Linux や macOS のコマンドラインを使い始めると、必ずテキストファイルを編集する場面に遭遇します。
設定ファイルの修正、プログラムコードの作成、メモの作成など、テキスト編集は日常的な作業です。
そんなとき、「vim は複雑すぎる」「emacs は覚えることが多い」と感じたことはありませんか?
nano は、そうした初心者の方にぴったりの、シンプルで使いやすいテキストエディタです。
この記事では、nano を初めて使う方でも、迷わずに基本操作から応用技術まで習得できるよう、詳しく解説します。
nano とは?特徴と利点

nano の基本的な特徴
シンプルで直感的
- モード切り替えが不要(vim のような複雑さがない)
- 起動と同時に文字入力が可能
- 画面下部に操作方法が常に表示される
- Windows の「メモ帳」に近い感覚で使える
軽量で高速
- 起動が早い
- メモリ使用量が少ない
- リモートサーバーでも快適に動作
- 古いシステムでも安定して動作
機能的でありながら簡単
- シンタックスハイライト(色分け表示)
- 検索・置換機能
- 行番号表示
- 自動インデント
他のエディタとの比較
特徴 | nano | vim | emacs |
---|---|---|---|
学習コスト | 低い | 高い | 高い |
モード切り替え | なし | あり | なし |
起動速度 | 高速 | 高速 | やや遅い |
機能の豊富さ | 基本的 | 豊富 | 非常に豊富 |
初心者向け | ◎ | △ | △ |
nano のインストールと起動

インストール状況の確認
ほとんどの Linux ディストリビューションには標準でインストールされています
# nano が利用可能か確認
which nano
# バージョン確認
nano --version
インストールが必要な場合
Ubuntu/Debian系
sudo apt update
sudo apt install nano
CentOS/RHEL/Fedora系
# Fedora
sudo dnf install nano
# CentOS 7以前
sudo yum install nano
macOS(Homebrew使用)
# Homebrew でより新しいバージョンをインストール
brew install nano
基本操作:ファイルを開いて編集する
ファイルを開く・作成する
既存ファイルを開く
nano existing_file.txt
新しいファイルを作成
nano new_file.txt
# ファイルが存在しない場合は新規作成される
複数ファイルを同時に開く
nano file1.txt file2.txt file3.txt
# Ctrl + R でファイル間を切り替え
読み取り専用で開く
nano -v important_file.txt
# 誤って編集することを防ぐ
基本的な編集操作
文字の入力
- nano を起動したら、すぐに文字を入力できます
- 特別なコマンドやモード切り替えは不要
- 日本語も問題なく入力・表示可能
カーソルの移動
矢印キー: ↑ ↓ ← →
Home: 行の先頭へ
End: 行の末尾へ
Page Up: 1画面上へ
Page Down: 1画面下へ
Ctrl + A: 行の先頭へ
Ctrl + E: 行の末尾へ
文字の削除
Backspace: カーソル前の文字を削除
Delete: カーソル位置の文字を削除
Ctrl + H: Backspace と同じ
Ctrl + D: Delete と同じ
重要なショートカットキー

必須操作:保存と終了
保存(Write Out)
Ctrl + O
Ctrl + O
を押す- ファイル名を確認(変更可能)
Enter
を押して保存実行
終了(eXit)
Ctrl + X
- 変更がある場合:保存するか確認される
- 変更がない場合:そのまま終了
保存せずに強制終了
Ctrl + X
を押す- 「保存しますか?」で
N
を押す - 「変更を破棄しますか?」で
Y
を押す
テキスト編集の基本操作
行の操作
Ctrl + K: 現在行をカット(切り取り)
Ctrl + U: カットした行をペースト(貼り付け)
Ctrl + 6: テキスト選択の開始/終了
Alt + 6: 選択範囲をコピー
実際の使用例
- 行の移動
- カーソルを移動したい行に置く
Ctrl + K
で行をカット- 貼り付けたい位置に移動
Ctrl + U
でペースト
- 複数行のコピー
- コピーしたい範囲の最初で
Ctrl + 6
- 矢印キーで範囲を選択
Alt + 6
でコピー- 貼り付け位置で
Ctrl + U
- コピーしたい範囲の最初で
検索と置換
検索(Where is)
Ctrl + W
Ctrl + W
を押す- 検索したい文字列を入力
Enter
で検索実行Ctrl + W
を再度押すと次の候補へ
置換(Replace)
Ctrl + \ (バックスラッシュ)
Ctrl + \
を押す- 「置換前の文字列」を入力して
Enter
- 「置換後の文字列」を入力して
Enter
- 各候補で
Y
(置換)、N
(スキップ)、A
(すべて置換)を選択
大文字小文字を区別しない検索
Alt + C
検索画面で Alt + C
を押すと、大文字小文字を区別しない検索に切り替わります。
ナビゲーションと表示
行番号への移動
Ctrl + _ (アンダースコア)
Ctrl + _
を押す- 移動したい行番号を入力
Enter
で該当行に移動
現在位置の確認
Ctrl + C
現在のカーソル位置(行番号、列番号)と全体の情報が表示されます。
画面の再描画
Ctrl + L
画面表示が崩れた場合に使用します。
表示設定とカスタマイズ

行番号の表示
一時的に行番号を表示
nano -l filename.txt
# または
nano --linenumbers filename.txt
常に行番号を表示する設定
# 設定ファイルを開く
nano ~/.nanorc
# 以下の行を追加
set linenumbers
nano 内で行番号の表示/非表示を切り替え
Alt + #
便利な表示オプション
タブサイズの設定
# 起動時に指定
nano -T 4 filename.txt
# 設定ファイルに記述
echo "set tabsize 4" >> ~/.nanorc
自動インデント
# 起動時に指定
nano -i filename.txt
# 設定ファイルに記述
echo "set autoindent" >> ~/.nanorc
行の折り返し無効
# 起動時に指定
nano -w filename.txt
# 設定ファイルに記述
echo "set nowrap" >> ~/.nanorc
高度な機能
ファイル操作
ファイルの挿入
Ctrl + R
Ctrl + R
を押す- 挿入したいファイル名を入力
Enter
で現在位置にファイル内容を挿入
新しいバッファ(ファイル)の作成
Alt + E
現在のファイルを開いたまま、新しいファイルを作成できます。
バッファ間の切り替え
Alt + < (前のバッファ)
Alt + > (次のバッファ)
選択とコピー・ペースト
テキスト選択の詳細操作
Ctrl + 6: 選択開始/終了
Alt + A: すべて選択
Alt + 6: 選択範囲をコピー
Ctrl + K: 選択範囲をカット
Ctrl + U: ペースト
実際の選択手順
- 選択したい範囲の開始点にカーソルを移動
Ctrl + 6
を押す(選択モード開始)- 矢印キーで選択範囲を拡張
Alt + 6
でコピー、またはCtrl + K
でカット- 貼り付け位置で
Ctrl + U
スペルチェック
スペルチェック機能
Ctrl + T
spell コマンドがインストールされている場合、スペルチェックを実行できます。
スペルチェッカーのインストール
# Ubuntu/Debian
sudo apt install spell
# 使用例
nano -T 4 document.txt
# Ctrl + T でスペルチェック実行
設定ファイル(.nanorc)の活用

基本的な設定ファイル
設定ファイルの作成と編集
nano ~/.nanorc
推奨設定例
# ~/.nanorc の設定例
# 行番号を表示
set linenumbers
# 自動インデント
set autoindent
# タブサイズを4に設定
set tabsize 4
# 長い行の折り返しを無効
set nowrap
# スムーズスクロール
set smooth
# マウスサポート
set mouse
# 削除時の確認
set tempfile
# バックアップファイルの作成
set backup
set backupdir "~/.nano/backup"
# シンタックスハイライトを有効
include "/usr/share/nano/*.nanorc"
シンタックスハイライト
対応言語の確認
ls /usr/share/nano/
カスタムハイライトの設定
# Python 用のカスタム設定例
syntax "python" "\.py$"
color brightblue "\<(and|as|assert|break|class|continue|def|del|elif|else|except|exec|finally|for|from|global|if|import|in|is|lambda|not|or|pass|print|raise|return|try|while|with|yield)\>"
color brightcyan "\<(True|False|None)\>"
color brightred "\".*\"|'.*'"
color brightgreen "#.*$"
実践的な使用例
プログラミングでの活用
Python スクリプトの作成
# 新しい Python ファイルを作成
nano hello.py
# 以下の内容を入力
#!/usr/bin/env python3
print("Hello, World!")
# 保存(Ctrl + O → Enter)
# 終了(Ctrl + X)
# 実行権限を付与して実行
chmod +x hello.py
python3 hello.py
設定ファイルの編集
# SSH 設定の編集
nano ~/.ssh/config
# Apache 設定の編集(管理者権限)
sudo nano /etc/apache2/apache2.conf
# 環境変数の設定
nano ~/.bashrc
システム管理での活用
ログファイルの確認
# システムログの確認(読み取り専用)
nano -v /var/log/syslog
# 設定ファイルのバックアップを作成してから編集
sudo cp /etc/nginx/nginx.conf /etc/nginx/nginx.conf.backup
sudo nano /etc/nginx/nginx.conf
crontab の編集
# 環境変数でnanoを指定
export EDITOR=nano
# crontab の編集
crontab -e
文書作成での活用
マークダウンファイルの作成
nano README.md
# マークダウン記法での文書作成
# シンタックスハイライトが自動適用される
設定管理での活用
# Docker compose ファイルの編集
nano docker-compose.yml
# 設定ファイルの一括編集
for file in *.conf; do
nano "$file"
done
トラブルシューティング

よくある問題と解決法
問題1:日本語が正しく表示されない
原因と対処法
# ロケール設定の確認
locale
# UTF-8 に設定されていない場合
export LANG=ja_JP.UTF-8
export LC_ALL=ja_JP.UTF-8
# 永続的な設定
echo 'export LANG=ja_JP.UTF-8' >> ~/.bashrc
問題2:ショートカットキーが効かない
考えられる原因
- ターミナルエミュレータの設定
- Ctrl + S(フロー制御)が有効になっている
- 解決:
Ctrl + Q
で解除
- tmux/screen 使用時
- セッション管理ツールのキーバインドと競合
- 解決:エスケープシーケンスを使用
# tmux 使用時の例
# Ctrl + B を押してから Ctrl + O
問題3:権限エラーで保存できない
症状と対処法
# 権限不足で保存できない場合
# 一時的に別名で保存
Ctrl + O → 別のファイル名で保存
# その後、権限のあるユーザーでファイルを移動
sudo mv temp_file.txt /etc/original_file.conf
# または、sudo でnanoを起動し直す
sudo nano /etc/protected_file.conf
問題4:画面表示が崩れる
対処法
# 画面の再描画
Ctrl + L
# ターミナルサイズの確認
echo $COLUMNS $LINES
# 強制的に画面サイズを設定
stty rows 24 cols 80
パフォーマンス最適化
大きなファイルを扱う場合
# 構文ハイライトを無効にして軽量化
nano -Y none large_file.txt
# 行番号を無効にして高速化
nano +1 large_file.txt
リモートサーバーでの使用
# 通信量を減らすため、最小限の設定で使用
nano -w -T 4 remote_file.txt
他のエディタとの連携

nano から他のエディタへの移行
nano で基礎を学んだ後の次のステップ
- vim への移行
- modal editing の概念を学習
- より高度な編集機能の活用
- emacs への移行
- 拡張性の高い環境の構築
- プログラミング支援機能の活用
nano の経験を活かす
- ファイル操作の基本概念
- ショートカットキーの習慣
- テキスト編集の効率化意識
IDEとの使い分け
nano を使う場面
- 設定ファイルの簡単な修正
- リモートサーバーでの作業
- 軽量な作業環境が必要な場合
- シンプルなスクリプト作成
IDE を使う場面
- 大規模なプロジェクト開発
- デバッグ機能が必要な場合
- プロジェクト管理機能が必要
- 自動補完・リファクタリング機能が重要
まとめ:nano で効率的なテキスト編集を
nano は、シンプルさと実用性を兼ね備えた優秀なテキストエディタです。
学習コストが低く、すぐに実用的な作業ができるため、Linux/Unix 環境でのテキスト編集の入門として最適です。
今日から実践できること
基本操作の習得
nano test.txt
でファイルを作成- 文字を入力して基本操作を体験
Ctrl + O
→Ctrl + X
で保存・終了- 毎日少しずつ使って操作を身体で覚える
設定のカスタマイズ
~/.nanorc
ファイルの作成- 行番号表示、自動インデントの設定
- 自分の作業スタイルに合わせた調整
実際の作業での活用
- 設定ファイルの編集
- 簡単なスクリプト作成
- ドキュメント作成
- ログファイルの確認
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