MOK(Machine Owner Key)とは?Linuxユーザーが知っておくべきセキュリティの仕組み

NVIDIAのグラフィックドライバーをインストールしようとしたり、VirtualBoxを設定しようとしたときに、突然「MOKの登録が必要です」というメッセージが表示されて困惑した方も多いでしょう。

実はこのMOK、あなたのパソコンをより安全に保つための重要な仕組みなんです。

この記事では、MOKが何なのか、なぜ必要なのか、そしてどう使えばいいのかを、初心者の方にも分かりやすく解説していきます。

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MOK(Machine Owner Key)とは何か?

MOK(Machine Owner Key) は、直訳すると「マシン所有者の鍵」という意味です。

簡単に言うと、あなた自身が信頼するソフトウェアに対して「このソフトは安全だよ」というお墨付きを与えるための電子的な鍵のことを指します。

この仕組みは、主にLinux系のオペレーティングシステム(Ubuntu、Fedora、openSUSEなど)で使われています。

なぜMOKが必要になったのか?

MOKを理解するには、まず「セキュアブート」という技術を知る必要があります。

セキュアブートとは、パソコンの起動時に、悪意のあるソフトウェア(マルウェアやウイルス)が勝手に動き出さないようにする保護機能です。Windows 8以降のパソコンに標準搭載されている、UEFI(ユーファイ)という新しいファームウェアに組み込まれています。

セキュアブートは「信頼できる署名がついたソフトウェアしか起動を許可しない」という仕組みで動作します。Microsoftなど大手企業が発行した証明書で署名されたソフトウェアだけが起動できるわけですね。

ところが、ここに問題が生じました。

Linuxとサードパーティソフトウェアの課題

Linuxのカーネルモジュール(システムの核となる部分に追加する拡張機能)の中には、Microsoftの署名を持っていないものが多数存在します。

特に以下のようなソフトウェアが該当します:

  • NVIDIAやAMDの独自グラフィックドライバー
  • VirtualBoxなどの仮想化ソフトウェア
  • 一部のワイヤレスネットワークドライバー
  • カスタムカーネルモジュール

これらは非常に便利で必要なソフトウェアですが、Microsoftの署名を持っていないため、セキュアブートが有効だと起動できません。

そこで登場したのがMOKです。

MOKを使えば、パソコンの所有者であるあなた自身が「このソフトは信頼できる」と証明できるようになります。セキュアブートの安全性を保ちながら、必要なソフトウェアも使えるという、まさに一石二鳥の仕組みなんですね。

MOKの仕組み:どうやって動いているの?

MOKは以下の流れで機能します。

ステップ1:鍵ペアの生成

まず、あなたのパソコン上で「公開鍵」と「秘密鍵」という2つの鍵が生成されます。

  • 公開鍵:誰でも見られる鍵。ソフトウェアの署名を検証するときに使用
  • 秘密鍵:あなただけが持つ鍵。ソフトウェアに署名するときに使用

これは家の鍵に例えると、公開鍵は「鍵穴の形」、秘密鍵は「実際の鍵」のようなものです。

ステップ2:ソフトウェアへの署名

秘密鍵を使って、信頼したいカーネルモジュールやドライバーに「デジタル署名」を付けます。

これは「このソフトウェアは改ざんされていない、信頼できるものです」という証明書のようなものですね。

ステップ3:MOKの登録

生成した公開鍵を、UEFIファームウェアの「MOKリスト」に登録します。

この登録作業は、パソコンの起動時に表示される「MOK Manager」という特別な画面で行います。セキュリティのため、この作業には物理的なキーボード操作が必要です(リモート操作では登録できません)。

ステップ4:起動時の検証

次回の起動時から、セキュアブートはMOKリストに登録された公開鍵も信頼するようになります。

あなたが署名したソフトウェアは、正式に信頼されたものとして起動が許可されるわけです。

実際の使用例:MOKが必要になるケース

MOKが実際に必要になる具体的なシーンを見ていきましょう。

ケース1:NVIDIAグラフィックドライバーのインストール

ゲームや動画編集、機械学習などで高性能なグラフィック処理が必要な場合、NVIDIAの独自ドライバーをインストールすることがあります。

Ubuntuなどで以下のコマンドを実行した後:

sudo apt install nvidia-driver-XXX

再起動時に「MOK管理画面」が表示され、鍵の登録を求められることがあります。

ケース2:VirtualBoxのインストール

VirtualBoxは、パソコン内に仮想的な別のコンピューターを作れるソフトウェアです。

このソフトウェアは「カーネルモジュール」という深い部分でシステムと連携するため、MOKの登録が必要になる場合があります。

ケース3:カスタムカーネルの開発

ソフトウェア開発者やシステム管理者が、独自にカスタマイズしたLinuxカーネルを使用する場合も、MOKによる署名が必要です。

MOK管理ツール「mokutil」の使い方

MOKを管理するための主要なコマンドラインツールが mokutil です。

現在登録されているMOKを確認する

mokutil --list-enrolled

このコマンドで、現在システムに登録されている公開鍵の一覧が表示されます。

新しいMOKを登録する

sudo mokutil --import MOK.der

このコマンドを実行すると、パスワードの入力を求められます。このパスワードは次回起動時のMOK Manager画面で必要になるので、忘れないようにメモしておきましょう。

システムを再起動すると、青い画面のMOK Manager(正式名称:Machine Owner Key Management)が起動します。

MOK Managerでの操作手順

  1. 「Enroll MOK」(MOKを登録する)を選択
  2. 「Continue」を選択
  3. 登録する鍵が表示されるので「Yes」を選択
  4. 先ほど設定したパスワードを入力
  5. 「Reboot」を選択して再起動

これで登録完了です。

セキュアブートの状態を確認する

mokutil --sb-state

このコマンドで、セキュアブートが有効か無効かを確認できます。

MOKに関するトラブルシューティング

MOKを使用する際によくある問題と解決方法をご紹介します。

問題1:MOK Manager画面が表示されない

原因:

  • システムが古い
  • UEFIモードではなくBIOSモードで起動している

解決方法:
UEFIモードで起動しているか確認してください。以下のコマンドで確認できます:

[ -d /sys/firmware/efi ] && echo "UEFI" || echo "BIOS"

問題2:パスワードを忘れてしまった

解決方法:
登録プロセスを最初からやり直す必要があります。以下のコマンドで保留中の登録をキャンセルできます:

sudo mokutil --reset

問題3:ドライバーが正しく動作しない

原因:

  • MOKの登録が正しく完了していない
  • 署名が正しく行われていない

解決方法:
登録されているMOKを確認し、必要に応じて再登録してください。

セキュリティ上の注意点

MOKは便利な仕組みですが、使用する際には以下の点に注意が必要です。

信頼できるソフトウェアにのみ署名する

MOKに登録した鍵で署名したソフトウェアは、システムの深い部分にアクセスできるようになります。

出所不明のソフトウェアに安易に署名することは避けましょう。公式リポジトリやメーカーの公式サイトからダウンロードしたものだけを使用するのが安全です。

秘密鍵の管理を厳重に

秘密鍵が漏洩すると、第三者があなたの名前で悪意のあるソフトウェアに署名できてしまいます。

秘密鍵は必ず安全な場所に保管し、必要のない共有は避けてください。

定期的なMOKリストの確認

たまには登録されているMOKを確認し、不要になった鍵は削除することをお勧めします。

mokutil --list-enrolled

MOKとセキュアブート:無効にするべきか?

「面倒だからセキュアブートを無効にしてしまおう」と考える方もいるかもしれません。

確かに、セキュアブートを無効にすれば、MOKの登録なしであらゆるソフトウェアを起動できます。しかし、セキュリティの観点からはお勧めできません

セキュアブートを有効に保つメリット

  • ブートキット(起動時に侵入するマルウェア)からの保護
  • ルートキット(システムの深い部分に潜むマルウェア)の防止
  • システムの整合性保証

MOKを適切に使用すれば、セキュリティと利便性の両立が可能です。少し手間はかかりますが、長期的な安全性を考えれば、その価値は十分にあるでしょう。

まとめ:MOKはLinuxユーザーの強い味方

MOK(Machine Owner Key)は、セキュアブートの安全性を保ちながら、必要なサードパーティソフトウェアを使用できるようにする重要な仕組みです。

この記事のポイント:

  • MOKは「あなたが信頼するソフトウェア」に証明書を与える鍵
  • セキュアブートとの互換性を保つために開発された
  • NVIDIAドライバーやVirtualBoxなどで必要になる
  • mokutilコマンドで管理できる
  • セキュリティを保ちながら柔軟性も確保できる

最初は複雑に感じるかもしれませんが、一度理解してしまえば、MOKはあなたのLinux体験をより安全で快適にしてくれる頼もしい存在です。

グラフィックドライバーや仮想化ソフトウェアをインストールする際に、MOKの登録画面が表示されても、もう慌てる必要はありません。この記事を参考に、安心して手続きを進めてくださいね!

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