会社や学校で複数のパソコンにOfficeをインストールする必要がある。そんな時、一台ずつ手作業でインストールするのは大変ですよね。
特に10台、20台、あるいはそれ以上のパソコンに同じ設定でOfficeを入れなければならない場合、何時間もかかってしまいます。
そんな時に役立つのが「Office展開ツール」です。このツールを使えば、事前に設定を作っておいて、効率的に複数のパソコンへOfficeをインストールできます。
この記事では、Office展開ツールの基本的な使い方を、初めて使う方でも分かるように丁寧に解説していきます。
Office展開ツール(ODT)とは?

Office展開ツール(Office Deployment Tool、略してODT)は、Microsoftが提供する無料のコマンドラインツールです。
主な特徴:
- Microsoft 365やOffice 2019以降のインストールに対応
- カスタマイズした設定でインストール可能
- 複数のパソコンに同じ設定を適用できる
- ネットワーク経由でのインストールに対応
コマンドラインツールとは、文字でコマンド(命令)を入力して操作するプログラムのことです。グラフィカルな画面ではなく、黒い画面に文字を入力して使います。
このツールは誰向け?
Office展開ツールは、主に以下のような方々に向いています。
推奨される使用者
- 企業のIT管理者
- 学校や組織のシステム担当者
- 複数台のパソコンを管理する必要がある方
- カスタマイズしたOffice設定を統一したい方
個人ユーザーには通常不要
1台のパソコンにOfficeをインストールするだけなら、office.comから直接インストールする方が簡単です。
このツールは、効率化や設定の統一が必要な場合に真価を発揮します。
準備するもの
Office展開ツールを使用する前に、以下を準備しましょう。
必須項目
- インターネット接続
- Office展開ツールのダウンロード
- Officeインストールファイルのダウンロード
- 管理者権限
- パソコンの管理者アカウントが必要
- Microsoft 365またはOfficeのライセンス
- 有効なライセンスが必要
- ボリュームライセンスがあると便利
- 基礎的なコマンドライン知識
- コマンドプロンプトの基本操作
- ファイルパスの理解
あると便利なもの
- XMLファイルの編集経験
- ネットワーク共有フォルダの知識
- Officeの各エディションの違いについての理解
ステップ1:Office展開ツールのダウンロード
まずは、Office展開ツール本体をダウンロードします。
ダウンロード手順
- Microsoftの公式ダウンロードページにアクセス
- 検索エンジンで「Office展開ツール ダウンロード」と検索
- Microsoft公式サイトのページを選択
- ダウンロードボタンをクリック
- 実行ファイル(officedeploymenttool.exe)を保存
- 保存した場所を覚えておく
ツールの展開
- ダウンロードしたofficedeploymenttool.exeを実行
- 展開先のフォルダを指定(例:C:\ODT)
- 「OK」をクリック
- 以下のファイルが展開されます:
- setup.exe(メインプログラム)
- 複数のサンプル設定ファイル(XMLファイル)
ステップ2:設定ファイル(XMLファイル)の作成
Office展開ツールは、XMLファイルで動作を制御します。このファイルに、インストールしたいOfficeの種類や言語、オプションなどを記述します。
基本的なXMLファイルの構造
最もシンプルな設定ファイルの例:
<Configuration>
<Add SourcePath="C:\ODT" OfficeClientEdition="64" Channel="Current">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
各要素の説明:
- SourcePath: Officeファイルを保存する場所
- OfficeClientEdition: 32ビット版か64ビット版か(”32″または”64″)
- Channel: 更新チャネル(Currentは最新機能が提供される)
- Product ID: インストールするOfficeの種類
- Language ID: インストールする言語(ja-jpは日本語)
よく使うProduct ID
- O365ProPlusRetail: Microsoft 365 Apps for enterprise
- O365BusinessRetail: Microsoft 365 Apps for business
- ProPlus2019Volume: Office Professional Plus 2019
- Standard2019Volume: Office Standard 2019
XMLファイルの作成方法
- メモ帳を開く
- 上記のサンプルをコピー&ペースト
- 必要に応じて内容を編集
- ファイル名を「configuration.xml」として保存
- 保存場所はODTフォルダ(C:\ODT)
- 保存時の注意:
- 「ファイルの種類」を「すべてのファイル」に変更
- 文字コードは「UTF-8」を選択
ステップ3:Officeインストールファイルのダウンロード
設定ファイルができたら、Officeのインストールファイルをダウンロードします。
コマンドプロンプトでの実行
- コマンドプロンプトを管理者として実行
- スタートメニューで「cmd」と検索
- 右クリック→「管理者として実行」
- ODTフォルダに移動
cd C:\ODT
- ダウンロードコマンドを実行
setup.exe /download configuration.xml
- ダウンロードが開始される
- インターネット速度によって時間が異なる
- 通常は10〜30分程度
ダウンロードの確認
ダウンロードが完了すると、ODTフォルダ内に「Office」という名前のフォルダが作成され、その中にインストールファイルが保存されます。
ステップ4:Officeのインストール実行
インストールファイルのダウンロードが完了したら、いよいよインストールを実行します。
インストールコマンド
- コマンドプロンプトを管理者として実行(開いたままなら続けて使用可能)
- ODTフォルダにいることを確認
- インストールコマンドを実行
setup.exe /configure configuration.xml
- インストールが開始される
- 進行状況は表示されない場合が多い
- バックグラウンドで処理が進行
インストールの確認
- インストール完了後、スタートメニューを確認
- Word、Excel、PowerPointなどのアイコンが表示されていればOK
- アプリを起動して正常に動作するか確認
応用的な設定例
例1:特定のアプリだけをインストール
Accessを除外してインストールする場合:
<Configuration>
<Add SourcePath="C:\ODT" OfficeClientEdition="64" Channel="Current">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
<ExcludeApp ID="Access" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
ExcludeAppタグで不要なアプリを指定できます。
例2:複数の言語をインストール
日本語と英語をインストールする場合:
<Configuration>
<Add SourcePath="C:\ODT" OfficeClientEdition="64" Channel="Current">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
<Language ID="en-us" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
Languageタグを複数記述できます。
例3:既存のOfficeをアンインストールしてから新規インストール
古いバージョンを削除してからインストールする場合:
<Configuration>
<Add SourcePath="C:\ODT" OfficeClientEdition="64" Channel="Current">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Add>
<Remove All="TRUE" />
</Configuration>
Removeタグで既存のOfficeを削除できます。
例4:更新設定のカスタマイズ
自動更新を無効にする場合:
<Configuration>
<Add SourcePath="C:\ODT" OfficeClientEdition="64" Channel="Current">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Add>
<Updates Enabled="FALSE" />
</Configuration>
Updatesタグで更新動作を制御できます。
複数のパソコンに展開する方法
方法1:ネットワーク共有を利用
- ネットワーク上の共有フォルダにODTとダウンロード済みのOfficeファイルを配置
- 各パソコンから共有フォルダにアクセス
- setup.exeを実行
この方法なら、各パソコンで個別にダウンロードする必要がありません。
方法2:USBメモリやDVDを使用
- ODTフォルダ全体をUSBメモリやDVDにコピー
- 各パソコンにメディアを接続
- setup.exeを実行
オフライン環境や、インターネット接続が遅い環境で有効です。
方法3:展開ソフトウェアを活用
企業向けの展開ソフトウェア(Microsoft Endpoint Configuration Managerなど)を使えば、リモートで一斉にインストールできます。
ただし、これらのソフトウェアには専門知識が必要です。
トラブルシューティング
エラー:「このアプリはお使いのPCでは実行できません」
原因:
32ビット版のWindowsで64ビット版のOfficeをインストールしようとしている
解決方法:
XMLファイルのOfficeClientEditionを”32″に変更
エラー:「ソースファイルが見つかりません」
原因:
SourcePathの指定が間違っている、またはダウンロードが完了していない
解決方法:
- SourcePathを確認
- ダウンロードコマンドを再実行
- Officeフォルダが作成されているか確認
インストールが進まない・完了しない
原因:
他のOfficeプロセスが実行中、または既存のOfficeとの競合
解決方法:
- すべてのOfficeアプリを閉じる
- タスクマネージャーでOffice関連のプロセスを終了
- パソコンを再起動してから再度実行
XMLファイルのエラー
原因:
XMLの記述に文法エラーがある
解決方法:
- タグの開始と終了が正しいか確認
- 半角スペースや記号が正しいか確認
- オンラインのXMLバリデーターでチェック
Office構成ツールを使う簡単な方法
XMLファイルの手動作成が難しい場合、Microsoftが提供する「Office カスタマイズ ツール」を使うと便利です。
Office カスタマイズ ツールの使い方
- ブラウザで「Office カスタマイズ ツール」と検索
- Microsoft公式のツールページにアクセス
- ブラウザ上で設定を選択
- 製品とリリース
- 言語
- インストールオプション
- 更新とアップグレード
- 設定が完了したら「エクスポート」をクリック
- XMLファイルが自動生成される
- ダウンロードしたXMLファイルをODTフォルダに配置
この方法なら、XMLの文法を知らなくても正確な設定ファイルが作れます。
アンインストールする方法
Office展開ツールでインストールしたOfficeも、同じツールでアンインストールできます。
アンインストール用XMLファイル
<Configuration>
<Remove All="TRUE" />
</Configuration>
このファイルを「uninstall.xml」として保存し、以下のコマンドを実行:
setup.exe /configure uninstall.xml
すべてのOfficeアプリケーションが削除されます。
特定のアプリだけ削除
<Configuration>
<Remove>
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Remove>
</Configuration>
Product IDを指定することで、特定の製品だけを削除できます。
便利なコマンドオプション
/download:ダウンロードのみ実行
setup.exe /download configuration.xml
インストールせず、ファイルのダウンロードだけを行います。
/configure:設定に基づいてインストール
setup.exe /configure configuration.xml
最も基本的なインストールコマンドです。
/packager:オフラインインストーラーを作成
setup.exe /packager configuration.xml output.exe
スタンドアロンのインストーラーファイルを作成します。
まとめ:Office展開ツールで効率的な管理を
Office展開ツールは、複数のパソコンにOfficeを効率的にインストールするための強力なツールです。
Office展開ツールの利点:
- インストール設定の統一
- 時間と労力の大幅な削減
- カスタマイズされた展開が可能
- ネットワーク帯域幅の効率的な使用
使用手順のまとめ:
- Office展開ツールをダウンロード・展開
- XMLファイルで設定を作成
- Officeファイルをダウンロード
- インストールを実行
初めて使う方へのアドバイス:
- まずは小規模(1〜2台)でテスト
- XMLファイルはサンプルを修正して使う
- Office カスタマイズ ツールを活用する
- 設定ファイルは保存して再利用
注意点:
- 管理者権限が必須
- ライセンスの準備を忘れずに
- 初回は時間に余裕を持って実行
- トラブル時はログファイルを確認
Office展開ツールは最初は難しく感じるかもしれませんが、一度使い方を覚えれば、組織全体のOffice管理が劇的に楽になります。
小規模な環境から始めて、徐々に慣れていくことをおすすめします。効率的なOffice管理で、IT管理業務の負担を軽減しましょう!


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