オンライン会議や動画のライブ配信を見ているとき、同じ映像を何千人、何万人もの人が同時に視聴していますよね。でも、サーバーから一人ひとりに個別に送信していたら、ネットワークがパンクしてしまいます。
そこで活躍するのがIGMP(Internet Group Management Protocol)です。
IGMPは、ネットワーク上で複数の人に効率よくデータを配信するための交通整理役として働いています。この記事では、IGMPの仕組みや役割について、専門知識がない方でも理解できるよう丁寧に解説していきます。
IGMPって何?基本を押さえよう

IGMPの正体
IGMP(Internet Group Management Protocol)とは、インターネットやネットワーク上でマルチキャスト通信を管理するためのプロトコルです。
プロトコルというのは、ネットワーク上でのルールや約束事のこと。IGMPは、「誰がどのグループに参加して、どのデータを受け取りたいのか」を管理する役割を担っています。
なぜIGMPが必要なの?
通常のインターネット通信には、主に3つの方式があります:
1. ユニキャスト(1対1通信)
- 送信者から受信者へ、1対1で個別にデータを送る方法
 - メールやWebサイト閲覧で使われる
 
2. ブロードキャスト(1対全員通信)
- ネットワーク内のすべての機器にデータを送る方法
 - 必要ない人にも届いてしまう
 
3. マルチキャスト(1対グループ通信)
- 特定のグループに所属する複数の人にだけデータを送る方法
 - IGMPが管理する通信方式
 
たとえば、1000人が同じライブ配信を見ている場合、ユニキャストだと1000回同じデータを送る必要があります。しかしマルチキャストなら1回送信するだけで、必要な人全員に届けられるのです。
IGMPは、この効率的なマルチキャスト通信を実現するために欠かせない存在なんですね。
IGMPの仕組みを分かりやすく解説
ルーターとホストの会話
IGMPは、主にルーター(データを中継する装置)とホスト(パソコンやスマホなどの端末)の間でやり取りされます。
具体的な流れを見てみましょう:
【参加したいとき】
- ホストが「このグループの配信を受け取りたいです!」とルーターに伝える
 - ルーターが「了解、あなたをグループに追加しました」と処理する
 - 該当するマルチキャストデータがホストに届き始める
 
【退出するとき】
- ホストが「もう見ないので退出します」とルーターに伝える
 - ルーターが「分かりました、配信を停止します」と処理する
 - 不要なデータが届かなくなる
 
このシンプルなやり取りによって、必要な人にだけ、必要なデータを送るという効率的な通信が実現されています。
マルチキャストグループアドレス
マルチキャスト通信では、グループアドレスという特別なIPアドレスが使われます。
通常のIPアドレスは特定の1台の機器を指しますが、マルチキャストグループアドレスは「このデータを受け取りたい人たちのグループ」を表します。範囲は224.0.0.0から239.255.255.255です。
たとえば:
- 「239.1.1.1」というアドレスに送信すれば、このグループに参加している全員に届く
 - 各ホストはIGMPを使って「239.1.1.1のグループに参加したい」と宣言する
 
この仕組みによって、送信側は1回送るだけで、受信したい全員に届けられるわけです。
IGMPのバージョンによる違い
IGMPには、進化の過程で生まれた3つのバージョンがあります。
IGMPv1(バージョン1)
最も初期のバージョンで、基本的な機能のみを持っています。
特徴:
- ホストがグループに参加することを通知できる
 - 退出時の明示的な通知機能がない(タイムアウトで判断)
 - シンプルだが機能は限定的
 
IGMPv2(バージョン2)
機能が拡張され、より効率的になりました。
特徴:
- 退出通知機能を追加(Leave Group Message)
 - ルーターが素早く反応できるようになった
 - クエリ機能が改善され、ネットワーク負荷が軽減
 
現在でも広く使われているバージョンです。
IGMPv3(バージョン3)
最新バージョンで、セキュリティと柔軟性が大幅に向上しています。
特徴:
- ソースフィルタリング機能を搭載
 - 「特定の送信元からのデータだけ受け取る」という指定が可能
 - 不要なトラフィックをより細かく制御できる
 - セキュリティが強化された
 
IGMPv3は、特に企業ネットワークや大規模配信で重要な役割を果たしています。
IGMPが活躍する実際の場面
IGMPは、私たちが日常的に使っているさまざまなサービスで活躍しています。
動画のライブ配信
YouTubeライブやニコニコ生放送などのライブストリーミングでは、同じ映像を大勢の視聴者に同時配信する必要があります。
マルチキャストとIGMPを使うことで:
- サーバーの負荷を大幅に削減
 - ネットワーク帯域幅を効率的に活用
 - スムーズな配信を実現
 
オンライン会議システム
ZoomやMicrosoft Teamsなどのビデオ会議でも、マルチキャスト技術が使われることがあります。
特に企業内の大規模なウェビナーやオールハンズミーティングでは、IGMPによる効率的な配信が重要です。
IPTVとデジタル放送
ケーブルテレビや光回線を使ったIPTV(Internet Protocol Television)サービスでは、IGMPが中心的な役割を果たしています。
視聴者がチャンネルを切り替えると:
- IGMPで前のチャンネルのマルチキャストグループから退出
 - 新しいチャンネルのグループに参加
 - 瞬時に新しい映像が流れ始める
 
オンラインゲーム
一部のマルチプレイヤーゲームでは、同じエリアにいるプレイヤー同士の位置情報などをマルチキャストで共有します。
これにより、サーバーの負担を減らしながら、リアルタイムな情報共有を実現しています。
株価情報の配信
金融機関では、リアルタイムの株価データを多数のトレーダーに配信する際にマルチキャストを使用します。
刻々と変わる情報を、遅延なく大量の端末に届けるためには、IGMPによる効率的な配信が不可欠です。
IGMPとネットワーク設定
ルーターでのIGMP設定
家庭用やオフィスのルーターでは、IGMP機能がデフォルトで有効になっていることが多いです。
設定画面では以下のような項目が見られます:
- IGMP Proxy(IGMPプロキシ): マルチキャストトラフィックを中継
 - IGMP Snooping(IGMPスヌーピング): スイッチがIGMPメッセージを監視し、必要なポートにのみデータを転送
 - IGMP Version(IGMPバージョン): 使用するIGMPのバージョンを選択
 
トラブルシューティング
マルチキャスト配信がうまく機能しない場合、IGMPの設定を確認すると良いでしょう。
チェックポイント:
- ルーターでIGMP機能が有効になっているか
 - ファイアウォールがIGMPパケットをブロックしていないか
 - ネットワーク機器がIGMPのバージョンに対応しているか
 
IGMPのメリットとデメリット
メリット
1. 帯域幅の効率的な利用
同じデータを1回送信するだけで、複数の受信者に届けられるため、ネットワークの負担が大幅に軽減されます。
2. サーバー負荷の削減
送信側のサーバーは、受信者の数に関係なく1回の送信で済むため、処理能力を節約できます。
3. スケーラビリティ
受信者が増えても、送信側の負担はほとんど増えません。大規模配信に適しています。
4. リアルタイム性
同時配信が基本なので、すべての受信者がほぼ同時に情報を受け取れます。
デメリット
1. ネットワーク対応が必要
すべてのルーターやスイッチがマルチキャストに対応している必要があります。
2. インターネット越しでは制限がある
多くのISP(インターネットサービスプロバイダ)は、インターネット全体でのマルチキャストをサポートしていません。主に組織内ネットワークで使用されます。
3. 設定の複雑さ
ユニキャストに比べて、ネットワーク管理者による適切な設定が必要です。
4. セキュリティの考慮
誰でもマルチキャストグループに参加できてしまう可能性があるため、セキュリティ対策が重要です(IGMPv3でかなり改善)。
IGMPと関連技術

PIM(Protocol Independent Multicast)
IGMPがホストとルーター間の通信を管理するのに対し、PIMはルーター同士がマルチキャストルーティング情報を交換するためのプロトコルです。
両者が連携することで、広域なネットワーク全体でのマルチキャスト配信が実現されます。
MLD(Multicast Listener Discovery)
MLDは、IPv6ネットワークにおけるIGMPの役割を果たすプロトコルです。
IPv6が普及するにつれて、MLDの重要性も高まっています。基本的な動作原理はIGMPと同じです。
IGMP Snooping
スイッチがIGMPメッセージを監視(スヌープ)し、マルチキャストトラフィックを必要なポートにのみ転送する技術です。
これにより、不要なポートへのトラフィック送信を防ぎ、ネットワーク全体の効率がさらに向上します。
まとめ:IGMPはネットワークの効率化に不可欠
IGMP(Internet Group Management Protocol)は、マルチキャスト通信を管理する重要なプロトコルです。
この記事のポイント:
- IGMPの役割: ネットワーク上で複数の人に効率よくデータを配信するための管理役
 - 仕組み: ホストとルーターがやり取りし、グループへの参加・退出を管理
 - 3つのバージョン: IGMPv1、v2、v3と進化し、機能とセキュリティが向上
 - 活用例: 動画配信、オンライン会議、IPTV、オンラインゲームなど幅広い分野で活躍
 - メリット: 帯域幅の効率化、サーバー負荷削減、スケーラビリティ
 - デメリット: ネットワーク対応の必要性、設定の複雑さ
 
私たちが快適にライブ配信を視聴したり、オンライン会議に参加したりできるのは、IGMPのような縁の下の力持ちが働いているおかげなんですね。
普段は意識することのない技術ですが、インターネットの効率的な運用を支える重要な仕組みとして、これからも活躍し続けるでしょう。
  
  
  
  
              
              
              
              
              

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