サブスクリプション料金が必要です。
Rocky Linuxは、このRHELのソースコードを元に、完全に互換性のある無料版として作られています。
なぜRocky Linuxが必要になったのか?
Rocky Linux誕生の背景には、CentOSをめぐる大きな変化がありました。
CentOSの歴史
CentOS(セント・オーエス)は、長年にわたって「無料で使えるRHEL互換OS」として愛されてきました。
世界中の企業やエンジニアが、本番サーバーにCentOSを採用していたんです。
- 無料で利用可能
- RHELとの高い互換性
- 安定したサポート期間
- 豊富なドキュメントとコミュニティ
これらの理由から、CentOSはエンタープライズLinuxのデファクトスタンダードとなっていました。
2020年12月の衝撃的な発表
ところが、2020年12月、Red Hat社は突然の方針転換を発表します。
主な変更内容:
- CentOS 8のサポートを2029年から2021年末に短縮
- 従来のCentOSは終了し、CentOS Streamに移行
- CentOS StreamはRHELの「下流」ではなく「上流」に位置づけ
何が問題だったのか:
従来のCentOSは、RHELのリリース後に同じ内容を無料で提供する「下流」の存在でした。
しかし、CentOS Streamは、RHELの次期バージョンの開発版という位置づけ。つまり、安定版ではなくなってしまったんです。
これは、安定性を最重視するエンタープライズ環境には適さない変更でした。
コミュニティの反発と新たな選択肢
この発表に、世界中のCentOSユーザーが困惑しました。
- 「2029年までサポートされると思って導入したのに…」
- 「移行先をどうすればいいんだ?」
- 「開発版では本番環境に使えない」
そんな状況の中、CentOSの元創設者Gregory Kurtzer氏が立ち上がります。
彼が始めたプロジェクトが、まさにRocky Linuxだったんです。
Rocky Linuxの特徴とメリット
Rocky Linuxが多くの支持を集めている理由を見ていきましょう。
1. RHELとの完全互換性
Rocky Linuxは、RHELのソースコードをそのまま使用して構築されています。
つまり、RHELで動作するソフトウェアは、Rocky Linuxでもそのまま動作するということ。
具体的には:
- パッケージ名が同じ
- ディレクトリ構造が同じ
- 設定ファイルの書式が同じ
- コマンドの動作が同じ
CentOSからの移行も、ほぼそのままできるように設計されています。
2. 完全無料
Rocky Linuxは、ダウンロードも使用も完全無料です。
商用環境で使っても、ライセンス料金は一切かかりません。
ただし、必要に応じて有償のサポート契約を結ぶことも可能です(任意)。
3. 長期サポート
各メジャーバージョンは、リリースから10年間のサポートが提供されます。
例:Rocky Linux 8
- リリース:2021年6月
- サポート終了:2029年5月(予定)
長期的な運用計画が立てやすいのは、エンタープライズ環境では大きなメリットですね。
4. コミュニティ主導の開発
Rocky Linuxは、特定企業に依存しないコミュニティ主導のプロジェクトです。
Rocky Enterprise Software Foundation(RESF)という非営利組織が運営しており、透明性の高い開発が行われています。
5. 豊富なドキュメント
公式ドキュメントが充実しており、インストールから設定まで、丁寧な解説が用意されています。
また、CentOSのノウハウがそのまま活用できるため、情報も見つけやすいんです。
6. アーキテクチャの幅広いサポート
Rocky Linuxは、以下のアーキテクチャに対応しています。
- x86_64(通常のPCサーバー)
- aarch64(ARM64、Raspberry Piなど)
- ppc64le(IBM Power)
多様なハードウェアで利用できるのも魅力です。
他のディストリビューションとの比較

Rocky Linuxを選ぶべきか判断するため、他の選択肢と比較してみましょう。
Rocky Linux vs CentOS Stream
CentOS Stream:
- RHELの「開発版」的な位置づけ
- 最新機能が早く使える
- ただし、安定性は相対的に低い
- 本番環境には推奨されない
Rocky Linux:
- RHELの「安定版クローン」
- 実績ある安定性
- 本番環境に最適
- ただし、最新機能の導入は遅い
結論:
本番サーバーならRocky Linux、開発・テスト環境ならCentOS Streamという使い分けが一般的です。
Rocky Linux vs AlmaLinux
AlmaLinuxも、CentOS代替として登場したRHEL互換ディストリビューション。
CloudLinux社が支援しており、Rocky Linuxと非常によく似ています。
主な違い:
- 運営体制:Rocky Linuxは完全コミュニティ主導、AlmaLinuxは企業支援
- 理念:大きな差はなく、どちらもRHEL互換を目指す
- 実績:どちらも多くの企業で採用されている
どちらを選ぶ?
正直なところ、技術的な差はほとんどありません。
個人の好みやコミュニティの雰囲気で選んでも大丈夫です。どちらも優れた選択肢ですよ。
Rocky Linux vs RHEL
RHEL:
- 有償のサブスクリプションが必要
- Red Hat社による公式サポート
- 最高レベルの安定性と信頼性
- 大企業での採用実績が豊富
Rocky Linux:
- 完全無料
- コミュニティサポート(有償サポートもオプション)
- RHELと同等の安定性
- 中小企業や個人での採用が多い
結論:
予算があり、公式サポートが必要ならRHEL。
コストを抑えたいが高品質なOSが必要ならRocky Linuxという選択になります。
Rocky Linux vs Ubuntu Server
Ubuntu Server:
- Debian系のディストリビューション
- 6ヶ月ごとの通常版と、2年ごとのLTS(長期サポート)版
- より新しいパッケージが利用可能
- クラウド環境での採用が多い
Rocky Linux:
- Red Hat系のディストリビューション
- 10年間の長期サポート
- より保守的なパッケージ選定
- 従来型のサーバー環境での採用が多い
結論:
Ubuntu Serverは新しい技術を積極的に取り入れたい場合に、Rocky Linuxは長期的な安定運用を重視する場合に適しています。
Rocky Linuxが適している使用ケース
どんな場面でRocky Linuxを選ぶべきか、具体例を見ていきましょう。
1. Webサーバー
Apache、Nginx、PHPなどを使った一般的なWebサーバー構築に最適です。
長期的に安定したサービス提供が求められるケースに向いています。
2. データベースサーバー
MySQL、PostgreSQL、MariaDBなどのデータベースサーバーとして。
ミッションクリティカルなデータを扱う場合、Rocky Linuxの安定性が活きます。
3. アプリケーションサーバー
Java、Python、Node.jsなどのアプリケーション実行環境として。
企業の基幹システムにも安心して採用できる信頼性があります。
4. コンテナホスト
Docker、Kubernetesなどのコンテナ環境のホストOSとして。
安定したベースOSの上でコンテナを動かせます。
5. 開発・検証環境
本番環境がRHELの場合、開発環境やステージング環境にRocky Linuxを使うことで、コストを抑えつつ同じ環境を再現できます。
6. CentOSからの移行
既存のCentOSサーバーからの移行先として最適です。
設定やスクリプトをほぼそのまま使えるため、移行コストを最小限に抑えられます。
Rocky Linuxのインストール概要
実際にRocky Linuxを使い始める手順を簡単に紹介します。
1. ISOイメージのダウンロード
公式サイト(rockylinux.org)から、ISOイメージをダウンロードします。
主な種類:
- Minimal:最小限のパッケージのみ(サーバー向け)
- DVD:すべてのパッケージを含む完全版
- Boot:ネットワーク経由でインストールする軽量版
サーバー用途なら、通常はMinimalを選びます。
2. インストールメディアの作成
ダウンロードしたISOイメージを、USB起動メディアやDVDに書き込みます。
Linuxの場合:
sudo dd if=Rocky-8.x-x86_64-minimal.iso of=/dev/sdX bs=4M status=progress
Windowsの場合:
Rufusなどのツールを使用します。
3. インストール作業
インストーラーは、CentOSやRHELと同じAnacondaが使われています。
CentOSの経験があれば、迷うことなく進められるはず。
基本的な流れ:
- 言語選択(日本語も選択可能)
- インストール先ディスクの選択
- ネットワーク設定
- タイムゾーン設定
- rootパスワードの設定
- ユーザーアカウントの作成
- インストール開始
4. 初期設定
インストール後、基本的なセキュリティ設定を行います。
# システムアップデート
sudo dnf update -y
# ファイアウォールの設定
sudo firewall-cmd --permanent --add-service=ssh
sudo firewall-cmd --reload
# SELinuxの確認
getenforce
5. 必要なソフトウェアのインストール
dnfコマンドでパッケージをインストールします。
# Webサーバーの例
sudo dnf install nginx -y
sudo systemctl enable --now nginx
# データベースの例
sudo dnf install mariadb-server -y
sudo systemctl enable --now mariadb
Rocky Linuxの管理とメンテナンス

日常的な運用で知っておきたいポイントを紹介します。
パッケージ管理
Rocky Linuxでは、dnf(Dandified Yum)コマンドでパッケージを管理します。
よく使うコマンド:
# パッケージの検索
dnf search nginx
# パッケージのインストール
sudo dnf install パッケージ名
# パッケージの更新
sudo dnf update
# インストール済みパッケージの一覧
dnf list installed
# パッケージの削除
sudo dnf remove パッケージ名
システムアップデート
定期的なアップデートは、セキュリティのために重要です。
# すべてのパッケージを更新
sudo dnf update -y
# セキュリティアップデートのみ
sudo dnf update --security
サービス管理
systemctlコマンドでサービスを管理します。
# サービスの起動
sudo systemctl start サービス名
# サービスの停止
sudo systemctl stop サービス名
# 自動起動の有効化
sudo systemctl enable サービス名
# 状態確認
sudo systemctl status サービス名
Rocky Linuxのコミュニティとサポート
公式リソース
- 公式サイト:rockylinux.org
- 公式ドキュメント:docs.rockylinux.org
- 公式フォーラム:forums.rockylinux.org
- GitHub:github.com/rocky-linux
コミュニティサポート
活発なコミュニティがあり、フォーラムやチャット(Mattermost、IRC)で質問や情報交換ができます。
商用サポート
完全無料のOSですが、必要に応じて有償のサポート契約を結ぶこともできます。
複数のベンダーがRocky Linux向けのサポートサービスを提供しています。
まとめ:Rocky Linuxは信頼できる選択肢
Rocky Linuxについて、ここまで詳しく見てきました。最後に要点を整理しておきましょう。
Rocky Linuxの重要ポイント:
- CentOSの代替として誕生したRHEL互換OS
- 完全無料で商用利用も可能
- 10年間の長期サポート
- 高い安定性と信頼性
- コミュニティ主導の透明な開発
- CentOSからの移行が容易
こんな人におすすめ:
- CentOSからの移行先を探している
- 無料で高品質なエンタープライズLinuxが必要
- 長期的な安定運用を重視する
- RHELとの互換性が必要
- コストを抑えつつ信頼性の高いサーバーOSを使いたい


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