「会社で使っているシステムが古すぎて、誰もメンテナンスできない…」
企業のIT部門で働いていると、「レガシーソフト」という言葉を聞くことがありますよね。20年前、30年前に作られたシステムが、今でも現役で動いているケースは珍しくありません。
レガシーソフト(レガシーソフトウェア)とは、古い技術で作られ、長年使われ続けているソフトウェアやシステムのことです。「動いているから」という理由でそのまま使われていますが、実は様々なリスクを抱えているんです。
この記事では、レガシーソフトの基本的な意味から、なぜ問題になるのか、どう対処すべきかまで、初心者にも分かりやすく解説します。企業のシステム担当者だけでなく、ITの現場で働く方にも役立つ内容です。
レガシーソフトとは?基本を理解しよう

まず、レガシーソフトの基本的な概念を理解しておきましょう。
レガシーソフトの定義
レガシーソフト(Legacy Software)とは、以下のような特徴を持つソフトウェアを指します。
- 古い技術や言語で開発されている
- 長期間(10年以上)使われ続けている
- 現在の技術標準に合っていない
- メンテナンスや更新が難しい
- それでも業務に不可欠で使い続けられている
「Legacy」という英語は「遺産」「遺物」という意味です。つまり、過去から引き継がれた、古いけれど価値があるもの、というニュアンスがあるんですね。
レガシーソフトの例
具体的には、以下のようなシステムがレガシーソフトとして扱われることが多いです。
基幹系システム
- 銀行の勘定系システム
- 製造業の生産管理システム
- 小売業の販売管理システム
- 会計・経理システム
古いプログラミング言語で書かれたシステム
- COBOL(コボル)で書かれた業務システム
- Visual Basic 6.0のアプリケーション
- Perl、FORTRANなどの古い言語
古いOS・環境に依存するソフト
- Windows XPでしか動かないソフト
- MS-DOSのプログラム
- 古いデータベース(dBASE、FoxProなど)
なぜレガシーソフトが存在するのか
レガシーソフトが生まれる主な理由は、以下の通りです。
理由1:開発当時は最新技術だった
20〜30年前に作られたシステムは、当時としては最新の技術を使っていました。しかし、技術の進化が速いIT業界では、すぐに古くなってしまうんです。
理由2:「動いているから」という保守的な姿勢
システムの入れ替えにはコストとリスクが伴います。「今動いているものをわざわざ変える必要はない」という考えで、そのまま使い続けるケースが多いです。
理由3:移行コストが高い
新しいシステムへの移行には、莫大な費用と時間がかかります。特に、長年使われてきた基幹システムの場合、数億円、数十億円の投資が必要になることもあります。
理由4:業務プロセスに深く組み込まれている
長年使われてきたシステムは、企業の業務プロセスと一体化しています。システムを変えるということは、業務プロセス全体を見直すことになり、大きな労力が必要になるんです。
理由5:技術者の不足
古い技術を理解している技術者が減少しています。新しいシステムに移行するにも、現行システムを理解できる人材が必要なのですが、その人材が確保できないという問題があります。
レガシーソフトの問題点・リスク
レガシーソフトを使い続けることには、多くのリスクがあります。
問題点1:セキュリティリスク
古いソフトウェアは、セキュリティアップデートが提供されなくなることが多いです。
脆弱性が放置される
新しい脆弱性が発見されても、修正パッチが提供されません。サイバー攻撃の標的になりやすく、データ漏洩や不正アクセスのリスクが高まります。
古いOSのサポート終了
Windows XPやWindows 7など、サポートが終了したOSで動くソフトは、OSレベルでもセキュリティリスクを抱えています。
問題点2:メンテナンスコストの増大
古いシステムほど、維持管理にコストがかかります。
技術者の確保が困難
COBOLやVisual Basic 6.0など、古い言語を扱える技術者は年々減少しています。限られた技術者に高い報酬を払う必要があり、人件費が高騰するんです。
属人化のリスク
特定の技術者だけがシステムを理解している「属人化」が起きやすいです。その技術者が退職すると、誰もメンテナンスできなくなるリスクがあります。
部品やハードウェアの入手困難
古いハードウェアが故障しても、交換部品が入手できないことがあります。特殊な機器を使っている場合、システム全体が停止する危険性もあります。
問題点3:ビジネスの機会損失
技術の進化についていけず、ビジネスチャンスを逃すことがあります。
新技術との連携ができない
クラウド、AI、モバイルアプリなど、新しい技術と連携できません。競合他社が最新技術で効率化を進める中、取り残されてしまいます。
ユーザー体験の悪化
古いインターフェース、遅い処理速度、使いにくい操作性など、ユーザー体験が現代の基準に合っていません。従業員の生産性が下がり、顧客満足度も低下します。
データ活用ができない
古いシステムのデータは、形式が古かったり、他のシステムと連携できなかったりします。ビッグデータ分析やAI活用など、データを活かした経営判断ができません。
問題点4:法令遵守の問題
法律や規制の変更に対応できないリスクがあります。
例えば、消費税率の変更、インボイス制度の導入、個人情報保護法の改正など、法改正のたびにシステム改修が必要になります。古いシステムでは、この改修が困難だったり、コストが膨大になったりするんですよ。
問題点5:システムダウンのリスク
古いシステムは突然の故障のリスクが高くなります。
予期しない障害
長年の蓄積で、システムの内部構造が複雑化・ブラックボックス化しています。予期しない障害が発生したとき、原因究明や復旧に時間がかかります。
バックアップの問題
古いシステムのバックアップ方式が、現代の基準に合っていないことがあります。災害時の復旧計画(BCP)が機能しない可能性もあります。
レガシーソフトのメリット
問題ばかりではなく、レガシーソフトにもメリットはあります。
メリット1:安定性
長年使われてきた実績があり、バグが出尽くしているため、動作が安定しています。
基幹業務で「絶対に止まってはいけない」システムの場合、新しいシステムより、実績のあるレガシーシステムの方が信頼できることもあるんです。
メリット2:業務との適合性
長年の改善で、業務プロセスに完全に適合しています。
独自のカスタマイズが積み重ねられ、企業の業務に最適化されているため、新しいパッケージシステムよりも使いやすい場合があります。
メリット3:即座の移行コスト不要
今すぐ新システムに移行する必要がなければ、当面の投資を抑えられます。
ただし、これは問題の先送りであり、長期的には移行コストがさらに膨らむリスクがありますね。
レガシーソフトへの対処方法
レガシーソフトをどう扱うべきか、主な対処法を紹介します。
対処法1:モダナイゼーション(近代化)
モダナイゼーションとは、既存のシステムを新しい技術に移行することです。
いくつかのアプローチがあります。
リホスト(Lift and Shift)
システムをそのまま新しいプラットフォーム(クラウドなど)に移動する方法。最も簡単ですが、根本的な問題は解決しません。
リプラットフォーム
プログラムコードは維持しつつ、動作環境を新しいものに置き換える方法。例えば、オンプレミスからクラウドへ移行するなど。
リファクタリング
プログラムの機能は変えずに、内部のコードを書き直して整理する方法。メンテナンス性が向上します。
リアーキテクト
システムのアーキテクチャ(設計思想)を根本から見直す方法。マイクロサービス化、API化など、現代的な設計に変更します。
リビルド(再構築)
システムを一から作り直す方法。最も時間とコストがかかりますが、最新技術を活用できます。
リプレース(置き換え)
既製のパッケージソフトやSaaSに置き換える方法。開発コストを抑えられますが、業務プロセスの変更が必要になることもあります。
対処法2:段階的な移行
一度にすべてを変えるのではなく、段階的に移行する戦略です。
ストラングラーパターン
新しいシステムで古いシステムを徐々に「絞め殺す」ように置き換えていく手法。リスクを分散できます。
機能単位での移行
重要度の低い機能から順に新システムに移行していく方法。失敗しても影響が小さい部分から始められます。
対処法3:ハイブリッド運用
古いシステムと新しいシステムを並行稼働させる方法です。
ラッパー(Wrapper)の作成
古いシステムの外側に新しいインターフェースを用意して、他のシステムと連携しやすくします。内部は古いままでも、外部からは新しいシステムのように見えるんです。
API化
古いシステムの機能をAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)として公開し、他のシステムから利用できるようにします。
対処法4:適切な延命措置
すぐに移行できない場合、安全に使い続けるための対策を取ります。
セキュリティ対策の強化
- ネットワークを分離して、外部からのアクセスを制限
- ファイアウォールやウイルス対策ソフトで防御
- アクセスログの監視を強化
技術者の育成・確保
- 社内でレガシー技術の研修を実施
- 外部のベンダーと保守契約を結ぶ
- ドキュメント整備を進める
ハードウェアの予備確保
- 故障に備えて、予備のハードウェアを確保
- 仮想化して、特定のハードウェアへの依存を減らす
対処法5:計画的な廃止
本当に必要か見直し、不要なら廃止することも選択肢です。
使われていない機能、代替手段がある業務などは、システムごと廃止することで、メンテナンスコストを削減できます。
レガシーソフト移行の成功ポイント

移行プロジェクトを成功させるためのポイントです。
ポイント1:経営層の理解とコミット
レガシーシステムの刷新には、経営層の強いリーダーシップが必要です。
予算確保、リソース配分、組織の協力体制など、経営判断として取り組む必要があります。
ポイント2:現行システムの可視化
まず、現在のシステムがどうなっているかを把握します。
- システムの構成図
- データの流れ
- 依存関係
- 業務プロセスとの関連
「分からないシステム」を移行することはできません。ドキュメント化を徹底しましょう。
ポイント3:段階的なアプローチ
一度にすべてを変えようとせず、小さく始めて徐々に拡大する戦略が有効です。
初期の成功体験が、プロジェクト全体の推進力になりますよ。
ポイント4:業務部門との連携
IT部門だけでなく、実際に業務を行う部門との密な連携が不可欠です。
新しいシステムが業務に合っているか、使いやすいか、現場の声を取り入れながら進めましょう。
ポイント5:リスク管理
移行には必ずリスクが伴います。
- バックアップ体制の確立
- ロールバック計画の準備
- 並行稼働期間の設定
- 十分なテスト期間の確保
何かあっても元に戻せる体制を整えておくことが重要です。
日本におけるレガシーソフトの現状
日本企業のレガシーシステム事情について触れておきましょう。
「2025年の崖」問題
経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」では、日本企業の多くがレガシーシステムを抱え、このままでは2025年以降、年間最大12兆円の経済損失が生じる可能性があると警告しました。
これが「2025年の崖」と呼ばれる問題です。
日本企業の特徴
日本企業では、以下のような特徴があります。
- 基幹システムのブラックボックス化が進んでいる
- IT予算の8割以上が既存システムの維持に使われている
- DX(デジタルトランスフォーメーション)への投資が不足
- 技術者の高齢化が進んでいる
政府の支援策
政府も、企業のシステム刷新を支援する施策を打ち出しています。
- DX投資促進税制
- IT導入補助金
- ガイドラインの整備
これらを活用して、計画的な移行を進めることが推奨されています。
よくある質問と回答
レガシーソフトは必ず移行しなければならない?
絶対ではありませんが、長期的にはリスクが高まります。少なくとも、移行計画を立てておくことが重要です。
移行にはどれくらいの期間がかかる?
システムの規模によりますが、大規模な基幹システムでは3〜5年かかることも珍しくありません。
移行中に業務は止まる?
適切に計画すれば、業務を止めずに移行できます。並行稼働やカットオーバーのタイミングを工夫することが重要です。
小規模企業でもレガシーソフト問題はある?
はい、あります。むしろ小規模企業の方が、特定のベンダーや技術者に依存していることが多く、リスクが高い場合もあります。
クラウドに移行すればすべて解決する?
クラウド移行は有効な選択肢ですが、それだけでは根本的な解決にはなりません。業務プロセスの見直しや、システム設計の刷新も必要です。
まとめ:レガシーソフトと向き合い計画的に対処しよう
レガシーソフトについて詳しく解説しました。
重要なポイントをおさらい
- レガシーソフトは古い技術で作られ、長年使われているシステム
- セキュリティリスク、メンテナンスコスト増大などの問題がある
- 一方で、安定性や業務適合性というメリットもある
- モダナイゼーションや段階的移行で対処できる
- 経営層のコミットと計画的なアプローチが成功の鍵
- 日本では「2025年の崖」問題が指摘されている
レガシーソフトは、多くの企業が抱える共通の課題です。「動いているから」と放置せず、計画的に向き合うことが大切ですね。
完全な移行が難しくても、リスクを把握し、適切な延命措置を取るだけでも、将来の選択肢が広がります。この記事を参考に、あなたの組織のレガシーシステムについて考えるきっかけになれば幸いです!

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