「LinuxでEPSファイルを開きたいけど、どのソフトを使えばいいの?」
「コマンドラインでEPSをPDFに変換する方法が知りたい」
「Illustratorのデータをもらったけど、Linuxで編集できる?」
そんな疑問をお持ちのLinuxユーザーの方も多いのではないでしょうか。
EPSファイルは印刷やデザイン業界で広く使われているファイル形式ですが、Linux環境での扱い方は意外と知られていません。
でも安心してください。Linuxには優秀な無料ツールがたくさんあり、EPSファイルの表示から編集まで幅広く対応できます。
この記事では、LinuxでEPSファイルを扱うための方法を目的別に詳しく解説します。
初心者の方でも実践できるよう、具体的なコマンドや操作手順も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
EPSファイルについて知っておきたい基礎知識

EPSファイルとは何か
EPS(Encapsulated PostScript)は、ベクター画像やレイアウト情報を保持するファイル形式です。主にAdobe IllustratorやInkscapeなどのグラフィックソフトで作成・使用されています。
EPSファイルの特徴:
- ベクター形式のため拡大しても画質が劣化しない
- 印刷業界で標準的に使用される
- テキスト情報や色情報を正確に保持
- PostScript言語で記述されている
なぜLinuxでEPSを扱う必要があるのか
Linux環境でEPSファイルを扱う場面:
- 学術論文の図表作成でEPSデータを受け取った
- 印刷会社との入稿データのやり取り
- ロゴデザインやイラストの編集作業
- プレゼンテーション資料への挿入
これらの作業をスムーズに行うため、適切なツールと方法を知っておくことが大切です。
よくある疑問:「EPSファイルとPDFの違いは?」
EPSは1ページの画像やデザインに特化したファイル形式で、PDFは複数ページの文書に適しています。EPSはPostScript言語をベースとしているため、印刷時の正確性が高いという特徴があります。
EPSファイルを表示・確認する方法
「まずはEPSファイルの中身を確認したい」という場合に使える方法をご紹介します。
ドキュメントビューアを使用する方法
Evince(エヴィンス)
Ubuntuなど多くのLinuxディストリビューションに標準でインストールされています。
使い方:
# インストール(必要な場合)
sudo apt install evince
# ファイルを開く
evince filename.eps
メリット:
- 軽量で起動が速い
- 基本的なズーム・回転機能あり
- PDF、PostScriptファイルも表示可能
Okular(オクラー)
KDE環境でよく使われるドキュメントビューアです。
使い方:
# インストール
sudo apt install okular
# ファイルを開く
okular filename.eps
メリット:
- 高機能なビューア
- 注釈機能あり
- 多くのファイル形式に対応
Ghostscriptを直接使用
コマンドラインで直接表示することも可能です。
# インストール
sudo apt install ghostscript
# 表示
gs filename.eps
オンラインビューアの活用
インストール不要で手軽にEPSファイルを確認できます:
代表的なサービス:
- CloudConvert:ブラウザ上でEPSファイルを開いて内容確認
- Jumpshare:ファイルアップロードで即座にプレビュー表示
- Online-Convert.com:変換前のプレビュー機能
使用上の注意: 機密性の高いファイルは外部サーバーにアップロードを避け、ローカルツールを使用しましょう。
コマンドラインでEPSを変換する方法

Linuxの強みでもあるコマンドライン操作でEPSファイルを効率的に変換する方法をご紹介します。
事前準備:必要なパッケージのインストール
# 基本的なツールをインストール
sudo apt update
sudo apt install ghostscript imagemagick pdf2svg
EPS → PDF変換
印刷用や文書への挿入に便利なPDF形式への変換方法です。
epstopdfコマンドを使用
# 基本的な変換
epstopdf input.eps
# 出力ファイル名を指定
epstopdf input.eps --outfile=output.pdf
ps2pdfコマンドを使用
# 標準的な方法
ps2pdf input.eps output.pdf
# ページサイズを指定
ps2pdf -sPAPERSIZE=a4 input.eps output.pdf
どちらを使うべき?
- epstopdf:EPSファイル専用で、より正確な変換
- ps2pdf:PostScript全般に対応、オプションが豊富
EPS → SVG変換
ベクター形式を維持したままウェブ用に変換する場合に有効です。
# 2段階での変換
epstopdf input.eps temp.pdf
pdf2svg temp.pdf output.svg
# 一行でまとめて実行
epstopdf input.eps temp.pdf && pdf2svg temp.pdf output.svg && rm temp.pdf
SVG変換のメリット:
- ウェブページに直接埋め込み可能
- CSSでスタイリング可能
- ベクター形式を維持
EPS → PNG/JPEG変換(ラスター形式)
ウェブサイトやプレゼンテーション用に画像化する場合の方法です。
ImageMagickのconvertコマンド
# PNG変換(高解像度)
convert -density 300 input.eps output.png
# JPEG変換
convert -density 150 input.eps -quality 90 output.jpg
# サイズを指定して変換
convert -density 300 input.eps -resize 1920x1080 output.png
パラメータの説明:
- -density 300:解像度を300dpiに設定(印刷用に適した高品質)
- -quality 90:JPEG品質を90%に設定
- -resize:出力サイズを指定
複数ファイルの一括変換
# EPSファイルを一括でPNGに変換
for file in *.eps; do
convert -density 300 "$file" "${file%.eps}.png"
done
実用例:「印刷用とウェブ用で解像度を変えたい」
# 印刷用(300dpi)
convert -density 300 logo.eps logo_print.png
# ウェブ用(72dpi)
convert -density 72 logo.eps logo_web.png
GUIツールでEPSを編集・変換する方法

コマンドラインが苦手な方や、より直感的な操作をしたい場合のGUIツールをご紹介します。
Inkscape(インクスケープ)
おすすめ度:★★★★★
オープンソースのベクター編集ソフトで、EPSファイルの読み込み・編集・出力が可能です。
インストール方法
# Ubuntu/Debian系
sudo apt install inkscape
# Fedora系
sudo dnf install inkscape
# Arch系
sudo pacman -S inkscape
基本的な使い方
EPSファイルを開く:
- Inkscapeを起動
- 「ファイル」→「開く」でEPSファイルを選択
- インポート設定ダイアログで「OK」をクリック
編集機能:
- テキストの追加・編集
- 色の変更
- 図形の追加・削除
- パスの編集
出力形式:
- SVG(Inkscapeネイティブ形式)
- PDF(印刷用)
- PNG(ウェブ用)
- EPS(他のソフトとの互換性)
実践例:ロゴの色を変更する
- EPSファイルをInkscapeで開く
- 変更したい部分をクリックで選択
- 左下のカラーパレットで新しい色をクリック
- 「ファイル」→「別名で保存」で新しいファイルとして保存
Xfig(エックスフィグ)
おすすめ度:★★★☆☆
UNIX系システムの伝統的なドローイングソフトです。
インストールと使用方法
# インストール
sudo apt install xfig
# 起動
xfig
特徴:
- 軽量で安定している
- EPSのインポート・エクスポートに対応
- シンプルな図形描画に適している
注意点:
- インターフェースが古い
- 複雑なデザインには不向き
- 学習コストが高い
GIMP(ギンプ)
画像編集ソフトとして有名ですが、EPSファイルも扱えます。
# インストール
sudo apt install gimp
EPSファイルの扱い:
- Ghostscriptを介してラスター画像として読み込み
- ベクター情報は失われる
- 画像編集機能は豊富
向いている用途:
- EPSファイルの画像化
- ラスター画像との合成
- 写真との組み合わせ
目的別ツール選択ガイド
どのツールを使うべきか迷った時の選択指針をまとめました。
目的別推奨ツール一覧
目的 | 推奨ツール | 特徴・用途 |
---|---|---|
簡易プレビュー | Evince / Okular | 内容確認だけしたい場合 |
PDF変換 | epstopdf / ps2pdf | 論文用など汎用性重視 |
SVG変換 | epstopdf + pdf2svg | ウェブ用ベクター形式 |
画像変換 | ImageMagick | 印刷・ウェブ用画像化 |
本格編集 | Inkscape | ベクター編集・レイアウト調整 |
簡単な図形編集 | Xfig | 軽量・安定性重視 |
作業フロー別の選択例
ケース1:学術論文での図表利用
# 1. 内容確認
evince research_figure.eps
# 2. PDF変換(LaTeX用)
epstopdf research_figure.eps
# 3. 必要に応じてPNG化(プレゼン用)
convert -density 150 research_figure.eps figure.png
ケース2:ウェブサイト用ロゴの準備
# 1. SVG変換(スケーラブル)
epstopdf logo.eps temp.pdf
pdf2svg temp.pdf logo.svg
# 2. PNG変換(フォールバック用)
convert -density 300 logo.eps -resize 200x200 logo.png
ケース3:印刷物の色調整
- Inkscapeでファイルを開く
- カラープロファイルを確認
- 色を調整
- 印刷用PDFとして出力
よくあるトラブルと解決方法

実際にEPSファイルを扱う際によく遭遇する問題と対処法をご紹介します。
トラブル1:「ファイルが開けない」
症状:
Error: /undefined in eps
原因と解決法:
- フォントの問題:EPSファイルで使用されているフォントがシステムにない
- バージョンの問題:古いEPSファイルの場合
# Ghostscriptのバージョン確認
gs --version
# フォント一覧の確認
fc-list
# 代替フォントでの表示を試す
gs -dSAFER -dBATCH -dNOPAUSE -sDEVICE=png16m -dGraphicsAlphaBits=4 -sOutputFile=output.png filename.eps
トラブル2:「変換後の画質が悪い」
原因: 解像度設定が低い、または圧縮設定が不適切
解決法:
# 高解像度での変換
convert -density 600 input.eps -quality 100 output.png
# 圧縮なしでの変換
convert -density 300 input.eps -compress none output.png
トラブル3:「色が正しく表示されない」
原因: カラープロファイルの違いやCMYK/RGB変換の問題
解決法:
# RGBプロファイルを強制指定
convert -density 300 -colorspace RGB input.eps output.png
# Inkscapeでカラープロファイルを確認・調整
inkscape --export-png=output.png --export-dpi=300 input.eps
トラブル4:「一部の図形が表示されない」
原因: 複雑なパスやエフェクトの互換性問題
解決法:
- Inkscapeで開いて問題箇所を確認
- オブジェクトをパスに変換
- エフェクトを削除または簡素化
- 再度保存
まとめ
LinuxでEPSファイルを扱う方法について、表示から編集まで幅広く解説しました。ポイントをまとめると:
EPSファイルの基本理解
- ベクター形式で印刷業界の標準
- Linux環境でも豊富なツールで対応可能
- 目的に応じたツール選択が重要
表示・確認方法
- 簡単確認:Evince、Okularで十分
- 詳細確認:Inkscapeで構造も把握
- オンライン:機密性に注意して活用
変換作業
- コマンドライン:効率的な一括処理が可能
- GUIツール:直感的な操作で初心者にも安心
- 解像度設定:用途に応じた品質調整が重要
編集作業
- 本格編集:Inkscapeが最適解
- 簡単修正:Xfigも選択肢
- 画像処理:GIMPとの組み合わせも有効
実践のコツ
- Ghostscriptの環境構築が基本
- 解像度設定(
-density
)で品質をコントロール - 複数ファイルの処理はシェルスクリプトで効率化
これらの方法を活用すれば、Linux環境でもEPSファイルを自由自在に扱えるようになります。
まずは簡単な表示・変換から始めて、徐々に高度な編集作業にチャレンジしてみてください。
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