Webブラウザ「Firefox」や電子メールクライアント「Thunderbird」といったソフトウェアを開発している組織をご存じでしょうか。
これらを開発しているのが、アメリカの非営利団体「Mozilla Foundation(モジラ・ファウンデーション)」です。
Mozillaは、オープンで健全なインターネットの実現を目指し、20年以上にわたって活動を続けています。
本記事では、Mozilla Foundationの歴史、組織構造、主要製品、理念、資金源まで、中学生でも理解できるよう分かりやすく解説します。
Mozilla Foundationとは

Mozilla Foundation(モジラ・ファウンデーション)は、オープンソースのMozillaプロジェクトを支援・運営するために設立されたアメリカの非営利団体です。
2003年7月15日に設立され、カリフォルニア州マウンテンビューに本部を置いています。
略称は「MoFo」または「MF」です。
主な役割
Mozilla Foundationの主な役割は、以下の通りです。
開発方針の決定
Mozillaプロジェクト全体の開発方針を策定し、プロジェクトの方向性を定めています。
どの機能を優先的に開発するか、どのような技術を採用するかなど、重要な意思決定を行います。
インフラの運営
開発に必要なサーバー、コード管理システム、バグ追跡システムなど、重要なインフラを運営しています。
世界中の開発者が協力して開発を進めるための基盤を提供しています。
商標と知的財産権の管理
「Mozilla」「Firefox」「Thunderbird」などの商標や、ソフトウェアに関する知的財産権を管理しています。
これらの権利を適切に保護することで、プロジェクトの持続可能性を確保しています。
オープンソースコミュニティの支援
世界中のボランティア開発者やコミュニティを支援し、オープンソースプロジェクトの発展を促進しています。
技術的なサポートだけでなく、資金的な支援も行っています。
ミッション
Mozilla Foundationは自らを「インターネット上でオープン性、革新性、参加を促進する非営利組織」と定義しています。
Mozilla Manifestoと呼ばれる10の原則に基づいて活動しており、インターネットが公共の利益に奉仕し続けることを目指しています。
Mozilla Foundationの歴史
Mozilla Foundationの設立に至るまでには、Netscape Navigatorの時代から続く長い歴史があります。
起源:Mozilla Organization(1998年)
1998年2月23日、Netscape Communications Corporationは、Mozilla Application Suiteの開発を支援するため、Mozilla Organizationを設立しました。
これは、Netscapeが自社のWebブラウザ「Netscape Communicator」のソースコードをオープンソースとして公開したことがきっかけでした。
当時、Netscape社は「NCSA Mosaic」というWebブラウザと競合していました。
「Mozilla」という名称は、「Mosaic killer(モザイクキラー)」を略した開発コード名に由来します。
また、「Mosaic」と日本の怪獣映画「ゴジラ(Godzilla)」を掛け合わせたという説もあります。
Mozilla Organizationは、Netscapeの社員を中心に構成されていましたが、Netscapeから独立して運営される原則がありました。
Mozilla Foundation設立(2003年7月15日)
1990年代後半、Netscapeは「Internet Explorer」を開発するMicrosoftとの激しい競争に敗れ、ブラウザ事業から撤退することになりました。
Netscapeの親会社であるAOL(America Online)は、Mozilla Organizationとの関係を大幅に縮小しました。
このままではMozillaプロジェクトが存続できなくなるという危機的状況の中、2003年7月15日、Mozilla Foundationが非営利団体として設立されました。
これにより、MozillaはNetscapeとの関係を完全に切り離し、独立した組織となりました。
設立時の支援
AOLは、Mozilla Foundation設立にあたり、以下の支援を提供しました。
- ハードウェアや知的財産権の移譲
- 移行を支援するための3人のチームの派遣(3か月間)
- 2年間で200万ドルの寄付
また、起業家のMitch Kapor(ミッチ・ケイパー)氏が30万ドルを寄付し、初代理事長に就任しました。
Mozilla Corporation設立(2005年8月3日)
2005年8月3日、Mozilla Foundationは完全子会社として「Mozilla Corporation」を設立しました。
非営利団体であるMozilla Foundationには、収益活動に関する法的な制約があります。
たとえば、企業との大規模な契約や広告収入などは、非営利団体として扱いにくい面がありました。
そこで、収益活動を担当する営利法人としてMozilla Corporationが設立されました。
コーポレーションは課税対象の法人ですが、得られた収益はすべてMozilla Foundationに還元されます。
株式公開はせず、株主も存在しません。
Mozilla Corporationの主な役割
- FirefoxやThunderbirdなどの製品開発
- マーケティングと製品の宣伝
- 企業との提携や契約の窓口
- 製品のリリース調整
MZLA Technologies Corporation設立(2020年1月28日)
2020年1月28日、Mozilla Foundationは新たな完全子会社「MZLA Technologies Corporation」を設立しました。
この子会社は、電子メールクライアント「Thunderbird」の開発と運営を専門に担当します。
独立した法人として設立された理由は、Thunderbirdプロジェクトにより大きな自由度を与え、新しいビジネスモデルや収益源を探索するためです。
Mozilla Ventures設立(2022年11月)
2022年11月、Mozilla Foundationは「Mozilla Ventures」を設立しました。
これは、3500万ドルの資金を持つベンチャーキャピタルファンドです。
Mozilla Venturesは、Mozilla Manifestoの価値観に基づくスタートアップ企業への投資を行います。
プライバシーを尊重する技術や、オープンでより良いインターネットの実現を目指す企業を支援しています。
近年の動向
2024年5月15日
Nabiha Syed(ナビハ・サイード)氏がMozilla Foundationのエグゼクティブディレクター(事務局長)に就任しました。
2024年11月
Mozilla Foundationは、財政的な圧力に直面し、従業員の約30%を削減しました。
アドボカシー部門とグローバルプログラム部門が廃止され、中核的な取り組みに注力する戦略的転換が行われました。
組織構造
Mozilla Foundationは、2つの完全子会社を所有しています。
Mozilla Foundation(親組織)
設立: 2003年7月15日
所在地: カリフォルニア州マウンテンビュー
法的地位: アメリカ合衆国国税収入局規約501(c)(3)による連邦所得税免除団体
主な役割
- Mozillaの商標と知的財産権の所有・管理
- ソースコードリポジトリの管理
- 開発方針の策定
- 非営利活動(教育、アドボカシー、助成金など)
- CaminoやSeaMonkeyなどのコミュニティプロジェクトの支援
Mozilla Corporation(子会社)
設立: 2005年8月3日
法的地位: 課税対象の営利法人(ただし100%Mozilla Foundationが所有)
主な役割
- Firefox、Thunderbirdの製品開発・リリース
- マーケティング活動
- 企業との提携・契約
- 収益活動(検索エンジンとの契約など)
重要なポイント: Mozilla Corporationで得られた収益は、課税後、すべてMozilla Foundationに還元されます。
MZLA Technologies Corporation(子会社)
設立: 2020年1月28日
法的地位: 課税対象の営利法人(100%Mozilla Foundationが所有)
主な役割
- Thunderbird電子メールクライアントの開発
- Thunderbirdのリリース調整
- Thunderbird関連のビジネス開発
主要製品とプロジェクト
Mozilla Foundationとその子会社は、様々なソフトウェアやプロジェクトを展開しています。
Mozilla Firefox
Firefoxは、Mozilla Corporationが開発・提供しているオープンソースのWebブラウザです。
2004年11月9日に最初のメジャーバージョン(Firefox 1.0)がリリースされました。
特徴
- オープンソース
- プライバシー保護機能が充実
- 拡張機能(アドオン)による高いカスタマイズ性
- Geckoレンダリングエンジンを使用
- クロスプラットフォーム(Windows、macOS、Linux、Android、iOSで利用可能)
Firefox 1.0は、リリースから1年以内に1億回以上ダウンロードされ、大きな成功を収めました。
これにより、Internet Explorerの独占状態に風穴を開け、ブラウザ市場に選択肢と競争をもたらしました。
Mozilla Thunderbird
Thunderbirdは、オープンソースの電子メールクライアントです。
現在はMZLA Technologies Corporationが開発・提供しています。
特徴
- 複数のメールアカウントを一元管理
- 強力なスパムフィルタ
- カスタマイズ可能なインターフェース
- 拡張機能によるカスタマイズ
- クロスプラットフォーム対応
その他のプロジェクト
Bugzilla
Webベースのバグ追跡システムです。
Mozilla Foundationが管理し、Mozillaプロジェクトだけでなく、Linux kernel、KDE、Red Hatなど、多くのオープンソースプロジェクトで採用されています。
Mozilla Developer Network(MDN)
Web開発者向けのドキュメントプラットフォームです。
HTML、CSS、JavaScript、Web APIなどの技術情報を提供しています。
Common Voice
オープンソースの音声データセットプロジェクトです。
多言語の音声データを収集し、音声認識技術の発展に貢献しています。
Mozilla.ai
2023年3月に3000万ドルの投資で設立された子会社です。
「信頼できるAI」のためのオープンソースエコシステムを構築することを目指しています。
Mozilla Manifesto(モジラ宣言)

Mozilla Foundationの活動は、「Mozilla Manifesto」と呼ばれる10の原則に基づいています。
この宣言は、インターネットが公共の利益に奉仕し続けるために重要だと考える価値観を示しています。
10の原則(要約)
- インターネットは人々の生活の不可欠な部分である
- インターネットは世界的な公共資源であり、オープンでアクセス可能であり続けなければならない
- インターネットは個人の生活を豊かにしなければならない
- インターネット上の個人のセキュリティとプライバシーは基本的なものであり、オプションとして扱われてはならない
- 個人は、インターネットと自身のオンライン体験を形作る能力を持たなければならない
- インターネットの公共資源としての有効性は、相互運用性、イノベーション、分散型参加に依存する
- フリーソフトウェアとオープンソースソフトウェアは、インターネットを公共資源として発展させることを促進する
- 透明性のあるコミュニティ主導のプロセスは、参加、説明責任、信頼を促進する
- インターネットの公共的側面における商業的関与は、多くの利益をもたらす。商業的利益と公共の利益のバランスは重要である
- インターネットの公共的利益の拡大は重要な目標であり、時間、注意、関与に値する
この宣言は、Mozillaのすべての活動の基盤となっています。
資金源
非営利団体であるMozilla Foundationの資金は、主に以下のソースから得られています。
Mozilla Corporationからの収益
Mozilla Foundationの最大の収入源は、子会社のMozilla Corporationからの収益です。
Mozilla Corporationの年間純収益の2%がMozilla Foundationに還元されます。
2016年時点で、この額は830万ドル以上でした。
検索エンジンとの契約
Mozilla Corporationは、検索エンジン企業との契約により、大きな収益を得ています。
Googleとの契約
2004年から2014年まで、GoogleがFirefoxのデフォルト検索エンジンでした。
この契約により、Mozillaは検索からの紹介料を受け取っていました。
2011年の契約では、Googleは3年間で約10億ドルを支払うことに合意しました。
Yahoo!との契約
2014年11月、Mozillaは5年間の契約でYahoo!と提携し、アメリカでのデフォルト検索エンジンをYahoo!に変更しました。
Googleとの再契約
その後、再びGoogleがFirefoxのデフォルト検索エンジンとなっています。
個人からの寄付
Mozilla Foundationは、個人からの寄付も受け付けています。
設立時には、AOLからの200万ドルとMitch Kapor氏からの30万ドルの寄付がありました。
助成金
Mozilla Foundationは、他の財団や組織からの助成金も受けています。
たとえば、MacArthur Foundationなどから、デジタルバッジシステムやHive Learning Networksなどのプロジェクトに対する助成金を受けています。
Mozilla Foundationの活動
Mozilla Foundationは、ソフトウェア開発だけでなく、インターネットの健全性を促進するための様々な活動を行っています。
アドボカシー(権利擁護活動)
インターネットの自由、プライバシー保護、ネットの中立性などを推進するための政策提言やキャンペーンを行っています。
ユーザーの権利を守るため、政府や企業に対して働きかけを行います。
教育プログラム
Web技術の教育や、デジタルリテラシーの向上を目指すプログラムを提供しています。
Hive Learning Networks
若者がデジタルスキルとWebリテラシーを学ぶための都市規模のネットワークです。
ニューヨーク、シカゴなどで展開されています。
Open Badges
デジタルバッジシステムで、学習成果やスキルを認証・表示するためのオープンな基盤です。
助成金プログラム
Mozilla Foundationは、インターネットの健全性に貢献するプロジェクトや個人に対して、助成金を提供しています。
Grant for the Web
2019年9月、Mozilla Foundation、Creative Commons、Coil Technologiesは、Interledger Protocolを活用した技術、コンテンツ、アイデアの開発を支援するため、1億ドルの基金を発表しました。
この基金の管理は、2021年にInterledger Foundationに移管されました。
研究とイノベーション
信頼できるAI、データガバナンス、健全なデジタルエコシステムなどの分野で研究を行い、イノベーションを推進しています。
日本での活動
日本では、Mozilla Foundationの日本支部として「一般社団法人Mozilla Japan」が組織されています。
Mozilla Japanは、日本語版製品の提供や情報提供、日本のコミュニティ支援などの活動を行っています。
まとめ
Mozilla Foundationは、2003年に設立されたアメリカの非営利団体で、オープンソースのMozillaプロジェクトを支援・運営しています。
FirefoxやThunderbirdなどの製品開発を行う一方、インターネットの健全性、プライバシー保護、オープン性の推進に取り組んでいます。
Mozilla Manifestoという10の原則に基づき、インターネットが公共の利益に奉仕し続けることを目指しています。
子会社のMozilla CorporationとMZLA Technologies Corporationを通じて製品開発と収益活動を行い、その収益を非営利活動に還元しています。
20年以上にわたる歴史の中で、Internet Explorerの独占を打ち破り、ブラウザ市場に選択肢と競争をもたらしました。
現在も、プライバシーを尊重し、ユーザーファーストの技術開発を続けています。
Mozillaの活動は、より良いインターネットの実現を目指すすべての人々にとって、重要な意味を持っています。
私たちがオープンで健全なインターネットを享受できるのは、Mozillaのような組織の存在があってこそです。
参考情報
- Mozilla Foundation – Wikipedia(英語版) – Wikimedia Foundation、2025年
- Mozilla Foundation – Wikipedia(日本語版) – ウィキメディア財団、2025年
- Welcome to Mozilla Foundation – Mozilla Foundation公式サイト – Mozilla Foundation
- Foundation – MozillaWiki – Mozilla
- Mozilla – Wikipedia(日本語版) – ウィキメディア財団、2025年
- Mozilla Corporation – Wikipedia(英語版) – Wikimedia Foundation、2025年
- Mozillaとは – IT用語辞典 e-Words – インセプト
- Mozilla プロジェクトの歴史 – Mozilla

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