Androidアプリの開発をしていると、エミュレータの動作が遅くてイライラした経験はありませんか?
そんなときに名前を聞くのが「HAXM(ハクサム)」です。しかし実は、HAXMは2023年1月に開発が終了しており、現在は使うべきではない技術なんです。
この記事では、HAXMとは何だったのか、なぜ非推奨になったのか、そして今使うべき代替技術について、初心者の方にもわかりやすく解説します。Android Studioを使っている開発者は必読です!
HAXMとは?基礎知識を押さえよう

HAXMは「Intel Hardware Accelerated Execution Manager」の略称です。日本語にすると「インテル・ハードウェア・アクセラレーション・実行マネージャー」といったところでしょうか。
HAXMの役割
HAXMは、Androidエミュレータを高速化するためのソフトウェアでした。
通常、パソコン上でAndroidエミュレータを動かすと、CPUがAndroidのシステムをすべてシミュレーション(模擬)しなければならず、とても遅くなります。HAXMを使うと、CPUの仮想化機能(VT-x)を活用して、エミュレータを実機に近い速度で動かすことができました。
簡単に言えば、HAXMは「エミュレータを速くするための特別なドライバ」のような存在だったんです。
HAXMが使えるのはIntel CPUだけ
重要なポイントとして、HAXMはIntel製のCPUでしか使えませんでした。
RyzenなどのAMD製CPUでは動作しないため、AMDユーザーは別の方法を使う必要がありました。この制限が、後にHAXMが非推奨になる理由の一つとなります。
HAXMが非推奨になった理由
2023年1月、Intelは突然HAXMの開発終了を発表しました。最終バージョンは7.8.0です。
なぜ開発が終了したのか
具体的な理由は公表されていませんが、以下のような背景があったと考えられます。
1. OSに標準搭載された仮想化技術の進化
Windows、Mac、Linuxのすべてで、OS標準の仮想化技術が大きく進化しました。わざわざ別途HAXMをインストールする必要がなくなったんです。
2. Apple Siliconへの移行
MacがIntel CPUからApple Silicon(M1、M2チップ)に移行したことで、Intel専用のHAXMは使えなくなりました。
3. メンテナンスコストの問題
Intel側としても、すでに代替技術があるのに、わざわざHAXMを維持する意味が薄れてきたと判断したのでしょう。
現在のAndroid Studioでの扱い
Android Studio(エミュレータ バージョン33.x.x.x以降)では、HAXMのサポートが完全に削除されています。
SDK Managerを見ると「Intel x86 Emulator Accelerator (HAXM installer) – Deprecated」と表示され、非推奨であることが明記されています。
今使うべき代替技術【Windows編】
WindowsでAndroidエミュレータを高速化する場合、現在は以下の2つの技術が使われています。
1. Windows Hypervisor Platform(WHPX)【推奨】
最も推奨される方法が、MicrosoftのWindows Hypervisor Platform(WHPX)を使う方法です。
WHPXは、Windows 10の April 2018 Update(ビルド1803)以降で利用可能になった仮想化技術です。Hyper-Vの一部として提供されており、Intel CPUでもAMD CPUでも動作します。
WHPXの有効化方法
- Windowsキーを押して「Windowsの機能の有効化または無効化」を検索
- 一覧から「Windows ハイパーバイザー プラットフォーム」にチェックを入れる
- PCを再起動
これだけで、Android Studioのエミュレータが自動的にWHPXを使うようになります。
2. Android Emulator Hypervisor Driver(AEHD)
WHPXが使えない環境では、Android Emulator Hypervisor Driver(AEHD)を使うこともできます。
AEHDは、Googleが提供するエミュレータ専用のハイパーバイザドライバで、Intel CPUとAMD CPUの両方に対応しています。HAXMの後継技術として位置づけられています。
AEHDのインストール方法
- Android Studioを開く
- メニューから「Tools」→「SDK Manager」を選択
- 「SDK Tools」タブを開く
- 「Android Emulator Hypervisor Driver (installer)」にチェックを入れる
- 「Apply」をクリックしてインストール
ただし、WHPXが使える環境ではWHPXの方が推奨されています。AEHDはあくまで代替手段として考えましょう。
Hyper-Vとの共存問題
重要な注意点として、HAXMとHyper-Vは同時に動作できませんでした。
もし古いバージョンのAndroid Studioを使っていてHAXMをインストールしようとすると、「Hyper-Vを無効にしてください」というエラーが出ることがあります。しかし、現在はWHPXやAEHDを使えばHyper-Vを有効にしたままエミュレータを動かせるので、この問題は解決しています。
今使うべき代替技術【Mac編】
Macでは、macOS 10.10(Yosemite)以降、Hypervisor.Frameworkという標準機能が使えます。
Hypervisor.Frameworkとは
Appleが提供する仮想化フレームワークで、追加のソフトウェアをインストールする必要はありません。Android Studioが自動的にこの機能を使ってエミュレータを高速化してくれます。
Apple Silicon(M1、M2チップ)での注意点
Apple Silicon搭載のMacでは、ARM版のAndroidエミュレータが動作します。
以前はIntel CPUを搭載したMacでx86版のエミュレータを動かしていましたが、M1やM2チップはARMアーキテクチャなので、ARM版のシステムイメージを使う必要があります。幸い、Android StudioはこれをAutoで判断してくれるので、特別な設定は不要です。
macOS 11以降ではHAXMが使えない
macOS Big Sur(バージョン11)以降では、HAXMは完全に動作しなくなりました。すべてHypervisor.Frameworkに置き換わっています。
今使うべき代替技術【Linux編】
Linuxでは、KVM(Kernel-based Virtual Machine)を使います。
KVMのインストール方法(Ubuntu)
Ubuntuの場合、以下のコマンドでKVMをインストールできます。
sudo apt install qemu-kvm libvirt-daemon-system libvirt-clients bridge-utils
インストール後、自分のユーザーをkvmグループに追加します。
sudo adduser $USER kvm
sudo adduser $USER libvirt
その後、ログアウトして再ログインすれば、KVMが使えるようになります。
KVMが有効か確認する方法
以下のコマンドで、CPUが仮想化をサポートしているか確認できます。
egrep -c '(vmx|svm)' /proc/cpuinfo
1以上の数字が表示されれば、仮想化がサポートされています。
古いHAXMをアンインストールする方法

もし過去にHAXMをインストールしていて、今も残っている場合は、アンインストールすることをおすすめします。
Windowsでのアンインストール手順
方法1:コントロールパネルから削除
- コントロールパネルを開く
- 「プログラムと機能」を選択
- 「Intel Hardware Accelerated Execution Manager」を探す
- 右クリックして「アンインストール」を選択
方法2:コマンドラインから削除
管理者権限でコマンドプロンプトを開き、以下のコマンドを実行します。
sc stop intelhaxm
sc delete intelhaxm
これでHAXMサービスが停止・削除されます。
HAXMが正しくアンインストールされたか確認
以下のコマンドで確認できます。
sc query intelhaxm
「指定されたサービスは存在しません」と表示されれば、正常にアンインストールされています。
エミュレータが遅い場合のチェックポイント
新しい仮想化技術を使っても、エミュレータが遅い場合は以下を確認しましょう。
1. BIOSで仮想化が有効になっているか
多くのパソコンでは、出荷時にCPUの仮想化機能がオフになっています。
確認・有効化の手順
- PCを再起動してBIOS画面に入る(通常、F2、Delete、Escキーなどを押す)
- 「Advanced」や「CPU Configuration」などのメニューを探す
- 「Intel VT-x」「Virtualization Technology」「AMD-V」などの項目を探す
- これらをEnabled(有効)に設定
- 設定を保存してBIOSを終了
2. x86/x86_64のシステムイメージを使っているか
エミュレータを高速化できるのは、x86またはx86_64のシステムイメージを使った場合のみです。
ARMベースのシステムイメージでは、仮想化による高速化は機能しません。AVD Manager(Android Virtual Device Manager)でエミュレータを作成する際、必ずx86系のイメージを選びましょう。
3. 十分なメモリを割り当てているか
エミュレータに割り当てるRAMが少なすぎると、動作が遅くなります。
目安としては、最低でも2GB、快適に使うなら4GB以上を割り当てることをおすすめします。ただし、パソコン本体のメモリに余裕がある範囲で設定しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. HAXMは今でもインストールできますか?
A. 技術的にはインストール可能ですが、絶対におすすめしません。すでに開発が終了しており、セキュリティアップデートも提供されていません。必ず新しい代替技術(WHPX、AEHD、Hypervisor.Framework、KVM)を使いましょう。
Q2. AMD CPUでもエミュレータを高速化できますか?
A. はい、できます。HAXMはIntel専用でしたが、WHPXやAEHDはAMD CPUにも対応しています。特にRyzenシリーズのCPUでは、WHPXを使えば十分な速度で動作します。
Q3. エミュレータのバージョンを確認する方法は?
A. Android Studioのメニューから「Help」→「About」を選択すると、エミュレータのバージョンが確認できます。バージョン33以降であれば、HAXMは使われていません。
Q4. WHPXとAEHD、どちらを使えばいいですか?
A. 基本的にはWHPXを使うことをおすすめします。WHPXはMicrosoftが提供するWindows標準の技術で、安定性とパフォーマンスに優れています。AEHDはWHPXが動作しない環境での代替手段として考えましょう。
Q5. 仮想マシン(VM)内でエミュレータを動かせますか?
A. はい、ネストされた仮想化(Nested Virtualization)をサポートしているVMであれば可能です。ただし、パフォーマンスは低下するため、可能であれば物理マシン上で動かすことをおすすめします。
まとめ:HAXMは過去の技術、新しい方法を使おう
HAXMは、かつてAndroidエミュレータを高速化するための素晴らしい技術でした。しかし、時代は変わり、OSに標準搭載された仮想化技術が進化した今、HAXMの役割は終わりました。
現在のベストプラクティス:
- Windows: Windows Hypervisor Platform(WHPX)を使う
- Mac: Hypervisor.Framework(自動的に使われる)
- Linux: KVMを使う
もしまだHAXMをインストールしているなら、この機会にアンインストールして、新しい技術に移行しましょう。
AndroidアプリをiOSアプリと同じソースで開発できるXamarinや.NET MAUIを使っている方も、同じ仮想化技術が適用されます。エミュレータの高速化は、開発効率を大きく向上させる重要なポイントです。
適切な設定で、快適な開発環境を構築してください!

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