Webアプリケーションやシステム開発で「データベース」を選ぶ際、MySQLとMariaDBという2つの名前をよく見かけます。
「どちらも無料で使える」「ほぼ同じもの」と聞くけれど、実際にはどう違うのでしょうか?そして、新しくプロジェクトを始めるなら、どちらを選ぶべきなのでしょうか?
この記事では、MySQLとMariaDBの歴史や違い、互換性、パフォーマンス比較から、実際の選び方まで、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。
MySQLとMariaDBの基本|そもそも何が違う?
MySQLとは?
MySQL(マイエスキューエル)は、世界で最も人気のあるオープンソースのリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)です。
基本情報
- 開発開始:1995年
- 開発元:現在はOracle Corporation(オラクル社)
- ライセンス:GPL(オープンソース)とCommercial(商用ライセンス)のデュアルライセンス
- 読み方:「マイエスキューエル」が一般的
特徴
- 世界中で広く使われている
- Webアプリケーションに最適
- WordPress、Facebook、Twitterなど多くのサービスで採用
- 豊富なドキュメントとコミュニティ
MariaDBとは?
MariaDB(マリアディービー)は、MySQLから派生(フォーク)したオープンソースのRDBMSです。
基本情報
- 開発開始:2009年
- 開発元:MariaDB Foundation(マリアDB財団)
- ライセンス:GPL(完全オープンソース)
- 読み方:「マリアディービー」
特徴
- MySQLの創設者が立ち上げた
- MySQLとの互換性を重視
- Oracle社の影響を受けない独立したプロジェクト
- より自由なオープンソース開発
なぜMariaDBが誕生したのか?
MariaDBが生まれた背景には、ビジネス上の大きな出来事がありました。
歴史的な経緯
- 2008年:Oracleによる買収
- Sun Microsystems社(MySQLの所有企業)をOracle社が買収
- Oracle社は商用データベース最大手でもある
- オープンソースコミュニティの懸念
- 「Oracle社が競合するMySQLの開発を妨げるのでは?」
- 「商用化が進んで、自由に使えなくなるのでは?」
- 2009年:MariaDBプロジェクト開始
- MySQL創設者のマイケル・ワイドニウス氏が新プロジェクトを立ち上げ
- 「MySQLの本来の精神を受け継ぐ」という目標
- 名前の由来:ワイドニウス氏の娘の名前「Maria」から
- 現在:独自の発展
- 当初はMySQLの完全互換を目指していた
- 現在は独自の機能も多数追加され、独立したプロダクトに
MySQLとMariaDBの互換性|本当に置き換えられる?
「MariaDBはMySQLの代替」とよく言われますが、実際の互換性はどうでしょうか?
基本的な互換性
高い互換性がある領域
- 基本的なSQL文法
- データ型
- 標準的な関数
- クライアント接続プロトコル
- ストレージエンジン(InnoDB、MyISAMなど)
つまり、シンプルなデータベース操作であれば、ほぼ問題なく置き換えられます。
バージョンによる違い
互換性はバージョンによって異なります。
初期バージョン(MariaDB 5.5、10.0、10.1)
- MySQLとの互換性が非常に高い
- ほぼ完全に置き換え可能
- データ移行も比較的簡単
最新バージョン(MariaDB 10.5以降)
- 独自機能が増えている
- 一部の機能でMySQLとの互換性が低下
- 新機能を使うと、MySQL側に戻せなくなることも
互換性のない機能や仕様
MariaDB独自の機能(MySQLにはない)
- Galera Cluster(クラスタリング機能)
- ColumnStore(カラム型ストレージエンジン)
- 一部の拡張SQL機能
- バーチャルカラムの拡張機能
MySQLにあってMariaDBにない機能
- MySQL Enterprise Edition限定の機能
- MySQL 8.0以降の一部の新機能
- X Protocol(ドキュメント指向API)
データ移行の難易度
MySQLからMariaDBへの移行
- 比較的簡単
- 多くの場合、データをそのまま使える
- 注意深くテストすれば、大きな問題は少ない
MariaDBからMySQLへの移行(逆方向)
- 少し難しい
- MariaDB独自機能を使っていると、問題が発生する
- バージョンによっては、データ変換が必要
パフォーマンス比較|どちらが速い?
速度は重要な選択基準の一つです。ベンチマーク結果を見てみましょう。
読み取り性能(SELECT)
一般的な傾向
- 単純なクエリ:ほぼ同等
- 複雑な結合(JOIN):MariaDBがやや有利な場合が多い
- インデックスの活用:両者とも優秀
具体的な数値
- 差があっても数パーセント程度
- 実用上はほぼ同じと考えて良い
書き込み性能(INSERT、UPDATE)
一般的な傾向
- 単純な挿入:ほぼ同等
- 大量の一括挿入:MariaDBがやや有利
- トランザクション処理:バージョンや設定に依存
レプリケーション性能
MariaDBの優位性
- Galera Clusterによる並列レプリケーション
- マルチマスター構成が標準で可能
- レプリケーション遅延が少ない
MySQLの対応
- MySQL 8.0以降でグループレプリケーション機能を強化
- InnoDB Clusterで同様の機能を提供
パフォーマンスに影響する要因
実際のパフォーマンスは、多くの要因に左右されます。
重要な要因
- ハードウェアのスペック(CPU、メモリ、ディスク)
- データベースの設計(テーブル構造、インデックス)
- クエリの書き方
- チューニング設定
- ワークロードの種類(読み取り中心 vs 書き込み中心)
機能面での違い|それぞれの独自機能
基本的な機能は似ていますが、独自の特徴もあります。
MariaDB独自の機能
1. ストレージエンジンの選択肢
MariaDBは、MySQLよりも多くのストレージエンジンに対応しています。
- Aria:MyISAMの改良版、クラッシュセーフ
- ColumnStore:カラム型データベース、分析処理に最適
- Spider:シャーディング(データ分散)をサポート
- MyRocks:SSDに最適化されたストレージエンジン
2. Galera Cluster
- マルチマスター同期レプリケーション
- 複数のサーバーが同時に書き込み可能
- 自動フェイルオーバー(障害時の自動切り替え)
3. 高度なSQL機能
- ウィンドウ関数(Window Functions)を早期にサポート
- 共通テーブル式(CTE:Common Table Expressions)
- INTERSECT、EXCEPTなどの集合演算子
4. スレッドプール
- 接続数が多い環境でのパフォーマンス向上
- オープンソース版で利用可能(MySQLは商用版のみ)
MySQL独自の機能
1. MySQL Enterprise Edition
商用ライセンス版には、多くの追加機能があります。
- MySQL Enterprise Monitor:監視ツール
- MySQL Enterprise Backup:高速バックアップ
- MySQL Enterprise Security:高度なセキュリティ機能
- MySQL Firewall:SQLインジェクション対策
※ これらは有料版のみの機能です
2. ドキュメントストア機能
- JSON型のネイティブサポート
- X Protocol(NoSQLライクなドキュメント指向API)
- MongoDBのような使い方も可能
3. MySQL Shell
- モダンなコマンドラインツール
- JavaScript、Python、SQLをサポート
- 対話的な操作が可能
ライセンスとサポート体制の違い
無料でも使えますが、ライセンスとサポートには違いがあります。
ライセンスの違い
MySQL
- GPL v2:オープンソース版
- Commercial License:商用ライセンス(有料)
- デュアルライセンス方式
注意点
- GPLで使用する場合、派生ソフトウェアもGPLにする必要がある
- 商用製品に組み込む場合は、通常Commercial Licenseが必要
MariaDB
- GPL v2:完全オープンソース
- 商用ライセンスはない
- よりオープンな姿勢
メリット
- ライセンスがシンプル
- 将来的な変更の心配が少ない
サポート体制
MySQLのサポート
- Oracle社による公式サポート(有料)
- MySQL Enterprise Editionに含まれる
- 24時間365日の技術サポート
MariaDBのサポート
- MariaDB Corporation(企業)による公式サポート(有料)
- MariaDB Platformとして提供
- SkySQL(クラウド版)も提供
コミュニティサポート
- 両方とも活発なコミュニティがある
- フォーラム、メーリングリスト、Stack Overflow
- 日本語の情報はMySQLの方が豊富
どちらを選ぶべき?用途別の選択ガイド
実際にプロジェクトで使う際、どちらを選べば良いのでしょうか?
MySQLを選ぶべきケース
1. 実績と安定性を重視
- 歴史が長く、実績が豊富
- 企業での採用事例が多い
- 保守的な選択として安心
2. 情報の豊富さ
- 日本語の書籍やドキュメントが多い
- トラブルシューティングの情報が見つかりやすい
- 初心者にも学びやすい
3. 特定のツールやフレームワークとの相性
- 一部のツールがMySQLしかサポートしていない
- レガシーなシステムとの互換性
4. Oracle製品との連携
- Oracle Cloud Infrastructureを使用している
- 他のOracle製品と統合する予定
5. 商用サポートが必要
- Oracle社の企業サポートが欲しい
- MySQL Enterprise Editionの機能が必要
MariaDBを選ぶべきケース
1. オープンソースを重視
- 完全にオープンソースのプロダクトを使いたい
- ベンダーロックインを避けたい
- 将来的なライセンス変更の心配をしたくない
2. 高度なレプリケーション
- Galera Clusterが必要
- マルチマスター構成を簡単に構築したい
- 高可用性が重要
3. 特定のストレージエンジン
- ColumnStore(分析処理)を使いたい
- MyRocksやSpiderが必要
4. 最新機能を試したい
- 新機能の開発が活発
- コミュニティ主導の開発
- 革新的な機能を早く使える
5. Linux ディストリビューションの標準
- Red Hat Enterprise Linux、Fedoraの標準はMariaDB
- Debian、Ubuntuも標準リポジトリに含まれる
- システムとの統合が簡単
中立的な選択肢
どちらでも良いケース
- 小〜中規模のWebアプリケーション
- WordPress、Laravel、Railsなどの一般的なフレームワーク
- 標準的なSQL機能だけを使う
- 基本的なCRUD操作が中心
この場合、個人の好みや慣れで選んでも問題ありません。
主要なLinuxディストリビューションでの対応
OSによって、デフォルトのデータベースが異なります。
MariaDBを標準採用しているディストリビューション
Red Hat系
- Red Hat Enterprise Linux(RHEL)8以降
- CentOS 8以降(CentOS Streamを含む)
- Fedora
- Rocky Linux
- AlmaLinux
Debian系
- Debian 9(Stretch)以降
- Ubuntu(両方インストール可能だが、MariaDBを推奨)
その他
- openSUSE
- Arch Linux
MySQLも標準で提供されているディストリビューション
Ubuntu
- MySQLとMariaDBの両方が公式リポジトリにある
- ユーザーが選択できる
注意点
- 多くのディストリビューションがMariaDBに移行している背景には、ライセンスやオープンソースポリシーの問題がある
- ただし、MySQLも別途インストール可能
実際の移行体験と注意点
既存のMySQLシステムをMariaDBに移行する場合の注意点を紹介します。
移行前の準備
1. バージョンを確認
- 現在のMySQLのバージョン
- 移行先のMariaDBのバージョン
- 互換性マトリックスを確認
2. 使用機能のチェック
- 使っているSQL機能をリストアップ
- MariaDBで同じ機能が使えるか確認
- 特殊な拡張機能やプラグインの有無
3. テスト環境の構築
- 本番環境と同じ構成のテスト環境を用意
- 実際にデータを移行してテスト
- アプリケーションの動作確認
移行手順
基本的な流れ
- バックアップ
mysqldump --all-databases > backup.sql
- MariaDBのインストール
# Ubuntu/Debianの例
sudo apt install mariadb-server
- データのリストア
mysql < backup.sql
- 動作確認
- アプリケーションの接続テスト
- クエリの実行確認
- パフォーマンステスト
移行時によくある問題
問題1:認証方式の違い
- MySQL 8.0以降は認証プラグインが変更されている
- 古いクライアントで接続できないことがある
解決策
- 認証方式を明示的に指定
- クライアントライブラリを更新
問題2:関数の動作の違い
- 一部の関数で挙動が異なる場合がある
- 特にMARIADB_VERSION()などの情報関数
解決策
- 事前に動作を確認
- 必要に応じてクエリを修正
問題3:文字コードの問題
- デフォルトの文字コードが異なる場合がある
解決策
- 明示的にutf8mb4を指定
- 設定ファイルで統一
パフォーマンスチューニングの違い
基本的な設定は似ていますが、一部で違いがあります。
共通の重要設定
両方で有効な主要なチューニング項目です。
innodb_buffer_pool_size
- 最も重要な設定の一つ
- システムメモリの50〜70%を割り当てるのが一般的
- 読み取り・書き込み性能に直結
max_connections
- 同時接続数の上限
- 接続が多い場合は増やす
- ただし、メモリ消費にも注意
query_cache_size(MySQL 5.7まで)
- クエリキャッシュのサイズ
- MySQL 8.0で廃止された機能
- MariaDBでは引き続き利用可能
MariaDB固有の設定
thread_pool_size
- スレッドプールのサイズ
- 高負荷時のパフォーマンス向上
- MySQLのCommunity Editionにはない
aria_pagecache_buffer_size
- Ariaストレージエンジン用のキャッシュ
- MyISAMテーブルを使う場合に重要
MySQL固有の設定
innodb_adaptive_hash_index
- アダプティブハッシュインデックス
- 頻繁にアクセスされるデータへの高速アクセス
- MySQL 8.0で改良
よくある質問(FAQ)
Q1. MySQLからMariaDBに切り替えると、アプリケーションの修正は必要?
A. 基本的には不要ですが、テストは必須です。
標準的なSQL文を使っているアプリケーションなら、ほとんどの場合そのまま動作します。ただし、以下の点に注意してください:
- MySQL固有の関数や機能を使っている場合は確認が必要
- バージョンによって動作が変わる可能性がある
- 必ず本番前に十分なテストを実施
Q2. WordPressはMySQLとMariaDB、どちらで動く?
A. どちらでも問題なく動作します。
WordPressの公式要件では、両方がサポートされています。実際、多くのレンタルサーバーでMariaDBが使われており、全く問題ありません。
推奨バージョン
- MySQL 5.7以上、または
- MariaDB 10.3以上
Q3. 既存のMySQLデータをMariaDBに移行するのは難しい?
A. 比較的簡単ですが、慎重に行う必要があります。
基本的な手順:
- mysqldumpでバックアップ
- MariaDBにリストア
- 動作確認
ただし、大規模なデータベースや複雑な構成の場合は、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
Q4. パフォーマンスはどちらが上?
A. 一概には言えませんが、用途によって違いがあります。
- 標準的な用途:ほぼ同等
- レプリケーション:MariaDBがやや有利
- 複雑なクエリ:ケースバイケース
- 実際のパフォーマンスは、設定やハードウェアに大きく依存します
Q5. 商用利用する場合、ライセンス料は必要?
A. 基本的には無料です。ただし条件があります。
無料で使えるケース
- 自社のWebサービスやアプリケーションで使う
- GPLのルールを守る限り、制限なし
商用ライセンスが必要なケース(MySQLのみ)
- 製品やサービスにMySQLを組み込んで販売する
- GPLのソースコード公開義務を避けたい場合
MariaDBは完全にGPLなので、この点はより自由度が高いです。
Q6. これから学ぶなら、どちらを勉強すべき?
A. MySQLから始めるのがおすすめです。
理由:
- 学習資料が圧倒的に多い
- 両方に共通する知識が身につく
- MySQLを学べば、MariaDBもすぐに使える
- 求人市場でのニーズも高い
ただし、MariaDB特有の機能が必要なら、最初からMariaDBを学ぶのも良い選択です。
まとめ|MySQLとMariaDB、結局どちらを選ぶ?
MySQLとMariaDBは、兄弟のような関係でありながら、それぞれ独自の道を歩んでいます。
この記事の重要ポイント
- MariaDBはMySQLから派生したオープンソースのRDBMS
- 基本的な互換性は高いが、バージョンが上がるほど独自性が増している
- パフォーマンスは用途によるが、実用上は大きな差はない
- MariaDBは完全オープンソース、MySQLは商用版もある
- 多くのLinuxディストリビューションがMariaDBを標準採用
- どちらも広く使われており、どちらを選んでも問題ない
選択の基準
- 安定性と実績重視 → MySQL
- オープンソース重視 → MariaDB
- 特殊な機能が必要 → 機能で判断
- 標準的な用途 → どちらでもOK
最終的には、プロジェクトの要件、チームの経験、将来的な拡張性などを総合的に判断して選ぶことが大切です。
どちらを選んでも、リレーショナルデータベースの基本は変わりません。まずは一つをしっかり学び、必要に応じてもう一方も試してみる、というアプローチがおすすめです。
あなたのプロジェクトに最適なデータベースを見つけて、素晴らしいアプリケーションを作ってくださいね。
コメント