「OfficeClientEdition」という言葉を目にしたことはありますか?
Officeのインストールや設定を行う際に出てくるこの用語、実はOfficeが32ビット版か64ビット版かを指定する重要な設定なんです。
自分のパソコンにインストールされているOfficeが32ビット版なのか64ビット版なのか、どちらが自分に適しているのか、そしてどうやって確認・変更すればいいのか。この記事では、これらの疑問に分かりやすくお答えします。
IT管理者だけでなく、一般ユーザーにも役立つ情報を、優先度の高い順に詳しく解説していきますね。
OfficeClientEditionとは何か

基本的な定義
OfficeClientEditionとは、Microsoft Officeの展開ツール(Office Deployment Tool、略してODT)で使用される設定項目の一つです。
この設定は、Officeをインストールする際に「32ビット版」か「64ビット版」のどちらをインストールするかを指定するために使われます。
設定ファイルでの使用例
OfficeClientEditionは、通常「configuration.xml」というXML形式の設定ファイルの中で以下のように記述されます。
<Configuration>
<Add OfficeClientEdition="64" Channel="Current">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
この例では、OfficeClientEdition="64" と指定しているので、64ビット版のOfficeがインストールされます。
指定できる値
OfficeClientEditionで指定できる値は2つだけです。
- “32” = 32ビット版Office
- “64” = 64ビット版Office
とてもシンプルですね。
32ビット版と64ビット版の違い
32ビット版の特徴
メリット:
- 古いアドインやマクロとの互換性が高い
- VBAコードで「Declare」ステートメントを使用する場合に問題が起きにくい
- 32ビット版のActiveXコントロールやCOMアドインが使える
デメリット:
- 使用できるメモリが最大2GBまでに制限される
- 大容量のExcelファイルの処理が遅い
- 大規模なデータ処理に不向き
64ビット版の特徴
メリット:
- 大容量のファイルを高速に処理できる
- 2GB以上のメモリを使用できる
- Excelで大規模なデータセットを扱う際に有利
- 将来的な標準となる(Office 2019以降は64ビット版が推奨)
デメリット:
- 古い32ビット版のアドインが動作しない場合がある
- VBAコードの一部を修正する必要がある場合がある
- 特定のActiveXコントロールが使えないことがある
Microsoftの推奨
Office 2019以降:64ビット版が推奨
Office 2016までは32ビット版が標準でしたが、Office 2019からは64ビット版が推奨バージョンに変更されました。
これは、現代のパソコンの性能向上と、大容量データを扱う機会が増えたことを反映しています。
自分のOfficeのビット数を確認する方法
インストールされているOfficeが32ビット版か64ビット版か、簡単に確認できます。
方法1:Officeアプリから確認(最も簡単)
ステップ1:任意のOfficeアプリを開く
Word、Excel、PowerPointなど、どのアプリでも構いません。ここではExcelを例に説明します。
ステップ2:「ファイル」タブをクリック
左上の「ファイル」タブをクリックします。
ステップ3:「アカウント」を選択
左側のメニューから「アカウント」をクリックします。
ステップ4:「Excelのバージョン情報」をクリック
右側にある「Excelのバージョン情報」(または「バージョン情報」)ボタンをクリックします。
ステップ5:ビット数を確認
開いたウィンドウの上部に、以下のような表示があります。
Microsoft Excel 2021 MSO (16.0.14931.20120) 64ビット
この例では「64ビット」と明記されているので、64ビット版だとわかります。
補足:
- 32ビット版の場合は「32ビット」と表示されます
- バージョン番号の後に記載されています
方法2:レジストリから確認(上級者向け)
コマンドプロンプトやレジストリエディタを使って確認する方法もあります。
レジストリキーの確認:
HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Office\ClickToRun\Configuration
このキーの中にある「Platform」の値を見ます。
- x86 = 32ビット版
- x64 = 64ビット版
方法3:PowerShellで確認
PowerShellを使った確認方法もあります。
Get-ItemProperty HKLM:\SOFTWARE\Microsoft\Office\ClickToRun\Configuration | Select Platform
このコマンドを実行すると、「x86」または「x64」が表示されます。
どちらのビット数を選ぶべきか
64ビット版を選ぶべき人
以下に当てはまる場合は、64ビット版がおすすめです。
Excelで大容量データを扱う
- 100万行以上のデータを扱う
- 複雑なピボットテーブルを作成する
- Power Pivotで大規模データを分析する
画像や動画を多用する
- PowerPointで高解像度の画像を大量に使う
- Wordで大きな画像を含む文書を作成する
メモリが4GB以上ある
- パソコンのメモリが4GB以上なら、64ビット版の恩恵を受けられます
新しいOfficeを使っている
- Office 2019、Office 2021、Microsoft 365なら64ビット版が標準です
32ビット版を選ぶべき人
以下の場合は、32ビット版を選んだ方が安全です。
古いアドインを使用している
- 長年使っている32ビット版のアドインがある
- アドインの開発元が64ビット版に対応していない
古いVBAマクロを使用している
- Declareステートメントを使用したVBAコードがある
- コードを修正する時間やスキルがない
32ビット版のActiveXコントロールを使用
- 業務システムで32ビット版のActiveXが必要
Windowsが32ビット版
- Windows自体が32ビット版の場合、64ビット版Officeはインストールできません
OfficeClientEditionの設定方法
Office展開ツール(ODT)とは
OfficeClientEditionを設定するには、Office展開ツール(Office Deployment Tool)を使用します。
ODTは、Microsoftが提供する無料のツールで、企業や組織で複数のパソコンにOfficeをインストールする際に使われます。
ODTのダウンロード
ステップ1:Microsoftの公式サイトにアクセス
以下のサイトからODTをダウンロードできます。
https://www.microsoft.com/en-us/download/details.aspx?id=49117
ステップ2:ダウンロードして解凍
ダウンロードした実行ファイルを実行すると、setup.exeとサンプルのconfiguration.xmlファイルが展開されます。
configuration.xmlファイルの作成
基本的な64ビット版の設定例:
<Configuration>
<Add OfficeClientEdition="64" Channel="Current">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
基本的な32ビット版の設定例:
<Configuration>
<Add OfficeClientEdition="32" Channel="Current">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
Officeのインストール実行
ステップ1:コマンドプロンプトを管理者権限で開く
Windowsの「スタート」を右クリックして、「コマンドプロンプト(管理者)」を選択します。
ステップ2:ODTのフォルダに移動
cd C:\ODT
(ODTを展開したフォルダのパスを指定してください)
ステップ3:インストールコマンドを実行
setup.exe /configure configuration.xml
このコマンドで、configuration.xmlに記述した設定に基づいてOfficeがインストールされます。
既存のOfficeのビット数を変更する方法
すでにOfficeがインストールされている場合、ビット数を変更するには一度アンインストールしてから再インストールする必要があります。
方法1:通常のアンインストール→再インストール
ステップ1:現在のOfficeをアンインストール
- 「スタート」→「設定」→「アプリ」
- 「Microsoft 365」または「Microsoft Office」を探す
- 「アンインストール」をクリック
ステップ2:新しいビット数でインストール
前述のODTを使用して、希望するビット数のOfficeをインストールします。
方法2:MigrateArch属性を使用(推奨)
Office展開ツールには、MigrateArchという便利な属性があります。これを使えば、アンインストールと再インストールを自動的に行ってくれます。
32ビット版から64ビット版への変更例:
<Configuration>
<Add OfficeClientEdition="64" MigrateArch="TRUE">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
64ビット版から32ビット版への変更例:
<Configuration>
<Add OfficeClientEdition="32" MigrateArch="TRUE">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
実行方法:
setup.exe /configure configuration.xml
このコマンドを実行すると、自動的に以下が行われます。
- 既存のOfficeがアンインストールされる
- 指定したビット数の新しいOfficeがインストールされる
- 言語設定やその他の設定が引き継がれる
重要な注意点:
- MigrateArchは、Click-to-Runでインストールされたバージョンでのみ使用可能
- Windows Installer(MSI)版のOfficeには使えません
- 実行中は、すべてのOfficeアプリを閉じておく必要があります
OfficeClientEditionを指定しない場合
実は、configuration.xmlでOfficeClientEditionを指定しなくても、Officeをインストールできます。
自動判定の仕組み
OfficeClientEditionを指定しない場合、ODTは以下の基準で自動的にビット数を決定します。
新規インストールの場合:
- Windows 32ビット版 → 32ビット版Officeをインストール
- メモリ4GB未満 → 32ビット版Officeをインストール
- 上記以外 → 64ビット版Officeをインストール
既存のOfficeがある場合:
- 既存インストールのビット数に合わせます
- 例:32ビット版Officeが入っている場合、新しく追加するVisioも32ビット版になる
自動判定を活用した汎用的な設定
<Configuration>
<Add Version="MatchInstalled">
<Product ID="VisioProRetail">
<Language ID="MatchInstalled" TargetProduct="O365ProPlusRetail" />
</Product>
</Add>
</Configuration>
この設定では、OfficeClientEditionを指定していないため、既存のOfficeインストールに合わせて自動的にビット数が選択されます。
よくあるトラブルと解決方法
トラブル1:「OfficeClientEditionが正しく設定されていません」エラー
原因:
- configuration.xmlの記述ミス
- “32”や”64″以外の値が指定されている
解決方法:
- XMLファイルの構文を確認
- OfficeClientEdition=”32″ または OfficeClientEdition=”64″ と正確に記述
トラブル2:64ビット版をインストールしたいのに32ビット版になる
原因:
- Windowsが32ビット版
- メモリが4GB未満
解決方法:
- Windows自体を64ビット版にアップグレード
- メモリを増設する
トラブル3:MigrateArchが動作しない
原因:
- MSI版Officeがインストールされている
- Click-to-Run版ではない
解決方法:
- configuration.xmlに
<RemoveMSI />を追加してMSI版を削除 - その後、Click-to-Run版をインストール
修正例:
<Configuration>
<Add OfficeClientEdition="64" MigrateArch="TRUE">
<Product ID="O365ProPlusRetail">
<Language ID="ja-jp" />
</Product>
</Add>
<RemoveMSI />
</Configuration>
トラブル4:アドインが動作しなくなった
原因:
- 32ビット版から64ビット版に変更した際、32ビット専用アドインが動かない
解決方法:
- アドインの64ビット版を入手
- または、32ビット版Officeに戻す
トラブル5:VBAマクロでエラーが出る
原因:
- 64ビット版では、Declareステートメントの書き方が異なる
解決方法:
32ビット版でのコード:
Declare Function GetUserName Lib "advapi32.dll" Alias "GetUserNameA" _
(ByVal lpBuffer As String, nSize As Long) As Long
64ビット版対応コード:
#If VBA7 Then
Declare PtrSafe Function GetUserName Lib "advapi32.dll" Alias "GetUserNameA" _
(ByVal lpBuffer As String, nSize As Long) As Long
#Else
Declare Function GetUserName Lib "advapi32.dll" Alias "GetUserNameA" _
(ByVal lpBuffer As String, nSize As Long) As Long
#End If
PtrSafeキーワードを追加することで、32ビット版と64ビット版の両方で動作するようになります。
企業でのOffice展開におけるベストプラクティス
統一されたビット数の選択
企業や組織では、できるだけすべてのパソコンで同じビット数のOfficeを使用することをおすすめします。
理由:
- サポートが簡単
- ファイルの互換性問題が起きにくい
- トラブルシューティングが容易
段階的な移行計画
32ビット版から64ビット版に移行する場合は、段階的に進めましょう。
ステップ1:テスト環境で検証
- 少数のパソコンで64ビット版をテスト
- 使用中のアドインやマクロの動作確認
ステップ2:パイロット展開
- 一部の部署やグループに展開
- 問題がないか数週間観察
ステップ3:全社展開
- 問題がなければ、全社的に展開
Office Customization Toolの活用
XMLファイルを手動で編集するのは大変なので、Microsoftが提供するOffice Customization Toolを使うと便利です。
このツールはWebベースで、GUIで簡単に設定ファイルを作成できます。
https://config.office.com
まとめ
OfficeClientEditionは、Officeのビット数(32ビットか64ビットか)を指定する重要な設定項目です。
重要なポイント:
- 確認方法:Officeアプリの「ファイル」→「アカウント」→「バージョン情報」から簡単に確認できる
- 推奨バージョン:Office 2019以降は64ビット版が推奨
- 選択基準:
- 大容量データを扱う → 64ビット版
- 古いアドインを使用 → 32ビット版
- 変更方法:MigrateArch属性を使えば、自動的にビット数を変更できる
- 自動判定:OfficeClientEditionを指定しない場合、ODTが自動的に適切なビット数を選択
自分の使用状況に合わせて適切なビット数を選び、快適なOffice環境を構築してください。企業で展開する場合は、事前のテストと段階的な移行を心がけましょう。
OfficeClientEditionの設定は、一度理解してしまえば難しくありません。この記事が、皆さんのOffice環境の最適化に役立てば嬉しいです!

コメント