ONNX Runtimeとは?フレームワーク・ハードウェアを問わず高速AI推論を実現する実行エンジンを徹底解説

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AIモデルを実際のアプリケーションで動作させる際、「フレームワークが違うと使えない」「特定のハードウェアでしか動かない」といった課題に直面することがあります。
ONNX Runtimeは、こうした課題を解決するためにMicrosoftが開発したオープンソースの推論・学習加速エンジンです。
この記事では、ONNX Runtimeの仕組みから実際の使用方法まで、詳しく解説します。

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ONNX Runtimeとは

ONNX Runtime(オニックス ランタイム、略称:ORT)は、ONNX形式の機械学習モデルを高速に実行するための推論・学習加速エンジンです。

Microsoftが開発し、2018年12月4日にMITライセンスでオープンソースとして公開されました。
プレビュー版は同年10月16日に公開されています。

ONNXとの関係

ONNX Runtime を理解するには、まずONNX(Open Neural Network Exchange)について知る必要があります。

ONNXは、機械学習モデルを表現するための統一フォーマットです。
PyTorch、TensorFlow、Keras、scikit-learnなど、異なるフレームワークで作成されたモデルをONNX形式に変換することで、フレームワークに依存せずにモデルを実行できます。

ONNX Runtimeは、このONNX形式のモデルを実行するためのランタイム(実行環境)です。

名前の由来

「ONNX」はOpen Neural Network Exchangeの略で、「オニキス」または「オニックス」と読みます。
「Runtime」は実行環境を意味し、ONNX形式のモデルを実行するためのエンジンであることを表しています。

ONNX Runtimeが解決する課題

フレームワーク間の互換性問題

従来、PyTorchで作成したモデルをTensorFlowで動かすことは困難でした。
また、モバイルデバイスやエッジデバイスでは、特定のフレームワークが動作しない場合もあります。

ONNX Runtimeは、ONNX形式に変換されたモデルであれば、元のフレームワークに関係なく実行できます。

ハードウェア最適化の難しさ

NVIDIA GPU、Intel CPU、Apple Neural Engine、NPU(Neural Processing Unit)など、さまざまなハードウェアがAIアクセラレーションを提供しています。

しかし、それぞれのハードウェアに最適化されたコードを書くのは大変です。

ONNX Runtimeは、実行プロバイダー(Execution Provider)という仕組みを通じて、自動的にハードウェアに最適化された実行を行います。

デプロイの複雑さ

学習したモデルを本番環境にデプロイする際、学習に使用したフレームワーク全体をインストールする必要がある場合、環境構築が複雑になります。

ONNX Runtimeは軽量な推論専用エンジンとして動作するため、デプロイが容易です。

ONNX Runtimeの特徴

クロスプラットフォーム対応

ONNX Runtimeは、以下のプラットフォームで動作します。

  • クラウド: Azure、AWS、Google Cloudなど
  • エッジデバイス: IoTデバイス、組み込みシステム
  • モバイル: iOS、Android
  • ウェブブラウザ: JavaScript(ONNX Runtime Web)
  • デスクトップ: Windows、macOS、Linux

同じコードとモデルを、環境を問わず実行できます。

高いパフォーマンス

ONNX Runtimeは、以下の最適化技術を用いて高速な推論を実現します。

グラフ最適化

ニューラルネットワークの計算グラフを自動的に最適化します。

  • Basic最適化: 不要なノードの除去、一部のオペレーター融合
  • Extended最適化: より高度なオペレーター融合
  • Layout最適化: NCHWc Optimizerによるデータレイアウト最適化

モデル量子化

8ビットモデル量子化により、モデルサイズと計算量を削減します。

ハードウェアアクセラレーション

実行プロバイダーを通じて、各ハードウェアの最適化ライブラリを活用します。

実行プロバイダー(Execution Provider)

ONNX Runtimeの最大の特徴は、実行プロバイダー(EP)という拡張可能な仕組みです。

実行プロバイダーは、特定のハードウェアやライブラリに最適化された実行を提供します。

主な実行プロバイダー

CPU向け:

  • Default CPU (MLAS): デフォルトのCPU実行プロバイダー
  • Intel oneDNN (旧DNNL): Intel CPUに最適化
  • Intel OpenVINO: Intel CPU・GPU・NPUおよびARM CPUに対応
  • Google XNNPACK: ARM、x86、WebAssembly、RISC-V CPUに対応

NVIDIA GPU向け:

  • CUDA EP: NVIDIA GPUでcuDNNを使用した高速推論
  • TensorRT EP: NVIDIA TensorRTを使用したさらなる最適化
  • TensorRT RTX EP: 最新のNVIDIA GPUに最適化

Windows向け:

  • DirectML EP: DirectX 12対応のすべてのGPU(NVIDIA、Intel、AMD)で動作
  • Windows ML: Windows 11 24H2以降に標準搭載、自動EP選択

Apple向け:

  • CoreML EP: macOS・iOSのApple Neural Engineを活用

その他:

  • Qualcomm QNN EP: Qualcomm NPU向け
  • AMD ROCm EP: AMD GPU向け(削除され、Migraphx EPまたはVitis AI EPを推奨)
  • WebNN、WebGPU、WebGL、WebAssembly: ウェブブラウザ向け

実行プロバイダーの自動選択

ONNX Runtimeは、モデルの計算グラフを自動的に分割し、各部分を最適な実行プロバイダーに割り当てます。

例えば、TensorRT EPで処理できない演算子がある場合、その部分はCUDA EPまたはCPU EPで実行されます。

この仕組みにより、ハードウェアの能力を最大限に活用しつつ、すべての演算子をサポートできます。

ONNX Runtimeのアーキテクチャ

基本的な動作フロー

ONNX Runtimeの基本的な動作フロー:

  1. モデルのロード: ONNX形式のモデルファイルを読み込む
  2. グラフ最適化: 計算グラフを最適化
  3. グラフ分割: 実行プロバイダーごとにグラフを分割
  4. 推論実行: 各実行プロバイダーで計算を実行
  5. 結果の出力: 推論結果を返す

セマンティックバージョニング

ONNX Runtimeは、Semantic Versioning 2.0に従ってバージョン管理されています。

バージョン番号は「MAJOR.MINOR.PATCH」の形式で、例えば「1.24.1」のようになります。

リリースサイクル

ONNX Runtimeは四半期(3ヶ月)ごとにリリースされます。
メジャーリリース間には、必要に応じてパッチリリースが公開されます。

最新の安定版は1.24.1(2026年2月5日リリース)です。

ONNX Runtimeの使用方法

インストール

Python

CPUのみの場合:

pip install onnxruntime

GPU(CUDA 12.x)の場合:

pip install onnxruntime-gpu

GPU(DirectML、Windows)の場合:

pip install onnxruntime-directml

C#/.NET

NuGetパッケージマネージャーで:

dotnet add package Microsoft.ML.OnnxRuntime

GPU(CUDA)の場合:

dotnet add package Microsoft.ML.OnnxRuntime.Gpu

JavaScript(ウェブブラウザ)

npm install onnxruntime-web

Node.js

npm install onnxruntime-node

基本的な使用例(Python)

import onnxruntime as ort
import numpy as np

# モデルをロードして推論セッションを作成
session = ort.InferenceSession("model.onnx")

# 入力データを準備
input_name = session.get_inputs()[0].name
input_data = np.random.randn(1, 3, 224, 224).astype(np.float32)

# 推論を実行
outputs = session.run(None, {input_name: input_data})

# 結果を取得
print("Output shape:", outputs[0].shape)

実行プロバイダーの指定

特定の実行プロバイダーを使用する場合:

import onnxruntime as ort

# CUDA EPを使用(CUDAが利用できない場合はCPUにフォールバック)
ep_list = ['CUDAExecutionProvider', 'CPUExecutionProvider']
session = ort.InferenceSession("model.onnx", providers=ep_list)

# TensorRT EPを優先的に使用
ep_list = ['TensorRTExecutionProvider', 'CUDAExecutionProvider', 'CPUExecutionProvider']
session = ort.InferenceSession("model.onnx", providers=ep_list)

モデルの準備

ONNX形式のモデルは、以下の方法で作成できます。

PyTorchからの変換

import torch
import torch.onnx

# PyTorchモデル
model = MyModel()
model.eval()

# ダミー入力
dummy_input = torch.randn(1, 3, 224, 224)

# ONNX形式にエクスポート
torch.onnx.export(
    model,
    dummy_input,
    "model.onnx",
    input_names=['input'],
    output_names=['output'],
    dynamic_axes={'input': {0: 'batch_size'}, 'output': {0: 'batch_size'}}
)

TensorFlow/Kerasからの変換

import tf2onnx
import tensorflow as tf

# Kerasモデル
model = tf.keras.models.load_model('model.h5')

# ONNX形式に変換
spec = (tf.TensorSpec((None, 224, 224, 3), tf.float32, name="input"),)
output_path = "model.onnx"
model_proto, _ = tf2onnx.convert.from_keras(model, input_signature=spec, output_path=output_path)

scikit-learnからの変換

from skl2onnx import convert_sklearn
from skl2onnx.common.data_types import FloatTensorType

# scikit-learnモデル
model = LogisticRegression()
model.fit(X_train, y_train)

# ONNX形式に変換
initial_type = [('float_input', FloatTensorType([None, X_train.shape[1]]))]
onx = convert_sklearn(model, initial_types=initial_type)
with open("model.onnx", "wb") as f:
    f.write(onx.SerializeToString())

ONNX Runtimeの活用事例

Microsoftサービスでの使用

ONNX Runtimeは、Microsoftの主要サービスで実際に使用されています。

  • Bing: 検索エンジンのAI機能
  • Office: 文書処理やスマート機能
  • Azure Cognitive Services: クラウドAIサービス

これらのサービスでは、ONNX Runtimeを使用することでCPUパフォーマンスが平均2倍向上したと報告されています。

エッジデバイスでの推論

IoTデバイスやエッジゲートウェイで、軽量な推論エンジンとして使用されています。

リソースが限られた環境でも、効率的にAIモデルを実行できます。

モバイルアプリケーション

ONNX Runtime Mobileを使用して、iOSやAndroidアプリにAI機能を組み込むことができます。

プライバシーを保護しつつ、オンデバイスで推論を実行できます。

ウェブアプリケーション

ONNX Runtime Webを使用して、ウェブブラウザ上で直接AIモデルを実行できます。

サーバーへのデータ送信が不要なため、プライバシー保護とレイテンシ削減を実現します。

大規模言語モデル(LLM)の推論

ONNX Runtimeは、Hugging FaceのLlama-2-7bなどの大規模言語モデルの推論を加速できます。

生成AIアプリケーションに統合することで、高速なテキスト生成が可能になります。

ONNX Runtimeの性能チューニング

実行プロバイダーの選択

ハードウェアに応じて最適な実行プロバイダーを選択します。

NVIDIA GPU:

  • TensorRT EP > CUDA EP > CPU EP

TensorRT EPは、グラフ全体を最適化し、より高速ですが、エンジン構築に時間がかかります。
CUDA EPは、cuDNNを使用し、セットアップ時間が短いです。

Windows:

  • DirectML EPを使用すると、NVIDIA、Intel、AMDのすべてのGPUで動作します

macOS/iOS:

  • CoreML EPでApple Neural Engineを活用

グラフ最適化レベル

ONNX Runtimeは、3つの最適化レベルを提供します。

import onnxruntime as ort

session_options = ort.SessionOptions()

# 最適化レベルを設定
# ORT_DISABLE_ALL: 最適化なし
# ORT_ENABLE_BASIC: 基本的な最適化
# ORT_ENABLE_EXTENDED: 拡張最適化(デフォルト)
# ORT_ENABLE_ALL: すべての最適化
session_options.graph_optimization_level = ort.GraphOptimizationLevel.ORT_ENABLE_ALL

session = ort.InferenceSession("model.onnx", session_options)

並列実行の設定

import onnxruntime as ort

session_options = ort.SessionOptions()

# スレッド数を設定
session_options.intra_op_num_threads = 4  # オペレーター内の並列実行
session_options.inter_op_num_threads = 4  # オペレーター間の並列実行

session = ort.InferenceSession("model.onnx", session_options)

I/Oバインディング

GPU使用時、I/Oバインディングを使用することでCPU-GPU間のデータコピーを削減できます。

import onnxruntime as ort
import numpy as np

session = ort.InferenceSession("model.onnx", providers=['CUDAExecutionProvider'])

# I/Oバインディングを作成
io_binding = session.io_binding()

# 入力をGPUメモリに直接バインド
input_name = session.get_inputs()[0].name
input_data = np.random.randn(1, 3, 224, 224).astype(np.float32)
io_binding.bind_cpu_input(input_name, input_data)

# 出力もGPUメモリに直接バインド
output_name = session.get_outputs()[0].name
io_binding.bind_output(output_name)

# 推論実行
session.run_with_iobinding(io_binding)

# 結果を取得
outputs = io_binding.copy_outputs_to_cpu()

ONNX Runtimeの学習機能

ONNX Runtimeは、推論だけでなく学習の加速もサポートしています。

ONNX Runtime Training

ONNX Runtime Trainingを使用すると、PyTorchなどの学習スクリプトにワンライン追加するだけで、マルチノードNVIDIA GPUでの学習を加速できます。

特にTransformerモデルで効果的です。

オンデバイス学習

ONNX Runtime Mobileは、デバイス上での学習もサポートしています。

推論モデルをローカルで再学習することで、よりパーソナライズされたAI体験を提供できます。

ONNX Runtimeのメリット

フレームワーク非依存

PyTorch、TensorFlow、Keras、scikit-learnなど、どのフレームワークで作成したモデルでも実行できます。

クロスプラットフォーム

Windows、Linux、macOS、iOS、Android、ウェブブラウザなど、さまざまな環境で動作します。

高速な推論

グラフ最適化とハードウェアアクセラレーションにより、元のフレームワークより高速な推論が可能です。

軽量

推論専用エンジンとして、学習フレームワーク全体より軽量です。

拡張性

実行プロバイダーの仕組みにより、新しいハードウェアへの対応が容易です。

豊富な言語サポート

Python、C#、C/C++、Java、JavaScript、Rustなど、多くの言語で使用できます。

プロダクショングレード

Bing、Office、Azure AIなどの大規模サービスで使用されている実績があります。

ONNX Runtimeのデメリット

ONNX形式への変換が必要

モデルを使用する前に、ONNX形式に変換する必要があります。
すべてのモデルや演算子が完全に変換できるとは限りません。

実行プロバイダーの依存関係

特定の実行プロバイダーを使用する場合、CUDA、cuDNN、TensorRTなどの依存ライブラリをインストールする必要があります。

デバッグが困難

元のフレームワークと異なる環境で実行されるため、問題が発生した際のデバッグが困難な場合があります。

最新機能への対応遅延

フレームワークの最新機能や演算子がすぐにはサポートされない場合があります。

ONNX Runtimeのバージョン履歴

ONNX Runtimeの主要バージョン:

  • v0.5.0: 最初のパブリックリリース
  • v1.0.0: 2019年10月、最初の安定版
  • v1.10.0: 2021年11月、主要な機能追加
  • v1.15.0: 2023年5月、パフォーマンス向上
  • v1.20.0: 2024年7月、CUDA 12.xサポート
  • v1.23.0: 2025年11月、最新機能追加
  • v1.24.1: 2026年2月5日、現在の最新安定版

まとめ

ONNX Runtimeは、Microsoftが開発したオープンソースの機械学習推論・学習加速エンジンです。

フレームワーク、OS、ハードウェアを問わず、ONNX形式のモデルを高速に実行できる点が最大の特徴です。

実行プロバイダーの仕組みにより、CPU、GPU、NPUなど、さまざまなハードウェアで最適化された実行が可能です。

Bing、Office、Azure AIなどのMicrosoftサービスで実際に使用されており、プロダクショングレードの信頼性があります。

クラウド、エッジ、モバイル、ウェブなど、あらゆる環境でAIモデルをデプロイしたい開発者にとって、ONNX Runtimeは強力なツールです。

四半期ごとのリリースサイクルで継続的に改善されており、今後もAI推論の標準的なランタイムとして発展していくことが期待されます。

参考情報

※この記事は2026年2月6日時点の情報に基づいています

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